股旅探偵、上州呪い村

3・19(木)
「股旅探偵、上州呪い村」幡大介(小説)
面白いですねえ。超超超面白い。昔から好きだったけど、なおさらファンになってしまったわ。時代物なのに、メタ・ミステリーだとか、めっちゃ現代用語がガンガン出てくるの。そして、密室のなぞときもあるし、かと思えば、ミステリーじゃなくて、たんなる
ホラーになっていたり、と、超面白い。
横溝正史を彷彿とさせる、設定。よじれたシダ、滝つぼにつるされた女、モウリョウと化す棺の躯、消えた死体、などなど、面白い。
特に面白かった言葉をいくつか。
いや、その前に、密室の謎解きが。ある宿に川から水が引き込んであって、池になっている。そこに、死体が流れついてくる。それは、流れ宿からきたと思わせる。そこで、流れ宿に泊まっていた男が捕縛される。しかし、三度笠のサン次郎は、違うと謎を解く。池には川をせき止める板がある。それで、死体を流して、死体を上流に逆流させて、次に、板を外して、また戻した。だから、殺したのは、宿にいた者。面白かったわ。
さて、面白かった文。
☆「しかし、江戸時代には身分の壁というものがあってだな、渡世人が堅気の屋敷の敷居を跨いだりしたら、時代考証にうるさい読者が黙っていないのだ」
「そんな真面目なお人が、こんな与太話を律儀に呼んでいるとでも思っているんだべか。ただでさえ、推理小説はページ数が増える傾向にあるんだ。これからも何人も人が死ぬだでな。とっとと話を進めておくんなろ」
☆「屋敷の見取り図をつけておいてくれ。いちいち口で説明するのが面倒臭い」
「仕方のねえお人だべ」
「トリックには関係がないから、本当はどうだっていいんだけどな」
☆「探偵に見張られていよとも、殺人事件を起こしてみせるってのが、不可能犯罪をテーマにした小説の醍醐味ってヤツじゃねえんですかい」
「いやいや、探偵ってのはだな、あちこち聞き込みをしたり、調べて回ったりしなくちゃならないわけだ。自然とそこにスキができる。わかっちゃいるけど、調査しないわけにもyかないだろ。このジレンマが醍醐味というか、スリルであるわけでね。誰かと大切な話をしていいるときにだな、凶事の知らせが入って、「しまったあ」と叫ぶ。こういうシーンを、皆は期待しているわけなんだよ」
☆「僕あね、探偵小説が近代社会において果たした役割とは、そういうものだったと信じているんだよ」
「は?」サン次郎は呆れた。
「何を言っていなさるんですかえ」
「いや、その、中世や近世の社会を支配していた迷信の打破こそが、近代哲学のおおいなる使命の一つであり、怪奇小説から派生した推理小説は、迷信や迷信からくる恐怖を、近代科学の実証精神でもって解決するという」
「ただの娯楽でしょ」
☆地球外とはなんなのか、幾何学とはどういう学問なのか、そこまでは頭が回らない。ただただ驚愕していたのである。
いずれにしても、その文様は熊蔵の背筋をゾクっと容赦なく泡立てる。禍々しさに満ち満ちていた。文様は、熊蔵の目を、まるで古びて腐った膠で張り付けたかのようにした。文様を目で追っているだけで、否応なしに狂気の深淵をのぞき込むことを強いられかねないような、人間の文明の根源を根こそぎ揺るがしかねない原初の恐怖にも似た、おそらくは人間の脳裏に焼き付けられた太古の恐怖、原子記憶とでも形容するべき単細胞のアメーバ生物が感じていたかもしれない恐怖の記憶を呼び覚ましかねないような――だんだん何を言っているのかわからなくなってきたけれども、そういうおぞましい形容詞を延々と何ページにも渡って書き連ねることによってのみ表すことの可能なような、不可能なような、人類の言語をもっては名状しがたい、狂気に満ちた幾何学模様だったのだ。
☆「推理小説であれば、これだけ意味ありげな死体が出てきたら、そりゃあ、なんらかのトリックが施されているに違いねえと、皆さん、お考えになりやす。しかし、こいつはもしかしたら、股旅小説かもわからねえ。単なるショック効果のために、無残な死体を持ち出しただけかもしれねえんだ」

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