シンデレラ路線続き

先週のは、よく考えたらシンデレラ路線でした。今回も先週の路線の続きです。
『『珍獣狩』(上の画像)
「う――ん、苦しいよう――。助けて……」
私たちの前で、レイラがうめき声を上げていた。今は深夜零時で、一分くらい前からレイラが人間から人魚に変身し始めた。ベッドの上で腰から次第に人魚の形に変形してゆく。モデルのように締まった上半身は相変わらずだが、ほっそりした足が七色の鱗に輝く太目の魚の下半身に変わりつつある。
ここはどこかの地下研究室である。私たち四人――レイラ、サヨ、トミ、ウノ(私)――にはほとんど記憶がない。どこかで殴られて、記憶を消されてこの国に連れてこられたみたいだ。
気が着いたのは二日前で、それから一日ニ回の食事の差し入れがあったが、研究員の姿は一度も目にしていない。でも、カメラがあるから監視されているのは確かだ。 
ここは映画『バイオ・ハザード』みたいな厳重にガードされた研究棟で、ドアも幾重にも閉められ、暗号で開くようになっているので、中に閉じ込められている私たちはここから出る手段がない。
皆二十歳前の遊びたい時期なのに、中で苛々とビデオを見たり、ファミコンゲームをしたり、絵を描いたり、日記を書いたりしている。最初の一日は、大量のビデオやCDやゲーセンにも負けない設備に有頂天になっていたが、二日目からは、やる気もしなくなった。外に出れないんなら、何の意味もない。ケータイで友達とお喋りできないのなら、死んだほうがましだ。もっとも、ここに入れられる前の記憶はほぼないので、おぼろげながらケータイをした記憶はあるが、友達の電話番号も覚えていないが。
レイラは相当に苦しいようだが、私たちにはどうしようもない。それに、この二日の間で、ここにあった外の世界のビデオをみたりして、私たちにも、変身の時期が訪れるだろうと、予測はしていたので、それほど驚く光景でもなかった。
どうやら、この国では、一日とか二日とかの周期で、人間から人魚に変身するのが普通らしい。ビデオのなかでは、街の光景やテレビ番組が紹介されていたが、中に出てくる人間は、人間と人魚が半々であった。途中には、人魚に変身するシーンもある。変身途中は皆、苦しんでいるが、数分で変身が完了すると、苦しさは収まるようだった。
で、人魚に変身した後は、自分用のスケート・ボードを持って移動しているので、それに乗って走っていた。
「う……、苦しいよう……。誰か、何とかして」
レイラが胸をかきむしってベッドの上を転がっている。
「大丈夫? すぐに納まるから。それとも鎮痛剤を飲む?」
私たちは、ただ目を見合わせておろおろするだけである。薬箱の中には一応数種類の薬はあった。風邪薬から鎮痛剤から、下痢止め、などなど。しかし、変身を止める薬はない。もっとも変身は病気ではないから、薬など、あるはずないが。監視カメラで研究員たちは監視しているはずであるが、私たち《モルモット》の苦しみには興味がないらしい。
「ねえ、ちょっと、かきむしるのが酷すぎると思わない? ビデオでは変身シーンが幾つかあったけど、こんな酷い苦しみ方はなかったわ」
「そうだわ。きっと、外の世界の人たちと、私たちは何か違うのよ。だから、こんな厳重な研究棟に押しこめられているんだわ」
「でも、何が違うの? 外見だって、違わないし」
 サヨが自分の姿とビデオの姿を比較して叫んだ。どっちも人間である。おまけに、変身しつつあるレイラも、外の世界の人魚たちと同じ体型に変わっている。何かが違うから、研究対象とされているのだろう? 疑問を持った私たちは、部屋にある机の中や額の後ろなど、資料が隠してあると思われる場所を徹底的に探してみた。すると、次のようなメモが出てきた。R=2、S=4、T=6、U=8とメモに書いてある。何の意味かわからないので、一時保留にして、テレビをつけてみた。
テレビでは、色々な番組をやっていた。『この夏の流行はこれだ』と銘打ったワイドショウ。『人魚村の中心で愛を叫ぶ』というタイトルのドラマ。ワイドショウでは、尾ひれの先にトゥシューズをはいて、バレーの訓練をする姿が紹介されていた。「下半身を鍛えれば痩せる」とアナウンサーは何度も叫んでいた。ドラマは昔どこかで見たような気がしたので飛ばして、ニュースを見た。『珍獣狩』のニュースだった。
半身人魚のレポーターが声を潜めて「珍獣狩は今までとおりに続行されていますが、まだ、珍獣は発見されていません」と大げさに囁いていた。レポーターは、どこかの広大な土地に建つ研究所の前のような所から報告をしていた。
画面を見ていたサヨが「あ、これ、ここ」と叫んでソファーの上の雑誌を開いた。中には、相原研究施設のご案内と題されて、広大な研究所の紹介記事が載っていた。雑誌の中の一ページを開くと、そこには、私たちのいる部屋とそっくりな部屋の写真が掲載されていた。
「つまり、ここは相原研究所の中の一室なのよ。それで、これを読むと、遺伝子研究所と出ているから、やはり、私たちは、遺伝子が普通の人間と違うのよ。だから、研究室に閉じ込められているんだわ」