『レナードの朝』DVD短編小説「花嫁はシンデレラ」

内容*アルツハイマーみたいな病気なのだけど、劇的に回復する薬が発見される。しかし、それは一月くらいで利かなくなる。この短い期間に、一生涯忘れられない貴重な体験をする。
もっと普遍的な内容に直すと→病気で、劇的に回復する薬が発見されるんだけど、一定期間で元に戻る。『アルジャーノンに花束を』、略して「アルジャハ」路線です。
では、このネタからの発想(あまり研究されていないので、使い回しはできそうです)。

アルツハイマーのシンデレラ』
若年性アルツハイマーの女性(私)がある薬である期間だけ元に戻る。その時に恋をする(相手は社長の御曹司)。しかし一定期間がすぎると薬は効かなくなり、前よりも痴呆症は進んでいる。しかし、漠然とした恋の記憶と写真が残っているので、こっそり研究所に忍び込んで薬を盗んで飲む(この辺は記憶が曖昧なのだけど助けてくれる人がいる)。→また元に戻る。→恋をする。しかし少量だったので、深夜零時には切れる。急いで逃げ帰るが、靴が片方ぬげてしまう。社長の息子はその靴を元に探しまわる。最後には私を発見して結婚に至る。そこで、私は最後の賭に出る。つまり、大量に飲んで、一週間くらいを楽しく過ごして、また痴呆症。しかしその期間に、夫を篭絡して大量の財産分与を貰い、アルツハイマーの新薬を発見した人にはそれを与えると宣伝する。で、自分の財産は信託管理にして、自分は信頼できる病院に入院して新薬の開発を待つ。

『盲目のシンデレラ』上と同じで、盲目バージョン。

『花嫁はシンデレラ』(上の画像付きで公式HPにもアップしています)
プロローグ
「ユイ――、どこへゆくんだ――。帰ってきてくれ――」
 森の中、月光の下を追いかける僕のはるか先を鹿の姿に変身しかけている愛しい妻が逃げていた。
「ユイ――、僕は、君がどんな姿でもかまわないんだ――。帰ってきてくれ――」
 幾ら叫んでも、美しい妻は止まろうとはしなかった。
 走りながら、たおやかな妻の姿は、徐々に鹿に変身しつつあった。美しくふっくらとした脹脛とキュンと引き締まったアキレス健が、細かい茶色の毛で覆われた筋張った鹿の脚に変化していた。
それから、滑らかで弾力のある臀部と胴体が、四つ足動物のものに変身していた。
でも、その姿は美しい鹿であり、僕は全然かまわないのだが、人間の姿でないと愛されないと信じている妻には、絶えられないものだったらしい。
妻ははらはらと大粒の涙を流しながら、人間の体型用に作られたワンピースをあちこちの枝に引っ掛けて破りながら、何回も立ち止まりそうになっては、それでも逃げつづけていた。
女にとって外見はそんなに大切なのか?
ユイはそんな女じゃないと思っていたのに。
ああ、だが、反対の立場になったら、僕だって、絶えられないかも……。
などと考えていると、いきなり地面が迫ってきた。木の根に躓いたのだ。したたかに頭をぶちつけて、暫く失神した。気が着いて立ちあがってみると、妻の姿はなかった。
   1
 僕(シンヤ25歳)は森のはずれの一軒家で美人の妻と暮らしている。妻の名はユイ。まだ19歳の美人で、長い髪で、ワンピースの下の身体は折れそうに細く、色も血管が透けて見えるほど白い。
 僕らが知り合ったのは、三日ほど前で、互いに一目ぼれしてしまった僕たちは、人里離れたこの森で暮らし始めた。二人には苗字は必要ないので、名前だけを告げあった。
僕は、東北のある地方都市で広告会社に勤めていたのだけれど、かなり酷いストーカー被害に遭って、今は逃げ回っている状態である。
 母親がアメリカ人でハーフであるから、顔もルックスも目立ち、昔から女には不自由せず、バレンタインのプレゼントも大量にもらっていた。それらをいちいち点検する暇もなかったので、ほとんどは友達にあげていた。
 処が、今年、妄想癖のある女がいて、そいつのプレゼントの中に自分と付き合ってくださいという手紙が入っていたらしい。
バレンタインの数日後、「お返事は?」と聞かれて、うっかり「ありがとう、気に入ったよ」と答えてしまった。
 もっとも、ほとんどの女の子にそう答えているのであるが。
だが、そいつはかなり太り気味の顔も正視したくない部類の女で、男とつきあったことがなく、僕が手紙に対してOKの返事をしたと勘違いしてしまった。
で、次の日からしつこいストーキング行為が始まった。結婚を迫る電話から、家族につきあっているとの嘘の電話などなど。
僕はとりあえず相手の気持ちが覚めるまで姿を消すことにしたのである。両親は金持ちで、勤めている広告会社も父の物であったので、すぐに家を出て行き先を定めぬ旅にでた。
 その途中でユイに出会ったのである。ユイは、この近辺一体の地主の娘らしく、豪華な別荘に住んでいて、食べ物も毎日使用人が本家から運んでくれるようで、夕方になると、毎日食べきれないほどの野菜や肉を持って、帰ってくる。
帰ってくるというのは、彼女には毎日深夜散歩に出かけて、夕方に帰ってくる習慣があるのだ。その習慣は出会った日から始まって、今日まで3日間続いている。そして帰ってくる度に、沢山の野菜や果物や肉類を抱えているのである。
今日もユイは帰ってくるとすぐに夕食の支度を始めた。
山奥なので電気もガスもなく、食事は百年前のようにマキをくべて用意している。毎日がキャンプ生活みたいで新鮮だ。
僕は、豪華なログハウスの中で、夕日が沈み、木の葉が暗闇に沈んで行く姿をじっと見ている。テレビもラジオもないけれど、満ち足りた生活がここにはある。暗くなったらランプに火を入れ、ユイの書くファンタジーに耳を傾けるのんびりした生活が。
ユイはちょっと言葉が不自由で引きこもりになったが、逆にその境遇は個性的なファンタジーを書くために良いと考え、この別荘に一人で住んでいるのだとか。
それにユイは都会に染まっていないから、従順で言葉使いも丁寧だ。間違っても男に向かって、「おい、お前」なんて呼びかけをしはしない。
ログハウスの内部は、すぐに温かくおいしそうなシチューの匂いに包まれてきた。今日はきのこたっぷりのクリームシチューだ。
着物のほうが似合いそうな体型の妻を眺めながら、僕は昨夜のことを思い出していた。
実は妻には秘密があるのだ。ユイの言によると、魔女に魔法をかけられていて、深夜の零時になると、動物の姿に変身させられてしまうのだとか。
この話は、昨日の深夜、森の中で彼女を追いかけて行き、鹿に変身した後の彼女を捕まえて、詰問したときに打ち明けられた。
そう。僕が失神から覚めた後、どうしてもユイが諦めきれなくて森の中をふらふらとうろつき回っていると、涙をいっぱいに溜めた鹿が戻ってきたのだ。
その後、僕らは互いの意見を言い合い、ユイも魔女に魔法をかけられていることを認めたのだった。鹿ユイは喋れなかったのでただ頷くだけたったが。
まるでファンタジーみたいな話で、最初は信じられなかったが、変身は目の前で起こり、変身後の鹿が泣いていただけに、そう信じざるをえなかった。
そうだ。昨夜の出来事を語る前に三日前から話さないといけないかな。

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