『極道デカ』(略して『ごくデカ』)7回目

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『極道デカ』(略して『ごくデカ』)7回目
  前回までの粗筋。私(20才、唐獅子組の三代目姐。通称、唐マリ)は叔父貴(橘警視、35才)のご指名を受けて、広域犯罪捜査班(jfbi)で捜査をしている。今回の仕事は誘拐の捜査。
被害者は萱本小夜(17才で、『四葉宝飾』の娘)。身代金の運搬人は後妻の由香(37才)。脅迫状の内容は次――二億円分のダイヤの裸石を持ち、今日の午後八時に、伊勢市二見浦の海岸、夫婦岩の近くにあるクルーザーに乗れ。北に向かえ――。
午後の八時、後妻がクルーザーに乗った後、私は車のトランクから出て、遺留品を探すが、細い少女とぶつかる。相手の言い分は次――男が北に逃走した。自分は後妻に護衛を頼まれた者――。
  捕まえようとするが、サイコメトリングが落ちてくる(私は、不完全なサイコメトラー)。映像は、後妻が爆死させられたものと、将来、自分が爆破されるシーンの二つ。数分間、映像に翻弄され、気がつくと、相手はいなくなっていた。
 その後、すぐにクルーザーの爆発が起こった。真のサイコメトリングだった。そのことをミカリ(14才、天才プロファイラー)に通知。私の襟にあったCCDカメラの映像から、少女の存在も証明。同時に犬並の嗅覚を持つ赤影(17才、忍者修行済み)がかけつけ、少女がバニラの匂いを残したこと、駐車場の端から自転車で逃走したことを発見。
 午後十時。鳥羽署での捜査会議。 菊田警部から、小夜の誘拐の過程が発表される。菊田警部は、誘拐犯の告知したホームページが゛満月の絞殺魔(狼男)"と同じサーバーだったのでJFBIを呼んだが、三重県警の大方の見方は、身代金の額が違いすぎるので、過去の連続殺人は無関係。被害者小夜の狂言誘拐ではないか?二億円のダイヤは重い鞄に移し換えられた後、床が開いてクルーザーの停泊地点に落ち、共犯に持ち去られていた。
 ゛狼男"の犯行は以下ーー過去二回、誘拐殺人がおこり、『満月ウサギ』と題されたホームページに犯行声明文が掲載されていた。サーバーはライブドア。どちらも、身代金運搬が満月(曇り)で、被害者は中学生か高校生で、誘拐後すぐに絞殺され、身代金は受け取らなかった。脅迫状ではテキスト形式のMSPゴシックの11フォントを使っていたので、MSPG11とも呼んでいた。
 翌日、ブログの中に゛狼男"の犯行声明文が掲載される。主犯しか知らない事実を知っている。一方、父親の証言から、クルーザーと革の鞄は元萱元家にあったものと判明。これにより、小夜も共犯だったと断定(母親を脅すために爆破を計画した)。主犯と知り合ったのはネットの中。犯人に挑戦状を出す。JFBIのページに『あなたは網にかかった』と書きこむ。すると、゛狼男"から、近日中に小夜の死体をお目にかける、とのメールがくる。このメールを出したのは、ネットで主犯と知り合った黒田亜美。80キロある少女。脅迫状とは知らずにネットカフェから送った、と主張。
 黒田亜美は私を指名したが、私が後催眠にかけられていることを利用して、まんまと逃げこんだ薬局から逃走した(忍者屋敷風にトンネルがあった)。その後、ミカリに約束していたように、ケータイで、主犯に関する情報を教えてくれる。
内容は以下――私を後催眠にかけたのは主犯。かけ込んだ薬局は主犯が探しておいたもの。すべては主犯の計画で、自分は、以前に手首を切られていたので、しょうがなく協力している――。
 しかし、菊田警部は、黒田亜美が嘘つきなのを見ぬき、主犯だと断定。
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 第四章へのプロローグ

作者。「脳タリンの読者はんのおかげでそこそこアクセス伸びよったのう。ビデオのレンタル屋に行っても、健さんの任侠物は殆ど借りられておるし。嬉しいこっちゃ」
 ビシバシ。ドス。
≪読者A≫。「何や。その、偉そうな態度」
作者。「だって、パソコン教室の先生にアドバイスを貰って、その通りに実行したら、アクセス数がふえたんじゃ――。まあ、小説人口自体が少ないから、アニメやマンガのサイトとは比べ物にならないが」
≪読者A≫。「パソコン教室の先生のアドバイスって何や」
作者。「ブログでアクセス数を稼ぐ方法や。まずは、読者参加や。これは、もう二十年も前に筒井康隆親分がやって話題になった方法なんやけど、実験小説、つまり、読者からの意見でストーリーがコロコロ変わるって手法や」
≪読者A≫。「分かりよった。それで、先週、取ってつけたように、わいらを登場させたんやな」
作者。「そやがな。それで、ある程度は話題をさらえるじゃろうと。まだ、本物の読者を登場させるのは怖いので、おまはんで代用や。つまり仮想読者じゃ。それで、読者はんが参加している気持ちになったら成功や。そのうち慣れたら、本物の読者からの挑戦状も受け付けるがな」
≪読者A≫。「際どさで、どこかの雑誌が取り上げてくれるかもしれん、と思うとるのやろ」
作者。「そや。そしたら、阿呆な編集者が騙され」
 ビシ、バシ、ドス。
≪読者≫。「編集者にまで喧嘩を売ってどないします?」
作者。「はいな。すんまへん」
≪読者≫。「えろう、素直やないか。気味悪」
作者。「ところで、先週、≪読者≫はんを出してきたことで、分かったことがあるんにゃ。要は、ブログでは、極道好きの脳タリン読者を躍らせれば良いんじゃ」
≪読者A≫。「おい」
作者。「でへ。ということで、今週も、行くぜい。兄弟。」

   1

 あっしは深い霧の中におりました。
 舎弟の弟の竜二を連れ戻しに、金腹組と近い関係にある東雲組に潜入したのですが、見つかって、命からがら逃げ返る途中でございました。
 前には舎弟のタカが逃げております。東雲組のイナセな兄さんが、こっそり逃がしてくれたのでございます。
 あっしとタカは霧の中をかなり逃げました。
 途中で東雲組の極道が邪魔に入ったようで、あっしらの遥か後ろで、もめる声がいたしました。
 どうやら、あっしらを逃がしたイナセな兄さんを、何人かで殴っているようでございます。
 あっしの足がぴたりと止まりやした。
 タカが先のほうで逃げろ――と叫んでおります。
 あっしも頭ではわかっているのでございます。
 イナセな兄さんは腕っ節も強いんで、ばっさばっさと倒している音がします。でも、身体が動かないのでございます。
 ついに、兄さんを追って、敵の組の舎弟が、すぐ側を走り抜けました。
 霧であっしの姿には気が着きません。
 その途端、あっしの足にエンジンがかかっちまいやした。
 頭の隅では、やめれーと叫んでおるんですが、極道が側を通りかかった時には、「きえーーー」と叫んで、回し蹴りを放っておりました。
 兄貴を助けたい気持ちだけでござんした。
 じゃが、あっしの回しげりは見事に空振りで、道にずっしーーん、と行くかと思いましたが、そこへ脇から≪読者≫が飛び込んできました。
 そして、ものの見事にずっしーーん。
あっし。「≪読者≫の奴ら、見事にこけておるぜ」
 すると、いつの間にか登場したミカリが冷たく言い放ちました。
ミカリ。「駄目よ。相手は大勢なんだから、そんなこと言ったらやられる」
 その言葉が終わらないうちに、大量の腕が飛んできて、ぼこぼこに。
あっし。「痛ええええ」

    
「唐の字の。起きろや」
 誰かの手に叩かれて、目が醒めました。時は、十月二十二日の午後になっておりました。
 また捜査本部で居眠りをしていたようでございます。
 今朝、タカから「竜二を取り戻しに東雲組に行ったが失敗した」とケータイを貰ってから、悪夢を見てしょうがないんです。
 捜査本部の連中は、黒田亜美が主犯との線で、大筋合意しておりやした。
 手首を切ったのは自分、てえことになります。
 後から考えてみれば、六月の末に斬られたにしては、切り口の所が、盛り上がりすぎておりやした。
 昨日は、薬局の現場から帰って、ずっとネット検索に従事しておりました。
 今日(十月二十二日)の明け方まで、『満月ウサギ』関連のサイトで、本物の゛狼男"の残した足跡はないかと、調べていたのでございます。
 おっと、ここで、本物の゛狼男"ちゅう言葉を解説せんといかんかいな?
 実は、捜査本部では、昨日の夕方から、奈良方面で80キロあり、黒田亜美と名乗る少女を探しておったのです。
 しかし、゛黒田亜美"という人物はどこの住民票を調べても存在しなかったのでございます。
 つまり、実体がなかった、言い換えると、偽名だったわけでございます。
 これも後から考えれば、当然のことでございました。
 普通、犯人が実名を名乗ることはありえないからです。
 ネットカフェから犯行声明のメールを打ったのは80キロある少女でしたから、゛黒田亜美"が犯人であることは明白でございます。
 それから、小夜や他の被害者が『満月ウサギ』などのサイトでピックアップされたのでございますから、゛狼男"が存在しているのも明白でございます。
 つうか、80キロある゛黒田亜美"が゛狼男"であるのは、間違いないのです。
 さらに、前回、≪読者≫はんが『ネットおかま』の例で指摘してくれたように、ネットでは殆どが仮名を使っておりますから、『満月ウサギ』などのサイトで、゛狼男"が別のハンドルネームを使っているとは推理できます。
 なので、゛狼男"臭い名前を探し、そいつの発言をたどれば、゛黒田亜美"の実態――どこら辺に住んでいるかなど――は掴めるわけでございます。
 しかし、サイトに残る゛膨大な資料を調べる"のは、根気のいる仕事でございました。
 なので、早朝まではその仕事に従事いたしましたが、早朝には、゛膨大な資料を調べる"という仕事を中断し、サイトから゛狼男"の足跡を炙り出すのを諦め、仮眠をとることにしたのです。

 同日の午後には、小夜の母親・由香夫人の通夜がございました。
 JFBIは、゛膨大な資料の残るサイトのチェック"を中断して、通夜の席で、不審な弔問客がいないかどうか調べることにいたしました。
 デカの勘で、主犯は゛黒田亜美"と断定してはおりましたが別の共犯が調達される可能性もあります。
 由香夫人の通夜は自宅の近くのお寺で行われました。
 小夜の誘拐は、正式発表をしたわけではないのですが、インターネットや噂を通じ、近所や店の従業員には広まっておりました。
 それに、爆死の報道も派手になされていたので、参列者は近隣の住民などを合わせて、三千人以上に上りました。
 当然ながら、誘拐情報を知りたい様子の、小夜の級友なども多数かけつけていた。
 JFBIは、三重県警の刑事の手伝いで、通夜に参加した人間たちにそれとなく話しかけ、訊き込みをしました。
 誘拐劇開始の際、小夜は携帯をもって出て行ってしまい、携帯での友達つきあいは、探りようがなかったので、主に、中学や小学校の友達に交友関係を聞きましたが、八十キロもある少女を知っている友達はおりませんでした。

 この日は、〝狼男〟の予告した最初の日でございましたので、警察は予告された地点や予告されなかった地点を重点的に捜査していましたが、予告された物{ルビ=ぶつ}の発見という事態は起こらなかったのでございます。
 菊田警部や持田警部補から、遺棄死体は発見されていないと聞き、心の一部ではかすかに安心したことも事実でございます。
 だが、心情的な面を排除すれば、病的なまでに残酷な〝狼男〟が犯行声明を守らないわけがない、とも思われました。

    2

 時間はじりじりと過ぎて行きました。
 そして、ついに十月二十三日の深夜、〇時を廻った後。
〝狼男〟の予告した最後の日。
 早朝と呼ぶには早すぎる午前一時、三島由紀夫の小説『潮騒』の舞台となった神島の古里の浜の猟師小屋で、若い女性の腐乱死体が発見されたのでございます。
 神島の巡査から、「年齢や外見から、被害者は、誘拐されている四葉宝飾の娘・萱本小夜ではないか」との問い合わせがあったのです。

 猟師小屋は普段は鍵がかかっていて、いつから死体があったかは不明でした。
 ですが、二十二日の夜にはまだ異臭はしていなかったとのこと。
 二十三日の〇時過ぎに、鍵が壊され扉は開いており、異臭をかぎつけて中を覗いたカップルが死体を発見し、駐在所に通報したのでございます。
 零時前に、船で運んだものであると推測されました。

 すぐに捜査本部の人間と、父親・萱本三郎などが現場に向かいました。
 JFBIのメンバーも県警の捜査員たちと一緒に神島に向かいました。
 猟師小屋の中、青いビニールシートの上に、首と手足を切断された死体が、上向きに放置されていました。
 胃もひき裂かれておりました。
 傷口からは消化途中のパスタが溢れかけておりやして、血の海のなかに沈むパスタが船の汽笛につれて揺れているようでございました。

 胃はこの場所で切り裂かれておりましたが、それ以外の傷口からは、血はあまり流出しておりませんでした。
 死んでから解体され、水で洗われ、ビニール袋に詰められて運ばれたと推測されました。
 顔は腐敗ガスで膨張し生前の面影を留めてはおりませんでしたが、死体を一目見た父親は、「ジェフリー・ターク」と声をあげ、泣き崩れました。
 死体の髪は赤毛で、胴体にへばりついた服は、失踪当時のまま――アロハ・シャツにあるような花模様――でありました。
 両方の耳に太い銀管のピアスをしている点も、鼻にもピアスをしていてる点も、失踪前と何ら変わりがなく、本人に間違いないと思われました。
 チョーカーもブレスレットも、失踪当時になくなっていたもの――ジェフリー・タークにデザインを依頼して自社で製作したもの――でありました。
 これは、産みの母の形見で、小夜も愛用していた物であるとのことでした。
 同じデザインの指輪もしていました。
 これも、父親の証言で、小夜の愛用品であると判明したのです。
 だが、念のために遺体をDNA鑑定にまわすために、遺体は三重県警本部に送られました。
 JFBIは、三重県警の捜査員に混じり、神島の周囲を隈なく捜査して、犯人の遺留品を探しかけました。
 神島は周囲四キロの美しい島です。
 八代神社、神島灯台、観的哨跡、神島不動岩などがございます。

 ですが、所轄から大量の捜査員が送りこまれたこともあり、ネットに詳しいJFBIはネット検索に力を入れるべきだとの意見もあり、すぐにまたモーターボートで県警捜査本部に帰ってきたのでございます。
 あっしらは、小夜の参加していた『満月ウサギ』、『狼男』、『誘拐』のサイトを中心に調べておりました。
 それぞれの管理人はザナドゥ、フィジカル、グリースでありました。
 二時間後、ネットでのサイトチェックの途中、鑑識から、遺体は本人であると判定されたとの連絡がきました。
 小夜のマンションに残っていた髪の毛と遺体のDNAが一致したのでございまする。
 その情報と一緒に、新たなる情報がもたらされました。
 遺体の喉の中に、手袋のはしきれとピンが押しこまれていたのです。
 この情報を聞いた時、ミカリが大きく双眸を開いて、次のコメントを吐きました。
「この前がバニラの匂い。今度が手袋とピン。やはり、プロファイリングとおりだわ」
「すごい自己顕示欲だぜ」
 ミカリと赤影が、あっしにはチンプンカンプンの会話をくりひろげておりやした。
「そうよ。病的よ。主犯は最初の殺人からずっと一貫して我々に挑戦をしてきている。犯行声明を送りつけたりしてね。バニラの香りも手袋もピンも自己主張以外の何物でもないわ」
 あっしが、不満そうに鼻を鳴らしてやると、やっと、自分たちの世界に入っていることに気づいたようでございます。
「あ、ご免ね。マンガしか読まない刑事には、難しすぎる会話だったかしら」
 ――だから、マニアは嫌いだっていうんだ。
 反論したい気持ちは、ぐっと臍の下に抑えこみ、ミカリの解説に耳を貸しやした。
「これは、犯人からのメッセージなの。バニラはクイーンの『Yの悲劇』、手袋とピンは『Xの悲劇』を象徴するアイテムなの。分かる? 犯人は、最初は、『バニラの匂いの製品を買った人物が私よ。だからその線から調べなさい』と挑戦状を送ったきたの。次には、『Xの悲劇から連想してごらんなさい。私はXの着く人間よ。すぐ分かるでしょう?』と挑戦状を送ってきたの」
「Xの着く人間て誰や?」
「分からないの? ザナドゥよ。『満月ウサギ』のサイトの管理人よ。犯人は『ここまで教えてやってるのに、お前らまだ自分にたどり着かないのか。阿呆』と馬鹿にしているのよ。まあ、あんたみたいに『デスノート』しか読まない奴には無縁の世界だと思うけど」
「待ちーな。ザナドゥは゛黒田亜美"が主犯だと言った人間や。しかし、゛黒田亜美"は嘘吐きで主犯だと断定されとる。つまり全部反対に考えよっていうことだな」
「そうよ」
「ちゅうことは、ザナドゥ=゛黒田亜美"てことや。それで、ザナドゥの発言をたどれば、その実体は分かるわけか?」
「その通りよ」
 あっしらは、すぐにその作業に取り掛かりました。

   3

 この日は、゛黒田亜美"が姿を現した日に続き、劇的に事件が進展した日でもありました。
 神島で死体が上がってから数時間遅れ、的矢湾でもニ体の死体が発見されたのでございます。
 朝の五時頃でございます。牡蠣の養殖筏にひっかっている死体を、養殖猟師が発見したのです。
 死体は、細い少女と太い少女のニ体でございました。
 二つの死体は焼け焦げ、首のところを紐で結わえられて、牡蠣の筏にくくりつけられておりました。
 JFBIはネット検索を中止し、すぐに的矢湾へ急行し、遺体と対面しました。
 細いほうの死体は、あっしが宝石回収の現場でぶつかった相手と背格好が似ておりました。
 太いほうの少女は、左手首が切り落とされておりました。
しかし、あっしらと一緒に現場へ急行した菊田が、ふんと鼻を鳴らしました。
「気に食わねえな」
「ああ」
 その場にいた全員が、深く頷きました。
「これは゛黒田亜美"の死体じゃあ、ねえぜ。デカの勘からすると、主犯が警察を撹乱するために殺された少女じゃ」
 菊田警部は断定しました。
 あっしも同感でした。
 菊田警部は深くは説明せずに、あっしに告げました。
「そういう訳じゃから、唐マリはん、われは、これが別人の死体だと想定して、再捜査に入ってもらえまっか?」
「へい」
 数分後、検死官の調べで、手首の切口に生活反応がないことから、死亡した後に切り落とされたと判明いたしました。
 つまり、゛黒田亜美"ではないと断定されたわけでございます。

 あっしらは、この情報をテレビで公開し、行方不明になっている少女がいないかどうか、情報を集めはじめました。 
 太いほうの少女は、すぐに両親から失踪した自分らの娘ではないかと連絡がありました。
 奈良県奈良市に住んでいる人間で、名前は薄井あゆみ。高校生で、昨日失踪したとのことでした。
 両親が娘の髪の毛を持参したので、すぐにDNA鑑定をした結果、同一人物であることが確認されました。
 薄井あゆみも、『満月ウサギ』のサイトに参加しており、自宅を出るときは、『ザナドゥに会う』と言い残して出ていったようでございます。
 これで、主犯と薄井あゆみの接点は見つかりました。

 しかし、細い少女の身元はなかなか判明いたしませんでした。
 あっしらは、小夜が参加していた三つのサイト――『満月ウサギ』、『狼男』『誘拐』――から炙り出そうと考えました。
 そこで、ミカリが、またサイトに問いかける方法を持ち出しました。
 三つのサイトに顔を出して、直接質問する方法でやんす。
 ミカリは、三つのサイトにアクセスし、JFBIだと名乗って、最近失踪した少女がいないかと問いかけました。

 すると、久しぶりにサイトに復帰してきた一人・奈良のアガサから、「友達の南頼子がいなくなったの」との情報が入りました。
 奈良のアガサは、前には時々『狼男』のサイトにアクセスしていました。
 ここのところ一月ほどは参加しておりません。
 学園祭の練習があって、そんなことをしている暇はなかったのだそうです。
 今日、学園祭の後で暇になったから、久しぶりに参加したとのことでした。
 奈良のアガサに南頼子の外見を描写してもらうと、あっしが輿玉神社で出会った少女と同じでございました。
 おまけに南頼子は空手が強く、小学校は伊勢神宮の側でありましたが、中学のときに和歌山に引っ越したそうでございます。
 その後ドロップ・アウトして空手修行をすると言って、友達との連絡を取っていないので、友達は誰も最近は会っていないそうです。
 それに一月ほど前から家出をしてしまい、家族も連絡が取れない状態でございました。
「細い少女は、その南って子に間違いないでしょう。きっと゛亜美"は南に極秘行動をさせるために、ホテルに宿泊させるか、自分の部屋に住まわせていたのじゃないかしら。で、宝石回収の後、殺した」

 あっしらは、早速、南頼子の両親から写真の提供を受けました。
 南は、髪は短いようでしたから、宝石回収の時は、カツラを被っていたと思われます。
 以前、捜査員がモンタージュ写真を持って聞きこみをしたのですが、その時に、有力な情報を得られなかったのは、モンタージュの元となったアチキの証言が不正確だったと思われました。
 南は、小学校は小夜と同じでありました。小夜の友達によると、二人はそれほど親しくはないが、面識のないことはないとの証言を得ました。
「ここで、次のような推測が成り立ちます」
 ミカリが得意に推理を組みたてました。
「小夜が狂言誘拐を仕組んだときに、小学校の連絡網を見て、南を思いだし、宝石回収の役を頼んだ。しかし、小夜の後ろには主犯の゛黒田亜美"=ザナドゥがいて、小夜を殺し、宝石回収がすんだ後、南も殺した」

 奈良のアガサは、ミカリへのメールで言いました。
「南は、この前、久しぶりにケータイをしてきたの。メールだったけど、あのお金のない南が変、と思ったわ。きっと犯人からケータイを渡されたのね。メールの内容は、『誰かからバニラの香水を貰った』だったわ。それを使って百万のバイトをする、と言っていた」
 奈良のアガサは、次のようにもメールしてきました。
「それに彼女は、インターネットをやっていないの。金がなくネット・カフェに入る金もないと言っていたわ。よって、ネットで、゛狼男"がどんな手口で殺しをやっていたかが話題になっても、そのことを知らないと思う。つまり、危ない役をやってくれと頼まれても、疑わずに引き受けたに違いない」
 
   4

≪読者A≫。「おい」
作者。「何にゃ?」
≪読者A≫。「作者はんは、この前、わてが考えた以上のストーリーを書くと言いなはったよなあ?」
作者。「おう。言ったが」
≪読者A≫「しかるに、このストーリーは何にゃ。死体となった細い少女は前から失踪していた細い少女で、太い少女は急遽呼び出した太いままの少女。これでは、すり代わりもないし、レベル的には全然下やないか」
作者。「あのなあ。お言葉を返すようじゃが、推理小説には読者っつうものがおるんや」
≪読者A≫「当り前やないか。そんなこと、誰でも知っとるがな」
作者。「いいや、≪読者A≫はんは、理解してない」
≪読者A≫。「どこが」
作者。「だからあ、先週のおまはんのストーリ―は、複雑で江戸川乱歩賞を狙うには良いかもしれん」
≪読者A≫。「ええやないか」
作者。「確かに、悪くはない。江戸川乱歩賞の読者と言うたら東大出もおるし、漢字も読めるやろ」
≪読者A≫。「阿呆。東大出やなくたって、漢字くらい」
作者。「いいや。ここは大事なことじゃぞ。確かに、東大出なら、漢字は読めます。じゃが、極道好きの連中は漢字もよめん阿呆や。『新仁義なき戦い』には、漢字にふり仮名をふるシーンが出てくる」
≪読者A≫。「その『新仁義なき戦い』ちゅうのは何や?」
作者。「豊悦と布袋と佐藤浩市哀川翔の出てくる極道映画や。特に、この中で、豊悦が自分で指を落すシーンは圧巻や」
≪読者A≫。「分かった。でも、わても読者やぞ」
作者。「だから、おまはんは別物やと言ってるんや。小説はターゲットとした読者層の99%に理解されな、いかんのや。『ごくデカ』の場合は、漢字も読めん、脳タリンの読者が殆どで、単純な話でないと」
 ビシ、バシ、ドス。
≪読者A≫。「ところで、先週は探偵になったような気分で、気持ちが良かったが、今週は、ちょっと物足りないでんなあ。文章も手抜きやったし」
作者。「だからあ、もうネタがないんや。おまはんが、二百枚分を数行でくっちゃべってしまったから。それに、死体も一つ余計に出してくれはったし。オタオタしながら、書いておるんや」
≪読者A≫。「何や、マジで胃に穴が開いているんかいな」
作者。「当り前やがな。わては今までこんなシッチャカメッチャカで掟破りの小説を書いたことはないんや。いつも江戸川乱歩賞を目指して、きっちりとした筋たてと流麗な理論で」
≪読者A≫。「はいはいはい。万年一次落ちのB級作家の弁明はそのへんで沢山だす」
作者。「煩い。それ以上わてを愚弄すると、作品の中から抹殺するぞ」
≪読者A≫。「わかりました。わかりました。わても、いい気分にさせてもろうた恩義があります。どうでっしゃろ。ここで、少し協力して、話しを進めてみまひょ。わては極力口出しをしまへんで、横で見ておりますから、どうぞ、作者はんが、最初に考えたストーリーで進めてみては」
作者。「さよか? っつうか、それが本当やないか」
≪読者A≫。「ま、それで、ちょっと退屈な部分が出てきたら、わてがカットと言いますさかいに」
作者。「OK。その挑戦、受けたぜ」

    5

『満月ウサギ』のサイトには、小夜はアガサという名前で参加し、管理人の名前はザナドゥ
 サイト開設が八ヶ月前であったのが、ちょっと気になりました。
 このサイトには、最初の被害者・仁科栄子が参加しておりました。
 彼女は、〝小池栄子〟というハンドル名で参加し、四月の頭、『両親は鳴門で中規模の病院を経営しています。父は病院長で、母は元キャンペーン・ガールです』と家族紹介をしています。
 この紹介をした後、急にサイトから姿を消しています。
 自己紹介を見て、犯人は仁科栄子にターゲットを定めると、自己紹介に当て嵌まる病院を探して、直接携帯を送りつけたんだと思われます。
 サイトではハンドル名しか発表されておりませんが、該当する病院に電話をし、高校生くらいの女の子がいるかどうかを訊けば、本名は判ります。それで、プリペイド式の携帯を送って、その後は携帯でコンタクトを……。
≪読者A≫。「そこまで。その先はカット」
作者。「早速、口出しでっかいな」
≪読者A≫。「さよう。さよう。それでも充分に退屈」
作者。「ぐ」

 二番目の『狼男』のサイトは、管理人はフィジカルで、小夜はクイーンの名前で参加していました。
 サイトの立ち上がったのは、半年前、〝狼男〟が犯行声明を出してからすぐで、小夜は最初の頃から参加していました。
 二番目の被害者は、このサイトに参加し……。
≪読者A≫。「カット。過去のことはどうでもいいねん」
作者。「胃が痛」

 三番目は『誘拐』のサイトで、小夜はカーという名前で参加し、管理人の名前はグリース。
作者。「つうか、小夜は最初のサイトから参加していたので、このサイトはあまり必要ではないわなあ」
≪読者A≫。「まあな。それより先を続けーや。わてが必要な時になったら、会話の中に入るさかい」
作者。「さよか。では」

「ええと、人間て、ハンドルネームを着ける時には、共通項があるわよね」
 この三つのサイトを検討した時に、ミカリが最初に、言った言葉はこれでした。
 場所は捜査本部脇のJFBI用の部屋ででございます。
「小夜を見てもわかるわよね。アガサ、クイーン、カーと三つとも推理作家の名前を使っている。ということは、この三人の管理人は同一人物だと思われるわけ。っつうか、これは菊田警部と橘警視の勘なんだけど」
 ミカリが軽く目で合図をすると、我々と同じテーブルについていた叔父貴が、頷きました。
「ああ。この三つは、オリビア・ニュートン・ジョンのアルバムのタイトル。その上、ザナドゥ="黒田亜美゛だと判明しているのだし、被害者がそれらのサイトから選ばれているんだから、三つのサイトの管理人は同一人物」
 オリビア・ニュートン・ジョンというのは、あっしの知らない名前でございました。
 十七歳の赤影も十五歳のミカリも知らないはずでありまするが、負けず嫌いのミカリは表情を変えずに、すぐにパソコンのスイッチを入れました。
 次いで、ネット検索に〝ザナドゥ〟のキーワードを入れ、これらのアルバムの発売年代を探しだしたのです。一九八〇年代にヒットしたアルバムでした。ここで赤影が手を上げました。
「待って下さい。共犯がもう一人いるんではないですか? なぜなら、オリビアって人は二十年以上も前にヒットした人。となると、このハンドル・ネームをつけるのは、四十過ぎの人間でしょう」
 赤影の推理を遮って、≪読者A≫が手を上げました。 
≪読者A≫。「まどろっこしいなあ。今までの流れから、主犯は刑事の勘によって、゛黒田亜美゛=ザナドゥだと判明している訳じゃん」
作者。「まあね」
≪読者A≫「それに、ネットオカマの件から分かるように、普通、ハンドル・ネームは、自分とは反対の名前をつけたがる訳さ。であるから、管理人を四十過ぎの人間と思わせたのは、明らかに゛黒田亜美"のミスディレ。全部反対に解釈すれば良いんにゃ。それから、゛黒田亜美"は、唐マリへのケータイで、自分は主犯に誘い出されたといっているけど、本当は、自分が小夜を誘い出したの。さらに、小夜は、八ケ月前にグアムに行ってから、何度もグアムに行き、犯行に必要な品を調達し始めたのだから、八ケ月前に何かあったのや。よって、八ケ月前にあったことを調べれば、動機と犯人はわかる。でも、゛黒田亜美"がまるっきり被害者の家族と関係ない第三者だったら、小説はぜんぜん面白くないのだから、読者の勘では、これまでに登場した誰かのなり代わりで……」
作者とあっし。「やめれ――――――」
 そこで、あっしと作者は、先走りしそうになる、≪読者A≫の口を必死で抑えたのでした。


     6
 作者口上。
 ここからは、またまた掟破りで、三人称小説でゆきます。

≪読者A≫はんをみぞおち打ちにして気絶させた後、突然、金腹組と深い関係にある東雲組の組員が五名ほど殴りこんできました。
 既に夕闇が立ちこめる時間になっておりました。
 捜査本部の入り口で、先頭を切って極道を止めたのは、唐獅子組の三代目姐、唐マリと叔父貴の橘警視でございました。
 二人の後ろには、数人の≪読者≫が控えております。
 県警のデカたちは、皆、捜査に狩り出されて、捜査本部に残っている者はおりませんでした。
「兄弟。いくぜい」
 唐マリが斜め後ろを向いて啖呵を切り、叔父貴が健さんにも負けないイナセな流し目でゾロリと兄弟に合図をしました。
 唐マリの威勢の良い啖呵に、敵がかすかに退きました。
≪読者B≫は、体の中を狂った血の逆流が支配するのを実感しておりました。突然、喧嘩の真っ只中に放りこまれて、酒蒸しにされたアサリ状態でございました。
 どうにも抑制できない高揚感に突きあげられ、針のうえで踊る期待と興奮を味わっておりました。
≪読者C≫の躯の内奥には、傲慢な意志を秘めた圧倒的な他者の存在が感じられておりました。
 生まれもったものを別の存在に代えられてしまうような恐怖がありまする。
 覚醒している頭の一方で、アンビリーバブルな酩酊感と、首の付けねからむっくりと起きあがる怪物じみた欲望の感触を覚えておりました。
≪読者D≫は、反りかえる唇の裏側にも、そのまわりを取りまく数ミリにも浮きたった血管の上にも、嵐の夜のビーチパラソルのように暴れまくっている舌の上にも、さらには破裂しそうに膨張している柔らかな眼球の上にも、幾つもの血流の波を感じておりました。
 一方、≪読者E≫の背中にはデビルマンのような羽が生えかけておりました。こちらは陶酔のはてに腰砕けになり、体中の毛穴から体液を放出するほど甘く切ない興奮も伴っておりました。

 東雲組の舎弟たちが、ばらばらと広い捜査本部の中にばらけました。
 唐マリと橘警視が目配せをしている間に、血の気の多い≪読者B≫がドリャーと叫んで、晒から隠していたドスを抜き、近くにいた弱そうな舎弟に向かってつっこんで行きました。
 しかし、喧嘩慣れした東雲組の舎弟には適わず、簡単に銃把で横殴りにされ、机の上を大きく飛んで、尻から壁に叩きつけられたのでした。
「グ」
 鰐の潰れたような声を出して、≪読者B≫は、床に崩れ落ちました。
 だが、≪読者B≫は、少しは戦闘訓練を受けておりました。 
敵がまだ戦闘準備にかかれずに、おたおたしている隙に、一瞬の猶予をあたえられた≪読者B≫は、すぐに自分を取りもどしました。
 投げられた躯が床に落ちた反動を利用し、自分の足ですっくと立ち上がっていたのでした。
 狂乱鼓動が胸郭をたたいてはいるのですが、頭の中は清冽そのものでございました。
 それを見た敵の表情がかすかに変わりました。
 相手がなかなかの剣の使い手だと悟ったようでした。
 黒服の男は、脂汗を流している≪読者B≫に対し、正面からむきなおりかけました。
 が、その向きなおりをよりもさらに数瞬早く、≪読者B≫は、裂帛の気合いとともに、敵の舎弟に飛びかかっていったのでございます。
 舎弟は半分ほど横をむいたまま躯をかわし、飛びかかってきた≪読者B≫の腕をむんずと掴んで、横にふりまわしました。慣性エネルギーを脇に逸らしたのでございます。
 勝てると思っていた≪読者B≫は、半秒後には甘かったと悟りました。

≪読者B≫は壁に投げつけられ、その首には、骨が折れそうな激痛が走りました。
 痛めつけられた≪読者B≫はすぐには戦闘復帰できない状態でした。しかし。
「兄弟」
 今度は、≪読者C≫が背中に隠した長ドスを、゛ブレード"のように鮮やかに引きぬいて、敵の舎弟の前に踊り出ました。
 長ドスがきらりと宙を切り、舎弟の銃を持つ手を横から縦に薙ぎ払いました。
 舎弟の腕が、銃把を握ったまま空中を旋回してゆきました。
 しかし東雲組の舎弟も黙ってはおりませんでした。
≪読者C≫の長ドスを持つ手を狙い撃ちしたのでございます。
 プス。プス。
 長ドスを横にふり払う時に、空中高く飛びあがったままの姿勢で、まだ床に着地していなかった≪読者C≫の腕を銃弾が掠め、鮮血がほとばしりました。
≪読者C≫は、一瞬、宇宙遊泳をさせられた感覚の後、背中から床に落ちました。
 口の内壁をかみ切り、血塊と内壁の柔肉が唇の端から飛びだしましたが、意識だけはリアルなまま踏みとどまり、床に落ちた反動で立ちあがったのでございます。

 敵と≪読者≫軍団の戦力は伯仲しておりましたが、銃を持っている分、東雲組の方が有利に思われました。
 いずれ劣らぬ剣の使い手の≪読者≫軍団は、じりじりと間合いを詰めてゆきました。
 そして――。
「待て――」
 今度は≪読者D≫が、バサリと羽を広げて、勢いよく空中に飛びだしたのでございます。
 しかし低い天井の下で、折角そなわった羽根はほとんど開きませんでした。
 おまけに、狙点が広がったことで、敵の銃弾が空中に飛翔しました。
≪読者D≫は空中で身体を捩って逃げましたが、数発の銃弾で羽を引き裂かれ、ズシンと音を立て、地上に衝突しました。
 片方の羽根がぽきっと肩の付けねから折れ、皮膚ごと千ぎれて傍に飛びましたが、辛くも態勢を立てなおしました。
 最高に強い武器を持った敵がちらりと背中の羽を扱いかねている人間に眼をやりましたが、興味なさそうに視線をはずしました。
 しかはあれ。
 それだけの間隙があれば、失神した≪読者B≫と≪読者C≫が意識を回復するには充分でした。
 兄弟同士の阿吽の呼吸でした。 
 連携プレイでした。≪読者≫軍団はまた敵と相対峙いたしました。
 
 しかし、やはり銃がある分、敵が有利でした。運命は敵に味方したかに見えました。
 敵の舎弟の目が嬉しそうな色に変わりました。
「タカと唐マリを渡してもらいまひょうか」
 その時、後ろからタカの弟の竜二が走りこんで来ました
「タカはどこだーー! 東雲組の兄貴を殴って片手を怪我させたのは誰じゃーー」
 と叫んでおりました。
 どうやら、東雲組のイナセな兄貴に心酔しているようで、舎弟から嘘を吹きこまれたのでしょう。
 怒りで双眸をまっ青に怒らせた竜二は、銃弾を装填したままの銃を出し、おもむろに唐マリにむけ、躊躇せずに撃ったのでございます。
「死ね――」

 大口径の銃弾が二メートルほど先の地点にいた唐マリの脇腹にめり込みやした。
 電車に衝突したも同様の激痛が走りました。
 竜二がさらに凶悪な双眸で第二発を撃ちそうになりました。
 しかし、その時、突然、廊下からタカが走りこんできて、竜二の前に立ちはだかりました。
「止めろーー」
 バスン。乾いた音が捜査本部の中に響き渡りました。
「嘘?」
 爆弾が破裂したような状態で後ろにすっ飛ばされたタカは、肩を押さえ、埃っぽい床の上にくずおれました。
 タカのすぐ後ろでは唐マリがわき腹を押さえて床に倒れこんでおりました。
「兄貴――」
 自分の起こした結果を目の当たりにした弟が茫然自失の状態におちいりました。
「竜二、オメエ、何つうことを。恩義のある姐さんに……」
 他ならぬ自分の弟が、親分に致命的な怪我をさせたことに気がついたタカが、死にそうな声を出しました。
 ここで、一瞬の隙ができたのをチャンスと、目的を達した舎弟たちが、逃げにかかりました。
 だが、その時は、橘警視の銃口が、微塵も動かずに竜二に狙点をさだめて肉薄しておりました。
 
 されど、数秒後には、自分の所持した銃が、まだ銃弾の残る状態であることに気が着いた弟が、おもむろに銃口を≪読者≫たちに向けました。
 成り行きに目を奪われて油断していた≪読者≫たちに動揺が走りました。
 敵はその機会を逃さなかったのでございます。
 半瞬の後、竜二は、火矢をいかけられた馬のように廊下に走り出し、さらに数秒後には銃を構えた舎弟たちに守られて、階段の踊り場から一階に飛び降り、さらにさらに数瞬後には、玄関から外の闇に消えていたのでした。
「すみやかに竜二を指名手配だ。それから大至急、唐マリとタカの弾丸の摘出だ」
 暗闇に橘警視の冷たい声が響きわたったのでありました。

≪読者A≫。「゛万年一次落ちのB級作家"も、たまにはまともな文章も書くんだ」
作者。「煩い。ところで、来週のネタ、何かないかなあ?」
≪読者A≫。「自分で考えーーや」
作者。「もう、全部使い果たしたがな。まあ、良いや。またパソコン教室の先生に、秘密を教えてもらうから。にしても、脳タリンの極道好き読者を操るのは楽しいわい」
ビシ、バシ、ドス。
(続く)