スカイ・イクリプス、スカイ・クロラ

スカイ・イクリプス』『スカイ・クロラ森博嗣
連作作品ですが、『スカイ・クロラ』は押井守監督で映画になるんだとか。あの、『イノセンス』の監督はんどす。
で、最新作の『スカイ・イクリプス』です。この人は、『女王の百年密室』あたりから哲学的になりましたでんなあ。この作品も哲学的、詩的でとてもいいです。内容は、隣国と戦闘態勢にある国の整備士、戦闘機パイロット、などの日常です。日常といっても、戦闘機パイロットは、戦闘をするのが日常ですから、それなりに、戦闘シーンはでてきます。しかし、それもポエムでんなあ。
特に気に入った部分があったので、アップしておきます。

自分もうきうきしているのがわかる。エンジンが回っているうちは大丈夫だ、という不思議な感覚が生まれる。この音が鼓動だと。
そして、是非とも誰か、
ここへ来てほしい、と願う。
出会いたい、と望む。
それは、相手を撃ちおとしたい、という欲求ではない。
弾を撃ちたい、という気持ちでもない。
戦いたい、という意味でさえない。
では、何だ?
それを示す言葉が、たぶん地上にはない。
言葉は地上のためのものだから。
空には言葉がない。
ここだけにある感覚を表す言葉はない。
一番近いのは、たぶん、
踊る?
それとも、
戯れる?
そう、飛び回って、遊びたい。
走り回りたい。
この広い、美しい、自由な場所で。
尊厳と孤独を懸けて。
ここへ上がってくる奴は、みんな素晴らしい。
ボンネットの黒猫マークが見えるか?
敵も味方もない。
敬意をもって出迎えよう。
みんな、自分に確かなものをくれる奴らだ。
生と死を教えてくれる。
神かもしれない。
そんな神に会える場所。
だから、こんなに心が躍る。
期待と憧れに、体が震える。
今までも。
今でも。
これからも。
ずっと。
もう辞めようと思っていても、ここへ来ると忘れてしまうのだ。
辞める? 何を? そう、何を辞めるのかさえ、わからなくなる。
ただ、ここにいられる時間が短いことだけが唯一の不満だ。
こちらの世界の方が本当なのに。
ブルーと振動と空気しかなかった世界に、小さな点が現れる。
パルスの信号もキャッチ。インジケータが点灯した。
この頃、少し視力が落ちたが、大丈夫、ここへ来るとちゃんと見える。
彼は主翼を左右に振って応えた。
ゴーグルを一度外し、冷たい新しい空気を入れる。
深呼吸。
首を左右に捻った。
肩を軽く上下させる。
力を抜け。
流れるように。
綺麗に飛ぼう。
それだけを考える。
嬉しい。
顔は笑っている。
そっと、
やさしく、
そして、
美しく、
飛ぼう。
限りなく、
いつまでも、
続くことを祈って。