『雲のむこう、約束の場所』劇場アニメーションDVD91分

新海誠監督作品

コミックス・ウエーブ発売
内容*日本が津軽海峡で分断されたもう一つの時代、青森の少年・藤沢ヒロキと白川タクヤは、同級生の沢渡サユリに憧れていた。もう一つの憧れは、海峡のむこう、ユニオン統治下の北海道にそびえる謎の巨大な「塔」。いつか自分たちの力であの「塔」まで飛ぼうと、廃駅跡で小型飛行機「ヴェラシーラ」を組み立てる二人。サユリも「塔」も、今はまだ手が届かないもの、しかしいつかは触れることができるはずのもの――二人の少年はそう信じていた……。
以上がパッケージの裏面の紹介文で、これは前半の部分ですね。後半になると、一気に数年飛んで、サユリは眠り病で入院しているんです。で、ヒロキは物理学研究所で平行宇宙の創生の実験をしているんです。
どうやら、「塔」が平行宇宙の元で、それを造ったのがサユリの祖父で、「塔」が冬眠状態(?)にあるのは、サユリの脳みそが「塔」の周辺の平行宇宙の拡大を阻止しているかららしい。
で、最後は、日本政府や青森のテロリスト(二人がお世話になった部品会社の社長)が核攻撃をしかけるのだけど、二人は、そのどさくさに乗じて、いつかの放課後の約束――サユリをのせてあの「塔」まで飛ぶ――を実行に移すんです。で、約束は果たすけど……。

感想*やっぱ、期待通りのできでしたね。青春の甘酸っぱさとか、思い出の鼻の奥に突き抜ける感触とか、がぎっしり詰まっています。
それと、この監督は光の処理がうまい。画面から光が溢れてくるんですねえ。なんと言ったらよいか、光の粒子が躍りながら観客を包んでうっとりさせてしまうというか、天才的ですね。
でも、今回は、物理の話とかが出てくるので、ちょっと難しかったかな。それに、思い出を丹念に描くのはよいのだけど、思い出が多すぎて、どきどきわくわくが少なかったかな。
自分の中での最終戦争を最後に持ってこようとするあまりに、途中に山が足りないような感じ。
やっぱり、エンタメで90分間、観客の興味をつなぐには、三回くらい山がないとちょっと苦しいよね。それには、最終戦争が半分くらいのところにあって、例えばそこからハルマゲドンがおこって、もう一人のサユリが出現して、神族と人間族の戦闘シーンがあって、などなどと他の要素があれば、90分が短く感じるんだけど。(ワーグナーのリングのような)
いやあ、そう考えると、宮崎駿は職人、マエストロだよね。ファンタジーでなおかつ90分が退屈しないんだから。
でも、これだけ売れていれば、問題ないかな。嵌まる人は徹底的に嵌まるし……。
とは言いつつも、ファンである以上は、国民的なヒット監督になって欲しいし……。
そういえば、神話で思い出したけど、石森正太郎の「サイボーグ009」の発想の源は北欧神話であるし、永井豪の「デビルマン」の発想の元はダンテの「神曲」であるから、やはり国民的なヒット作家はみな神話に触発されているんだよね。
この監督が宮崎駿や石森正太郎や永井豪に化けるか、あるいは、キラリと光るものは持っていながら通好みの監督でゆくか、これからが正念場だよね。

それと、本屋さんで聞いた話題になりつつある本の紹介を一つ。
信長の棺加藤廣日本経済新聞出版社
信長公記』の著者の太田牛一が探偵役の歴史ミステリーです。
 本能寺の変で信長は死にましたが、その遺体は遂に発見されず、歴史上の謎となっています。多くの歴史作家が「謎解き」をしていますが、これと言って説得力のある作品は皆無。この作品は最も画期的で、これまでの津本陽の説などは根底から引っくり返るでしょう。
 明智光秀(信長の家臣であったけど虐げられたと噂のある人)がなぜ本能寺で信長を襲い、焼き討ちにしたか、その不審点も全て解明されている作品です。