『戦国自衛隊1549』『トリ・ブラ』『デセプションポイント』

戦国自衛隊1549』角川映画
26年前の半村良原作の映画のリメイク。今回の原作は福井晴敏
今回は、磁場発生器の故障でタイムトラベルして還ってこない部隊を救出にゆく話です。
前回と違う点を列挙。前回は戦車が一、ヘリが一、ジープが二、哨戒艇一。
これらの装備で、銃弾などのスペックをやりくりしながら、戦国の騎馬武者なんかと戦って天下をとるストーリー。

今回は、90式戦車、AH―1S(コブラ)、観測ヘリOH―1、89式装甲車などで、それぞれ三両、一機、一機、三両くらいでした。(正確には数えられなかったのですが、先にタイムトラベルしたのも同数くらいなので、約二倍です)
それから、自衛隊の駐屯地に本物の城の巨大セットを造ったようです。
騎馬武者との戦いもありますが、天下取りに参画してしまった人間たちとの戦いもあります。

感想*前回は戦車は手作り。今回は全部自衛隊の本物の装備です。
しかし映画になると、違いは分かりませんね。前回も本物っぽい音をいれたりしていますからね。
でも、自衛隊マニアには嬉しい映画ですね。私も戦記ものは書いていますが、先輩たちの書いた物を読んで少しアレンジする程度ですから、本物の操縦席などが写ると、操縦桿の動かし方などを見たくて、思わず身を乗り出してました。

前回は発想の奇抜さでのヒットでしたが、今回は戦闘シーンのリアリティが売り。
ですが、ストーリーは入り組んでいて、戦国大名の配置も良く知らない人間には分かりにくかったです。戦国大名の配置も知らない上に先にタイムトラベルした人たちが歴史を代えてしまっているので、よけい訳がわからなくて、中くらいのカタルシスかな?出足はテンポが良くておもしろかったのですが。

最後に福井晴敏の原作本もぜひ読んで欲しいです。

トリニティ・ブラッド神学大全』小説・スニーカー文庫吉田直

実は本を買ったのですが、まだ読んでいないのです。過去の作品の中から天才吉田直の残した偉業の片鱗を紹介します。
この人の特徴は異常なまでに主語に執着する点ですね。近松門左衛門以来の日本の伝統なんですが。
たとえば、「トリ・ブラ・ROM嘆きの星」の中で私の印象に残っている主語は、以下。
“街路にしぶとく蟠った暑気を吹きさらってゆく地中海の爽風”が、火照った肌に心地よい。
“飛び散った壁石と一緒にけたたましいアリアを謳うの”は、銃声に破砕された夜気の欠片だ。

アニメになるらしいですが、漫画ではこれらの言葉のほとんどがカットされてしまっていたので、アニメではいれて欲しいですよね。

最近話題の小説をもう一つ。
『デセプション・ポイント』(ダン・ブラウン角川書店
ダヴィンチ・コード』の作者の最新作。
海外部門の『このミス』のトップにゆきそうなのが、この作品。

内容*主人公は、米大統領に報告書を出す役。ある日、NASAが重大な発見をしたと聞き、北極海に飛ぶ。そこで、70センチにも及ぶ甲殻類を内蔵した8トンもある隕石の発掘(氷河の中から)に立ち会う。
研究者達は皆、新発見に狂気乱舞している。宇宙に生物がいる証拠だと。
しかし、ひょんな事から、これが偽じゃないかと疑惑が浮上する。大統領に「本物です」と進言した後に。(この辺は専門的なので、読んで下さい)。

で、偽の証拠を探すために氷河の上を探索していると、デルタ・フォースに狙撃され、大逃走劇を繰り広げる。
偽物だと確信を抱いた後は、大統領のテレビ発表を差し止めるために電話するのですが、邪魔が入って、助言は拒否される。(ここまでが上巻)

下巻では、またデルタ・フォースに攻撃されつつ、真実を暴く。
が、主人公は、現大統領とは政敵に当る男の娘なので、真実を父親に伝えたところ、父親が歪曲して発表してしまい、現大統領にも(自分の直属のボスですよ)絶大なる打撃を与える。その後は犯人捜しにゆく。

感想*いやあ、やっぱり海外物はスケールが大きいですね。直球勝負。
でも、この人は元々がノンフィクションの作家なんでしょうね。感覚が子供っぽい。ミステリー作家が一番嫌うのは、読者に先を読まれてしまうことですが、そのケアレス・ミスを最初のページから犯しているのです。ミステリー好きならお分かりかと思いますが、デルタ・フォースを出してきたことですね。

この辺を少し説明。日本に置き換えます。主人公は、現在の首相の片腕で、政敵・民主党岡田代表の娘だと思って下さい。
小泉首相に「文部科学技術省が大発見をした。君の目で調べてくれ」といわれて北極海に飛ぶ。
そこで隕石が偽物だとの証拠をみつける。だが、自衛隊の精鋭、習志野空挺部隊に狙撃される。

もう解りますよね。自衛隊は政府の直属だから、この流れでは、偽を巨大氷河に忍びこませたのは、小泉総理、ということになりますよねえ。
主人公も、最初はそうかと思いますが、それでは、あまりにも首相が間抜けになってしまうので、誰かが画策して、小泉総理に隕石だと信じさせたと推理するんです(自分もそいつの奸計でうっかり信じたのですが)。
で、それは誰か?と進むのですが、当然、衛星で発見したといっているのですから、犯人は文部科学技術省(本の中ではNASA)の高官しかないわけです。推理好きならこのくらいの深読みはしますよね。

参考までに、なぞ解きは偽を作ったという展開ではありません。地上に存在する物を隕石と偽装して発表したのです。その辺は専門的なので読んで下さい。

でも、この本を読み始め、違和感を覚えたんです。それは、NASAの発表をすんなり信じた大統領なんです。
なぜかというと、放射線測定で何億年も前にできたと断定された隕石が地球に沢山あって、それのどれを調べたって生命の痕跡が発見されてないのですから、今回は大発見だと言われても、普通は疑いますよね。次には偽造だと考えますよね。

そういう推理をしない大統領ってあり得ないですよね。それから、デルタ・フォースが大々的に有名科学者たちの殺戮を行っているのに、大統領には報告が行かないのも変ですよね。
おまけに犯人はさる政府機関の高官で、その人が、大統領直属の精鋭部隊を勝手に使っている設定なのですから。
これはかなりのケアレス・ミスです。日本で言えば、文部科学技術省の高官が習志野空挺部隊を勝手に使うって意味ですから。やはり、デルタ・フォースは架空のテロリスト集団にすべきですね。いくら戦闘機を使いたくても、リアリティが損なわれますね。

それに、この主人公はちょっと馬鹿です。普通の女なら、大統領を失脚させるに足るネタを掴んだのなら、政敵である父親のところになんか送りませんよね。だって、現、大統領を失脚させるに足るネタですよ。ちょっと考え、それをネタに現大統領を脅迫して現大統領の夫人の地位か、現大統領の補佐官の地位を要求しますよね。先々父親が大統領になれる保証はありませんから。(ちょっと過激かな? 笑い)

でも、それらを度外して考えれば、この作者は、マイケル・クライトンに次ぐ、スケールの大きい作家です。