『埋もれ木』小栗康平監督作品 

「埋もれ木」製作委員会93分

『死の棘』でカンヌ映画祭グランプリを取った監督の最新作。
内容*ストーリーは特になし。少女たちが語るお伽噺と寂れた田舎の地方に住む大人や子供の生活が淡々と描かれる。でもどこからが現実でどこまでが幻想なのかは不明。すべてが現実のようで、すべてが幻想のようで。
明らかに幻想と思われるのは最後のシーン。地崩れで地下から現れた埋もれ木の林立する地域。ここで、紙の馬を作って、中に赤い光を灯して空に浮かべて駱駝を先頭に行進する。
他にもいろいろとあるんだけど、色使いが懐かしいせいで、現実と思われるシーンも全て幻想か思い出みたい。例えば、子供たちがお地蔵様の傍で通行税をとって独立国を作ろうと家出するとか、十キロもあるエレファント・バードの卵とか。

感想*絵本みたいで、幻想的で、映像はちょっと古い時代を感じさせて、疲れた現代人の心を癒してくれそうで超々々々良い。
 良いことずくめなのに、何でメジャーになれないのかしらね?
あまりにも綺麗すぎるから、感情移入できないからかなあ。オール5の優等生が作った芸術映画って感じで、めちゃめちゃ泣かせるシーンもないし、めちゃくちゃ笑わせるシーンもないからかね?
嫌味な女とか嘘つきの男とか、人間的な人物とかが出て、人間心理に踏み込んでくれれば、もう少しヒットしそうなのに。世俗にまみれることを拒否しているみたいで。惜しいですね。
そう言えば、『死の棘』はぐちゃぐちゃでドロドロの人間心理だったようで。そっちの方が見てみたいですね。

追伸。一昼夜考えて、感情移入できない理由がわかりました。登場人物全てに過去がないんだよね。まあ、この監督は敢えて過去を語らないで幻想的にしているんだろうけど。
例えば、深夜の工事の中断した場所に、若い男女が来て昔話をするシーン。普通に考えて、関係の無い男女が深夜にこんな場所にくることはあり得ない。だから、二人の過去を語ってくれないと、観客の無意識の領域は、これはお伽話だと判断して、感情移入を拒否するんだよね。
ここに、たとえば、「昔この辺でキスしたよね」「うん」みたいな短い会話がポンと入ると、その後の二人は、こんな事やあんな事があったんじゃないか、とか、男の子が迫って、女の子は平手打ちをくらわせたんじゃないだろうか、とか、観客は勝手に想像して感情移入してくれるんだよね。
そう言えば、昔、純文系の文章教室とか脚本教室に通っていた時に、「過去をしっかり作りなさい。でも書くのは最小限に」としつこいくらい言われたけど、こういう事だったのね。5年ぶりで納得。