『死の棘』小栗康平監督作品 

 内容*島尾敏雄原作。妻がノイローゼで、ことあるごとに喧嘩をふっかけてきたり、問題を起こしてくれる家庭。夫は小説家で、ことごとくそれに付き合って、泣いたり喚いたりする。
う――ん。難しいですねえ、説明ができない。これは小説を書いている人にしかわからないんだけど、こういう妄想でいっぱいの妻は小説家(=夫=主人公)の理想の妻というか、究極の妻なんですね。ああ、説明できない。
でも、最初の襖に青インクがぶちまけてあるシーンだけで、そこまでの数十年間の妻の懊悩が凝縮されていて、そのシーンだけで、一気に映画に引きこまれます。
感想*重くて良いですよね。「ギャヒ――――、ギョワ――――、ギョヘ――」と叫んで部屋の中を走り回りたくなるくらいの深みがあります。ぶちのめされますねえ。
この監督は、やはりちゃんとした原作のある物を撮ったほうが良いですね。そうすれば、リストカット寸前までの懊悩とか、産みの苦しみとかを小説家が代行して体験してくれているので、監督があまり悩まなくても、どーんと胸をえぐるような重い物が、観客に伝わります。
そうでないと、きらきらしてほんわかして良いんだけど、あまり心に深く棘が刺さらないような癒し系の作品になってしまうキライがありますねえ。
ということで、ここからは原作についてです。
この原作は、エンタメ系でいったら、舞城王太郎の『熊の居場所』とか歌野晶午の『世界の終わり、あるいは始まり』みたいな妄想系ですね。
久しぶりに頭蓋骨がつぶれるほどの感動を味わいました。