9月4日分です。(来週はアップできないので)

『暗闇の殺戮』
 私(北里緑子)の後輩の南ちゃんが犯人当てをしましょうと言って尋ねてきた。犯人を当てたら、前に負けて取られたエルメスを返してくれると言うのだ。
「ちょっとは本格っぽいですから」と、意味深長な言葉を吐いて、原稿をコタツの上に置いた。本格っぽいとなると、ちゃんと、文中に手がかりがあるに違いない。私は読み始めた。
 *****問題編*****
   1
私(門田美紀)は悲嘆に暮れていた。私たちの目前で殺人が起こったのに、私たちには犯人が特定できないのである。門田一族は昔から太平洋の離れ小島である小豆島{ルビ=あずきじま}の北の一角に住んでいる。昔ながらの農業を守って生活している。
昨日のことだった。私たち家族は畑から帰って、家の敷地に入ろうとしていた。烏が泣いていた。耳を澄ませば野犬の声もする。季節は麦秋{ルビ=バクシュウ}、春の収穫期である。麦が金色に実り、蓮華草がピンクの絨毯のように咲く季節だ。
こういう自然の中にいると、私たちは太陽と水と大地の恵みの中にいると感じられる。空は夕焼けの残照に包まれていた。しかし家の敷地の中に入った時には、薄暮も終わり、急に暗闇が迫ってきた。
家は昔のつくりで土蔵もあり、土の塀に囲まれ、敷地内にはうっそうとした森が茂っている。敷地の中は真っ暗だった。私たちは一瞬目が見えなくなった。急に暗いところに入ると、一瞬目がみえなくなることがあるが、その状態だった。普段なら電気が点くのだが、いつまでたっても点かない。だから、私たちは、門の内側で立ち止まっていた。多分一分以内のことだったと思う。
停電だったのである。停電でなければ門の傍にある電気が点灯するのに、全然明るくならなかった。そのうちに幽かではあるが新月の光が門の間から差し込んだ。いや、その前にばたばたばたと羽ばたく音がして、グエっという悲鳴が絞り出された。
(何がおこったのだ?)
私たちは暗闇の中で言い知れぬ不安を抱いた。兄や姉が、「何だ何だ」と囁き交わしたが、何の手がかりもつかめないまま、暗闇の中でじっとしているしかなかった。しばらくすると母屋で蝋燭が点った。月光が差し込むのとほぼ同時だった。
黄色い光が一条、門まで流れ、惨劇が引き起こされていた。ついさっき、門のところで合流したばかりの花子が殺されていたのである。無残な姿だった。首を絞められて殺された後、頭を鉈で落とされていた。その上、逆さに吊るされていた。


ファイルが重くなったで、続きは公式HPへ移動。アスキーが出来上がったら、公式HPへアップの予定。(近いうちに)アドレスはプロフィールの中