『女王様と私』(本)掌編小説『高層の死角』

女王様と私』(本)歌野晶午
去年の『葉桜』ほどではありませんが、今回も足を掬われました。最初は女の子かと思っていたのが実は人形で、中学生の引きこもりかと思っていたのが実はXXで、と次々にひっくり返されてゆきます。空いた口が塞がらないくらい面白かったのですが、ネタが去年とちょっと似ているので、『このミス』では東野に負けるかな?


掌編小説『高層の死角』(今回はホラーです。発想の源は三雲岳斗の『MGH』。現在七十キロを越えてしまった自分への警鐘も込めて)
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「先輩。七曲署は最近呪われていると思うんですよ」
高層マンションのエレベーターの前で所巡査部長が神妙な顔で話しかけてきた。
「お前の『呪われている』は口癖だからな。もう誰も信用しねえぜ」
私(南・階級は警部補)はマンションの前のワゴンで買ったソフトクリームを急いで口に入れながらエレベーターの運行状況に目をやった。
高層マンションである。百四十階以上に直通のエレベーターがあるが、上で停まったままでなかなか降りてこない。誰かが荷物の積み下ろしでスイッチを『開』にしたまま作業をしているのであろう。
百三十九階までのエレベーターなら隣にもあるが、これだと百三十九階から百四十階までの一階分だけは階段で登らなければならない。
それが億劫であるのと、エレベーターの中の狭い空間でじろじろ見られながらプレミアム・ソフトクリームを食べたくないので、なかなか降りてこないエレベーターを待っているのである。それにしてももう十分以上も降りてこない。私のソフトクリームは口の中に消えてしまった。
我々二人は、甘いものに目がない点で趣味が一致している。今食べたプレミアム・ソフトも一週間に一度だけ売り出されるレア物で、このマンションの傍にワゴンが出る。
前から狙ってはいたのだが、一時間以上は並ばないと買えない。今回、偶然にも仕事が入ったので(被害者には申し訳ないが)、部下に「別の仕事が長引いている」と嘘までついて、並んで買ったのである。さすがに並んだだけのことはある。生クリームの濃さが違う。使われているフルーツが新鮮で、ほっぺが落ちそうであった。
いかん、いかん。仕事に話を戻そう。事件は高層マンションの百四十階で起きた。一時間ほど前に入った情報では、一四○一号室で男が血を流して死んでいるとのことであった。
鑑識と検死官が先に行き、彼らの仕事が終わった頃に我々が行く段取りになっている。一応七曲署の部下だけは先に行かせてある。
「でもね、本当に呪いとしか思えないんですよう。わずか一月の間に二人の元同僚が死んでしまったんですからあ」

(続きは公式HPで。アドレスはプロフィールの中です。アスキー付き)

 追伸。この謎解きの発想の源は、『新』になる前の『本格推理』(光文社)のどれかの中にあった『ダイエットな密室』。本を探したのですが、押し入れ一杯の本の奥に入ったようで、みつかりません。従って作者もわかりません。御免。