新刊紹介『夜市』中篇小説『血文字』第七回

karamari2005-11-13

『夜市』恒川光太郎・12回ホラー大賞受賞作品
内容・夜市では望むものが何でも手に入る。小さい頃夜市に迷い込んだ祐司は、弟と引き換えに野球の才能を買った。
感想・雰囲気は前年の受賞作『姉飼』に似ている。『姉飼』は、夜店で《姉》を買った男の話。その《姉》は、渋谷を闊歩しているギャルみたいに、むしゃくしゃしていると噛みつく。気分がすぐれないと蹴飛ばす。おなかが空いていると大暴れする。でも、買った男は手放せなくなる。という内容。そう言えば、漫画『蟲師』もアニメになるし。きっと、夜店と村祭りというのは、日本人のホラーの原点なのかもしれない。本当に怖い。
 *
 今週の唐沢類人の仕事。『珍獣狩』を一部漫画化して、公式HPへ移動。画像は、紙に描く(サクラのアクアに凝ってます)→デジカメで取りこむ→ペイントで40%くらいに縮小→フォトショップで自動画質調整と切り出し→ホームページビルダーで作成した頁に貼りつけ、です。今回は、web用に保存(gif)の時に、16色、ティザ30%で、現代アート風に挑戦してみました。(上の画像)まさに、インターネット手描き派でやんす。公式HPはプロフィール(karamari)の中のアドレスをクリックしてね。

中篇小説『血文字』第七回。開始は10月2日。
{前回までの粗筋・私(八神沙希)は十年前に弟(雄介)が火事で死んでから、悪夢を見て、腕に『Y』の字が浮かびあがるようになった。私は霊感体質でもあり、友達の新ちゃんの幽霊に導かれ、新ちゃんの死体を発見した。しかし警察は雄介と新ちゃんの事件、両方に私の記憶がないことから、私が多重人格で犯人なのだと疑う。十年前は弟の遺体が紛失した。新ちゃんの件では、遺体を発見している。私は十年前の記憶を取り戻そうと、土蔵に入るが、血まみれの日記の切れ端があるだけ。私の行動を陰から見ていた警部補は、私の第二の人格が、十年前の証拠を破棄するために土蔵に入らせたという。さらに、半年前には東京に行っている。証拠隠滅のためではないか?怒ったチヨが警部補の首を絞めると、警部補の背後霊が離脱する。しかしチヨからは離脱しない。私は、チヨが私の背後霊に違いないと思う。普通の人間と同じ行動ができるのは、修行を積んで具現化に優れているため。チヨにその考えを伝えると、催眠術だという。私は東京へ逃げる。途中で、雄介の友達の霊魂・葵にであう。葵は、私が半年前に東京へ行く途中に電車内で出会い、自分だけ殺されたと言う。その後雄介の霊魂が現れ、実は自分を忘れて欲しくないのでYの字を浮き上がらせたと言う。一つ懸念が晴れた私は、東京の家に行く。雄介もチヨも葵も、全員が東京行きに反対したから、何かがあると考えたのだ。東京の家には人形霊がいて襲われるが、追いかけてきたチヨに助けられる。チヨは半年前、ここに来たと白状する。その後、死んではいなかった警部補と老人が尋ねてくる}
 *
 第四章・1
  
 ドアの外、夕闇の中にいたのは葵だった。
 私が外にでて、今の状況を説明しようとすると、何もしないのにドアが閉まった。
 中には、文句を言うために追いかけてきた警部補がいたが、ドアは警部補の前でパタンと閉まった。
 警部補は怒声を発しながら、力任せにドアを開けんとしたが、ガンとして開かない。
 ――修行を積んだ霊魂に逆らおうとするなんて、馬鹿だ。
 葵が訪れてきたのは、私にとってはラッキーだった。
 弟の件も新ちゃんの件もほぼ解決がついた。今の私にとっての一番の関心事は弟の依頼を解決することだけである。
 私のそばにいるために十年間も賽の河原にいた弟の頼みだもの、最優先で解決してあげないと。
 家の中からは霊魂に追われて逃げ回る警部補の足音と悲鳴が聞える。頑固に催眠術だと叫んでいるが、恐怖に震えているのは隠せない。
 
 ――警部補なんて、雄介の霊に遊ばれて死んでしまえば良いんだ。
 警部補を放っておく決心をした私は、葵に手を引かれるままに栗林を突っ切って、森の中に入った。
 もう夕暮れ後でかなり暗いが、遠くの津田塾大学からの明かりで、怖くはなかった。
 森の中に入ると、葵はそっとケータイをだして写メールを見せた。
「私、半年前の事件を考えなおしてみたんです。あれは自分の箒村で起こったんで、空を飛んで帰ってみたの。村につくと、神社に気を引かれたんで行ってみたんです。そしたら、こんな写真が神殿に飾られていたの。見て。写メールに撮っておいたわ」
 写メールのは、古い写真で着物を着て髪を高く結い上げていたが、顔が私とそっくりだった。
「この写真を見て、小さい頃に聞いた話を思い出したわ。この人が、先代の生き神様だったの。死ぬまで神社の一室ですごすので、斎宮とも言うの。そして、次の斎宮はこの人にそっくりな人と決まっているんです。あくまでも、うちの村の話ですけど。私も小さい時に何度も話に聞きました。でも、前近代的なことで、村長{ルビ=むらおさ}たちは隠していたし、忘れていたの」
「待って。今の話が本当なら、次の生き神様は私ってこと?」
「そうなの。さっき別れてから思い出したんだけど、あの日、私と沙希さんは一緒に東京へ来たの。でもここでは何の手がかりが掴めなくて一緒に帰ったの。途中で、ある男の人に声をかけられたんです。埋蔵金の場所を告げるヒントが沙希さんの記憶にあるとか上手いことを言われて。そして、箒村へ連れて行かれて、お宮の一室に閉じ込められそうになったんです。でも、途中から怖くなって逃げ出したの。私は途中から記憶がないので、沙希さんの代わりに捕らえられて後ろから殴られ、打ち所が悪くて死んだのかも。はっきりとは覚えていないけど」

「待って。今、箒村と言ったわよねえ。さっき、ここに来た医者も箒村の医者だわ。ならば、そのことについては知っているんじゃないの?」
 次のように考えたのだ――少なくとも医者ならば、迷信じみた風習に反対しているはずである。だとすれば、葵と一緒に証言すれば、葵を殺した首謀者を教えてくれるのではないか。
 しかし、私の意見を聞くと、葵はぶるぶる震え始めて強く反対した。
「駄目です。あの老人は医者ではないわ。霊媒師よ」
霊媒師?」
「そう。あの人には私が見えるの。さっき、窓からじっと私を見ていたの。霊媒の力を隠すためにわざとサングラスをかけているの」
「待って。別に霊魂が見えることは悪いことじゃないでしょうに。現に私やチヨだって」
「それはそうだけど、あの人には違う物を感じるわ。何かを企んでいる。村長に頼まれて、あなたを確保しにきたに決まっているの。それに私にも悪意を抱いているわ。私怖い」
「そうなの? さっきはそんなそぶりはちっともなかったけど。でも、葵の名前を聞いた時に、表情が動いたように見えたわ」
 ――そうだ。あの時、何か違和感を覚えたのだ。私たちに対する敵意だったのか?
「そうよ。面倒が起こるに違いないわ。さっきは雄介の霊力が守ってくれたの。あ、それより、もっと困ったことがあるの。実は、私が箒村の神社で写メールを撮っていたときに、村長に見つかってしまったの。だから、彼らが追いかけてきているの」


続きは公式HPへ移動作業中。