『極道デカ』(略して『ごくデカ』)8回目

『極道デカ』(略して『ごくデカ』)8回目
  前回までの粗筋。私(20才、唐獅子組の三代目姐。通称、唐マリ)は叔父貴(橘警視、35才)のご指名を受けて、広域犯罪捜査班(jfbi)で捜査をしている。今回の仕事は誘拐の捜査。
被害者は萱本小夜(17才で、『四葉宝飾』の娘)。身代金の運搬人は後妻の由香(37才)。脅迫状の内容は次――二億円分のダイヤの裸石を持ち、今日の午後八時に、伊勢市二見浦の海岸、夫婦岩の近くにあるクルーザーに乗れ。北に向かえ――。
午後の八時、後妻がクルーザーに乗った後、私は車のトランクから出て、遺留品を探すが、細い少女とぶつかる。捕まえようとするが、サイコメトリングが落ちてくる(私は、不完全なサイコメトラー)。映像は、後妻が爆死させられたものと、将来、自分が爆破されるシーンの二つ。数分間、映像に翻弄され、気がつくと、相手はいなくなっていた。
 その後、すぐにクルーザーの爆発が起こった。真のサイコメトリングだった。そのことをミカリ(14才、天才プロファイラー)に通知。私の襟にあったCCDカメラの映像から、少女の存在も証明。同時に犬並の嗅覚を持つ赤影(17才、忍者修行済み)がかけつけ、少女がバニラの匂いを残したこと、駐車場の端から自転車で逃走したことを発見。
 午後十時。鳥羽署での捜査会議。 菊田警部から、小夜の誘拐の過程が発表される。菊田警部は、誘拐犯の告知したホームページが゛満月の絞殺魔(狼男)"と同じサーバーだったのでJFBIを呼んだが、三重県警の大方の見方は、身代金の額が違いすぎるので、過去の連続殺人は無関係。被害者小夜の狂言誘拐ではないか?二億円のダイヤは重い鞄に移し換えられた後、床が開いてクルーザーの停泊地点に落ち、共犯に持ち去られていた。
 ゛狼男"の犯行は以下ーー過去二回、誘拐殺人がおこり、『満月ウサギ』と題されたホームページに犯行声明文が掲載されていた。サーバーはライブドア。どちらも、身代金運搬が満月(曇り)で、被害者は中学生か高校生で、誘拐後すぐに絞殺され、身代金は受け取らなかった。脅迫状ではテキスト形式のMSPゴシックの11フォントを使っていたので、MSPG11とも呼んでいた。
 翌日、ブログの中に゛狼男"の犯行声明文が掲載される。主犯しか知らない事実を知っている。一方、父親の証言から、クルーザーと革の鞄は元萱本家にあったものと判明。これにより、小夜も共犯だったと断定(母親を脅すために爆破を計画した)。主犯と知り合ったのはネットの中。犯人に挑戦状を出す。JFBIのページに『あなたは網にかかった』と書きこむ。すると、゛狼男"から、近日中に小夜の死体をお目にかける、とのメールがくる。このメールを出したのは、ネットで主犯と知り合った黒田亜美。80キロある少女。脅迫状とは知らずにネットカフェから送った、と主張。
 黒田亜美は私を指名したが、私が後催眠にかけられていることを利用して、まんまと逃げこんだ薬局から逃走した(忍者屋敷風にトンネルがあった)。その後、ミカリに約束していたように、ケータイで、主犯に関する情報を教えてくれる。
内容は以下――唐マリを後催眠にかけたのは主犯。かけ込んだ薬局は主犯が探しておいたもの。すべては主犯の計画で、自分は、手首を切られたので、しょうがなく協力している――。
 しかし、菊田警部は、黒田亜美が嘘つきなのを見ぬき、主犯だと断定。翌日、小夜と思われる死体が神島に放置されている。DNAも小夜のマンションの物と合致。更に宝石を回収した細い少女と、80キロある少女の死体が発見されるが、二人の身元はすぐに判明。゛黒田亜美"は行方不明になるが、≪読者A≫が登場人物の一人の変装だと断定(先週の゛なり代わり"と言う表現が分かりにくいので訂正)。
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 第四章・7

 今日は、≪読者A≫さんの勘――"黒田亜美゛という人物は存在しない。誰かの変装だ――という線を調べることにしました。 
 八ケ月前、小夜がグアムとアメリカ本土に旅行した時に、何かがあったに違いないです。それを調べるために、≪読者A≫はんと一緒にグアムに行く必要もありますが、そっちは後回しです。
≪読者A≫はんは、犯人が誰か、念頭にあるようでございましたが、あっしには、絶対に教えてはくれません。
 もしかしたら、注目を浴びたいがために、あんなことを叫んだが、本当は、確信がないのかもしれません。
 
 十月二十四日。
 あっしらは、『満月ウサギ』のサイトに、『八ケ月前くらいのことで、小夜の事件と関連すると思われる事例を募集』と書きこみをしました。
 それと、≪読者A≫はんが、 ゛黒田亜美"に変装した人物は、今までに登場した人物に違いねえと言うんで、今回の事件に関係する全ての人物の写真や似顔絵をネットで流しました。
 捜査陣全員と、萱本家の人間と、ワンポイントで登場した人間全ての写真です。
 ≪読者≫たちは、ネットの向こうにいて、必要な時だけネットを通じて現れる、変幻自在の顔なので、顔に?マークを描いて載せました。
 黒田亜美の似顔絵もアップしました。
 そしたら、佐渡に住む早川イトという女性から次のようなメールが送られてきたのです。
 内容を掻いつまんで言うと、以下です。
 ――半年前のこと。姉の早川サトが劇団『佐渡』で不思議な殺人事件を目撃した。サトがたまたまその劇団に行ったとき、死体があったのに、数分後には消えた。一方、自分(早川イト)は、アパートにいて、怪しいと思われる人物にであったが、怪我をしていて、容疑者にはなりえない。その怪しい人物とは、当時、隣の部屋に住んでいた高校生くらいの少女。太っていて、゛黒田亜美"と名乗っていた。゛黒田亜美゛は、アパートに住んでいながら、近くに別荘もあると言っていた。

☆早川イトから送られてきたメール☆
 四月十日。夕方の六時少し前。文学的に言えば、逢魔が時に当る。
 早川サトは、佐渡ヶ島の西側、相川町にある佐渡金山近くの道をタクシーで移動していた。
 サトは二十一歳で、津軽三味線奏者であり、今日は劇団『佐渡』の練習場に向かっていた。
 三味線の弟子の゛黒田亜美"に、「六時には、第三練習場で鬼太鼓の練習をしている。見に来て欲しい」と言われたからだ。
 タクシーは゛亜美"が用意してくれた。
 ☆ここにイトさんの注あり――太った少女は゛黒田亜美"と名乗っていたので、そのまま書きます――☆

 劇団は、佐渡金山の近くであるが、自分たちのアパートとは反対側に位置する。
 人間の足で走って一時間くらいの距離にある。
 タクシーが金山近くの繁華街を一分も走ると、農家の点在する田舎の風景になった。
 林、田んぼ、畑、旧い家屋が入り混じって点在している。遠くで野犬か飼い犬の鋭く吠える声が聞こえる。
 佐渡は杉が多い。細い道の両側にも、巨木が鬱蒼と茂っている。
 大小様々な神社や祠が点在し、木の根元には、お地蔵さんもある。
 月は中天にかかり、道路のあちこちには薄ぐらい街灯が灯っている。
 佐渡は流人の島である。
 古くは、後鳥羽上皇世阿弥が流された地であり、森鴎外の『山椒太夫』のモデルの地でもある。
 江戸時代は、金山での発掘作業に、多くの罪人や無宿人が流されてきた。
 あちこちに流人の魂が宿っているように感じる。
 現在でも、観光名所を除けば、風が大木の梢を揺らし、ある時は寂しくある時は猛々しく吹きすさんでいる。
(これで、琵琶の音が響いてくれば、まるで平家物語の壇ノ浦ね。怨霊でも彷徨い出そうだわ。また事件に出くわさなきゃよいけど)
 早川サトとイトの美人姉妹は、津軽三味線を弾きながら日本全国を旅しており、あちこちで、死体の発見者になっている。

≪読者A≫。「何ですか? このトラベル、トラベル、トラベル・ミステリー然とした文章は」
作者。「だから、イトさんが、半年前の自分らの体験を元に書いた小説で、どこかの新人賞に出そうと思って脚色してあるんだって。気にしないで。本当は、死体とご対面したのは、これが初めてで、二人ともかなりの婆さんだから」 

 サトは、怖い物みたさに、窓から外を見て、恐る恐る木立の中に目を凝らした。
 すでにかなり暗くなっている。
「はい、相川町*丁目。劇団『佐渡』の表玄関です」
 運転手の声で我に帰った。
 木立が切れ、劇団の建物が見える。
 比較的大きい劇団で、敷地内には大小幾つかの練習場や、プレハブ製の本部の建物などがある。
 いつもなら、あちこちから鬼太鼓の音が、地を這うように伝わって来るのだが、今日は公演日なので、殆ど誰もいない。道場はしーんと静まり返っている。
サトは、十日町絣の前をかきあわせタクシーを降りた。
 朝晩は、まだ薄いコートが欲しいくらいだ。
 太い木でできた門をくぐり、教えられた三番練習場に向かって、砂利道を歩いた。
 木造の旧い練習場である。
 近くまで行くと、第三練習場の裏口付近から、誰かが走り出て、林の中を全速力で駆け去って行くのが見えた。
 鬼の面と真っ白な長い髪の鬘と、鬼の衣装を纏っている。顔は分からないがかなり太っている。走り方からすると、十代の少女か。
「事件の予感が……」
 
 サトは、ぎゅっと唇をかみ締め、一瞬、少女の走り去った方角に目を向けた。
 薄闇をすかし、目を凝らしたが、少女の後ろ姿はすぐに闇と木の影に紛れてしまった。
 鬼太鼓の衣装をつけていた。
 職人が着るような衣装で、模様は、幾何学模様。袖はまくって、赤い襷{ルビ=たすき}を掛けていた。涎掛けのような前掛けを掛けていた。模様までは分からない。腕は白い下着に覆われていた。運動靴を履いていた。手袋もしているようだし。手には、撥のような物を持っていた。
 気にはなったが、゛黒田亜美"が待っているといけないので、中に入る決心をした。
 玄関にゾウリを置き、少しづつ練習場の引き戸を開ける。中は真っ暗である。
「誰か、いませんか?」
 か細い声を出しながら、電灯のスイッチを探した。
 最初はか細い声だが、次には、空元気を出して、わざと大きい声を張り上げた。
 奥を見据え、網膜の残像を再度、想起した。
 体つきや、走り方、手の振り方に、何か特徴はないか、思い出そうとした。
゛黒田亜美"に似ている気もするが、確証はない。
(あの走りぶりからすると、事件の可能性が高い。喧嘩だろうか?)

 それより血の匂いがする。
「゛亜美"さんはいますか――? 喧嘩でもしたんですか?」
 自分の声が掠れている。動悸が早くなり始めている。
(これだけ濃厚な血の匂いだと、命にかかわるかも)
 自分の頭からは、音を立てて血が下ってゆく。
手探りで移動し、やっと電灯のスイッチを見付け、押した。明るくなった。

板敷きの練習場は埃が舞っていた。
二十畳ほどで、体育館のような造りになっている。
中には、太鼓などの道具が雑然と置かれていて、人間の姿は見えない。
(喧嘩だとすると、恨みか?)
周囲の板壁の上には窓があり、奥には舞台があった。
真ん中ほどに幾つかの太鼓が積んである。台座の上にも置いてある
隅には、衣装や劇団員の使う道具類が、紙袋やバッグに入って、置かれていた。
 その脇から乾季の砂漠の川のように細く一筋の血が流れている。
(……まさか)
 嫌な予感を覚えて、恐る恐る太鼓の山を回りこんだ。
 運動用具置き場の奥に血溜まりが見える。
 自分の唇が、接触の悪いロボットの如く、ぎこちなく震えている。
 被害者は細い少女だった。
 またしても殺人事件? 大変なことになった。
 うら若き三味線奏者であるサトは、背筋が少し寒くなった。

 被害者は後頭部から血を流している。青い鬼の面をつけ、黒の鬘を被っている。面も鬘も血だらけである。
 指が折れそうに深くお面の端に食い込んでいるので、顔も苦悶の表情だろうと思われる。
(生きているの? それとも、駄目? 息があるのなら、救急車を呼ばなければ)
「いや、その前に確認」
 指の腹で手首に触れると、脈はなかった。
(また、巻き込まれたわ)
 サトとイトは以前に二〜三回、死体発見をしたことがある。
 どういうわけか、地方に行くと死体の第一発見者になる運命にある。
 被害者の首は土気色に変わりつつある。それだけで、もう駄目だ、と直感した。
 耐えがたい血臭。胸の下からじわじわと、突き上げるような悲鳴が沸きあがってくる。
 むっとする匂いで、喉と胃が叛乱を起こしそうだ。
 両手で、しっかりと口を押さえ、必死で悲鳴を押し殺した。
 何度死体の第一発見者になっても、慣れるものではない。
 鼓動が急速に早くなっている。逆に、体の表面は、鳥肌が立ち始めている。
 被害者の後頭部から滲み出した血は、直径一メートルほどのプールを形成しつつある。
(これほど血が広がるとは、かなり前に殴られたのね)
 
 血のプールは縦に長くできていた。
 被害者が転がったのか、面と衣装の前面が集中的に血に塗れていた。
 サトは血の池を避け、思い切って細く美しい足を、一歩踏み出した。
 被害者の手の甲にふれると、まだ微かに暖い。
 さっきの女は、相手が確実に死んだのを確認してから逃げ去ったと思われた。
(犯人は冷静だったんだわ。中途半端に殴って、誰かに発見されて自分の名前を告げられると困ると判断したんだ。だから、一刻も早く逃げたいのを我慢して、確実に相手の動きが止まるまで、暗がりに留まったのだ。ということは、動機は恨みで、計画性ありかしら?)
 細く長い指を伸ばしたサトは、ちょっと被害者の頭を持ち上げてみた。一箇所が陥没していた。
 鈍器で殴られたようだ。
 和装バッグからハンカチを出し、知らず知らずの間に額に湧き出ていた汗を拭った。
 側に長い鉄の棒状のものが落ちていた。修験者が使う、杖というものだと思われた。
 錠の先の方に、べったりと血が付着していた。鬘の毛も巻きついている。これが凶器に違いない。
(でも、指紋などは拭き取ってあるに違いない。確実に死ぬのを待って逃げるなど、落ち着いているのだから)
 サトは、憂いがちと評される双眸を移動し、面の下の少女の顔を想像した。
 唇は苦痛に歪み、目はかっと見開き、目を背けたくなる表情に違いない。
「警察に通報しよか? でも私が疑われるかもしれない。それは困る。弟子たちの発表会も近いし、私は将来のある大切な身なんだから」
 このまま逃げて、どこかから警察に連絡しよう。
 そう決心するとようやく空気が鼻の穴から入って、また出てゆくのが実感できた。

 サトは劇団事務所に報せようと思って、練習場の玄関を出た。
 しかし、連絡する前に、逃げた女の手がかりを探したほうが良い、と思い至った。
 バッグから、佐渡のガイド・ブックを出した。
『鬼太鼓は、鬼が舞いながら太鼓を叩き、五穀豊穣を願う行事。京都、朝鮮半島インドネシアなどから伝わったとされる。新穂長を初め、各村にあり、地域により踊りは様々』とあった。
 ページを捲った。
『鬼と共に獅子が出て舞うので、獅子鬼太鼓とも言う。白丁と呼ばれる男が二人で太鼓を担ぎ、二人の鬼が、太鼓の両方から打つ。やがて早撥になり、鬼の活動が最高になる頃、二頭の獅子が出て、鬼を妨害する。獅子の荒れ狂う様と、鬼の凄愴な撥さばきが鬼太鼓の身上である』
 続きは専門的になるので、飛ばした。最後に次の記述があった。
『牡鬼は空青の面に黒頭、牝鬼は炎紅の面に白頭ですが、共に筒袖に野袴、胸当、小手、脛当て、脚袢{ルビ=きゃはん}、白足袋に草鞋、両手に撥を持ちます』
(牝鬼は白頭。そうか。すると、さっきのは牝鬼ね。牝鬼の担当が決まっていれば良いのだけれど。でも、今日牝鬼の練習をしていた人間を捜せば、多少は絞り込めるわ。それにしても゛黒田亜美"と体型がそっくり)

 一方美人姉妹の妹である早川イトは、自分たちのアパートで弟子に三弦と唄のお稽古をつけていた。
 四月の一ケ月間は佐渡での公演のためにここに滞在する予定である。
「調子は一本。主旋律は本調子、一番合いの手は二上がり、二番合いの手は三下がりでお願いしますね」
 弟子に指示をとばす。
 一本というのは、調子笛の一本の音に高さを合わせることで、カラオケのキーの高さに当る。
 本調子は、ハ長調に当る音階で、二上がりは、二の弦を少し上げること、三下がりは、三の弦を少し下げることを意味する。
 明日、津軽三味線義太夫三味線の合奏練習がある。
 両方とも太棹を使用する。明日は弟子たち三十人の合奏になる。
 想像しただけでも、豪壮で幽玄な音色であり、佐渡の風景にも良く合い、感動的で……。

    8

 過剰に修飾された文章には飽きたので途中で読むのを止め、佐渡金山近くの喫茶店で、早川サトと、イチさん姉妹に会った。
 やはり、二人とも七十過ぎの婆さんやった。
 二人は、あっしらの自己紹介が済むのももどかしく、事件の経緯を説明し始めた。
サト。「あの日は、劇団の公演日で、道場には誰もいなかったんです。で、私は゛黒田亜美"に、見学するよう、招待されていたんです。゛黒田亜美"は私たちと同じアパートに住んでいたんです。隣の部屋でした。劇団にはたまに通っていると言ってましたが、後から劇団員に聞いたら、事件のあった日に衣装を貸しただけと言われました」
 あっしらは頷き、メールの内容を確認すると、重要な点の質問に入りました。
≪読者A≫。「一番の不審な点は、サトさんが外に出ている間に死体が消えた点ですね?」
サト。「そうです。私が外に出て、ケータイから一一〇して、もう一度確認するために道場に戻ったら、もう死体は消えていたんです。でも、大量の血が残っていたんで、駆けつけた刑事さんには、一応信用はしてもらいましたが」
≪読者A≫。「その時の刑事さんの反応は?」
サト。「素人が映画撮影のために、わざと血糊を撒いたんじゃないかと。殺人事件の現場を再現して予行演習していた時に、たまたま私が入っていって、死体と勘違いしてしまったんじゃないかと」
≪読者A≫。「血糊だったんですね?」
サト。「はい。大部分は。でも、端のほうに本当の血も少しあり、実際に人が死んでたんですよ。脈もなかったし」

≪読者A≫。「まあ、そんなのは、どうにでも偽装できます。一番簡単なのは、一瞬だけ息を止めて、脇の下にはゴルフボールを挟んで、脈を消す方法です。頭がざっくり割れているように見せるには、ゴムの仮面もあるし」
サト。「でも、私、その時間、わざわざ゛黒田亜美"さんに呼ばれたんですよ。それに、撮影の予行練習が行われているようにも見えませんでした。それにそれに゛黒田亜美"さんがわざわざ映画の練習の現場にいたというのも変な話で」
≪読者A≫。「はいはい。それは後から検討します。まあ、私の勘では、あなたがたは゛黒田亜美"さんに丁重にもてなされたんですな」
サト。「どういうこと?」
≪読者A≫。「ですから、゛黒田亜美"は自己主張の塊みたいな性格なんです。ミュンヒハウゼン症候群にかかっていると言っても良い」
サト。「何ですの、それ?」
≪読者A≫。「だから、恒に世界の中心にいないと我慢のできない病状です。今回の事件でも、我々に挑戦状を突きつけて来たり、逮捕されるかどうか瀬戸際の現場に現れては、ぎりぎりのスリルを楽しんでいます。ところで、あんさんたちは、゛黒田亜美"に何か相談しませんでしたか? たとえば、小説のネタがないとか」
イト。「あ、相談しました。私たちは共同でトラベル・ミステリーを執筆しているんですが、どうも、死体発見の場面がうまくかけなくて、と」
≪読者A≫。「それや。その相談を受けた゛黒田亜美"は、あんさんたちにヒントを与えるのと同時に、自分も立派に死体に化けられるかどうかの実験をしたんだす」
イト。「でも、被害者の役をやっていたのは、細い少女だったんですよ。うちらの隣の部屋に住んでいた゛黒田亜美"さんは、林の中に逃げるほうで」
≪読者A≫。「共同であんさんらを騙してくれた少女はんがいるんですな。間違いなく。でもって、死体のふりをしていた少女に状況を聞けば、自分も同じ興奮は味わえる」
イト。「でも、共同で騙してくれた少女はどこに住んでいたんですか? 隣の部屋には太った少女しか住んでいなかったんですよ」
 その問いにはサトさんが答えました。
サト。「あ、別荘じゃないの? たしか別荘も劇団の側にあると言っていたし」
≪読者A≫。「はいはい。その件は我々が調べますので。ところで、不審な点はそれだけですか? メールでお報せいただいた時には、容疑者は゛黒田亜美"だと思われるが、怪我をしていたとか」

イト。「あ、はい。それです。当時、私たちは劇団『佐渡』の道場から走って一時間くらいの場所にあるアパートに住んでいたんです。隣には゛黒田亜美"さんそっくりの人が住んでいて、事件のあった一時間後くらいに会ったんどす」
≪読者A≫。「メールには、その時に息を切らせていて、明らかに走って帰ってきたようだったとありますねえ。それから、サトさんは゛黒田亜美"とそっくりな少女が現場から逃げ出すのを目撃しておりますし」
イト。「はい。私が見たことだけを言います。私はアパートにいて、弟子にお稽古をつけていたんですが、午後の七時頃に゛黒田亜美"さんが、私の部屋のドアを叩いたんです。で、ドアを開けると、゛黒田亜美"さんが廊下にうずくまっていたんです。荒い息をしていたんで、どうしなすった?と聞くと、アパートの側で、暴漢に襲われそうになって、足を捻挫したって言うんです。たしかに、片方の足首が真っ赤で滅茶苦茶痛そうでした。後からサトに、午後の六時頃に劇団の側で゛黒田亜美"さんを見かけたと教えられましたが、あれでは、とても走って帰れません」
≪読者A≫。「車か自転車で来たのでは?」
イト。「どっちもありえません。゛黒田"さんは車の免許はないし、アパートは小高い丘の上だったのです。坂はかなり長いですから、自転車でも走るのと同じくらいの時間はかかります。捻挫していたらペダルもこげないでしょうし」
≪読者A≫。「偽装ってことはないかなあ? 例えば、赤いインクを塗っていたとか」
イト。「それはないです。翌日、もう一度見せてもらったら、ものすごく腫れていて」
≪読者A≫。「そうか。不思議なこともあるもんじゃ。参考にさせてもらいますわ。ところで、その゛黒田亜美"の別荘じゃが、今もあるのかい?」
イト。「ええ、でも、最近行ってみたら、大きな冷凍庫がなくなっていたんです。窓から中が見えるんで、簡単に確認できました。私たちの小説では、次のようにトリックを作り上げました。四月九日に犯人は、何かの事情で、人を殺してしまった。でも、死亡時刻を偽装するために、四月十日まで生きていることにする必要があった。なので、殺人事件が四月十日にあったように、私たちにみせかけた。それから、死体は冷凍庫で冷凍保存していたが後で処分した。でも冷凍庫も処分したので、中に付着した肉片などがあったとしても、そいつのDNAを調べることは不可能」

 イトさんは、途切れなく自分たちの小説の話をしはじめましたので、≪読者A≫はんが止めました。
≪読者A≫。「わかりました。それは自分たちで小説にしてください。それより、確認しますね。その太った少女は一重瞼でしたか?」
イト。「あ、はい。確かに、そうでしたが、それが何か?」
≪読者A≫。「はい、けっこう重要な点なんです。それにしても、゛黒田亜美"と名乗る太った少女は、どうやって、足を捻挫しているのに、走って一時間の距離を走りおえたか?車の運転はできない。アパートは坂の上で、捻挫した足なら自転車でも一時間以上はかかるのに」

    9

 あっしと≪読者A≫はんは、早川サトとイト姉妹に話を聞く作業を終え、鳥羽にかえってきました。
 そして、捜査本部へ帰る途中、緋牡丹お竜に似た姐さんに声をかけられました。
 着物をイナセに着こなし、髪を結い上げた姐さんでした。
「もし、ご免なさい。ご同業さんとお見受けして、お尋ね申します」
 夜でした。鉄火肌の渡世人という感じでした。
「あたくし、旅の者でございますが、あんさんは、タカはんの親分さんではございませんか?」
 あっしは無意識に仁義をきりかけましたが、姐さんが、止めました。
「旅の途中ですので、用件だけ申しあげますばい。あたくし、金腹一家に一宿一飯の義理にあずかります、おルイという駆け出し者でございます。姐御さんに不本意なお願いがあってまいりました。渡世上、姐御さんには恨みつらみは一切ございませんが、のっぴきならない義理で、命をいただきにまいりました」
 あっしは背筋の寒くなるものを感じました。
 しかし、それだけの口上を述べ終わった相手の姐御さんは、にっこりとして、ぐっと砕けた調子になりやした。
「一応、ご挨拶は述べさせてもらいましたばってん、本当は、あんたにお話のあるっとです」
 あっしは思わず≪読者A≫はんと顔を見合わせやした。
「実は、金腹一家には竜二さんというお方がおられまして、そん人の始末ば、あたしがまかされとっとです。何でも、親分さんに内緒で鳥羽署に殴りこみをかけたとかで」
「あ、そ、それは、そうだけど」
「あたしも渡世人ばい。盆布の上の勝負で片をつけさせてもらおうと思っとリますばい。もし姐さんが勝ちなさったら、竜二さんはお返しします。それで良かですか?」
 あっしは、ちょっと考え、美人の姐御さんの挑戦を受けることにしやした。人生で、二度とこんな機会はないでしょうから。
 竜二の身柄は心配しておりませんでした。金腹組に、取り潰すぞ、と脅しをかければ、返してくれるでしょうし。

 賭場は、すぐ側の金腹一家の二階に立っとりました。
 あっしは、ちーと気後れがしておりやしたので、急遽叔父貴にケータイを入れて、来てもらいました。
 ケータイを受けた時、叔父貴は、捜査本部におりやして、菊田警部が、「手入れを」と気色ばむのを、「今日は内偵だから、手入れはそのうち」と押し留めて出てきたのでございます。
 あっしらの勝負の時は、金腹組の舎弟は外に出し、サシの勝負にしてもらいやした。
 勝負は、手本引き。健さんの映画などでも有名な奴でござんす。
 胴師が一から六までを現す札を片手に持ち、懐の中で選んで布の中に取り出し、張り手は、布の中の札の数字を当てるものです。
「勝負は、後先、一番勝負」 
 おルイ姐さんの声が煙の充満した賭場に響きます。
 脇で≪読者A≫はんが、息を殺して見とります。
 あっしは、叔父貴に教えられたように、札をはりました。
 そして、「できました」の言葉と一緒に、おルイ姐さんが布を開けます。
 結果は、あっしの負け。

 でも、ここで手をこまねいていては、極道ではございません。
「へい。姐さん。こしゃくなマネをしてくれるじゃねえですかいな――」
 と叫ぶと同時に、白布の上の札を掴みました。
 しかし、敵もさるもの。
 あっしの手が札を懐に隠す前に、ビッシー―っと、胸のドスが飛んできて、あっしの手の甲に数ミリほど突き刺さりやした。
「グ」
 悲鳴もでません。

 ですが、ここで、叔父貴が動きやした。
「姐さん。よくぞ見破りやした」
 声は低く冷静そのものでしたが、片手には銃が握られており、声と同時に、手の甲のドスを抜いて、あっしの手の中の札を抜こうとしました。
 しかし、おルイ姐さんは叔父貴以上の早業師。
「いかさまはいかんとよ!」
 と叫ぶと、目にも見の止まらぬ早業で、あっしの手の中の札を取り上げなさりました。
 手の中には二枚の札。
 一枚は、おルイ姐さんの出した札で、もう一枚は、あっしが最初から持っていた、三四の屏風札。
 さよう。あっしは、相手がイカサマをしたと見せかけて、後からイカサマ札を置こうとしたのでございます。
『緋牡丹お竜・花札賭博』をみながら、叔父貴が教えてくれた技でございました。
 おルイ姐さんの目じりがキッと吊りあがりました。
「あんたら、それでも極道かね。いかさまは渡世のご法度。落とし前となりゃあ、命も取られるばい」
 ですが、叔父貴は、ピクリとも動かずに低く言葉を吐き出しました。
「あのなあ、イナセな姐さん。折角だが、俺たちは、極道じゃあ、ねえんだ。今はカタギの衆の間で、カタギとしてシノギを行っておるんじゃ」
 それ以上は言いませんでした。姐さんが悲しそうに唇を噛みやした。
「そぎゃんこつですか。極道よりも汚いのは、カタギさんなんですね」
 叔父貴が銃をちらつかせて金腹組を威嚇し、あっしらはその場を後にしました。
 あっしに言わせれば、カタギでも、極道でも汚いのは当たり前。
 つうか、イカサマをしない極道は極道じゃあねえと思うんでやんすが。
 
 あっしらが外にでると、≪読者A≫はんが、両目を飛び出しそうに剥いて、あっしに言いやした。
「分かった。佐渡で゛黒田亜美"の使ったトリックが分かった。後出しだ」
 その後、何も説明せずにネットのチャット・ルームに走っていっちまいました。

  10

 チャット・ルーム。
≪読者A≫。「おれ、もう、佐渡事件のトリックは解けたもんね」
≪読者E≫。「私も大体わかったけど。一応、今日の労働に免じて、あんたに説明させたげるわ」
≪読者A≫。「そうこなくっちゃ。まず、人間が二人いれば、簡単にサト姉妹を騙したトリックはできる。仮にXとYとするで。まず、Xがサトの来るのを予想して、大量の血を撒き、中で死んだふりをしている。その後、サトがいなくなった隙にどこかへ逃げる。一方、もう一人の太った少女Yは、サトが道場の側まで来たのを見届け、先に、森の中に逃げていた。近くには゛黒田亜美"の別荘があったという話だから、そこに鬼太鼓の衣装を隠し、Yは走って逃げて、家の近くで足を石で殴り、食紅か何かを塗ってイトにみせる。走った後から殴ったから、゛後出し"や。しかし、打撲というのは、その時はすぐには腫れない。翌日の方が腫れるものだ。だから、翌日に二人が見たときは腫れていた。
≪読者F≫。「確かに」
≪読者A≫。「これで、一時間の距離を走ってくるのは無理だとイトに思わせることができた。この演技で゛黒田亜美゛は不可能犯罪に巻きこまれたと騒がれ、一応、ミュンヒハウゼン患者としては大満足。だが、この演技のせいで、馬脚を現したんだよ。つまり、この腫れているって点から、゛黒田亜美"が最近、整形したことが発覚したんや。俺は、すっぱりとそれを証明できる」
≪読者F≫。「どういうこと?」
≪読者A≫。「だからあ、前、゛黒田亜美"の瞼が腫れていたという記述があった」
≪読者F≫。「嘘。あれは、太っていたんじゃないの? 瞼にまでぎっしりと肉のつまっているような感じだった、と」
≪読者A≫「だから、あれは、あんさん、つまり唐マリの目を通して見た記述。それが、一人称小説のミスディレのやりかたや。どんな嘘を書いても、主役の目を通して見たことだから、と弁明ができる。つまり、あれは、太っていたからではなくて、整形をしたばっかりで、腫れが引いていなかったんだ。作者はん。そうでんな?」
≪読者A≫はんがネットに向かって質問をなげつけました。
ネットを通じて質問された作者。「知ーらーない。つうか、そんなこと、たとえ口が腐っても、自分から言えるわけないじゃん」

≪読者F≫。「でも、作者は前に、ぽろっと、『小夜の死体を出さなきゃ』って呟いている。あれは、本心としか思えないけど。つまり何が言いたいかというと、あちこちで本音をもらしているような杜撰な性格だから、今更少しくらいのことを隠しても、大勢に影響はないってこと」
≪読者A≫。「アホやなあ。君は。あれも嘘。立派なミスディレやで。あそこでポロっともらしたように呟いておけば、小夜は容疑者から外れる。≪読者≫は最後まで真犯人は誰や、と考えよる。何しろ、本格推理では、地の文で嘘をつかなきゃ、いいんや。つまり、「」(カギカッコ)の中なら、誰がどんな嘘をついてもいいんや」
≪読者F≫。「でも、今やってる、アンフェアってドラマで、「犯人は最後では嘘をつかない」と言った。あ、でも、結局嘘をついたけど。それと同じで、作者が嘘をついたらまずいでしょ」
≪読者A≫。「アホ。そのドラマの中の台詞だって、厳密に言ったら嘘やない。正しいんや。よーく読んでみいや。゛最後に"って言ってるやろ。でも、ドラマはまだ中間や。よって、いくら嘘をついても良いんや。今も言ったが、「」(カギカッコ)の中では誰が何を言っても良いんや。例えば、ドラマの主役の女デカが『犯人は死んだ』といっても、後から、あれは間違った情報で、私の勘違いだったと訂正しても良いんだ」
≪読者F≫。「あこぎ」
≪読者A≫。「だから、推理小説は面白いんや。ついでに言えば、女デカが訂正をした後、瀕死の犯人がガギーンと生き返って又、殺人を犯しても良いし、似た誰かがいたことにしてまた『推理小説』の続編を書いて、殺人を犯してもよいんだ」
またしてもネットを通じて参加した作者。「そや。そんでもって、今度は『次の標的は美しきもの』と書いて、そのせいで署内では皆が自分が標的だと主張して壮絶な殺し合いが起こるとか」
ビシ。
≪読者E≫。「それじゃ、B級お笑いドラマ」
作者。「そう言えば、あのドラマでも、『犯人は女デカだ』なんて、視聴者から挑戦状でも来たら、面白いなあ。わてが送ろうかな」
≪読者A≫。「止めてくださいよ。自分に想定外の挑戦状が来たからと言って、他人まで巻き添えにするのは。『アンフェア』はもう三ヶ月も前に収録終わってますよ」
≪読者E≫。「待って、その、挑戦状が来たって、どういうこと?」
≪読者A≫。「実は、想定外のことが起きたんや。先週、ぽろっと『挑戦状を受け付ける』なんて口走ったやろ。そしたら、先走りの読者から、挑戦状が届いたんだ。公式HPのメール・フォームを通じて。ところが、それが想定外もんで」
≪読者E≫。「はいはい。何となく分かります。作者はんは、一応謎解きまで行った後、ちゃんと理由をつけた文章でドンデン返しを扱った文とか、あるいは、こっちの想定内の挑戦状とか思っていたんどすな」
≪読者A≫。「そや。例えば、『由香夫人が犯人だー』とか、『菊田警部が犯人だー』とか。それなのに、いきなり、『主役が真犯人だ――』なんてのが来たんや」」
作者。「わて自身、え、ええ??????????? この小説って、アクロイドだったのーーーーー?って仰天したがな。まっことブログは予測がつかんがな」

    11

≪読者A≫。「それよりも、ここまでの推理で絞りこめた犯人像を述べさせてもらいまっさ。実は、俺、分かったんじゃ。犯人が。つうか、正確に言うと、゛黒田亜美"になりすましていた人物が分かったのや」
≪読者E≫。「誰や?」
≪読者A≫。「真犯人はKの着く人間や」
≪読者E≫。「Kがつくといったら、萱本家の人間は皆、そう。それから菊田警部。唐マリ」
≪読者F≫。「萱本三郎や菊田警部はいくら整形して、変装しても二十前の少女になりすますのは無理でしょ」
≪読者A≫。「甘いね。推理作家は超卑怯なことをするから。ブルース・ウイリス主演の『バラの葬列』って映画には男と女のすりかわり(変装)が出てくる。金田一少年の中にもある」
≪読者E≫。「あこぎい」
≪読者A≫。「では、今回のまとめにゆかせてもらいます。半年前、佐渡で゛黒田亜美"に変装するのは、誰でもできた。その中で、まず由香夫人が゛黒田亜美"だった可能性を考えてみる。彼女は、小夜が誘拐されたと証言したが、そんなのは嘘をついている可能性もある。それから、身代金運搬時に参加していたのは、警察関係者だけであるから、由香夫人の顔を知っている人間はいない。だから、最初からそっくりさんを大金で雇って、そいつに由香夫人と同じ声で喋るように訓練させれば、由香夫人が死んだと思わせることは可能。まあ、地元の所轄の人間は知っているかもしれないが、刑事たちの端末には由香夫人の声しか送られないのだから騙すのは簡単。で、爆死した後に、萱本三郎が、死んだ人間の髪の毛を鑑識に渡せば、DNAは一致するので、由香夫人が死んだと思わせることはできる。よって由香夫人の可能性もある」

≪読者E≫。「その推理で行くと、他の誰でもすりかわりができるがな」
≪読者A≫。「その通りや。次は小夜が犯人の可能性。これはちょっと高度。狂言誘拐の最初に、小夜は、痩せた身体のままで母親の前に姿を現している。あれは、劇痩せをした結果や。つうか、最初の佐渡の殺人の時は、太って゛黒田亜美"に変装していたんや。それから、痩せて、狂言誘拐までその姿で通した。しかし、狂言誘拐の後、また劇太りした。それから瞼の整形もした。だから、瞼の腫れが引いていなかった。であるから、わざと薬局の現場で硝酸を撒いたんや。そうすれば、もし、自分の髪の毛が薬局に落ちていても、溶けるからDNA鑑定はできない。つうことで、作者はん。゛黒田亜美"は小夜の可能性もありますな」
作者「だから、言えないって言ってるでしょうに。何ど言わせるんや。ド阿呆が。まだ小説は途中なんだから。それに、佐渡で゛黒田亜美"に協力した少女はどうしたのよ。そっちの行動がすっぽり抜けている。それに、こんな連続殺人をしくんだ動機も解明されていない。ただ、たんに、あんたが自分の勘が正しいと理屈をつけただけじゃない」
≪読者A≫。「じゃあ、来週、わてが、自分の勘と、推理が正しいことを証明してあげま。題して『犯人は小夜か?』です」
≪読者F≫。「それよりも、『真犯人は唐マリや』ってのはどうしますの?」
≪読者G≫。「再来週。わてが検討してみますわ」

作者。「勝手にさらせや。それより、次回で若桜木門下にいた頃に先生に貰ったトリックネタが終わってしまう。その後どうしようかな?」
ビシ。
≪読者A≫。「何や、今までのネタは先生にもらったのかいな? 第一回目の時に、あんな自分は先生の路線とは違うなんて、大見得を切っておきながら」
作者。「だから、お前は、阿呆か」
≪読者A≫「何で?」
作者。「人間は、嘘をつく生き物や」
≪読者A≫「だから、どうしたんや」
作者。「たとえ百%自分が悪くても、絶対にそうとは書かないものや」
≪読者A≫「お前、最低や」
作者。「そんなの普通のことや。ましてや、小説の場合、それぞれ信奉する路線があるんや。例えば、若桜木先生とか内田康夫とか他ほとんどの流行作家は、松本清張路線や。リアリティを重視しておる。主人公は女優で言えば、鷲尾いさ子とか、名取裕子とか、真野梓とかや。今はそれが主流なんや。だから、そっちを勧められたんやけど」
≪読者A≫。「そやな。゛わて"とか゛われ"とか使っている人はおらんもんな。で、プライドとプライドがぶつかって」
作者。「と言いたいが、本当は違うがな。B型は注意が右から左に抜けるんや。だから、何回注意されても悪い癖が抜けないんや。よって、授業料がもったいないなあと思って」
≪読者A≫。「最低や」 
作者。「困ったなあ。先生ーー。お力をーー。ペンネーム幾つも持って書きわけていてお忙しいでしょうが、そこをなんとか曲げて」
≪読者A≫。「あつかましいわ。困ったら有名作家に泣きつけば良いと思って。死ね!」

(続く)

作者コメント。「『真犯人は主人公だ』は、公式HPのメールフォームで届いたもの。早々とメールを送ってきた読者がいたのです。挑戦状を送ってくれてありがとう。投稿覧は見ないから、メールを使ったのは大正解。先読みしてくれるのも、大好き。でも、これじゃあ理由も、何も書いてないから、本文に載せようがない。
 なので、この文章を使って、次々回、作者が、≪唐マリが犯人かどうか≫を検討してみることにしました。次回は、主役がグアムに行って、何があったのか、誰に合ったのか、などを調べ、犯人が本当にKのつく人間かどうかを絞りこみます。本当はその先の犯人との対決をやらなきゃいけないのですが、これも、ブログ小説の掟。読者に応えるのが一番。挑戦状を受けなきゃ、小説家じゃないっしょ。
 つうことで、グアム行きは簡単にやっつけて、さ来週は、≪唐マリが犯人かどうか≫を検討します。いや、『唐マリが真犯人だ』で一回、書きます。
 他にも挑戦状があったら、受け付けます。『犯人は由香だ』とか『犯人は健さん似のハイパー板さんだ』くらい簡単なものでも良いし、ちゃんと理由をかいて、小説の形態になっているものでもOK(どんでん返しになっているもの、犯人は誰だなどなど、何でもOK)。
 メールフォームからお願いします。投稿覧は非難中傷の可能性が高いので見ません。
 第一部の終わり――作者が一応、犯人を特定する部分――までいったら、その後、送られた中の面白い物を掲載します(小説になっているものに限る)。簡単なのは、挑戦状ということで、作者が受けます。答えられない場合は、゛答え"を募集します。つうか、共同責任だから、誰か応えろよな。兄弟なんだからな。
 来週、犯人が暫定的に特定された時点で、第一部は終わり、再来週からドンデン返しの部に入ります。それが一段落したら、真犯人がまだ逃げ回っているので、第二部に入ります。
 そっちのストーリーも書いてないので募集しています。複数送られたストーリーがまるで違う展開でも、歌野晶午の『世界の終わり、あるいは始まり』『女王様と私』などを参考にして、゛先週は夢か妄想だった"で繋ぎますので、構いません。他にも、折原一の『倒錯の死角』(どこかからどこかまでが妄想)、貫井徳朗の『慟哭』(時間のずらし)、黒田研二の『硝子細工のマトリョーシカ』(小説の途中でドラマとTV製作現場が逆転)する方法など、前回をひっくり返す方法はいくらでもありますから。
 繰り返しますが、公式HP(アドレスはプロフィールの中)のメールフォームでお願いします。命令をかける時に間違えて、『メ』だけがメールフォームに繋がっていますが、『メ』だけでもメールは可能」

(再度、続く)