『極道デカ』略して『ごくデカ』9回目

『極道デカ』(略して『ごくデカ』9回目
  前回までの粗筋。私(20才、唐獅子組の三代目姐。通称、唐マリ)は叔父貴(橘警視、35才)のご指名を受けて、広域犯罪捜査班(jfbi)で捜査をしている。今回の仕事は誘拐の捜査。
被害者は萱本小夜(17才で、『四葉宝飾』の娘)。身代金の運搬人は後妻の由香(37才)。脅迫状の内容は次――二億円分のダイヤの裸石を持ち、今日の午後八時に、伊勢市二見浦の海岸、夫婦岩の近くにあるクルーザーに乗れ。北に向かえ――。
午後の八時、後妻がクルーザーに乗った後、私は車のトランクから出て、遺留品を探すが、細い少女とぶつかる。捕まえようとするが、サイコメトリングが落ちてくる(私は、不完全なサイコメトラー)。映像は、後妻が爆死させられたものと、将来、自分が爆破されるシーンの二つ。数分間、映像に翻弄され、気がつくと、相手はいなくなっていた。
 その後、すぐにクルーザーの爆発が起こった。真のサイコメトリングだった。そのことをミカリ(14才、天才プロファイラー)に通知。私の襟にあったCCDカメラの映像から、少女の存在も証明。同時に犬並の嗅覚を持つ赤影(17才、忍者修行済み)がかけつけ、少女がバニラの匂いを残したこと、駐車場の端から自転車で逃走したことを発見。
 午後十時。鳥羽署での捜査会議。 菊田警部から、小夜の誘拐の過程が発表される。菊田警部は、誘拐犯の告知したホームページが゛満月の絞殺魔(狼男)"と同じサーバーだったのでJFBIを呼んだが、三重県警の大方の見方は、身代金の額が違いすぎるので、過去の連続殺人は無関係。被害者小夜の狂言誘拐ではないか?二億円のダイヤは重い鞄に移し換えられた後、床が開いてクルーザーの停泊地点に落ち、共犯に持ち去られていた。
 ゛狼男"の犯行は以下ーー過去二回、誘拐殺人がおこり、『満月ウサギ』と題されたホームページに犯行声明文が掲載されていた。サーバーはライブドア。どちらも、身代金運搬が満月(曇り)で、被害者は中学生か高校生で、誘拐後すぐに絞殺され、身代金は受け取らなかった。脅迫状ではテキスト形式のMSPゴシックの11フォントを使っていたので、MSPG11とも呼んでいた。
 翌日、ブログの中に゛狼男"の犯行声明文が掲載される。主犯しか知らない事実を知っている。一方、父親の証言から、クルーザーと革の鞄は元萱本家にあったものと判明。これにより、小夜も共犯だったと断定(母親を脅すために爆破を計画した)。主犯と知り合ったのはネットの中。犯人に挑戦状を出す。JFBIのページに『あなたは網にかかった』と書きこむ。すると、゛狼男"から、近日中に小夜の死体をお目にかける、とのメールがくる。このメールを出したのは、ネットで主犯と知り合った黒田亜美。80キロある少女。脅迫状とは知らずにネットカフェから送った、と主張。
 黒田亜美は私を指名したが、私が後催眠にかけられていることを利用して、まんまと逃げこんだ薬局から逃走した(忍者屋敷風にトンネルがあった)。その後、ミカリに約束していたように、ケータイで、主犯に関する情報を教えてくれる。
内容は以下――私を後催眠にかけたのは主犯。かけ込んだ薬局は主犯が探しておいたもの。すべては主犯の計画で、自分は、手首を切られたので、しょうがなく協力している――。
 しかし、菊田警部は、黒田亜美が嘘つきなのを見ぬき、主犯だと断定。翌日、小夜と思われる死体が神島に放置されている。DNAも小夜のマンションにあった髪と合致。更に宝石を回収した細い少女と、80キロある少女の死体が発見されるが、二人の身元はすぐに判明。゛黒田亜美"は行方不明になるが、≪読者A≫が登場人物の一人の変装だと断定。
サイトで登場人物全員の情報を流して゛黒田亜美"情報を募集すると、半年前に佐渡で足跡を残したいたことが判明。その時の情報から、≪読者A≫は、゛黒田亜美"はつい最近整形していたことを突きとめ、可能性の高い順に、小夜か由香夫人の変装ではないかと絞りこむ。因みに作者は黙秘。
/

第五章・1(番外編)

 鳥羽署近くのオカマ・バー≪マン・ホール≫

≪読者G≫。「今回は、予定を変更して、私が主役&レポーターで★唐マリは真犯人か?★ちゅうタイトルでお送りします。なんで、急遽変更になったか聞いてみましょう」
作者。「♪アクセス♪数が伸びなかったからや。わては#トラベルミステリー作家#になって、日本全国を取材して回って……」
≪読者G≫。「取材なんてするもんかいな? 今までだってでたらめ放題だったのに」
ビシ。
作者。「煩い。出版されたらするんや。それで、出版社の費用で、旅館に泊まって、★豊悦★と★反町★と★北村一樹★を呼んでもらうのや。誰一人欠けても原稿は書かんぞって言うて。それで、出版社の費用でどんちゃん騒ぎする予定やったのに。お前らがアクセスせんから、予定が狂ってしまったわ」
≪読者G≫。「そりゃあ、ネタが分かりにくいせいと、漢字が多いせい」
作者。「そんなの、自分の頭で想像して読まんかい。漢字が読めんかったら、飛ばして読まんかい」
≪読者G≫。「そんな、無茶な」
作者。「分かった。ここで考えを変えるぞ。ブログの場合は、アニメなんぞには適わないから、アクセス数は無視や。気持ちを届けたい人に思いが届いたら良いんや。この前は、♪♪健さん♪♪出したら、すぐに★新文芸座★の親分さんが♪マキノ監督映画特集♪を組んでくれたし」
≪読者H≫。「それは、前から組まれていたんやが」
ビシ。
作者。「黙っておれ。黙っておったら、分からんがな」
≪読者G≫。「そうや。それより、あんさんの気持ちが♪♪健さん♪♪に伝われば」
作者。「待った。そこ、ちょっと訂正。♪♪健さん♪♪だけじゃなく、★大杉漣★と★杉良★と★松方★と★目黒祐樹★と★石橋凌★と★山城新吾★にもや」
≪読者G≫。「ちょっと待って―ナ。♪♪健さん♪♪から転向したんでっかいな?」
作者。「当たり前や。今までのは建前や。眉間に縦皺があって、可能性があれば、誰でも良いんや」
≪読者G≫。「何の可能性や?」
作者。「言わせるんでっかいな?」

≪読者G≫。「先に行きます。今日は、★唐マリは真犯人か?★という企画ですが、その前に片付けたいことがあります。前回、≪読者A≫はんが、自分の勘と佐渡で゛黒田亜美"が残した足跡から、"黒田亜美゛は由香夫人か小夜の変装の可能性が高いと結論を下されましたが、わかりにくいということで、今日は、私が改めて解説し、犯人特定までしたいたいと思います」
 そう言いかけた時、突然、ネットの向こうにいた≪読者A≫が走りこんできた。
≪読者A≫。「待て。それは、俺が来週」
 しかし、その場にいた≪読者BからF≫までが、有無を言わせずに≪読者A≫を押さえこんで、口も塞いだ。
 それを見届けた≪読者G≫が鋭い啖呵を切る。
≪読者G≫。「オメーは、今まで出過ぎたんだよう。一人で良いところばかりを掻っさらいやがって。俺だって、たまには主役の探偵気取りで喋りたかったんだ。今日は俺の出番なんだから、オメーはすっこんでろい」
≪読者G≫の気持ちに賛同しておったのか、他の≪読者≫もまるっきり反対しなかった。
 しょうがない。押さえこまれた≪読者A≫は歯軋りして、ソファーに押しつけられたまま黙りこんだ。

≪読者G≫。「ここで今までの流れを説明するでえ。誘拐された四日後、★小夜と同じDNAを持った死体★が神島の浜に放置されました。で、一番単純な推理を披露しますと、★小夜が双子★であれば、今までのトリックは、簡単にできるものであります。★双子の片割れの方を小夜の死体として神島に放置★しておいて、★自分は劇太りして、゛黒田亜美"★として警察の前に顔を出せばよいだけですから。双子の可能性が両親の口から一度も出なかったのは、生まれた時に片割れなどを里子に出すなどして、すっかり忘れているのだと、思われます。極道小説が好きな脳タリンの読者には、まず、間違いなくこのトリックでしょう」
≪読者B〜F≫。「私たち、登場する読者を除いてですが」
≪読者G≫。「はい。まあ、これ以上説明することもありませんが、もう一度おさらいをすると、小夜は痩せた状態で狂言誘拐の前に母親の前に現れ、失踪後に整形をして劇太りをした。★双子トリック★の証拠として、犯人からの脅迫状があります。犯人はすぐに小夜の死体が伊勢志摩のどこかで上がるだろうと予告してきた時、うっかり、★゛死後五日程度の死体"★と言っていますが、実際は★失踪の四日後に死体は発見され★ました。もし、狂言誘拐後の殺害なら、こんな間違いは犯すはずがない。だが、本当は失踪前に殺害してあり、かつ★冷凍保存★してあり、さらに★失踪前夜に解凍★したんで、このようなミスをしたのだと推理できます。これでトリックは双子トリックに決定したようでありますが、もう一度、八十キロくらいある゛黒田亜美"について考えてみましょう。彼女は、鳥羽駅付近のネット喫茶からメールで犯人からの脅迫状を打った後、薬局に硝酸を撒いて逃走しました。これは、明らかに、★薬局に自分の髪の毛など、DNA鑑定に使えるものを残さない★ためであります。つまり、★゛黒田亜美"は登場人物の誰であっても構わない★っちゅうことです。言い換えれば、年齢的にかなり無理はありますが、★由香夫人であっても良い★ってことです。何しろ整形したので。★由香夫人が生きている可能性★は、先々週≪読者A≫はんが言及されたましたので、省略します」
≪読者G≫はここで≪読者A≫を軽く睨みました。
≪読者A≫は観念したのか、無表情です。
≪読者G≫。「さて、ここでちょっとお断り。゛黒田亜美"が変声器も使っていないのに、小夜の声と似ていると気がついた人間が一人もいなかった点について。その理由は次――★薬局にかけつけた刑事たちは皆、小夜の声を聞いたことがない★。JFBIの人間も、所轄の人間も。それに、薬局では録音はしなかった。その後、ケータイを通じての会話の時も、録音はしなかった。であるから、会話の時の゛黒田亜美"の声を家族などの関係者に聞かせることはできなかった」
≪読者B≫。「以上のことから、っつうか、DNA鑑定が出来ないっつう事から、゛黒田亜美"は今までの登場人物の誰の変装でも構わないのですが、やはり、★リアリティの点から言って、由香夫人か小夜★が一番可能性が高いと思われます」

≪読者C≫。「それほどリアリティのある作品でもないけどな」
作者。「そこは黙っておれ」
≪読者D≫。「では、その二人のうちのどちらかの特定に入ります。★゛黒田亜美"は最近整形★をしていた。顔全体の印象も前とは代わったが、特徴的なのは、★瞼も二重にした点★。どうせ国外で手術を受けたでしょうから国内の医者を調べても無駄だと思いますが。さて、ここで、最初の方を思い出して下さい。★由香夫人は美人★との記述があります。★美人は普通、二重★です。よって、整形をする必要はない。それに、身代金運搬時には細かった。なので運搬日の翌々日までに十キロ以上太るのは無理。それに引き換え、★小夜は一重★だとの記述があります。それに★狂言誘拐から四日あれば、十キロくらいは太れる★でしょう。体のほうは、★ゴムの着ぐるみでさらに二十キロくらい太ったように★見せることも可能。以上のことから★゛黒田亜美"は小夜の変装★で、なおかつ、★小夜の死体の身代わりにするために殺された人間★がいる。それは★小夜と同じDNA★を持つ。したがって★小夜とは双子★であると推測されます。その少女は、佐渡で゛黒田亜美"の相棒として、劇団の練習場で★死体の役を演じた人間★でもあります」
≪読者A≫。「ぐ」
≪読者G≫。「では、流れを整理するぜい。まず、★八ヶ月前に、小夜は、グアムで双子の片割れ★と思われる人間に合い、何か★まずいことが起こった★に違いない。どうやって出会ったかは後日≪読者A≫はんに調査してもらいます。しかし、半年前に佐渡で共同で死体消失のお芝居をしているから、★半年前までは険悪な関係ではななかった★。だが、どこかの時点で険悪になり、いつかはその相手を殺そうと決心した。どの時期に双子の片割れを殺したかは不明、だが、★゛狼男"となって、二回、誘拐殺人★を起こし、★最後に自分自身の狂言誘拐★をしくんだ。そして★片割れの死体を神島に放置★した。片割れの殺害に関して言えば、いつの時点で殺しても、★冷凍保存★にしておけば、大丈夫。そのために佐渡に別荘を借りたのだろう。が、とうの昔に冷凍庫は処分しているだろうから、別荘の捜査は無意味。どうかな? これで≪読者A≫はんが犯行の動機さえ特定すれば、事件は解決じゃ。ああ、♪探偵役♪は気持ちがええ」
 それを黙って聞いていた≪読者A≫は強引に自分を抑える手をはね返した。
≪読者A≫。「小夜は真犯人の可能性はある。だが絶対に双子トリックではない。俺が証明してやる。ヒントは、作者の書いた★粗筋★の中にある。★゛小夜と思われる死体が神島に放置されている。DNAも小夜のマンションにあった髪と合致"★と書いてある。ここを見落としたらいかんぜよ。ふふふふ」
 そう言って、唐マリの持っていたパソコンからネットの中に消えた。

   2

 同じ場所。≪読者≫たちがネットに消えた後。

唐マリ。「作者はん。読者から挑戦状が来とります」
作者。「何や、その、掟破りのもんは。『読者への挑戦状』なら知っておるが」
唐マリ。作者の抗議は無視して。「読みます。『唐マリ。犯人はお前だ』って書いてありまんなあ。え? 犯人はあっし?ゲ?全然心当たりがないでんがな」
作者。「破れ」
唐マリ。「え?」
作者。「今破れば、誰もみとらん。よって、誰も知らん。わてはさっさと推理を終わらせて、★『残侠探偵伝』★に入りたいんや。そっちのほうが確実に映画になる。それに、★『私にとっての癌告知』★っちゅう企画も持ってるんや」
唐マリ。「そうでっか?じゃあ」
≪読者≫。「あーあ、破ってもうた。やっぱり唐類はB級作家や」
作者。「おい。拾え」
唐マリ。「は?」
作者。「だから、どこかから変な声が聞えたんや。それもわいの一番嫌いな言葉が」
唐マリ。「ああ、B級作家って言葉でんな。よく子供はんからも言われとりまんな。他にも万年一次落ちとか」
作者。「ドアホ。それを言うな。いいか、ここで、その挑戦状を見事撥ね返したら、わいもB級卒業や」
唐マリ。「判りました。そうこなくっちゃ。ほな。テープではりまっさ。ところで、犯人は本当にあっしなんでっか? 全然心当りがないんやけど」
作者。「まあな。★多重人格★なら可能性はあるなあ。★アクロイド★の場合は多重が多いなあ」
唐マリ。「★アクロイド★は聞いたことがあります。主役が注意深く、自分の犯行だけを隠して、他の部分では堂々と活躍するってやつだとか」
作者。「そうじゃ。唐マリも少しは脳みそを使うことがあるんや」
唐マリ。「馬鹿にしないでおくれやす。あっしだって、推理小説を書いておりまんがな。たまに東京に帰ったときは、カルチャーで先生にもみてもろとります。じゃが、あれは、ものすごーく難しいでっせ。ていうか、小説を書く前に、全部の登場人物の動いた時間を全部記録して、♪タイム・シート♪なるもんを作ってから、書き始めなきゃ駄目なんだす」
作者。「嘘。今更遅いじゃないか。もう、ほぼ書き終わっとるがな」
唐マリ。「それに、推理の解れが少しでもあったら、駄目なんどすわ。あっしは唐類はんには無理だと思います。大体、♪B型作家は、大雑把で思いつきで書き始めて、思いつきで展開♪さすから、♪トリックもぼろぼろ。間違いだらけ。毎回毎回、訂正訂正♪をくりかえしとりましたやろ。それで、精密機械みたいな小説を書こうと思っても」
作者「黙れ。そのことは誰にも言うな。B級作家の汚名を晴らすために、わいは挑戦状を受けるんや」
唐マリ。「さいでっか? で、勝算は?」
作者。「まあ、ないことはない」
 ネットの向こう側から。
≪読者B≫。「嘘や。汗だらだらやないか。テンパッテる証拠や」
≪読者C≫。「そや。やせ我慢でそういう態度を取る奴は多いんや」
作者。「煩い。黙って見ておれ。これから♪『犯人はお前じゃ』♪を書いてやるから」
≪読者B&C≫。「へいへいへい。違いますがな。挑戦状を歪曲しないでおくれやす。ドサクサに紛れて、卑怯な逃げを打たないでおくれやっしゃ」
作者「卑怯な逃げって、何や?」
≪読者B&C≫。「だから、今の唐類はんの言葉・『犯人はお前じゃ』です。その文脈やったら、≪読者≫が誰に挑戦状を送ったか曖昧でんがな。そこをついて、適当な犯人をでっち上げるつもりでっしゃろ。それはあきまへん。物事は正確に言いまひょ。♪『真犯人は唐マリだ』♪だす。それから、ちゃんと落ちをつけるんでっせ」
作者。「う」

   3
 
 二見ケ浦の近くの深夜営業喫茶。暗い部屋。

唐マリ。「ミカリ。あっしが真犯人やっちゅう告発状がきたんやけど」
ミカリ「あ。そう。なら、そうなんじゃない?」
唐マリ。「おい。まちーや。そないに簡単に肯定すんなや」
ミカリ。「でも、殺すチャンスは充分にあったんじゃないの」
唐マリ。「そうくるとはなあ。想定外や。でもわてが真犯人だったら、どないなるんでっか? この先、トラベルミステリーみたいに、あちこちの観光地を巡って、難事件解決をしてゆこうと思ってましたのに」
ミカリ。「諦めるこっちゃね。唐マリが真犯人だとわかったら、することは一つ」
唐マリ。「なんでっしゃろ?」
ミカリ。「塀の中で、謹んでお勤めをするだけや」
唐マリ。「げ、でも、三人も殺してるんでっせ。犯人は」
ミカリ。「だったら、謹んで、極刑を受け入れる」
唐マリ。「酷い」
ミカリ。「そうなりたくなかったら、自分で、自分の無実を証明する」
唐マリ。「そう言われましても、あっしの★意識のないところで、第二の人格が活動★していたら……」
 ミカリのパソコンから顔を覗かせた≪読者≫が呟いた。
≪読者B≫。「★『サイコ』★やな」
唐マリ。「へ?」
ミカリ。「まずは、自分の行動と照らしあわせてみれば?」
唐マリ。「は?」
ミカリ。「だからあ、あんたに第二の人格が宿っているかどうかは分からないけど、とりあえず、★各殺人のあった時間にアリバイ★があれば、★犯人の可能性は薄く★なる。だから、まず分析をしいな」
唐マリ。「そやな。まず、六ヶ月前にどこにいたか、か? 記憶がないなあ」
≪読者C≫。「第一の殺人の犯人の可能性大や」
唐マリ。「煩いわ。で、次。第二の殺人。四ケ月前。それも、記憶がないわ」
≪読者B≫。「第二の可能性もありじゃ」
唐マリ。「では、第三の殺人。≪読者G≫さんの説明から推理するに、小夜と同じDNAを持つ被害者は、狂言誘拐が行われた日の前に殺害されていた可能性大。これだと特定ができないから、あっしかどうかの推理はできないわ」
≪読者C≫。「ますます怪しいわ」

 ここでミカリが助け船を出してくれた。
ミカリ。「でも、身代金運搬の後は、ずっと、私たちと一緒だったわ。例えば、神島に小夜と思われた死体が上がった時」
≪読者B≫。「ああ、真犯人が小夜と同じDNAの女の死体を運んだ時」
唐マリ。「あ、アリバイある。」
≪読者C≫。「しかし、あれは、主犯と思われている小夜と、共犯、南の行動とも取れる。あの時はまだ共犯の南は死んではいなかったのやし。唐マリが真犯人でないと断定はできんわ」
唐マリ。「ぐ」
ミカリ。「あ、じゃあ、あの時はどう? 南ともう一人、八十キロくらいの少女の死体が上がった時。゛黒田亜美"が薬局のトンネルから逃げた後。あの時も、ずっと一緒にいたわ」
≪読者B≫。「待ち―な。それだって、主犯と思われている小夜一人の行動かも知れないぜ。何しろ、死体は五ツあり、最初の三人を殺した殺人犯は誰か?という問題を論議しているんだから」
唐マリ。「ぐ」

    4

 空気が硬直していると、外でばたばたと廊下を走る足音が聞えた。
「大変だ。金腹組が襲撃にきた。お前が犯人だと喚いている。警察内部に殺人犯がいるのは許せないと騒ぎたてておる」
 叔父貴・橘警視が叫んで走りこんできた。
 唐マリは顔色を変えた。
「誰が、そんなことを?」
「多分。オメーに恨みを持つ者の仕業。根拠はない。★゛風説の流布"★じゃ」
「酷い。でも、この前のイカサマ花札の件もあるし」
 唐マリは、イカサマを教えた叔父貴を軽く睨んだ。
「裏口から裏の林へ逃げろ」
 視線をわざと無視した叔父貴がシグサワーの先で裏口を指した。
 二人が大急ぎで裏口から逃げると、そこには≪読者G≫が待っていた。

≪読者G≫。「今日は、私の独断で◆勝手にレポーター◆をやらさせてもらっております。あ、今、唐マリと橘警視が走ってきました」
 マイクを構える≪読者G≫の脇を唐マリと橘警視が駆け抜ける。
 そして、林の入り口で二手に分かれた。
≪読者G≫。「私は、今日は、◆主役◆です。めったにない主役のチャンスですので、命に代えても唐マリの逃げる姿をレポートしたいと思います」
≪読者G≫は怯まずに唐マリの後から、薄暗い林の中に走りこんだ。
 すぐ後ろを◆カメラマン役の≪読者B≫と音声役の≪読者C≫◆が追いかける。
≪読者G≫。「唐マリは、今、放置された粗大ゴミの後ろを横に走りぬけております」
 唐マリは金腹組の連中が姿を見失っている間に、距離を稼ごうと、全速力で獣道を駆け抜ける。
 その後ろを≪読者G≫が息を切らせて追いかける。周囲でピストルの弾がはじけ、粗大ゴミの袋に穴があく。
 プスプスプス。
 狙われているのは明らかに唐マリだ。
≪読者G≫走りながら。「唐マリは小さい時から橘警視に喧嘩道をしこまれ、闘いなれているようです。今も走っては大きな木の後ろに廻りこみ、月の光を頼りに、林の中を迫りくる金腹組の舎弟にむけて、銃を発射しています。あ、また、月の光の届かない部分に走りこんだ。完璧に姿が消えた。おぼろげな月の光は、林の中までは届かない。どうなる唐マリ。っつうか、私たちも危ない」
 唐マリと≪読者G≫の率いるクルーは、林を一気に走りぬけた。
≪読者G≫。「唐マリの足は速い。下生えと朽ちた木の枝を踏んで、林の奥にある廃れたビルの側まで走った」
 ピシピシピシという音が夜の空気を震わせる。
 後ろからは、酒で感覚の鈍った男たちが、唐マリと叫び、熊笹を掻き分けて走る音がする。
≪読者G≫。「廃屋同然のビルの脇に肩を押さえてうずくまっている男がおります。制服マニアでしょうか? 一昔前のパイロットの制服に身を包んでおります。おー―っと、男は徹夜マージャンで聴覚が鈍っているのでしょうか? 簡単に唐マリに掴まりました。唐マリは、出会い頭に、男に鋭い肘撃ちを食らわせた。男は、低いうめき声を上げ、草と砂がまばらにおおう地面の上に倒れた――。さらに、唐マリは、何も言わずに、男の指を握り、痛いほど強く絞りあげたーー」
 レポートしながら≪読者Gとそのクルー≫は林の中を走りまわる。
≪読者G≫。「おっと、ここで男が顔をあげた――。唐マリの殺気に気おされて、思わず失禁しそうになっている。目の色が変わっている。今や、唐マリは銃を小脇に挟み、助けを呼ぶ隙を与えずに、男の指と爪の間に、途中で拾った枝を突きつけた――」
 これだけを叫んだ≪読者Gとそのクルー≫は、また林の中を移動する。
 腰を低くかがめ、熊笹に頬を切りつけられながらも、果敢に事件の現場に飛びこんで、真実を暴くのを止めようとしない。
≪読者G≫。「枝には縦に亀裂がはいっている――。先はナイフのように尖っている――。それを爪と肉の間に埋め込んだ――」
制服マニアの男。「ウッググ」
≪読者G≫。「男は声を上げようとするが、唐マリは、さらに冷たい目で詰問する――」
唐マリ。「あっしを犯人だと言いふらしたのは誰だ――?」
制服マニアの男。「知るもんか。お前なんかに、誰が教えるか――」
≪読者G≫。「男はくぐもった声を上げる――。その目は怒りに燃え、唐マリの指に噛み付きそうな勢いだ――」
唐マリ。「分かった。じゃあ、痛い目に会わせて欲しいんだな」
≪読者G≫。「さあ、唐マリは怒った――。そして、持っている枝にこめた――。って、僕の後ろから冷たい物を押しつけているのは誰?」
≪読者G≫が、恐る恐る後ろを振り向くと、そこには、大量の金腹組の舎弟が並んでいた。
 金腹組舎弟。「そこまでだ」
 舎弟の一人、細いピンストライプのスーツを着た男が、片頬の筋肉だけを吊り上げて、微かに笑った。
≪読者G≫。「ま、待ってくれ――。僕は、レポーターだから……」
 金腹組の舎弟。「そんなことで、この場を逃れられると思っているのかい。お兄さん」
≪読者G≫が、恐ろしさに思わず崩れかけた。しかし、その時、舎弟たちの後ろから、さらに冷たい声が聞えた。
 橘警視だった。
≪橘≫。「止せ。カタギの衆に迷惑はかけるな。私は唐マリを追い詰めろと頼んだんだ。自分が何をしたかを思い出させろ、と言ったのだ」
 警視の言葉に、舎弟たちの目が一斉に気色ばむ。
≪舎弟の一人≫。「おい。警視さんよう。あんさんは、ちーと言葉が過ぎやせんかい? 都合の良い時だけ、わしらを利用しておいて、じゃあ、あいつが殺人犯だっちゅうのは、嘘だと」
≪橘≫。「違う。だから、説明を」
≪舎弟の一人≫。「じゃかましいわい――」
 言いかけた、警視の言葉を無視して、舎弟の一人が、いきなり、銃の引き金を引いた。
 プス。乾いた音が空気を引き裂いた。
 直後。≪読者G≫の肩に銃弾がめり込んだ。真っ赤に焼けた火箸をつき刺されたような激痛が走った。
 一瞬にして≪読者G≫の意識が飛んだ。

    5

 あっしは目が醒めやした。あっしは床に倒れていて、周囲を黒服の男たちの銃口が取り巻いておりやした。
「今のは夢?」
 思わず自分に問いかけると、叔父貴がぐっと顔を近づけて、目を細めました。
「まあな。正確には唐マリの妄想」
「そんなあ。≪読者G≫が主役だっちゅう妄想を、あっしが見たんでやんすかい?」
「そうじゃ。オメーが勝手に≪読者G≫に感情移入した結果、自分を≪読者G≫だと思いこんで妄想を見たのだ」
「どこから?」
「今回、つまり、第九回目の途中、4の部分から」
「酷い。≪読者G≫になりきったあっしの妄想なら、≪読者G≫の視点にせーや。三人称描写になっておったぞ」
 ネットに向かって抗議すると、ネットの向こうから、「そんなの、作者の勝手じゃーー」と声が聞えた。
 作者に抗議するのは諦めて、叔父貴に視線を返すと、キャツの口が薄く開いた。
「それより、盗んだ物を出せ」
「は?」
「宝石を盗んだだろう。小夜と同じDNAを持つ被害者が身につけていた宝石。ジェフリータークのデザインの宝石。証拠品置き場から、万引きしただろう。それの犯人はお前だ」
「待ってよ。あっしは、てっきり、★自分が殺人犯★だと思って、真剣に心配したじゃないか。もしそうなら、全然記憶がないから、▲多重人格▲だし」
 叔父貴が一枚の紙を取り出しやした。
「どこに、★『殺人犯だ』★なんて書いてある?」
 あっしは▲"告発状゛▲と書かれた紙を見なおしやした。確かに、▲『真犯人』▲としか書いてない。
「そりゃあ、ねえぜ。叔父貴。それなら、わざわざ◆『真』◆なんて、つけなくなって」
「悪いか? 告発状だから、どう書こうと勝手やろう。それより、証拠品の宝石」
キャン玉が小せえな。叔父貴も。ちょいと借りただけ」
 ゴツン。
「女が、キャン玉なんていうな」


追伸。
作者。「では、今回のまとめに入ります。▲唐マリは脳みそが足りないので、精密機械のようなアクロイド型の殺人はできない▲、と結論づけられました。では、真犯人は誰かと言うと、◆犯人は金属バットを持ってローラーブレイドを穿いた人間◆で」
ビシ。
≪読者G≫。「それは▲『妄想代理人』▲。この作品とは何の関係もないがな。しかし、突然そんな作品を出してくるってことは、お前、◆アニメ化◆狙っているだろう」
作者。「でへ。今監督は天才やーー」
ビシ。
≪読者G≫。「出版社から打診がないからって、ピンポイントでごまをするな。映像のほうが可能性は薄いだろうが」
作者。「ああ、胃が痛」

(続く)
作者コメント。今週、メールボックスに入っていたのは、この前作者がうっかり口走ったのと同じ、『それでも殺人犯は、由香夫人と萱本三郎だ』だけ。反応鈍いぜ。もっとも、犯人の特定と犯行動機の特定も終わっていないのに、ドンデン返しをせえって言うほうが無理か?