新幹線大爆破・スピード・暴走機関車・交渉人真下正義・明日の記憶
5月22日分の前倒しです。
時事ネタは明日掲載です。
『新幹線大爆破』S50年、東映
監督・佐藤純弥
出演・高倉健、千葉真一、宇津井健、丹波哲郎、山本圭、織田あきら、竜雷太、田中邦衛、宇津宮雅代、藤田弓子、多岐川裕美、志村喬、渡辺文雄、鈴木瑞穂
内容・新幹線ひかり109号に爆弾がしかけられた。特殊装置を施した爆弾は、スピードが80キロ以下になると自動的に爆発する。止まることのできないひかり号は、東京から博多までの1176.5キロをノンストップで疾走する。綿密な計画の元、着々と計画を実行する犯人と捜査当局のとの息をもつかせぬ駆け引き。そして運転司令室の頭脳作戦……。 逃げ場のない極限状態の中、犯行グループ、警察、国鉄職員、乗客1500人、それぞれの人間模様が、ドラマチックに展開してゆく。
感想・ええとですねえ、この中では、珍しく健さんは悪役。元過激派の人間で、今は小さい精密機械工場の社長なんですねえ。で、日本政府に対して15億円(当時のレートで500万ドル)の身代金を要求して、最後には爆弾の解除のし方を書いたメモを渡して(喫茶店にわざと置き忘れる)、自分と同志はアメリカに高飛びをする計画なんですねえ。
ところが、計画はうまくゆかず、仲間は次々と殺され、自分も最後には撃たれてしまうんですが、どっちかっていうと、主役は運転責任者の宇津井健みたいな感じですねえ。
宇津井健は、最後に究極の選択を迫られるんですよ。
一つの爆弾は何とか処理できるんですが、もう一つ設置されているかもしれなくて、それを抱えたまま新幹線を博多(大都市ですよねえ)まで走行させて停車させるわけにはいかない。だから、その手前の人口の少ない町で停車させろ、と上司から命令されるんです。このときの苦悩する演技が最高ですねえ。
では、もう一度最初から、順を追って。
まず、走行途中の新幹線に、上のような爆弾をしかけたと電話が入る。→それが真実であることを証明するために、北海道で貨物列車を爆発させる。→すぐに、北海道で貨物列車が爆発する。→嘘ではないとわかる。→政府に15億円の身代金を要求する電話が入る。→政府は金を用意し、天竜川かどこかの崖で受け渡しをする。→受け渡しは失敗し、犯人の一人は警察に追いからけられ、バイクで事故死。→受け渡し方法を変える。→高速道路を使った受け渡し方法。→受け渡しは成功するが、アジトが割れ、仲間の一人が爆死。→健さんは、身代金を三人分に分け、自分は、喫茶店に電話して解除方法を書いたメモを関係者に渡すように指示して空港へ向かうが、喫茶店が火事でメモが焼けてしまう。→ここからが珠玉→爆弾は、国鉄の設計専門家が追いかけてきた列車から乗り移って処理に成功した。→ここで、宇津井健は、乗客の家族が安心するように、一刻も早くテレビで「解除成功」と放送するべきだと主張するのだが、警察は拒否。犯人を取り押さえるために、今まで通りに、「犯人の方は一刻も早くご連絡を」と呼びかけるテープを流しつづける。→健さんは、相手の意図を見抜き、別の駅に連絡して解除方法を伝えるんだけど、健さんの元妻と子供が空港に呼ばれてきている。→そこで、子供が動揺してしまい、変装した健さんが正体を見破られ、海辺で射殺される。
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最後の最後まで息をつかせぬ展開で、30年前の作品にしては、けっこう面白い。さすがに大ヒットした『スピード』の原作になっただけはある。それに、鉄道を使った点と、”大惨劇を招く前に、小さい惨劇で済むように、小さい町で爆破させろ”と強要される点が、黒澤明の脚本『暴走機関車』とそっくり。その点に付いては、『暴走機関車』で。
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『スピード』
ご存知。キアヌ・リーブスとサンドラ・ブラック主演で、世界的に大ヒットした作品。
乗り物がバスになっただけで、ストーリー展開はほとんど『新幹線大爆破』と同じ。最初に別のバスを爆破する点とか、停車できないバスに、もう一台のバスが横付けする点とか(この作品では乗客を移すんだけど)。変わっている点といえば、内部を撮影しているビデオを、生のビデオから録画された物に代え、それを流している途中に乗客を別のバスに移す点かな?
まあ、新幹線なら、1100キロもあり、途中に色々な要素をいれて、止まらずに博多までゆく最中に解除方法を考え、犯人を追い詰めるのは可能かな?とは、素人でも考えられる。
しかし、バスでそのアイデアを使うなんて、どうするんだろう? と最初は思った。でも、高速道路をぐるぐると回らせておくとか、途中が工事中で途切れていて、ジャンプしなければいけないとか、様々なアイデアを盛り込んであって、苦労した様子が伺える。
参考までに”スピード2”は、豪華ヨット。こっちは安心してはらはらドキドキが楽しめる。
なお、バスが道路の切断されている部分を飛び越える科学的な方法は、柳田理科雄の『空想科学映画読本』(扶桑社)に詳しく説明が載ってます。
『暴走機関車』1985年、米
原作・黒澤明
監督・アンドレイ・コンチャロフスキー
出演・ジョン・ボイド、エリック・ロバーツ、レベッカ・デモーネイ、ジョン・P・ライアン
内容・アラスカの重犯罪刑務所。服役囚マーニーは、憎み合うランキン所長への反発から若い囚人バックと共に脱走。操車場の機関車にもぐり込むが、心臓発作で機関士が転落し、そのまま車両は暴走を始める。取り残された機関助手サラから絶望的な状況を聞いた二人は、なんとか機関車を止めようと試みるが……。
感想・やっぱし、黒澤明は天才だと思うわね。『新幹線大爆破』も、年代的にこの脚本に影響を受けていると思うけど、本当に、この監督は、人間に究極の選択をつきつけるのね。
例えば、この中では、最終地点に化学工場があるので、その前で意図的に脱線させろとか、途中の橋を渉りきれないから、どこかで脱線させろとか、運転責任者が上司から迫られるの。
大規模な災害を防ぐために、少しの人間を殺せ、と命令されている訳だから、これって、悪魔的な選択だよね。まあ、この作品の中では、偶然にも脱線は免れるけど。
『天国と地獄』でも、運転手の子供が自分の子供のかわりに誘拐されてしまったのに、犯人は、その子のために一億円を払えって要求してくるの。これも、はっきしいって、苦しいよね。他人の子供のために一億円だよ。
でも、拒否したら、人間的に最悪だって、マスコミに攻撃されるだろうし。”地獄”はどこかと言ったら、この選択を迫られた時点の社長だよね。
でも、悩んだ末に、主役は払う決心をするんだけどね。
あと、『新幹線大爆破』と似てる点といえば、対抗線路に侵入するしかなくて、列車がそっちに進入するんだけど、向こうから列車が走ってくるのね。
『新幹線』では、コンマ数秒の違いで衝突しなくて済むんだけど、『暴走』のほうは、最後の部分が抜けきらなくて、衝突するの。
ここのシーンが圧巻だわね。まあ、『新幹線』のほうは、北海道での貨物列車の爆発が圧巻だけど。
では、戻って、ストーリーの説明を。
主役のマーニーと若い囚人のバックが機関車の中に閉じ込められた所から。
緊急停車ボタンは、先頭の車両にしかないの。で、二人は、交代で、雪の降りしきるシベリアの寒空の下、暴走する列車の車外へでて、凍てついた車両の外側を伝わり歩きして、先頭車両までゆかなくてはならなくなるの。
その時のジョン・ボイドの台詞がまた悪魔的。
「脱走して、普通のレストランに就職して、白い目で見られても耐えられば、社長になれる。でも、俺はなれないから、吹雪の中に出て闘わなくちゃならない」って。
私は、この台詞は、黒澤明の心の叫びだと受け取ったわけ。
ちょっと、飛躍するようだけど、一旦話題を取ってしまうと、次はもっともっと上を目指さなきゃ観客が満足してくれなくなるから、どんどん過激になるって意味ね。
最後には、主役は先頭車両に移って列車を止められる状況になるんだけど、連結部分を外して、自分と敵の所長だけは吹雪の中に消えてゆくの。これも、最高峰の更に上を求められた黒澤明の崖ぷちの心境だと思うわ。
最後に黒澤明の名言を――天使のように大胆に。悪魔のように細心に――。
『交渉人真下正義』2005年
原案・君塚良一、監督・本広克行
出演・ユースケ・サンタマリア、寺島進、小泉孝太郎、高杉亘、柳葉敏郎、石井正則、西村雅彦、金田龍之介、水野美紀、大和田伸也、八千草薫
内容・東京の地下鉄で、新しく開発した『クモ』という運転車両が、誰かにハッキングされ、暴走をくりかえす。犯人は鉄道オタクのハッカーらしい。運行管理室に、ハッカーとの交渉には手馴れたユウスケ・サンタマリア以下のチームが派遣されてきて、犯人と頭脳戦をくりひろげる。
感想・この原作者か監督さんは、地下鉄オタクなのかな? 秘密の線路とか、滅茶苦茶、裏事情に詳しいよね。それに、スピード感があって、出来は良いよね。
小説とか映画は、最初はオタクから始まるので、悪くはないんだけど、ちょっとだけ欠けているものがあるような気がする。
それは、観客の予想を裏切る勇気かな?
たとえば、アクロイドにするとか。
あるいは、カーの三原則を守るとか。
――冒頭に出てきた誰かが犯人でないと、観客は驚かない――って奴。
ユウスケの部下に儚げな美人を配して、途中でその美人が命をかけてユースケを守るシーンを入れて、そいつを犯人にするとか。
そうすれば、もっと面白くなるような気がするけど。
追伸。
今週観た映画。
『明日の記憶』
出演・渡辺謙、樋口可南子
(パンフレットが売切れだったので他の出演者はちょっとわかりません)
内容・若年性アルツハイマーの話。
宣伝会社の部長だった主役が、ある日、急に物忘れが酷くなって、若年性アルツハイマーだと診断され、苦しみながらも、なぜ人間は生まれてきたのだろうとか、何のために生きているんだろうとか、散々悩んで、苦しんで、周囲の偏見とかと闘いながらも夫婦で生きて行く話。
感想・物忘れが酷くなってゆくだけなんて、そんな地味な題材を、どうやって料理するんだろう、と思っていたけど、面白かったわねえ。
宣伝の仕事をしながら、少しづつ物忘れが酷くなって戸惑う姿とか、病院で病名を告げられて怒る姿とかがリアルに克明に描かれていて、けっこう内容は濃いし。
打ち合わせに行く途中で道が思い出せなくなって、パニックになる姿とかが、メチャメチャ臨場感があるし。
うー―ん。内容は濃い。何度も言うけど、内容が濃――い。
それに、医者を演じている及川の叫びも胸を打つ――人間は生きている以上病気になるんだ。それでもそれを抱えつつ、それと和解しながら生きていかなきゃいけないんだ。だからと言って諦めてもいけないし、自暴自棄になってもいけない。アルツハイマーを治す薬は今のところないが、進行を後らせる薬はあるし、明日発見されるかもしれないから、希望を捨ててはいけない――。
多分、そういう叫びだったと思うんだけど、泣けましたねえ。
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次回は、『夜叉』とか『君よ憤怒の河を渉れ』を紹介したいけど、『デスノート』や『ダビンチ・コード』も紹介したいので、多分、二回に分けて、になるかも。