『ALWAYS三丁目の夕日』『ゆれる』 

『ALWAYS三丁目の夕日日本テレビ・Vap・小学館東宝読売テレビ・読売新聞・電通
05年(公開)DVD
監督・山崎貴
出演・吉岡秀隆堤真一小雪堀北真希もたいまさこ三浦友和薬師丸ひろ子
内容・昭和33年。東京タワーが完成するこの年。東京下町の夕日町三丁目には、人情味溢れる住民たちが暮らしている。ある日、鈴木オートの社長(堤真一)と妻トモエ(薬師丸ひろ子)、息子一平の暮らす自動車修理工場に六子(堀北真希)がやってくる。一方、向かいの駄菓子屋の店主で売れない小説家の茶川竜之介(吉岡秀隆)は、恋心を抱く飲み屋の女将・ヒロミ(小雪)に手を握られ、濡れた瞳で見つめられて、身寄りのない少年・淳之介を預かる。
感想・西岸良平三丁目の夕日」の実写版です。全編レトロのオンパレードで、安心して泣けます。『佐賀のがばいばあちゃん』みたいな印象です。貧乏だけど夢があって、人情があって、どこか暖かくて、でも、貧乏ゆえに身売りとか孤児問題とかはどっさりあって……。何なんでしょうね。自分の小さい頃の思い出とかがダブってくるんでしょうかねえ。小さい子供とかが必死で取りすがってくるシーンがあったりすると、先に逝ってしまった弟の姿なんかが目に浮かんで、泣けてしょうがないですねえ。年を取った証拠ですかね?
 あと、人間の思い込みは恐ろしいと思う個所がありましたねえ。茶川を芥川と読んでいたのです。なので、小説の一節ーー幸せが指の間から零れてゆくのが見える――を、すご〜〜い、純文学の作家はこういう表現をするんだ、なんて感動していましたが、実は茶川だと気がついたとたんに、三文小説だべ、なんて思ったりして。
 でも、この茶川竜之介君(吉岡秀隆)には共感しましたね。生活のために少年少女向けの冒険小説を書いていて、転がり込んだ少年は、それを読んでファンになっているんです。小学生は時代の流れに敏感で良いです。
 私も、マンガを始めてから、時々小学生に手を振られるようになりました。ブログを始める前は私の存在すら知っている人はほとんどいなかったのに。そう思うと、思わず涙が……。嘘です。本当は心の中で、やったぜと叫んでいます。
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『ゆれる』 06年、シネカノン配給、テレビマンユニオン製作
監督・西川美和
出演・オダギリジョー香川照之伊武雅刀新井浩文、真木ようこ、木村祐一ピエール瀧田山涼成、河原サブ、田口トモロヲ蟹江敬三
内容・う〜んと、説明するのもコメントするのも難しいなあ。まず内容は弟・猛(オダギリジョー)の視点から話して、感想は兄・稔(香川照之)の視点から語ろうかなあ。
再度、内容・弟は、東京に出てきて、生活できるくらい稼いでいるカメラマン。その弟が母の一周忌に実家に帰ってくる。実家には、優等生の人生を歩んできた兄がいる。親に反抗もせず、お勉強もそこそこできて、親の決めた道には、不満があっても反対が言えない。この作品の中では親の仕事を継いでガソリンスタンドをやっている。
弟の捨てた彼女が好きなんだけど、まだ手が出せない。弟は都会的で洗練されているし、手も早いから1回抱き合うと、彼女の心はまた弟に戻ってしまう。
お兄ちゃんとしては、いじいじ、ぐじぐじの状態になるのね。そんな状態で川に行くの。川にはぐらぐら揺れる吊り橋があるの。弟はさっさと吊り橋を渡ってしまい、彼女も「私も渡る」って言うの。それは、「私も弟と一緒に東京へゆく」って断言されたのと同じに響くの。
で、お兄ちゃんは、吊り橋恐怖症なんだけど、必死で追いかけるの。橋の途中で彼女の服を掴むの。でも、それは、女からすれば、虫唾が走るくらい気持ち悪いの。だって、相手の掌には油汗が浮いているんだよ。
そうねえ。好きでもない男から、いきなり、抱きつかれたような感じかな。
だから、「怖いならついてくるな」みたいなことを女は口走ってしまって、喧嘩になるの。この喧嘩の前、弟は二人を見ていたんだけど、目を離した隙に、女が橋から落ちてしまうの。
いや、最後には一部始終を見ていたことが判明するのだけど、ストーリーではいきなり落ちた後のシーンに飛ぶので、みていないように思えるの。
ここまでが伏線ね。この後、普通の殺人事件だと、捜査のほうが主体になるんだけど、この映画は兄弟の心の葛藤に重点を置いた映画だから、捜査のほうはあんまし描かないの。
で、飛んで、一旦は事故ってことで弁護士とも意見が会うんだけど、ある日、兄はガソリンスタンドで、客にガソリンをかけてしまい、取調べ中に自分が突き落としたみたいな証言をして逮捕されるの。殺意については曖昧なんだけど、自分が突き落としたことは認めるの。で、裁判になるのね。
弟は、「自分はそのシーンを見ていない」と主張し、事故で無罪を勝ち取ろうとするんだけど、裁判が始まると、兄は、今までの聞き訳の良い人間から変身して、周囲の思惑と反対のことばかりするの。
それはまるで、優等生の仮面をかぶった人間が、仮面を脱ぎ捨てたみたいな感じなの。
例えば、「事故ではなく、知恵子はお前のお荷物になるから、俺が率先して誘ったんだ」と言ったり、「お前は、初めから人を疑って、最後まで一度も信じたりしない」などと言うの。
で、兄に裏切られたと思った弟は、怒って、ついに、裁判で、「自分はそのシーンを目撃した」と証言してしまうの。それも、兄が率先してつき落としたんだと。
 で、兄は有罪になり、懲役七年をくらうの。でも、出てきた時はさばさばした顔でいるのね。あ、これはあくまでも私の主観だから。私は最後の兄の笑いは、自分では牢獄――親の敷いたレール――から脱出できなくて、もがいていた優等生が、やっと人間らしい生活ができる環境になった時に出た笑いだと思うの。では、感想は兄の視点で。
感想・ええと、兄は自分で自分に壁を作ってしまうタイプ。親の敷いたレールには従うか、あまり大きく逸脱しないの。逆境でも必死でがんばるから、何とか克服できるの。家業が潰れそうになったりすると、身を粉にして働いたりするの。責任感が強いから途中で降りられないの。
で、ある程度年数が経って、体を壊したり、うつ病になったりすると、ふと、私の人生って何だったんだろうって気がつくの。遊びも何もなくてつまらないって。
 でも、自分で自分の周囲に壁を作っているから、自分から出てゆけないの。そこで救い出してくれる人を待つんだけど、プライドが高いから中々素直になれないのね。
この中で、兄は牢獄を出てゆくきっかけを待っていたんだと思うわ。
きっかけは事故ね。私は千恵子の転落は事故だったと思うの。兄が無理をして橋を渡って、千恵子と喧嘩をして、油っこい手で服を掴んだのは、事件につながるきっかけになった。したがって兄が容疑者だ、と言ってしまえばそれまでだけど、兄が落ちる危険性も50%あったわけだから、やっぱり事故だと思うの。
優等生で、自分から外の世界に出て行けない兄は、このチャンスを待っていたのだと思うの。それで、自分が犯人になってしまえば、否応なく周囲から疎まれて、田舎から出てゆけるでしょ。
 だから、わざと自分がやったと言ったり、弟に嘘を言ったりして、自分を有罪に持ち込むような証言をさせたのだと思うの。
 兄の気持ちは面会中の会話に出ていると思うの。例えば、「家も牢獄も同じだ」とかね。
あくまでも偏見に満ちた言い方をすれば、兄は、弟が勝手に築き上げた理想の兄像をぶちこわしたの。
 心の闇よね。お手本になるような人生を、と頭では思っていても、心が裏切るの。
 兄と同じタイプの人間に、『ティファニーで朝食を』の主人公がいるわね。
 ものすごーく独断的な感想でした。あんまり参考にしないで。

Yahooのほうは三、四日後れます。