博士の愛した数式,ミスティック・リバー、SAYURI、サラバンド

今日は泣ける作品を特集しました。泣くのはストレス解消に良いのだとか。これを参考に、DVDを借りて、ちょっと良いと思ったら、ガンガン泣いてください。
博士の愛した数式』(DVD)
内容・40才の時に事故に遭遇し、80分しか記憶が持続しなくなった数学博士と、家政婦に行った女性と、その子供の心のふれあいの話。
 博士には40才までの記憶はある。それ以降に関しては、80分しか覚えられない。『明日の記憶』と『レナードの朝』あるいは、『トゥインズ?(シュワちゃんの主演した作品)』みたいな作品。言いかえれば、天才的な頭脳を持ちながら、早期ボケになったみたいな人間の話、と思えば良い。
 でも、自分も50過ぎて急速に物忘れが酷くなったので、共感できる。たとえば、この前、前回連載の『ごくデカ』を読んでいて、『唐マリ』って名前が出てきて、びっくり。つうか。主役だったし。半年以上もそれにかかずらわっていたのに、すっかり忘れて、また同じ名前の登場人物を造ってしまった。これはショック。でも、今回は片カナ名なので、無視してカラマリで通してしてしまおうと思っておりますが。かなり落ちこみましたで。
(尚、『ごくデカ』の電子出版化に関しては、読み直したら、面白くない。なので、もっともっとハチャメチャにして、最初から読者とやりあうようにしようと思っています。先送りです)
 余談が長くなりましたが、このボケ博士に辛抱強くつきあう看護婦の姿勢は、なかなか良くできています。この家政婦、あんまり深く物事を考えないほうで、博士が「子供も連れてきなさい」などと言うと、本部に相談なく、さっさと実行してしまいます。良いなあ。そういう所。
 それから、子供と博士の心のふれあいは泣かせます。というか、博士が子供みたいな頭脳なので(数学が天才的なのを除けば子供です)、親友みたいです。
 博士の台詞がちょっとお説教くさいけど、泣けます。
 感涙した言葉「現実は移ろうけど、思いではいろ褪せない」
 それから、今週見たビデオの中で、『記憶』がキーワードになっている作品もついでに紹介します。『数字』もキーワードになっているので、そっちは関連本を紹介します。『身近な雑草のゆかいな生き方』です。これはまるで人生相談です。(あ、今回取り上げると言った『プレイボーイの人生相談』ですが、やはり面白くて文句がつけられないので、直接本屋で読んで下さい)
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ミスティック・リバー』(DVD)
マディソン郡の橋』を見て以来、クリント・イーストウッドの名前があると無意識に手にとっております。この作品では監督です。
内容・小さい頃、一人だけ男に乱暴されて、精神不安定になったデイブとその友達が、40年後に起こった殺人事件に関わる話です。イギリスの北の方の小さい村で、デイブは一般市民、友達のジミ―は務所帰り、ショーンは刑事になっています。ジミーとショーンは、デイブが連れて行かれた時、すぐに発見できなくて、四日間もいたぶられたことを負い目に感じています。
 で、現在。ジミーの娘のKTが殺されます。父親のジミーは40年前、自分がデイブを助けられなかったことに対する天罰だと感じながら、自分で犯人探しに乗り出します。
 一方、昔、男に乱暴されて以来、時々記憶喪失になるデイブは、誰か(本人は意識朦朧としていて誰か分からない)と闘って、血だらけで帰ってきます。この二つの事件が、小さい村のすぐ側、それも、ほぼ同じ時間に起こったので、デイブの妻は、自分の夫がKT殺しの犯人だと信じ、ジミーに話してしまいます。
 しかし、刑事のショーンは、拳銃の溝痕から、着実に真犯人に近づいてゆきます。この先は見て下さい。
感想・話の展開としては、妻が、作品の中で、「夫が犯人に違いない」と断言しているので、当然、違います。ミスディレです。でも、けっこう説得力があって、新鮮な展開でしたねえ。つうか、普通は、ミスディレの場合は、正常な精神状態の人を使うんですけどねえ。逆手を取られた感じ。でも、最後の部分――ジミーが「俺は父親の責任感として、云々」と叫ぶ――はない方がよいかも。青年の主張みたいになっているので。
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『身近な雑草のゆかいな生き方』(本、草思社
博士の愛した数式』の中でも数字が語る宇宙の神秘には唖然でしたが、この本でも同じです。
例えば、三角柱の茎を持つカヤツリグサは、茎を友達同志でもって均等に引き裂くと、四角形を造るとか、ヒメムカシヨモギの葉は、135度ずつずれてはえているとか、マンジュシャゲの球根には強い毒性があるが、水に晒すと簡単に毒を除去できる。それに豊富なでんぷん質があるので、飢饉の時の非常食として栽培され蓄えられたとか。驚きの連続である。三番目のなどは、ミステリーにも使えそうです。
 最初のをもう少し詳しく説明すると、カヤツリグサは三角形の茎にしたので、中を中空にしても風に耐えられるような強度が産まれた。しかし、強風には無力なので、細かい節を作った。これで材料費がかなり浮く設計になった。なかなかの知恵者である。
 二番目。これが一番”目から鱗”だったかな?
 どの植物も少しづつ葉の位置をずらして伸びてゆく。このずれかたは『葉序』と呼ばれる。360度の1/2(180度)づつ、1/3(120度)づつ、2/5(135度)づつ、3/8(135度)づつ、5/13(138、46度)づつ、などなど。
 これらは、分子を足すと次の分数の分子になり、分母を足すと、次の分母になる。これは「フィボナッチ数列」と呼ばれ、これらを続けてゆくと、黄金比の逆数に近づいてゆく。この美しい数列は宇宙の最初からある。などなど。
 『フィボナッチ数列』に関しては、『博士の愛した数式』の中でも出てくるが、この本は、人生相談書としても読める。少し旧い本なので、図書館などでお借りになることを勧めます。
 他にも、ヘクソカズラの項では次のように出ていた――ヘクソカズラは、可憐な花をしているが、生き残るために、敢えて臭い匂いを身につけた。美しい外見で美しい名前を取るか、匂いは悲惨でも、しぶとく生き残る道を取るか。それは人それぞれである――。
 これを読むたびに、自分の生き方を考えてしまう。ブロガーなんぞやっていると(出版されている小説家でも同じだが)、いろんなことがあって、かなりストレスを感じる。勝ち残るには、ヤケ食い、ヤケ飲みをしなければいられない。
 当然太る。でも、痩せなければモテない。そのためには半年でも書くのを止めて、集中的にダイエットと体操をしなければならない。さて、どっちを取るか?

『SAYURI』(DVD)
 第二次大戦前から大戦後にかけての日本の芸者の話。わざわざ日本、と断ったのは、どうみても、日本に見えないから。ベトナムとタイと中国の田舎の中都市に日本の家屋を足したような。まさにスピルバーグのファンタジーでございます。
 内容&感想・かんざしと髪型が面白そうだったので見たのですが、ストーリーに目を奪われてしまいました。本筋はSAYURIって芸者の半生、それも、会長さん(渡辺謙)を好きになったんだけど、ずっとロミ・ジュリ状態で、最後に結ばれる話。
 でも、感じとしては、大スペクタクルですねえ。島国で小さくまとまっている日本人の作る話とは違い、大陸製のは、大迫力です。走りまわって、叫びまくって、どしゃぶりの雨の中で転げまわって、の連続です。
 主役のSAYURIが霞んでしまうほど。何しろ、脇役のはずの桃井かおり倍賞美津子に似たミシェル・ヨーがスクリーン狭しと暴れ巻くっているし、敵役のコン・リーはビシバシ主役をドツキまくっているんですから。
 インディペンデンス・デイとパーフェクト・ストームが押し寄せてきたような感じ?あるいは、MI3とアンダー・ワールドに巻きこまれた感じ。

サラバンド』(映画)
内容・マリリン(63才)が、ふと思い立って、離婚した夫ヨハン(68才)の家を尋ねる。ヨハンはものすご――い頑固で皮肉屋。二人には子供があって、夫が一人、妻が二人を引き取って育てたらしい。
 マリリンの引き取った子供の一人は精神病院に入院していて、今でもマリリンの心痛の種。一方、ヨハンの引き取った息子、ヘンリック(50過ぎ)も問題あり。そうとうな偏屈親爺。
 ヘンリックは、助教授で、室内管弦楽団のチェロ奏者で、コンマスコンサートマスター)の地位にあったが、その両方の職を辞して、娘、カーリン(19才)のチェロの指導に没頭している。どうやら娘は親の欲目ではなく、真にチェロの才能があるようで、ヘンリックは娘の将来に、自分の人生の夢の全てをかけている。
 たまにチェロの出物があると、ヨハンに金をせびりにくるが、今までに何回か偽を掴まされたようである。今回も金の無心に来る。今回だけは本物らしい。
 一方、カーリンは、ステージパパの存在をうざったく思っているが、自分の才能を見とめてくれる人間であるし、自分がいないと死ぬだろうと感じているので、ものすごー―い喧嘩をしても、またケロッとして父の元へ帰ったりしている。
 そんな危険なバランス状態で、三人は今までやってきた。しかし、マリリンがやってきたことで、少し状況が変わった。
 ヨハンが積極的に動きだした。チェロの売主に手紙を出し、本物かどうか打診をしたのだ。結果、それは本物で、おまけに、有名なオーケストラの指揮者が、カーリンの才能に惚れ込んで安く譲ろうとしたのだと判明。
 ヨハンは、自分が金を出すので、カーリンを自分の思い通りの方向に導こうとする。つまり、子供と孫を支配しようとしたのだ。
 しかし、ヘンリックも稀有な偏屈親爺で、自分の主張――娘をチェロのソリストにすること――を譲らない。
 カーリンは、最初は祖父の申し出に喜ぶが、やがて、それで良いのか悩みはじめる。有名な楽団でいきなり抜擢されて、チェロ協奏曲のソロパートを任されるようになっても、自分にはまだその実力がないし、ストレスに耐えられる自信もない。
 また父の望みのチェロのソリストも自信がない。チェロのソリストといえば、ヨーヨーマみたいに、一人で世界を旅して出来がよいの悪いの、といろんな批判に晒されなければならない。
 そこで、祖父の申し出を断り、父とも喧嘩して、独自の道を選ぶ。父は自殺未遂をするが、なんとか命は取り留める。
感想・30年くらい前ですが、巨匠といわれる監督たちが沢山いました。
 ゴダール(『勝手にしやがれ』など)、ビスコンティ(『地獄に堕ちた勇者ども』など)、テオ・アンゲロプロス(『旅芸人の記録』など)、ベルトルッチ(『ラストタンゴ・イン・パリ』)、ペキンパー(『わらの犬』)、フェリーニ(『道化師』)、キューブリック(『時計仕掛けのオレンジ』)、ルルーシュ『男と女』)、トリュフォー終電車』)などなど。
 その中にベルイマンもいました。
 その頃の映画青年青女(?)たちは、胸をときめかせて見たものです。懐かしいですねえ。
 ま、その頃の作品は、ヴィデオ屋さんで借りてもらうとして、ベルイマン20年ぶりの映画だそうです。
 さすがに巨匠ですねえ。様々な技術を知っています。例えば、画面の上のほうから入ってきて下へ抜けて、そこで絶叫して、また画面の中へ戻るなどなど。
 でも、そういう小細工をほとんど削って、真っ向勝負をかけてきます。まっすぐに観客のほうを見て語りかけてくるシーンが多いです。まるで、観客が人生相談をされているような気になります。
 余談ですが、この手法は小説でも盗めますねえ。例えばモノローグから始まって、再現フィルムスタート、と続くとか。話を戻すわ。
 繰りかえしになるけど、人間50も過ぎると、色々あって悩むわけですよ。
 子供は思い通りにならないし、かといって、まだまだ人生を諦めて、良い人生だったわなんて枯れ果てたくはないし。自分にはまだまだがんばれるような気もするし。いや、他にもっと自分に合った道があって、それを探すのに遅すぎるってことはないんじゃないか、とか。
 まあ、この登場人物たちと同じ心境になるわけよ。
 見ていて、身につまされたわ。
 そう言えば、よーく考えたら、ベルイマンの話題になった作品を見ていなかったことを思い出したわ。『秋のソナタ』『愛のレッスン』『野いちご』『冬の光』『夜の儀式』『ある結婚の風景』『沈黙』などなど。DVDボックスも発売されているみたいだし、是非見てみたいと思う。
 余談を二つ。
 まずは、スエーデン人の色彩感覚。日本人に似ていると思った。朽ち葉色とか、花田色とか、葡萄色とか、似ているわね。
もう一つ。この作品に語り方が似ている作品を紹介。
ミリオンダラー・ベイビー』(クリント・イーストウッド監督ざんす)
 モーガン・フリーマンがナレーションをしているんだけど、最後に、それが手紙だったことが判明するの。
 これも感涙だったわ。内容は、負けず嫌いな女性(31才。31才でプロボクサーに向かって出発だよ。相当なバカだよね。拍手もの)がプロボクサーを目指して、勝ち進んでゆくんだけど、相手の卑怯な反則で首を打って半身不随になってしまうの。まあ、この後からがこの映画の主題なんだけど、トレーナー(クリント・イーストウッド)は、ずっと側に付き添って、看病し、一緒に山の中の小屋で暮らそうというんだけど、女は、自殺したいと言うの。そして、2度までも舌を噛みきるんだけど、死に切れなくて、トレーナーに人口呼吸気を外して欲しいと頼むんだよ。
 ベッドの上で身動きできなくてなるまで落すなんて、映画監督として非情だよね。でも、スピルバーグもそうだったけど、最下層まで突き落とさなくてはドラマとは言えないのかしから? きっと、それが監督として毒があるかどうかの分かれ目なのかもね。情け容赦なく現実の厳しさを突きつけられたって感じ。
 話の続きに戻るね。その後、トレーナーは悩むんだけど、ある決断を下すの。その時の言葉が大々々感激。『君を愛している。君は僕の血だ』。是非見て欲しいわ。
 考えさせられた言葉――自分を見失うな――。
 これにはマジで考えさせられたわ。ブロガーやってて少し話題になったりなんかすると、すぐに政治家になってもやっていけるんじゃないか、とか、出版プロデゥーサーになって企画物に手を出しても成功するんじゃないか、なんて考えるようになるんだよ。でもよーく考えたら、20年も小説の修行を積んできたんだから、やっぱ小説で勝負するのが一番なんだよね。
 だから、これからも心を打つような小説を書こうと思うの。それには、やっぱ、自分をさらけ出さなくてはいけないから、この前ちょっと言った、病気物に手をつけようと思うの。
 ちょうど、ベルイマンのモノローグ形式なら無理なく始められると思ったし。やっぱし、巨匠からは盗めるものが多いわね。用意ができたら、そのうち。
PS。
 ファンの方々へ。
 いつも支えてくださってありがとう。
PS2.
 感動という点では『約三十の嘘』もよかったけど、これは私がパクリたいので、ここまで。