昭和探偵伝・ニ部・心の中(9回目)

『昭和探偵伝・ニ部・心の中・三章』(9回目)

第一部・絆の内容
 昭和三十二年、十月四日、午後九時。僕(小林星矢十五才)は、小諸、懐古園の脇の叢で死体(坂之上秀忠)を発見したヒデさんと兄の恭介さんに報せるが、ヒデさんは死亡推定時刻の前後に現場にいたことが判明し、逮捕される。ヒデさんは死体の財布から何かを盗んだ。それは、被害者の持っていた真田家の隠し財宝の地図で、逮捕の前に僕に渡したと、周囲の人間に話したらしい。
 一方、友達の細田勇気(小学校一年生)の母親が、子供を映画の主役にしようとして、"狂言誘拐"をする。僕は、途中で犯人役になって無線を打つ仕事を押し付けられ、身代金運搬車に同乗させられ、善光寺まで連れてゆかれる。
 善光寺で一波乱あった後、細田家の別荘で勇気は無事に発見される。だが、不幸な事故があって――狂言誘拐がまずい方向に転がり、世間からバッシングされるのを怖れた細田オバさんが、自分の指を切断。その後、勝手に輸血をし、血液型の不一致で、血栓ができた――、母親が死ぬ。
 しかし、不幸は続いた。勇気が湯西さんを溺死させたらしい、との情報が飛び込んできた。身代金運搬車の中で眠っていた勇気が、湯西さんの渡した注射器に毒が入っていて、それが原因で母親が死んだと考え、復讐に走ったらしい。
 つまり、勇気は、もう一人の共犯者、赤坂オバさんと一緒に、白樺湖で湯西さんを突き落としたらしい。だが、勇気の心情と、湯西さんの無実を知っている赤坂オバさんが、黙って復讐に協力するはずはない。それでは、みすみす勇気を殺人犯にすることになる。なので、勇気には復讐が済んだと思わせ、湯西さんはこっそり逃がした可能性もある。三人は消えたまま。

第二部・第一章
 一週間後。勇気の日記が出てきた。母親が嫌いだ、と書いてあった。事件解決から一週間して現れたことからして、如月(きさらぎ)警部は、日記を書いたのは赤坂オバさんで、書いた理由は、僕(小林星矢)へのあてつけだと主張した。つまり、湯西さんの偽装溺死事件において、主導権を握っていたのは、勇気に同情した僕であり、このまま湯西さんが姿を消した状態である以上、勇気が本当の犯人にされてしまう危険性がある。それでは困る。
 今は精神不安定なので逃げ回っているが、このままでは家に帰れない。そこで、僕が主導したことを告発するために、赤坂オバさんが、日記をこっそり細田家に置いた。中には勇気の心の底――母親が嫌いだった――まで書いてある。だから、勇気が湯西さんを殺す動機も生まれない。
 僕は反論したが、信州大学の繊維学部(上田)で立てこもり事件が発生したので、議論は中断。僕は偽装(多分)溺死事件の主導権を握ったのは沙耶警部補ではないかと考える。
 第ニ章
 信大の繊維学部に行くと、カラマリ姐さんとその部下が講堂を占拠していた。要求は次――坂之上秀忠から買った真田家の隠し財宝のメモをよこせ。自分も二年前に金を払ったが、一部を渡されただけでトンズラされた。よってヒデが盗んだ資料は自分のもの。それを持ってくるか、ヒデを連れて来い――。僕らは小諸署に戻り、ヒデさんと兄の恭介さんから、地図と資料についての話を聞く。坂之上は天才的な詐欺師で、上田城の歴史を調べ、あちこちに隠し財宝があると推理し、その情報をかなりの金で売っていた。恭介さんも詐欺にひっかかって多額の金を取られた。坂之上の殺害に関しては、恭介さんも動機がある。ま、それは後で調べるとして、僕らが上田に帰ろうとしていると、新たな情報が入る。上田城の西の櫓で死体が発見された。それは、二年前にカラマリ姐さんと駆け落ちをした相手で、第一発見者の証言では、ダイイング・メッセージは、「カラマリに謀られた」だった。

第三章
  1
「だからさあ、読者の言葉として、『六トン2』が登場している以上、それはすでにミス・ディレであり、トリックとしては使えないわけよ」
「じゃあ、他にトリックを考えてあるんですか?」
「あのなあ、そこんとこを突くな。たとえ、考えてなくても、あるような顔をして先へ進めるのが小説家っちゅうもんだべ。心の中を読まれたら、推理作家はお終いだよ」
「★じゃあ、マスカレード方式はないと。★なら、何で、先週『誘拐』と『ヴァイブレータ』のビデオを買ったんですか? あんさんが、パクル以外の目的でビデオを買うなんてありえないでしょう?」
「煩せえなあ。たまたま中古で出ていたからだよう。たまにゃあアチキだって、不純な動機以外でもビデオを買いますわい」
「嘘です。たとえ赤い雪が降ろうと、あんたがパクル以外の目的で、ヴィデオを買うなんてありえません。私が思うに、犯人たちが赤や桃色のマフラーをリレーして交代で身代金を運ぶんでしょう。そんでもって、主犯のカラマリは、頭の中に別人の声が聞えて多重人格なので、犯行時間前後の正確な意識は無し。なので、無罪、とでもするつもりなんでしょう」
「あのなあ、お言葉を返すようじゃが、第ニ部では身代金は出てこんの」
「じゃあ、変装して、死体を運ぶんでしょう」
「あんなもん、運べるか? 血、だらだら流れるんだぞ」
「じゃあ、お城を運ぶんでしょう」
 ビシ。
「余計重くなっとるが」
「デヘ。たまにはコントをせにゃあかんかと」
★僕の前で、『読者』と呼ばれたオバはんが勝手に納得した。二人のオバはんは暗い部屋で話をしている。僕に気がついていないようだ。これは夢か?★
「あのなあ、自分で納得するなら、何も言うな。わて、疲れておるんじゃ」
「何に?」
ベルイマンのテクニックをパクルのに」
 ビシ。
「何、言わすんじゃ」
「乗り突っ込みですな。★さぶいですよ。★まあ、お好きなように。でも、この話はどうするんですか? まだ中盤なのに、全然先が書いてないじゃないですか。だからB型ふたご座はダメなんですよ。気が多くて、一つも完成できないのに別のに手を出す」
「煩いなあ。気にしとる部分を突くな。それに推理小説なんぞ、中盤は退屈で退屈でやっとられんわ。読者だって、最初から読んでいる奴でなきゃ、もう、話に入ってこれんし。一層のこと、ここで終わりにしてしまおうかと」
「またそうやって、読者を脅かす。本当は★そんな事は、★爪のあかほども思ってないくせに」
「でへ。読まれた?誰がおわらすか? でも、退屈は本当じゃ。毎回、何か新しいことをせにゃ、読者はすぐ逃げる。じゃから、今、こうして、特定の読者と下らん話をして場を盛り上げておるんじゃ」
「そんな小細工より、新しい展開にすれば良いじゃないですか? 新しい占拠事件と新しい死体が登場したんですから」「あのなあ、あんな、取ってつけたような死体。どうせえっちゅうんじゃ? うつらうつらしておって、無意識の間にふざけ半分で頁を埋めたんじゃ」
「またまたそうやって、心にないことを。まるで、天才のような言葉を吐かないで下さい。本当は四苦八苦して登場させたんでしょうが」
「バレたか。それより、何で話題を作ろうかなあ。マジで苦しんどるんじゃ」
「内容で勝負すればいいじゃないですか?内容で」
「アホらし。アチキは苦労せずに金儲けがしたいんじゃ。何がむなしくて、またセコセコ取材にゆかにゃああかんのや」
「そんな態度だから、前回、星矢の推理の部分でヒデの抜き取った紙のことを言い忘れるんですよ。おまけに、文武学校の写真(海津城隣)までアップしておいて」

★――そうだ。これは夢に違いない。★

「ああ。あれか。あれな。あれはショックやったわ。算術とくれば学校に決まっとる。それくらいメモしておかなくても覚えていられると思っていたのが間違いで、スッコーンと抜けちまった。アチキも記憶力が落ちたわいなあ。あ、でもそのおかげで新しい謎解きが」
「どうせ、先週読んだ本をパクルつもりなんでしょう。マンジュシャゲの毒を精製してあちこちの大名に高く売りつける道を見つけて、その秘伝書を隠しておいたとか。あるいは、マンジュシャゲが非常食になると知っていて、それを大量に隠したとか。それが文武学校の秘密の地下室に隠してあったとか。財宝といっても金銀とは限りまへんし」
「なんでわかるんや?」
「あんさんの考えることくらい、すっかりお見通しですよ。ずばりでしょう。マンジュシャゲが出たついでに、水仙の根だとか、ベラドンナだとか、ジャガイモの芽だとか、今一メジャーになりきれない毒物の研究をしていて、それらの秘伝書もついでに隠してあったとか」
「バカ。そんな大きな声でいうな。お前が言ったことが他の読者に聞えたら、もうその謎解きは使えんだろう」
「ああ。やっぱ、パクルつもりだったんだ」
 ビシ。
「あーあ。もう。それも使えんわ。どないしよ」
 ビシーーン。
 バシー―ン。
★あんまり頭に来たから、僕は思わず殴ってやった。★

「痛エー―――――!」
「何、さらすんじゃ、我―――?」
★二人が怒って振り向いた。初めて僕がいることに気がついた。思いっきり目を三角にして、怒りを表してやる。★
「『何さらすんじゃ』じゃないでしょうが。ここをどこだと思っているんですか?」
「どこって、昭和三十二年の上田の上空でしょうが。わてらはタイムスリップしてきたんじゃ。どや。すごいじゃろ」
「どこが凄いですか? 勝手に本文に乱入しくさって。おまけに、今、立てこもり事件と、殺人事件が同時多発的に起こって、非情に緊迫した状況でしょうが。それを、それを、あんたたちは、茶化して、暇つぶしの種にして……」
★僕の口が勝手に、『本文に乱入しくさって』とか、僕の知らない事を言った。別人格みたいだ。★
「おお。星矢君怒ったネエ。怒ると余計に猿になるから、まあ、怒りを静めーな」
 ビシ。
「誰が猿ですか? 普通の顔ですよ。マンガでないのを良いことに、勝手なことを言わないで下さい。オバさん二人で」
 ビシ。バシ。★二人が反撃に出た。★
「何するんですか?」
「お前なあ、それが、作者と読者に対する態度か?」
「違いますか?」
「ああ。大間違いじゃ。たかが一登場人物の分際(ぶんざい)で、態度がでかいぞ」
 ビシビシ。★僕も反撃に出た。★
「消えろ。何も言わずにこの場から消えろ――。僕を中学生だと思ってバカにするな――。すぐに消えないと、僕はストライキをするぞ。出演をサボタージュするぞ」
★可能な限り怖い目で二人を睨みつけてやる。握った拳もぶるぶる震えさせてやった。★
「ああ、でも、ええなあ。その怒りかた。まんま、ノダメだがや」
「さいでんなあ。星矢がノダメっとるぞ――。星矢も成長して、この先がたのしみでんなあ。きっちし千秋先輩やっとるぞー―」
「勝手に違うドラマを持ち込むなあ――。消えろ。何も言わずに消えろ――」
「お。その言葉は、掟の無視やなあ」
「そやそや。タイムトラベルした先の人間が後世の現象を知っているはずがないがや。訂正を要求するがな。さもないと、歴史に介入した罪で天罰が」
 ビシビシビシしししシシ――――。
「消えろ――。おまえらが勝手にこっちの時代に乱入してきたんじゃないかー―。僕はインスピレーションで答えたまでだー―。それ以上何かくっちゃべったら、マジで殺してやるからな――」
★僕の怒りが限界に達したのを察知したのか、二人は退場する態勢になった。でもまだ横柄だった。★
「覚えて置くがよい。前作みたいに、いつか必ず主役の場を奪ってやるわいな」
「でも、本当はスゴスゴ」
「バカやろう――。単に退場するだけなのに、わざわざ擬態語を呟くな――」

   2
 
「だからねえ、上田城の後ろのほうに櫓が三つあって、西櫓の中で小説家の志賀直樹が殺されていたんですって。怖いわねえ」
「それも、谷村警部補はちゃんと確認なさったの?」
「はいな。ちゃーんと目撃者の樋口一陽って男が証言したらしいですわ。陽は太陽の陽だけど。何でも三十分ほど前、上田城跡の西櫓の中で争う声がして、その直後、櫓の出口から逃げてゆく女がいたんですって。で、側で隠れて見ていた樋口が不審に思って中に入ると、小説家の志賀直樹が首から血を流して倒れていて、すでに瀕死の状態だったんですけど、樋口が声をかけると、『カラマリに謀られた』ってつぶやいたとか」
★ふと目を覚ますと如月(きさらぎ)警部と恭介さんが腰をくねくねさせて、会話をしていた。
 二人は車の前の席で、外はまだ真っ暗だ。僕は無意識に腕時計を見た。四時半を指していた。最初に上田署から呼び出しがあったのが深夜の一時くらいだった。あれから三時間半しか経っていないのか? その間に信大に駆けつけて、立てこもり現場でカラマリ姐さんとやりとりして、またヒデさんに話を聞くために小諸署に戻ったんだ。特急並の三時間半だったわけだ。★
 「三十分ほど前っていうと、★ちょうど小諸署に連絡がきた頃よね。事件発生の通報からすぐに小諸署に連絡がきたわけね。★でも、上田の事件がなんで、上田の所轄をすっ飛ばして、即、小諸署に通知された訳?」
「いえ、すっ飛ばしたわけでなく、ちゃんと、谷村ちゃんを通しているのよ。整理すると次のような順序らしいの。まず、第一発見者の樋口は、小説家の死にかけの体を発見し、そいつのメッセージを聞いた後、走って近くの家に行き、ドアを叩いて住民をたたき起こして、救急車を呼んだ。同時に百十番もさせた。それは所轄に繋がった。で、次のように話した。『被害者は、首がかなり切られていて、助かる見込みは少ない。犯人はカラマリに間違いない』って。で、所轄からは、すぐに谷村警部補のいる信大繊維学部に電話が行った。そして、カラマリってキーワードから谷村ちゃんは、即小諸署に連絡をいれた。ざっとまあこんな流れ。さっき出発前に谷村ちゃんと所轄に確認したから間違いないわ」
――夢じゃないだろうか? いや、夢に決まっている。今日はきっと一生分の祟(たた)りが襲いかかる日なんだ。
 あまりの気色の悪さに、僕は起きあがることもできずに、揺れる後部座席で、固まっていた。
「でも、こんな夜中に、よく、西櫓の脇に証言者がいたわねえ。本当にそいつは、事件を目撃したの? もしかしたら、有名になりたくて、自分でその小説家を刺しておいて、適当な証言をしたとか。でなきゃ、そんなグッド・タイミングな場面に遭遇できないわよ」
「いいえ。それはないようよ。そいつの証言は整然としていて、齟齬(そご)はないらしいわ。何でも、樋口はそこそこ有名な小説家・志賀直樹のファンで、★志賀の追っかけで、サイン会があるたびに日本中を駆けまわっていたらしいの。親の金でね。それで、今夜は、サイン会の後からずっと尾行していて、一時間ほど前に、被害者が西櫓に侵入したのも目撃したし、三十分ほど前に、黒ずくめの女が西の櫓に入っていって、争う声が聞え、すぐ女が飛び出して行ったのも目撃した。で、その後、自分が中に入って、さっきのダイイング・メッセージを聞いた、と。そんでもって、彼は救急車が来るまで被害者の首を自分のマフラーで縛ったりして止血していたらしいんだけど、救急車が駆けつけた時はすでに事切れていたの。ナイフで喉を突かれたんだもの。救いがたい状態だったらしいわ★」
「ほお。それはそれは。それにしても『謀られた』とはまた変なダイイング・メッセージだわねえ。一部で熱狂的なファンを持つ先生は違うわあ。きっと危険な匂いをさせているのね」
「ええ。らしいわ。何でも、女と駆け落ちしたり、心中未遂をしたり、スキャンダルにはこと欠かないんですって。小説の内容は不倫物専門らしいけど」
「なるほど。でも、そいつは二年前にカラマリをたぶらかして駆け落ちしたんでしょう?」
★ーー夢じゃない。確かに、さっき、小諸署で『カラマリに謀られた』という言葉を聞いた。★

「まあね。カラマリは利用されたようなもんよ」
「でも、★さっき、カラマリは立てこもり現場にいたわよ。私たちが去った後も、谷村ちゃんは、ずっと信大の繊維学部の前に張りついていて、その間、『カラマリは、講堂の後ろの会館の二階で編物をしていた』★と証言しているわけね」
「はいな。谷村ちゃん以下、多数の刑事の証言ね。でも、顔は仮面舞踏会用の眼鏡で隠れていたし、マフラーが赤で、赤影がいると思っていただけだからね。本当は誰かが変装していたのかもね」
「★どうせ誰かの変装よ。つまりこうよ。最初は本人がいた。星矢と二人しか知らない昔話をしたから。その後、私たちが去った後、部屋の奥に引っ込んで、別人に赤いマスクとマフラーを渡した。★にしても、実際にカラマリが講堂の後ろの建物から抜け出した訳よねえ。でも、裏口にも刑事はいたんでしょう?」
「らしいわ。でも、信大はまだ混乱状態だから、抜け出しは可能だったのかもね。例えば、刑事に変装するとかして」
「あるいは、小説家の残した言葉が『謀られた』だから、実際に首を刺したのは、カラマリでなくてもいいわよね。別人でも」
 そこまでを朦朧とした状態で聞かされていた僕は、突然、むかつくものがこみ上げてきて、抑えられなくなった。
「止めろ――。なんで、おまえら二人がオネエキャラになっているんじゃ――――」
 ビシビシビシ。
「あら。痛――」
「星矢に殴られた――。死にたい――」
★二人が目を合わせた。★
「あのなあ」
 また手を振り上げると、二人は気味の悪い目で振り向く。
「止めろ――。そのうるうるした瞳で見返すなあ」
「嫌だわ。星矢がさっき、寝言でオネエ言葉でオネエ様ごっこをしたいと言ったんじゃないの?」
★「そうよ。寝言は深層心理だから、いつ目が覚めてもよいように、私たち、精一杯の演技力で」★
 二人がさえずるような声で囁く。
「嘘だ……」
「嘘じゃないわよ。だから、運転しながら、わざわざあんたに付き合ってあげているのにさ。何よ?」
「ねえ」
 二人が同時に後ろを振り向いた。★小指が立ってる。★
「止めろ。それだけは止めろ――。後ろを振り向くな――。小指を立てるな――。交通事故になるだろうが――」
「あら、大丈夫。まだ車はほとんど普及していないから、ぶつかるとしたら猪か牛か鹿くらいよ」
 確かに、今は昭和三十二年だ。僕らは上田城跡に向かっている所だった。
「くそう。あの二人のせいだ」
「あの二人っていうと、夢の中にでも、遭いたくない人が登場したの?」
「そうじゃー―。ものすげえ後味の悪い夢を見てしまったぜ。超若作りのオバンが二人」
「それは可愛そう。同情するわ〜〜」
 恭介さんが一層気味の悪い目で見つめ返した。
 もうすぐ上田城跡だ。こんな気持ちでどうやって、冷静な推理をしろっつうんだ。バカやろう。
 それに、ヒデさんはどこへ行ったんだ? 
 車に乗る前の記憶がまるっきり飛んじゃってる。
★いや、確か、上田署からの連絡で、カラマリ姐さんが犯人かも、と思った瞬間に、記憶が途切れたような気がする。それに、あの厚塗りのオバンたちのせいもある。★マジで始末してやりたい。
「キャー―」
 頭を抱えていると、突然の悲鳴が車内に響いた。
「何だ?」
 体を乗り出すと、恭介さんが涼しい声で答えた。
上田城跡公園に到着したの」
 ――ああ。もう限界だ。シャレでなく、ブチ殺して首を絞めて切り刻んでやらんと、治まらねえわ。

  3

 一分後。僕らは上田城跡公園の後ろのほうにある西櫓の中にいた。
 この櫓は、もともとは上田城の一部であったが、明治時代に遊郭に売られ、昭和二十八年に移築されたもので、部分的には新しい木が使われている。
 僕らは暗い中を、刑事たちの照らす懐中電灯を頼りに石段を登り、西櫓の中に入った。
 鉄臭さを充満させた血の匂いがした。
 頭痛が酷くなる。
 恭介さんと警部は、靴を脱ぐのもそこそこに二階に駆け上がる。
 二人はもう普通の男に戻っていた。
 もっともさっきは夢現(うつつ)状態だったので、夢の続きだったのか?
 カラマリ姐さんが犯人と疑われていなきゃ、怒鳴りちらしてでも帰りたいところだ。
 僕は鉛のように重い足をひきずりながら、櫓の階段を上がった。
 櫓の中は八畳ほどだった。
 白木の床の上には、和服で袴をはいた中肉中背の男が倒れていた。
 高級そうな大島紡ぎの着物に渋い色の袴で、足袋の上にはちゃんと草履まで履いていた。
 正座をして首にナイフをつきつけたが、苦しくて腕だけでもがき、足は正座のまま横になったような格好だった。
 ナイフは逆手に持っていた。
 ナイフを握ったままの右手が頭の上のほうに伸びていた。
 メリヤスのシャツの袖が血を吸い込んで、重そうに床に垂れかけていた。
 左手は苦しくて胸をかきむしったのだろうか?着物の合わせ目を強く握っていた。
 半径一メートル以上もある血のプールの中で、右手と左手は時計の長針と短針のように見えた。
 櫓の床面近くには、縦長の銃座が切ってあって、ちょうど雲間から覗いた月の光が、血まみれの男の背中から胸に向かって細長い縞模様をつくっていた。
 血だまりの途中には、燃え尽きた蝋燭が取り残されていた。
 溶けた蝋が、燃え滓のチビた芯を中心に不定形に広がり、中洲のようだった。
 妙に静謐(せいひつ)な風景だった。
 ――覚悟の上の自殺?
 逆手に持ったナイフから、そう連想した。
いや、ナイフを床に突き立てて、這って誰かを呼びに行こうとしたがそこで力が尽きたとも見える。
 握った手の上には、血染めの指紋が見て取れた。
 誰かが、死にきれないであがいている男の手を上から握り、最後の一刺しを行ったのか?
 胸にも刺した跡があった。こっちは、それほど深くはない。
 男は六十才くらいのまだらに白髪の生えた頭で、時々週刊誌のゴシップ覧を賑わす小説家だった。
 それも、女優との心中未遂とか、人妻との駆け落ちとか。
 でも、不思議なことに、二年前から一緒にいたはずのカラマリ姐さんとは、一度も話題にならなかった。
 もっとも、僕が、この小説家とカラマリ姐さんの駆け落ちを知ったのは、カラマリ姐さんの残した置手紙からである。
 手紙には志賀直樹が好きだと書いてあったが、それが、姐さんの一方的な想いだったとしたら、相手は別に恩を感じてもいないだろうし……。
 でも、あの気性の激しい姐さんが、二年間、一度も帰って来なかったということは、少なくとも帰りたいと想わなかったからであるし。駆け落ちの時の気持ちが変化しなかった証拠だし。
 それにそれに、カラマリ姐さんがファザコンで、かなり年上の相手しか好きになれないのは、僕もよく知っていたし。駆け落ち前は、そわそわして、嬉しそうであったし。
 ならば、駆け落ちは嘘ではなかったのだろうし……。
 それが、二年間なしのつぶてで、今日、急に事件を起したのは何故か?
 あの隠し財宝の情報が欲しくなったのは何故か?
 急にお金を必要とする状況が生まれたのか?
 あれだけの隠し財宝の情報なら、転売すれば、かなりの金にはなるだろうし。
 それとも、信大に僕らを呼びつけたのはアリバイ工作で、隠し財宝のメモなんて必要ではなかったのか?
 分からない。
 この二年間、二人の間に何があって、どうしてこんな結末を迎えたのか?

 既に鑑識の初動捜査は終了していた。信大からかけつけた谷村警部補が現場を取り仕切っていた。
「こりゃあ、息絶えるまでに、かなり時間がかかっとるな」
 僕らと一緒にきた、室田医師が死亡推定時刻を出しかけていた。
 室田先生は、引退して暇なもんだから、いつ電話しても、すぐに駆けつけてきてくれる。
 今回は、僕らに後れること一分くらいで現場へ到着し、古参の刑事よりも堂々と歩きまわっていた。
「まだ暖かいから、最終的に息絶えたのは、三十分くらい前かもしれんが、周囲の血が乾きかけておる。それから考えると、最初に首を突いたのは、今から一時間くらい前だろうなあ。ためらい傷も幾つかあるし」
 室田先生が、血だまりの中に型膝をついて、頭の下に手を入れた。確かに、首の脇には幾つかのためらい傷があった。
 血だまりの周囲には、沢山の運動靴の足跡と手の跡がある。どちらも血染めだ。
 僕らは全員、所轄の刑事からビニールのシューズカバーを貰って履いている。
 だが、血染めの靴の跡には、横にくっきりと底の模様が浮き出ている。おまけに二十三センチくらいだから女ものだ。
 他に草履の跡もあるが、サイズが大きいからこれは第一発見者のだろう。
「こりゃあ、カラマリの靴跡と手の跡だろうなあ。照合はできたのかい?」
 警部が谷村警部補に語りかけた。
「あ、は、はい。靴のほうはまだですが、指紋の照合はできました。信大の立てこもり現場から投げ落とされた紙にありましたから。カラマリの物と一致しております。床の指紋も被害者の手の甲の指紋もです」
 谷村警部補がきびきびと答える。
「しかし、どうやって、あの厳しい監視の目をくぐりぬけて、上田城までやってきたのでしょうか? 少なくとも、あの現場には三十人以上の刑事が詰めていたんですよ。蟻の這い出る隙もないはず」
 警部補が悔しそうに床を踏み鳴らすと、如月警部が冷たく答えた。
「そらあ、お前さんたちの目が節穴だからじゃろうが」

   4

「志賀先生は侍だったのだ。これは侍の死に方なんだ。自分の命をかけた宣伝なんだ」
 後ろで、震える声がした。
 振り向くと、二十歳くらいの青白い顔の男が、階段の途中に立っていた。
 こちらも死んでいる男と同じ渋い和服姿で、片方の髪を目の下まで長く伸ばし、ぎゅっと唇をかみ締めていた。
★着物と袴に血がべっとりと染み込んでいる。★
「こちらは、第一発見者の樋口一陽君だ。志賀先生のおっかけだ。そして、樋口君」
 血だまりの向こうにいる警部が僕を指した。
「この死体のそばにいる大きい顔をした中学生が、小林少年だ。我々の間では将来の名探偵ともっぱらの噂だ」
 警部は嫌味たっぷりに紹介した。
 しかし、第一発見者は、僕に目もくれずに、じっと死体だけを見つめていた。
「先生は小説家として猛毒を持っていたんだ。最近、売上が落ちていたからって、死ぬことはなかったんだ。宣伝の才能もあったし。それを、あの女がいたために……。あの女に人生を狂わされたのだ」
「君は、カラマリがやったと言いたいんだな?」
 警部が興味なさそうな顔を天井に向けた。
 捜査の時、如月警部は大概こんな顔をしている。興味ある時のほうが、よけいに無表情になる。
「違う。いや。実際はそうだが、本当は違うんだ。先生は僕のものだったんだ。僕という人間がありながら、あんな俗な女に関わるなんて」
「おいおい。勘弁してくれよ」
 警部が軽く肩をそびやかした。
「言うに事欠いて、今度はホモかよう」
 しかし、恭介さんはガラスのない窓から外を覗きながら、同情を感じさせる言葉を放った。
「いや、俺は分かるなあ、今の君の気持ち。君が、この場の主人公になりたい気持ちはよ――くわかる。まあ、こんな体験は一生に一度のことだろうからな。尊敬する先生の死に際に立ち会って、おまけに、自分が重要なダイイング・メッセージを託されたのだからな。俺だって、探偵かつ小説家の端くれだから、こんな究極の状況に置かれたら、妄想で数百枚のストーリーが浮かんでくるわな。しかしだ」
 刑事みたいな顔の恭介さんは、ゆっくりと外から第一発見者に視線を戻す。
「現実に目を戻してほしい。我々は事件をたくさん抱えていて、忙しいのだ。おまけに、信大の立てこもり事件は現在進行中である。よって、全ての虚飾と君の頭の中に沸きあがる多大なる妄想を排除して、君の聞いた事実、君の目撃した現実だけを述べてくれたまえ。それが先生の希望でもあると思うな、僕は」
 マイナーな劇場で上演される劇みたいな台詞に、第一発見者はしばらく、呆然と立ち尽くしていたが、やがて、わっと泣き出して、その場に崩れた。
 どうやら、今まで堪えていたものが、どっと溢れ出したようだ。
 あんなキザな台詞にどんな力があったっつうんだ?
「僕は、僕は、ただ、頼まれただけなんだ――」
 暫く泣いた後、第一発見者が、途切れ途切れながら、言葉を吐き始めた。
「先生に頼まれた、だけなんだ……」
「だから、何を?」
「だから、最後の言葉を」
「だから、何て?」
「だから、『カラマリに謀られた』って」
 ――あーあ、また元に戻っちまった。

   5

「分かった。今はまだ君は興奮しているようじゃから、わしが代わりに再現してやる」
 警部が大きく前に片足を踏み出した。血のプールの中だが、意に関せずって感じだった
「ドラマ仕立てにしてな。君はそこで見ておれ。監督気分でいいぞ。間違っていたらカットと叫んでくれ。よいな。始めるぞ」
 警部は、相手の反応も待たずに再現ドラマを始めた。
「まず、一時間前、君は、この櫓の外で、志賀直樹が普通じゃない雰囲気で、中に入るのを見た。蝋燭が灯って異様な雰囲気になった。しかし、小説家の心の内までは読めない。ただ、スランプに落ち込みかけていてる作家が、深夜、こんな寂しい櫓に入ったことからして、何かが起こるだろうとは思っていた。心配でいられなかった。しかしなぜか、中に入れなかった。いや、入って一階から覗き見たかもしれない。ま、それは、後から吐いてもらうとして、三十分くらいそうしていただろうか。そうこうしていると、カラマリがやってきた。信大の繊維学部は上田の東の端。上田城跡は西の端だ。歩けば片道で三十分はかかるが、自転車かオートバイをどこかに隠してあれば、十分でこれる」
 警部は再現ドラマはせずに、白木の床の上に、血で簡単な地図を書いた。
 周囲の刑事が、懐中電灯で光の輪を作る。
「まあ、繊維学部の建物から抜け出すのは不可能ではない。警察の目を欺いた方法は後から考える。今はもっと重要な問題を検討する。多分、カラマリがここに来たのは、志賀直樹と約束がしてあったからだ。いや、逆じゃ。『立てこもり現場からどうやって抜け出したか、謎解きをしてごらん』と、我々に挑戦状を突きつけるために、わざわざ、被害者が指定した時間に立てこもり事件を起したんだ。ま、それも後から検討するとして、三十分前、カラマリは中に入り、中で争う声がして、すぐに出ていった。そこまで間違いはないな?」
 警部が床から顔を上げると、第一発見者は、黙って頷いた。
「で、君としては、心配でしょうがなかったので、二階に上がってこの現場を発見した。その後は君の証言とおりだ。つまり、被害者からメッセージを聞いた。そして近くの家から警察へ通報した」
 第一発見者がまた固い首を少し縦に動かす。
 しかし、ここで、警部が少し声のトーンを上げた。
「君の証言は、大筋では間違ってはいないと思う。しかしだ。人間は嘘をつく動物である。ある行動が自分の本心から出たとは限らない。得てして逆の行動に走ることのほうが多い。例えば、オリンピック選手になるために、好きな相手を思いきらなきゃいけない場合に、わざと冷たくするとか」
「……」
「スキャンダルなんぞ、殆どがそうだ。宣伝だ。この先生の場合も、今までは、宣伝のために何回か心中未遂をしてきた。まあ、その時は行き詰って本当に死ぬ気だったかもしれんが。しかし、今までは、相手の女優が死んでも自分はしぶとく生き残ってきた。だが、今度は違った。明らかに何かがあったはずだ」
「……」
「ここで、被害者のことは全て知っている君の出番だ。我々はこの作家の作品は読んだことはないから、行き詰っていたかどうか分からない。何でも、女性向けの不倫小説専門だったとか」
「専門ではない。今は途中だ。これから不倫以外の小説へも手を出すと宣言したばかりだ。行き詰っているなんて」
「そうか。まあ、言うのは自由だからな。それは、後から検討するとして、根本へ立ち返ってみよう。そもそもこれは、狂言心中か? それとも、別の目的があったのか? 少なくとも、カラマリと心中しても、何の話題にもならないだろう。有名女優でも何でもないからな。となると、宣伝のための狂言心中でもない。では何だ? それよりも、そもそも二人は、二年間も一緒にいたのに、志賀直樹が心中事件を起すのはいつも別の女性だった。となると、カラマリはこの作家にとっては何だったのだ。愛人か、それとも相棒か? 俺の考えで言えば、あの激しい性格からして、相棒にはしたいが、愛人にはしたくない」    
 第一発見者が唇を噛んだ。
「そうか。ここまで言ってもまだ話す気にならんか。なら、別の角度から説明してやろうか。いいか、君は、数年前からおっかけをやっていたから、この作家がこんな寂しい場所で蝋燭を灯したら、きっと何かしでかすと気がついたはずだ。ならば、心配で、二階を覗かないではいられなかったはずだ。でもって、検死をした先生の話では、最初に出血したのは一時間くらい前だ。ならば、君が中を覗いたときに、ナイフを手にした先生の姿を見ていないはずがない。ならば、君が止めなかったはずはない。しかし、そのことについて、君は一言も触れていない。巧妙に隠しておる。いや、その時は、『★後からくるカラマリと狂言心中をする★』と言われて、信じたのかもしれん。ま、そこは後からゆっくり聞かせてもらうが。それから、三十分ほど前、カラマリが中に入って出た時のことだ。君は先生が狂言心中をしかけておるのは知っておった。だから、カラマリと争う声がした時、心配でいられなかった筈だ。当然ながら覗いたはずだ。であるならば、逃げ出してくるカラマリと鉢合わせしたはずだ。そこで、さっきの自分の言葉を思い出してほしい。たしか君は、『頼まれた』と言った」
「先生から頼まれたと言ったのだ」
「まあ、どっちでも良いがな。両方が同じことを考えていたんだろうから」
「同じこと?」
「いや。別に深い意味はない。ただ、俺がそう思っただけだから。俺としては、君がカラマリに何かを頼まれたと推理したんだがな。さて、何を頼まれたか話して貰えないだろうか?」
 警部は脅しの目で第一発見者を睨んだ。第一発見者は蛇に睨まれた蛙同然だった。
 ただ黙って涙を流すだけで、その場に崩れることもできなかった。
「そうか。やはり、隠しておるな。では、後からじっくり聞くから、どうやって話すか、自分の頭を整理しておいてくれ。君の隠している部分が九十%なのか、五十%なのかは知らんが」
 警部が近寄って、第一発見者の肩を叩くと、下の階から刑事の叫ぶ声がした。 
「大変です。信大の立てこもり現場から無線が入りました」
 警察無線といっても、まだ試験的に使っている程度で、無線機も、アマチュア無線の箱くらいはある。
「何ごとだ?」
「はい。信大の立てこもり現場で、カラマリと名乗る女と秀次郎と名乗る男が匕首(あいくち)を片手に睨みあっているようです」 

   6

読者「ところで、作者はん。今回はノダメる作戦でなんとか凌ぎましたが、次回もまた同じ戦法を使うつもりじゃないですやろなあ」
作者「アホか。誰が同じ戦法を使うか? 少なくとも小説家だぞ。次はダメンズルだぜ」
読者「ゲ。マジでパクリ路線じゃないですか。それって、自分はアホだと暴露しているような」
作者「煩いわ。アホでもなんでも、話題を取ればよいんじゃ。次だけじゃないぜ、その次はニキータることも考えておる」
読者「待ちーな。それは番組タイトルじゃあらへんがな」
作者「左様。タイトルだと言いにくいからアレンジしたまでじゃ」
読者「またまたお得意の小手先勝負ですな。内容勝負じゃなくて」
作者「煩いわ。途中は適当でも最後でほろっと泣かせりゃ良いんじゃ」
読者「なるほど。となると、当然、最後の泣かせ言葉は考えてあると」
作者「当然じゃあ。バッチシじゃ」
読者「そうですか。今の言葉を普通の言葉に翻訳するとこうなりますな――たとえ考えてなくても、小説家は本当の事は言わないから」
ビシ。
(続く)この作品はフィクションであり、現実の名称とはなんの関係もありません。


追伸。
 先週休む予定だったのに、なぜか、がんばりすぎてしまったんで、来週は本当に休みますぜ。
 それと、病気物は一回目は書いたのだけど、あまり面白くないんで先送りです。
 というか、本当は、数週間前に書いてあった分があまり面白くないので、目先を代えるように、ちょっといじくったのだけど、どうせ、いじくるのなら、既にできあがっているものをいじくった方がよい、と気がついた訳。
 それに、この作品も仕上げてしまわないと、どっちも中途半端になってしまうし。
 で、今、『ごくデカ』に色々と小細工をしているわけ。何しろ、あれも内容勝負じゃなくて、小手先勝負なので。でも、あまりにもハチャメチャなので、これもかなり先の完成になるかも。
 それと、病気物の一回目について。本文中でも少し宣伝しましたが、もう少しだけ宣伝をしてしまうと、タイトルは『阿修羅に願いを』。
 これは、向田邦子原作の『阿修羅のごとく』と『星に願いを』のビデオを同じ日に見たので、出来あがったタイトル。
 登場人物は、四姉妹で、長女が頭脳明晰で責任感が強い。ちょっと強過ぎてがんばり過ぎてアル中状態になりつつある(でも、他人はまだ気がついていない)。
 それと、次女が主役で、ちょっと男っぽく、毎晩、架空の恋人に向かって、今日一日の報告をしている(そのうち鬱病にでもしようかと思っておりまする)。
 三女が美人で成りあがり思考明白で、四女が癌(病気の初期か、瀕死の状態かはまだ検討中)。
 もっとはっきり言ってしまうと、『若草物語り』のパクリでもあります。
 でもって、最初は、登場人物は若い方がいいと思って、次女を三十才くらいに設定したのだけど、『パーマネントのばら』(西原理恵子)とか『猫本(ねこもと)』とか昼ドラ『いい女』(タイトルはうろ覚え)を見ていたら、やはり、自分に年齢が近いほうが楽なんじゃないか、と思い直したので、年齢を再検討中。
 推理ばっかり20年近くやってきたもんだから、女の心を描写するのは、苦手っす。なんとかして殻をブチ破るべく、悪戦苦闘中。口の中に手をつっこんで、胃袋を引っ張り出すより苦痛。
 なので、もう少し、先送りでやす。