『海を飛ぶ夢』『メゾン・ド・ヒミコ』人生相談本紹介

海を飛ぶ夢
監督・アルハンドロ・アメナバール
内容・26年前、20代の時、海に飛び込んで頭を打ち半身不随になった男(ラモン)が主人公。彼は父と弟の家族に世話になっているが、人間としての尊厳を持った生き方でないと思っている。数年前には、『尊厳死の会』に頼んで、自殺幇助をお願いしたが、その会の趣旨は、むしろ逆で、自殺したいと考える人間を説得したり、介護や悩み相談に乗ったりすることだった。
 しかし彼は、そんなことでは自分の主張――寝たきりでいるのは尊厳を持った生き方ではない――を取り下げるような男ではなかった。とに角、熱い心をもった人間なんですねえ。心が肉体に納まりきれないって感じ。肉体は精神を入れる入物でしかないというんですね。仏教思想と似ています。
 で、彼はテレビに出演したり、自死を助けてくれそうな弁護士を探します。前者では、かなり大きい反響を呼び、毎日彼に会いにくる女性(ロサ)が現れ、後者では、美人弁護士(フリア)がみつかります。
 ロサはあまり美人ではありません。当然ながら、彼は、ロサは好きにならず、フリアを好きになります。(ったく、男って奴は、って感じです)
 フリアは、ラモンの自叙伝の執筆を手伝い、彼の主張を一般市民に理解してもらおうとします。キリスト教国なので、自殺は禁忌され、裁判でも、なかなか自殺幇助は認められないので。
 ところで、フリアも難病で、何年後かには下半身不随になり、自叙伝が出版されると同時に車椅子になってしまいます。しかし、それで、ラモンの心を理解するようになり、自死を助けてくれる人を集める方向に変わります。
 また、ロサも、それまでは、自分の愚痴を言うだけに来ていたのですが、結婚という手段で自死が手伝えるなら、結婚しても良いと申しだします。
 で、最後は、多くの人間の協力により、法律に触れない手段で、彼の意思が通るのです。泣ける言葉が満載です。例『忘れないで。僕は君の夢の中にいる』などなど。
感想・究極の病気物ですねえ。主人公は半身不随、美人弁護士は難病で途中から車椅子、最後は痴呆状態。自死に反対する教会の牧師も車椅子。
 でも、皆、とても精力的です。言葉の速射砲を浴びせられているようです。
 人生とは何か、とか、人間とは何か、を考えさせられる映画でしたねえ。でも、私自身は、自殺に賛成しているわけではありません。
 それと、変な言い方ですが、これを見終わった後は、心が軽くなりました。どうしてだろう、と考えるに、脳卒中などで、自分より不自由な生活を強いられている人を見て、自分は、まだ恵まれている、と心に言い聞かせられるからでしょうか?
 これと同じことを、ステイーブン・キング原作の『黙秘』でも感じました。この映画の主人公も悲惨の極みの人生です。夫はアル中で、暴力的で、娘にまで手を出すような男です。寂れた島で、お手伝いさんをしていますが、その金を夫に盗まれ、殺意を固めます。
 その先は見て下さい。キングはミステリー作家ではないので、トリックは大したことはないです。未必の故意とでも言うべきものです。でも、世界中で一番怖いのは、結婚して、一見幸せそうな顔をしている女なのだとわかります。私もそうかな?
『黙秘』からは、『黙秘る』という慣用句を作ったのだけど、ブログでアップしてしまうと、ちょっと社会に悪影響を及ぼしそうなので、『ごくデカ』の電子出版の中で紹介します。でへ、宣伝っす。

メゾン・ド・ヒミコ
内容・おかまさん専用の老人ホームの話です。卑弥呼(田中ミン:さんずいに民です)がホテルを買い取って、そこの運営を卑弥呼の愛人(オダギリ・ジョー)がやっている。オダギリ・ジョーは、癌で死にそうな卑弥呼と娘のサオリ(柴咲コウ)を仲直りさせたくて、サオリを土日だけ高級で雇う。
 卑弥呼と捨てられたサオリは最初は反目しているが、やがて、だんだんと相手の気持ちを理解しあうようになる。同時に、オダギリジョー柴咲コウの気持ちも恋愛感情に変化し。でも……。
感想・切ないです。おかまさんの最後って、なんでこう切ないのでしょう。ノンケの男女の最後も切ないものではありますが、少なくとも、願望がかなう可能性が高いし、一時にせよ満足感が得られるので、これほど切なくはないのかも。
 例えば、女なら、美しい服を着たいと願えば、ケーキをガマンして貯金すれば着られるし、男なら、若い女を抱きたいと思えば、適わないこともありません。でも、不細工な顔のおかまさんが、いくらドレスを着てディスコに行きたいと願っても、ガマンするしかありません。
 それに、好きになった相手の90%はノンケで、交際を拒否されてしまうでしょうし。つまり、永遠に適わない夢が多すぎるからでしょうかね。
 でも、少なくとも、この映画の中では、オダギリ・ジョ―は、好きな卑弥呼のそばにいられるので、幸せなのですが。
 それにしても、田中ミンは美しいです。たしか、舞踏家だと思いますが、ベッドに座っているだけなのに、丹精で、歌舞伎役者が盛装をして舞台に立っているようです。他の役者は、本当のおかまさんなのでしょうか?切なさが内部から滲みだしていて、よいです。柴咲コウの藪睨み演技も中々素敵です。

人生相談本の紹介です。
中島らもの特選明るい悩み相談室』(集英社
これはシリーズで出ていますが、2から。
ノリは、プレイボーイの人生相談の中のアントニオ猪木か柴田連三郎のノリです。相談も普通ではないのですが、お答えも普通ではありません。ギャグで返したり、怒りまくったり、妄想の世界に入っていったままだったり。笑えます。中島らもはアル中だったらしいですが、アホでもあります。
一番の目玉は、次。
質問『焼きジャガイモに味噌をつけて食べると死ぬと聞きましたが、本当ですか?』
答え『はい。そのとおりです』
きっと、推理作家なら、この後に、『食べても食べなくても、人間、いつかは死にます』と補足してしまうんでしょうが、それをしないところが凄い。

国家の品格藤原正彦
博士の愛した数式』のモデルになった人の作で、最近人生相談本を出したのですが、そっちは至極当たり前のお答えが多いので、こちらの紹介です。
私は、今まで、政治に関する本は読んでいなかったので、なかなか面白かったです。
日本はアメリカ、東側諸国、その両方を兼ね備えた独自の国なんだ、ということが分かります。『続、バカの壁』同様、一度、読まれることをお勧めします。

『ひとつ村上さんでやってみるか」(村上春樹
 私は、ボーイズラブ(エロを含む)、『キマイラ』みたいな変身物と、ミステリーしか読んだことがないので、村上春樹の小説は読んだことはありませんが、この人生相談書を読んだ限りでは、ものすごくまじめな人ですねえ。
 ですから、お答えも至極まじめ。中島らもなどと比べると、優等生のお答えです。もっとも、中島らもと比べるほうがいけないのでしょうが。
 それに、作家がまじめなら、読者もまじめで、『生協の白石さん』にでてくる『サイア人になれる方法はありますか?』みたいな質問もありません。だからと言って、農工大生が皆、サイア人を目指すような変人だ、と言っているわけではありません。★目指しているのは、多分、88%くらいでしょう。★
 前説はこれくらいで、質問を一つ紹介します。
140頁。新人賞についての質問です。
 質問者は、友達が、今まで一次を通過しなかったのに、ひらがなを漢字に変えただけで1次を通過したので、新人賞の選定について疑問(怒り)をもっていると、書いています。
 で、これに対するお答えは、要約してしまうと、『それは運』です。
 ま、ここまでは、私も賛成です。さらに言ってしまうと、あなたの作品の下読み担当が、たまたま★お年を召した方★だから、というのもあります。お年を召した方は漢字が好きで、おまけに、記憶力が落ちているので、去年読んだ作品をすっかり忘れているからです。(これは私の偏ったコメントです)
 で、この後、村上春樹のコメントは、次のように続きます――自分は、『群像』の新人賞を1回で通過してしまったので、新人賞の獲りかたのノウハウは知りませんが、ほとんどが運です。中略。でも、文芸誌の新人賞に限っていえば、わりとまともに機能しているので、ある程度の水準にあれば、どこかで引っかかってくると思います――。
 これには異論ありです。十五年間落されつづけた私から言わせれば、これはないと思います。ある程度の水準でも、棘のあるのは落されます。なぜなら、★棘のある作品は乗るかソルかの賭けなので、安全牌を取る人が多いからです。★でも、たまーーに、棘のあるのが残るのは、時流に乗っていて、ヒットが予測できるからです。
★それから、一度応募したくらいで大賞をくれる賞は少ないです。もしかしたら誰かのをパクッている可能性があるので、最初の年はどんなに優れていても、佳作どまりで、次の年に同じくらいのレベルの作品(登場人物も設定も全部別で)がかけたら大賞、というのが結構あります。『亡国のイージズ』などがそうです。最初の年に応募した作品を、「これは絶対大賞ものだ」と大沢有正が、編集後記で怒っていたのを覚えています。『亡国のイージズ』の作者は二年目も書けましたが、二年目にはネタがなくて、という人は結構いるはず。あ、それから、募集が終了してしまって、小説では日の目を見なかった作品も多いです。私の『乳房反乱』がそうです。これは、角川のネクスト賞でけっこう高い評価をうけました。でも、時間切れで次ができませんでた。参考までに、Yahooでマンガでアップしたら、反応が大きすぎて、この先どうしようかと考えています。このように、新人賞の佳作クラスで出版されなかった物などには、まだまだヒット作候補が眠っているかもしれません。そういう作品のストックをもっているひとは、ガンガン、(できればイラスト付きで)、ブログに発表するのがデビュウの早道かも。★
 では、再度、運のない人がデビューできるかを検討してみましょう。
 新人賞の運は、宝くじに当るくらいの確率です。一年には100近い新人賞があり、それぞれに三千くらいの応募があり、それぞれの一位になるのは、三千分の一です。
 あれ? あんまり大した確率じゃないなあ? 
 ええと、し切り直し。
 宝くじの一等に比べたら、けっこう大きい確率ですが(インパクトないなあ)、それでも、私のように言い間違いや漢字の間違いの多い人間は、1次ではじかれます(当然かあ)。
 ええい、再度、し切り直し。
 確率から頭を切り替えて、新人賞に落ちつづけている人へ。デビューする1番良い方法をお教えします。
 まず、ブログで発表しましょう。それから、総裁選とか参議院選挙とかがあったら、積極的に誰かの支持を表明しましょう。そうすれば、それだけで、数ヶ月は話題になり、付随的に、小説も話題になります。
 で、自分の名前を多くの人に覚えてもらったら、次の手。スキャンダルをおこしましょう。例えば、どこかの国会議員がモーションをかけてきたら、即、そいつの議員宿舎に乗り込んで、既成事実を作ってしまいましょう。
 そんでもって、『これは、事実に即した小説だ』とかいって、適当な恋愛小説(もしくは暴露小説)を発表しましょう。
 それから、離婚するのしないのとか(人妻の場合です)、結婚するのしないのとかで話題を作って、できれば、結婚してしまって、その後で、「あ、想像妊娠だった」などと言って、できるだけ早く離婚してしまいましょう。(政治家の妻では、際どいものは書けませんから)。 
 ま、これだけやれば、数年はマスコミの話題を独占できるし、有名になれるでしょう。そして有名なったら、時流に乗ったもの(今でいったら、任侠路線の青春小説とか)を書いて売り込んで、その次には『生協の白石さん』みたいな奇抜な人生相談書を書きましょう。これだけやれば、小説は売れます。
 ま、私の場合は、勇気がなかったので、何も始まりませんでしたが。
 ええい、糞。こうなると分かっていたら、大勢いた愛人を整理するんじゃなかった。(大見得です)
 

PS
前回、「小説の次の回でダメンズるぞ」、なんて宣言したのですが、ちょっと路線が違うようなので、とり下げます。私はもっとマンガチックかと思っていたので、青木が所かまわず吠えたりしたら面白いなあ、と思っていたのですが、『渡鬼』のような人生劇場路線を目指しているようなので。でしゃばってもいかんし。それから、ニキータるも、すでに完成したギャグで、アレンジしようがないので、ちょっと考えます。

 で、来週なのですが、フォトショップ・エレメントでマンガに台詞を入れるのに挑戦しているのですが、まだまだ上手く行かず、間に合いそうにないので、順番を交代して、『昭和探偵伝』をやる予定。あるいは、『阿修羅に願いを』の性格が決定したら、そっちに行くかも。次女をアル中を克服して時々鬱病になるキャラで、長女がアル中克服中、にまで決まったのですが。肝心の路線が……。
 病気物はドキュでないとインパクトないし、恋愛物もあまり好きではないし(自分が好きでないと、続かないので)、私が勝てるといったら、やっぱり、ニキータ物(本家の)かなあ、と思いつつ、中古のビデオを見巻くっております。

 今回は、体調不良で、遠くの映画館まで見に行けなかったのですが、もしDVDになったら紹介したい物があります。拡大ロードショウのものは、当然DVDになるでしょうから、マイナー作品からのピックアップで、『ウール100%』です。予告編だけの印象ですが「編み直し〜〜」と叫んで飛び交うアニメの妖精(お化け?)が可愛いです。
 それから『父親たちの星条旗』『トンマッコルへようこそ』『めぐみ』のどれかを見たかったのですが、頭痛が酷くて、映画館へ足を運べない状態なので、DVDになったら紹介します。『めぐみ』は皆さんで見て宣伝してください。
 拉致問題に関しては、政治レベルの問題なので、申し訳ありませんが、何もコメントできません。
 それよりも、六カ国会議が開かれる道ができたことは、お互いに1歩近づいたわけだから、喜ばしいことです。