36第二話

前々から『ボーン・アイデンティティー』の結末が気に入らなくて、別バージョンで一本、と考えていたのですが、マンガ・短編の回なので、それを『36』でやってみます。


①近々、テロリストがボストン近くに潜入するとの情報が、第ニCTU(テロ対策室)に入った。キキ・ミャウガーは、父、ジミー・ミャウガーにこの情報を伝えるべく、父の潜入先に向かう途中だった。ボストン郊外の海岸で、波うち際に打ち上げられている男を発見し、近くの病院へ運んだ。波打ち際には他にも肉片が打ち上げられており、そちらは地元警察が回収した。ボートの破片もあったので、沖に停泊中のボートで爆発があったと推測された。

②暫くして気がついた男が、歯に異物感があるというので、口の中を探すと、金冠がかぶせてあり、外すと、その下からマイクロフィルムが見つかった。男は記憶を失っていた。

③顕微鏡検査をしてみると、ボストン銀行の貸し金庫の口座番号と、ボケボケとだけ、書きこまれていた。男の名がボケボケで番号は男の口座番号であると推測された。

④早速、ボストン銀行に行ってみた。4階の貸し金庫室は、暗証番号と親指(肉球)の指紋を要求していた。指紋は1回でパスしたが、暗証番号が分からない。とりあえず、”ボケボケ”といれてみたが駄目だった。次に”ケボケボ”といれてみたが駄目だった。暗証番号は3回間違うとアクセスできない仕組みになっていた。
キキ「この前、”スキミング対策”って本で読んだんだけど、番号の場合は、自分の誕生日の半分にするとかすると、覚え易くてスキミング防止にもなるってでていたわ」
ボケボケ「でも、ここは番号じゃないぜ」
キキ「そうねえ。じゃあ、√とか」
試しに√ボケボケでやってみると、ばっちしだった。


⑤貸金庫の中には、”ボケボケ・カールトン””ボンボン・シュワルツネッガー””ボイボイ・スタローン”など数種類のパスボートと、各国の通過の束、拳銃、手榴弾などが入っていた。
他にもメモが入っていた。
メモ『ドッグ・ストーン。標的は大統領』
ボケボケ「僕は、暗殺者なんだろうか?」
キキ「でも、ボケボケなんて、暗殺者らしくない名前だわ」
ボケボケ「わざと、そういう名前にしたとも考えられるし」
キキ「それは後で考えれば良いことよ」
二人はそれらをキキのバッグに詰めて、急いで外に出た。しかし、廊下には、黒めがねの男が待ち構えていて、二人に向かって発砲してきた。

⑥二人は逃げ道を探した。下の階には殺し屋の応援部隊が待機しているようだった。追い詰められたボケボケは、殺し屋たちに向かって向かって手榴弾を投げた。


⑦ズガン。手榴弾は爆発し、二人は屋上へ向かって逃げざるをえなくなった。
⑧屋上へも殺し屋は追ってきた。殺し屋の応援か、ヘリまで接近して、銃撃をしかけてきた。
ボケボケ「非情階段をさがそう」
キキ「危ない」
ボケボケを後ろから狙い撃ちしそうになっていた殺し屋をキキが消火器で殴った。殺し屋は失神した。

⑨ヘリからは、ボケボケだけを狙って狙撃していた。しかし、ボケボケは信じられない跳躍力で、銃弾をかわした。
⑩二人は非情階段を駆け下りた。しかし、途中で追い詰められた。
ボケボケ「下にゴミのトラックがある。飛ぼう」
キキ「了解」


⑪二人はゴミのトラックに向かって飛んだ。そして、なんとかかすり傷だけで、着地した。
⑫二人は近くに止めてあった車で、逃走した。

⑬二人は、ブロンクス郊外にあるジミー・ミャウガーの隠れ家まで逃げた。工場の廃屋である。ジミーが潜入捜査に入る前など、隠れ家として使用している廃屋である。何とか、そこで一夜を過ごした二人は、翌朝、周囲が異様に静かなのに気がついた。
キキ「鳥の声がしないわ」
⑭ボケボケ「そうだな。僕も、狙撃者の匂いを感じるよ」

⑮二人は別行動をとった。キキが工場の屋上から銃を発砲して狙撃者を引きつけ、その間にボケボケが後ろから狙撃者の後ろに廻りこんでやっつける戦法である。
 日ごろから訓練をしているキキと、暗殺者顔負けの行動で逃げてきたボケボケにとって、作戦は難しいものではなかった。狙撃者がキキに引きつけられている間に、後ろに廻りこんだボケボケは、まんまと狙撃者をやっつけた。しかし、狙撃者が、死ぬ前にボケボケは疑問に思っていることを聞き出そうとした。
ボケボケ「ドッグ・ストーンという言葉に心当たりはないか?」
狙撃者「ドッグ・ストーンという言葉を聞くと、頭がキーンと痛くなるんだ。そして、大統領狙撃をしなくてはいけないと思うようになるんだ。そのためには、邪魔者を始末することも必要だ。お前が邪魔者かどうかは分からない。上から命令でここにきたまでだ」
ボケボケ「ドッグ・ストーンとは何だ?」
狙撃者「分からない。我々はテロ組織だ。ボケボケが裏切ったらしいとの情報があった。CTUもお前を狙っている。何しろテロ組織の一員だからな」
狙撃者は、そこで息絶えた。

⑯ボケボケは周囲を見まわした。遠巻きに狙撃者の応援がきていることを察知した。しかし、それは、体の柔らかいキキが枝伝いに移動してしとめた(猫だから)。
二人は逃げた。そして、相談した。
キキ「私は、CTU(危機管理室)にいて、近々、暗殺者が潜入するという情報を父に伝えるために、ボストン郊外の海岸まで行ったの。そして、あなたを発見したの」
ボケボケ「やっぱり、僕がその暗殺者なんじゃないだろうか? 貸金庫の中の物がそれを示している。大統領の暗殺に向かう途中で何かの原因でボートが爆発し、記憶を失った」
キキ「でも、あなたは、”ドッグ・ストーン”という言葉を聞いてもキーンと頭が痛くならないんでしょう?」
ボケボケ「ああ、そうだ。その言葉を聞いても、大統領暗殺をしなきゃならない、とは思わない」
キキ「じゃあ、あなたは暗殺者じゃないのよ」
ボケボケ「しかし……」


⑰キキは情報を得るためにCTUにケータイをいれてみた。
キキ「ボケボケって人について情報が欲しいんだけど」
すると、上司のトニー・アンドロメイダの顔色が変わった。
トニー「どうしてボケボケのことを知っている?それは、まだ極秘情報のはずだ。確かに、昨日、ボケボケという名の暗殺者が大統領暗殺のためにボストンに潜入するとの情報があって、君にジミーを呼び戻しに行ってもらったんだ。だが、暗号で命令書は書かれているし、どうして、その名を知った?」
キキ「それは」
トニー「それより、今、ボケボケと一緒にいるのか?」
キキ「違うわ。ただ、途中で聞いただけよ。分かった。すぐに父に暗号は渡すわ」
キキは、強引にケータイを切った。
横で聞いていたボケボケが、「やっぱり僕は暗殺者なんだ。でも、記憶は失っているし、どうしたらいいんだ?」と座りこんだ。


⑱キキは父に連絡をいれて確認してみることにした。父は、潜入先から離れた所にいたのか、すぐにケータイに出た。
キキ「パパ。大変なの。近々、ボケボケという名の暗殺者がボストンに潜入するらしいって、トニーから伝言を預かったの。でも、途中でちょっとしたトラブルがあって」
キキは、昨日からのことを父に話した。
すると、父は暫く考えていたが、すべてを理解したようだった。落ちついて、「まっすぐに、国家安全保障局(NSA)へ行けと行った」
ジミー「いいか。これは、極秘情報だから、詳しくは話せない。ケータイ電波をテロリストに傍受されると困るからだ。しかし、トニーにも秘密の作戦が行われていて、その作戦は成功したようだ。とにかくまっすぐにNSAへ行け。そうすれば、謎はとける。副大統領とNSA長官は事情を知っている。じゃあ」
父は、NSAの裏口の暗号だけを伝えて、ケータイは一方的に切れた。

⑲二人はNSAへ行った。どういう訳か、指紋照合もパスした。暗号は、父に教わったのでパスした。そして、副大統領室に行くと、副大統領とNSA長官が、「大統領、よくぞご無事で」と向かえてくれた。
ボケボケ「僕、いや私が大統領?」
副大統領「そうなんです。これは、大統領自らの発案でした。ボケボケは物凄い頭の良い暗殺者なので、普通の対策では暗殺されてしまう。だから、ボケボケが大統領を発見できないように、ボケボケと同じ顔に成形しようと言い出したのです」
ボケボケ「大統領が暗殺者に化けたのか?」
副大統領「そうです。で、ボケボケの片手の親指(肉球)の指紋は分かっていましたので、まさかの時のために、指紋もボケボケのものに変えたのです。で、今回の事件は起こりました。我々が、どんなに用心深く注意しても大統領は、ボストンの遊説先で誘拐されてしまったのです」
キキ「じゃあ、私がパパを迎えに行った時は、すでに大統領は誘拐されていたの?」
副大統領「そうです。実は、ジミー・ミャウガーには、大統領を奪還するように命令が下されたのです」
キキ「でも、ボケボケは暗殺者なんでしょう? すぐに大統領を暗殺してしまっていたら、どうしようもなかったわ」
副大統領「その心配はありませんでした。というか、ボケボケは凄い頭の良いヤツですから、大統領が自分と同じ顔に成形をしたと知ったら、自分が大統領に化けて、ホワイトハウスに潜入して、好き勝手なことをすることも可能だと考える。ならば、すぐに大統領を殺さないだろう、と予想したのです。それに、大統領としては、相手が自分の顔と同じ顔を見て、一瞬ギョッとしている間に反撃する可能性もあると考えました。それは甘い考えでしたが」
キキ「そうか。誘拐された後、今の案と同じことをボケボケは考えた。大統領は、相手が油断している隙に爆弾を仕掛け、ボケボケを爆死させたと。ついでに自分も記憶を失ってしまったけど。待って、でも、二人は同じ顔。ならば、今ここにいるのが、大統領なのかどうかは、分からないわ」
副大統領「それは、大丈夫。大統領に間違いありません。我々は、大統領がボケボケの元から何とか逃げ出して、途中で金に困ったことがあった場合を考えて、歯に金冠をかぶせて、中にマイクロフィルムを仕込んでおいたのです。貸金庫に現金などを用意したのも我々でした。極秘でしたが。それに、爆死した現場の海岸で、回収した肉片のDNA鑑定をしたところ、大統領の物ではありませんでした。大統領のDNAは執務室の髪の毛から採取してありましたから間違いありません」
キキ「分かったわ。それで、帰ってきたのが大統領に間違いないって分かったわけね」


ボケボケ〈大統領)「それで一安心したが、私は、大統領の時の記憶も失ってしまっているんだぞ。どうやって仕事を片付ければよいんだ」
副大統領「それは、大丈夫。大きなショックを与えれば、記憶は戻るはず」
副大統領はそう言うと、いきなり大きなオブジェを持ち上げた。
ボケボケ(大統領)「待て――。それだけは止めろ――。私が死んだらどうするんだあーー!」
副大統領「大丈夫。その時は、私が代行するからーー」
ガギ。(了)