楽園

『楽園』宮部みゆき
今回は、大作に取り組んだので、紹介は一冊です。
内容。まず、上巻・交通事故死した少年が何枚かの絵を残している。それらの絵には、マスコミにも秘密にされていた情報が描きこまれている。透視したとしか思えない。マスコミにも秘密にされていた情報とは――16年前、両親によって殺され、床下に埋められていた少女(茜)がいるのだが、その家の風見鶏がコウモリの形をしている。もうひとつ。9年前の『模倣犯』事件の場合。シャンパンのビンが埋められていた。
 しかし、サイコメトラーだったと思われる少年は死んでしまっている。おまけに自分を轢いたトラックの形まで正確に予言して描いている。母親は、息子のことを書き残してもらいたくて、ノンフィクション作家前畑滋子の元を訪れた。
 前畑は茜の事件――家事で家が焼けたことがきっかけで、16年前に娘を殺して床下に埋めたことを両親が白状した――を調べるために、茜の家族に会いにゆく。しかし、当時何も知らなかった妹(誠子)は会ってくれるが、両親はかたくなに面会を拒む。
 滋子は、サイコメトラー少年の周囲を調べていて、彼が児童相談所『あおぞら会』の活動に参加したときに、接触した男の頭の中をサイコメトリングしたのだと推理。
 一方、16年前に殺された茜の死に対して、大きな鍵を握るのは、当時茜のつきあっていた男”シゲ”であると推理。
 下巻・さらに色々調べて、シゲの現在の名前をつきとめる。
 一方、茜の両親の言葉に疑問を抱く。「娘は不良だったから殺した」と証言したのだが、そんなことだけで殺すには動機不十分だと考える。それに、火事の際、床下は手付かずだったのだが、自ら白状した。これも変。で、色々と考えて、誰かにゆすられていて、時効になったので白状したのでは、と推理する。でもって、最後には母親が、手紙で、娘を殺した真相を白状するのだが、それは、実際に読んでください。
 感想・殺人事件の動機を追及してゆくミステリーだけに、重い。親が子供を殺さざるをえなかったのだから、そりゃあ、重い動機に決まっているのだけど。読み応えあり。
 蛇足ながら、上巻と下巻が別々で、独立しているようにみえる。
 上巻の最初で、作者は、登場人物に、「死んだ少年はサイコメトラーだ」と言わせているのだから、この作品の中で、サイコメトラーという事実は確立しているわけで、それを、誰かの頭の中の思念から読もうと、実際の事件から透視しようと、どっちでも良いような気がする。それを400頁かけて追求してゆくのは、ちょっと、何といったらよいか、目的がよくわからないような気がした。
 でも、それが、下巻の謎解きのきっかけになったんだから、よしとしましょう。
 それにしても、ミステリー低調の風潮の中で、新ジャンル開拓にむけて頑張っているんだから、頭が下がりますですねえ。
 
 来週は休みです。