シリアルナンバー3、一回目

作者注、波及力とか色色考えて、アップははてなにしました。 

  第一章
 
     1
 ――二〇〇×年、十二月一日。午後七時。パンジー教団。
(どうすっぺえ……困ったのう。何をされるだかやー?)
 寝台に寝かせられとる、紺野家の次女の紺野美理は不安にうち震えちょった。
 美理は小せえ時に東北をあちこちさ迷ったんでー、興奮すると東北弁になるっす。
 ざわざわすた雰囲気の中、いやらしかーこつをされるっつう予感に逃げ出してえのだが、体が動かねえ。声も出ねえ。
 顔の上には白(しれ)え布っこがかけられちょって、周囲の様子を見ることもできねえ。
(ホールみてえな所だのう……。どうすっぺ。やっぱ二時間で五十万なんつう話に乗るんじゃねかった)
「静かに、静かに。これから君たちの教育を始める。この前にも話したように、披検体は極度に緊張して震えているから、優しくさわるように」
 教祖の声がすた。かなり反響しちょるから、大ホールだと推測されるっぺ。
 ここが新興宗教の秘密の講堂じゃっつうのは、先ほど聞かされた。
 この時点で美理は実感すた。自分は教祖の子供たちの慰み物にされるんじゃと。
 同時に美理は後悔し始めていたがやー。
 美理は都内のお嬢様大学の英文学部一年生じゃ。年は十八で、顔は理知的だと言わるる。中肉中背で髪は肩より少し長いセミ・ロングじゃあ。
 同じマンションに美理と同じ大学の生物学部の八坂教授がおってえ、生徒に人体実験を頼んじょる。
 有害物質といわるる物質をほんのちっと服用させ、人体への影響を調べるんじゃあ。
 その人体実験にと、二時間五十万で頼まれたのじゃが、表向きだったべー。
 この教団に到着すた時に、「本当は、教祖の子供たちの性教育」と打ち明けられた。
 美理は女優を目指すとるが、主役を取るために劇団の券を大量に買わねばなんねえ。そんためにこのバイトさ引き受けた。
 八坂教授に連れられて来たのは、青梅の山の中、新興宗教・パンジー教団じゃった。
 濃い色のレンガが貼られた鉄筋コンクリート製で、八階建てのでっけえ建物じゃあ。
 一階の控室でさっき服を脱がされ、寝台に横たえられた。パンテだけは付けさせてくれとった。
 服を脱がされた後に性教育だと打ち明けられたのだったへー。
 美理は怒ったけんども、「普通の人体実験なら、十分の一だ」と諭され、渋々OKすた。
 OKすた後、声を立てねえようにと、軽く喉に麻酔注射され、体の上に白い布っこをかけられた。
 足はゆるく革のベルトで留められ、腕もベルトで動かねように拘束されちまっただー。
 布っこは、両方の乳っこ部分にでっけえ穴っこが開いちょる。
「ほお、なかなか美しい肌だねえ。産毛も細く薄く、光線の具合によっては金髪に見える。これなら僕も紹介した甲斐があるというものだ。心配しなくて良いからね。顔は見せないから恥ずかしくないし、考えようによってはすごく刺激的な経験だからね」
 美理の肌を見た八坂教授は驚きの声を上げた。
 横には黒沢教祖がおってー、教授と同じくれえ驚いた声をあげた。
 教祖は五十才くらいの色の白い男で、こっちも限りねく優しくほほ笑んどった。
「ただ、教祖の子供たちに少し触らせるだけさ。もし少しでも痛いようなことをしたら、すぐに中止してあげるからね。安心しなよ」
 教授は乳っこの所の直径十センチほどの穴から指を入れて、乳っこに軽く触れた。
 冷てえ稲妻が体を駆け抜け、一瞬不安になったが、美理はまた自分に檄を飛ばすた。
「念書はさっき貰ったでがんす。契約書じゃ。『SMなし。ビデオ撮影もなし』との一文も入っとった。それに、八坂教授が傍にいるでねえか」
 
「見てごらん、子供たち。この美しい乳を。こんな綺麗な色のは初めてだ。お世辞じゃなく、食べてしまいたいくらいだ」
 ホールで黒沢教祖は美理の乳っこを触ると、感極まった声を上げた。
 教祖の指は、だいずゆっくりとじゃが、休みねく皮膚の上を撫でちょる。
 熱いスポットライトが、腹部の辺りに照射されちょる。
 恥ずかしくってへー、体が熱く昂揚すて、美理は布の下できっつく唇を噛んだ。
「教祖。独り占めはずるいっすよ。僕らにも触らせてくださ――い」
 どっかから、わらしたちの抗議の声が上がった。
「そうだ。そうだ」の声がシンクロすた。
 年齢は中学から高校生くれえで、声変わりしてねえ物もかなりある。純情そうじゃあ。
「分かった。分かった。それじゃあ、君たちにも実際に触感を試して貰おう。くれぐれも優しくそっとだぞ。そうでなくても……」
 教祖の声が終わらねうちに、わ――っつう喚声が起こり、どやどやと、かまびすしい足音が、美理の寝台を目がけて押し寄せて来た。
「わ、凄え。本当にピンクだ」
 最初に乳っこを覗き込んだ童(わらし)が、黄色(いれ)え声を上げた。
 何度か教育を受けちょるのか、震えもしねえで、布の下に手を入れようとすた。
(もう。何ちゅう教育をしているんだっぺ。いきなりタッチなんて、規則違反だべー)
 美理は抗議しようとすたが、喉に麻酔をされちょるので、ウーウーと掠れ声しかでねえ。
 そんでも体を揺すっちょると、後ろの方で争う声がすた。
「あ、何すんだよ」
 声の主が、どすんと尻から床の上に落ちる音がすた。
 一瞬の間隙の後、ホールの中に押し殺すた悲鳴とざわめきっこが走った。
 だんれも抗議の声すら上げねかった。
(何、何、何なのだっぺえ???)
 布の向こうの様子が分がんね美理は、頭を振って布をずらそうとすた。
「へい、へい。俺を抜かして、生身の性教育をしようなんざ、良い度胸をしてんじゃねえか、親父よう」
 ざわめきが二つに分かれ、不良っぺえ男の声がすた。二十才くれえじゃろか。
「何しに帰ってきたんだ?」
 黒沢教祖のちっとべえ怯える声がすた。
「ご挨拶だぜ。俺は長男なんだ。教団を引き継ぐ俺にこそ性教育の権利があるんだ」
(嘘だ。やんだ。不良息子けえ? 何されるか分からねえだ。八坂教授、何とかすて)
 美理は残っちょる限りの力で八坂教授の手を握った。だども、教授も震えちょるだけで、何にもしてくれね。
「お前なんかに、教団は絶対に渡すもんか」
 父親の力む声がすた。だども、長男はせせら笑って答えた。
「そうかい。ならば力ずくで奪っても良いんだぜ。ちょうどこのお嬢さんのように、俺を待っている女が何人もいるんだよう。それも、大金もちのご令嬢がね。なんだかんだ言っても、教団経営は金だぜ。金が集められる男が、教祖になるべきなんだ」
 長男の足が一歩近づいた。腰の太(ふて)え鎖がじゃらんと鳴った。
「お前のような悪辣なやりかたで、どんな女がついてくるっていうんだ」
 教祖が不良息子の前に立ちはだかったようじゃった。
「それがいるんだよね。シャブ漬けにしてやればね。俺の物が欲しくて、堪らなくなるんだな、これが。涎を流して金を持ってくるんだ。盗みまでしてね」
 シャブっつう言葉に、冷てえ戦慄が美理の背中っこをかけ上がった。
 肌にはぞわぞわぞわと粟粒を生じた。
(嘘だべえ。やんだ。やんだ。クスリなんてへー、やんだ。助けてけろー)
 美理は悲鳴をあげようとすたが、声は掠れて隙間風みてえな息っこが漏れただけだった。
「どうれ、俺にも触らせろよ。その披験体とやらによ」
 不良息子のラリッちょる声が近づき、肩で父親をどかしたようだった。
 父親は怖えのか、何の抵抗もしねかった。
 体温が体の脇に近付き、アルコールの饐えたみてえな匂いがすた。
(助けてくろー、八坂教授。こんなの契約違反だっぺー。何とかしてけろー)
 美理は声にならねえ悲鳴を上げた。教授も手だけは握っちょるが、足は退いちょる。
 力いっぺえ縮めた脇の下から、どっとひゃっこい汗が溢れだすた。

   2

 ――同じ日。午後七時二分。ヘリ護衛艦『はるな』。
 午前中からの冬の嵐が峠を過ぎ、一時の静寂が舞鶴港を包んでおる。
 ヘリ護衛艦『はるな』は、舞鶴港桟橋に投錨しちょる。
 紺野家の三女の由香里は、『はるな』の艦長室に通じる鉄階段(ラッタル)を上りきった所で息をついた。
「けっぱれ、由香里」
 由香里も小せえ時から各地の親戚を転々とすたので、方言がきつい。
 特に東北に長え間いたんで、東北弁が強(つえ)え。
 ちなみに紺野家には長女の衿もおる。
 急いできたのでネイビー・ブルーの制服の下には汗をかいちょる。
 七時ぴったんこに香川艦長からの艦内電話で呼ばれた。その時は、濡甲板の下、第二甲板の事務室におった。
 ここは濡甲板の上の01甲板で二階部分に当り、三階分の階段を上ったことになる。
 身長は百六十で四十五キロの由香里は狭えラッタルを背中を丸め、せっぺせっぺして走ってきた。
 由香里は二等海士で、ヘリ護衛艦『はるな』の事務官をしちょる。
 香川艦長から「大木副艦長の部屋で変な音がするからよう、見に来てくれなもし」と頼まれた。
 それから、二分ほど経過しちょる。因みに香川艦長は名古屋の出身だ。
 香川艦長は艦長室におる。副艦長室とは近くじゃが、お昼頃に転んで足を捻挫すた。鉄階段の途中ですっころんで落ったんじゃ。
 落った時、由香里が側にいたんですぐに医官の砂川を呼び、早急に応急手当をすてもらった。
 現在、艦長は松葉杖がねえと歩けね状態だあ。
 香川艦長の電話が切れると、二秒も経たねえうちに、砂川医官から艦内電話があった。医務室のランプが点いただ。
「ずみずみ、副艦長室で不審な物音を聞いたがやー」と言った。
 砂川医官宮古の出身じゃが、関西にもおったんで、たまに名古屋弁が混じっちょる。
 自衛隊は各地の寄せ集めで、任期も短えから方言が残っとる隊員ばっかじゃ。それも、互いに影響されて、色々混じるっす。
 砂川医官は、精神科医と内科医、外科医の資格があり、昨日、艦長の要請でやってきた。暫(すばら)く在艦する予定じゃ。
 演習や任務中なら、一艦に一人医官がいんだが、『はるな』は退役すた艦船で、現在は練習艦用に改装中であり、医官は在艦してねえ。
 艦長には「ミサイル長の来宮三佐の精神状態が不安定でよう、要請したんだっきゃあ」と説明された。ミサイル長は、ミサイル発射の命令を出す役だあ。
 砂川医官の声が耳に響く。
「今おるのは医務室だあ。副艦長室の下なんだがあ、ミサイル長に退行治療を施してて手が離せねえのさあ。何回も重てえもんが床に倒れる音がすだきゃー。心配だから、お願いぞなもし」
 砂川医官の声はかなりぴりぴりすた調子だった。
 由香里も、その声でかなり焦っただ。
 艦長から頼まれた手当て計算を中止すて、書類を机の中に入れ、鍵っこをかけた。
 危険なこったが、ミサイル長は、良く幻覚症状が出ちょるらしい。本人は秘密にしとるが、たまたま艦長が砂川医官に相談すとる電話をきいたので、由香里は知っとった。
「わーが上に行けばすぐなんだけど、今治療の途中なのさあ。急に中止をすっとー、精神に障害が残るんだっきゃあ。悪いけんど、由香里君、大至急見に行ってくれにゃあかなもし」
 ホールドしとる艦内電話からは、有無を言わさね砂川医官の声が響いた。
 砂川医官の後ろでは、催眠状態から覚めきらね砲術長の声も聞こえとった。
 由香里は二人の声に背中を押されるように、席を立った。
 同時くれえにポケットの中の携帯が鳴った。
「た、助けてくれ……」
 今度は副艦長の大木の声じゃった。金属片を擦り合わせるような声がすっとー、携帯は切れた。
「副艦長。大木副艦長。大丈夫(でーじょーぶ)ですがんすか?」
 叫び返(けえ)したが、既に通話は切れた後で、ツーツーと無機質な音が響くだけじゃった。
 着信履歴には知らねえ電話番号が残っとった。大木と番号交換すたこたあねえから、番号が大木の携帯かどうかは不明じゃったが、声は確かに大木副艦長の物だった。
 時間は、砂川医官の艦内電話から二、三秒後だった。
 由香里はすぐに席を立ち、艦内電話を切り、01甲板まで走ってきたのだっちゃ。
「副艦長。副艦長。どしたでがんすか?」
 肩で息をしつつ、副艦長室の扉に顔をくっくけて声をかけたが、返事はねえ。
(やはり、何か有ったんだっぺやー)
 一刻も猶予はならね。ノブに手を乗せた。
「副艦長、開けて宜しいでがんすか? 艦長に確かめれーと命令を受けますただー。開けますだで」
 力を入れて回すてみたが、ノブは回らねかった。
 鍵がかかっとるべー。
(ちゅうことは、どげなことだや?)
 由香里の頭は目まぐるしく明滅すた。
(砂川医官は、何度も重てえ物が倒れる音がすたと言いなさったがー。きっと副艦長の体がドアの前に有るに違えねえっぺやー)
「副艦長、大木副艦長。かぎを開げてくだせー」
 由香里はできる限りでっけー声を出して、右手でノブを何度も何度も回すた。
「きもいれるのう(苛々するのう)。副艦長。かぎをーー」
 左手じゃードアがぶっ壊れるほど強く叩いたが、ドアは頑とすて開かねえ。
(事件だったら、どうすっぺー……。それより艦長に報告すねえと)
 由香里は踵を返すた。
 夕方の七時過ぎ。在艦しちょる隊員たちは皆、食堂におって、廊下には人影はねえ。
 赤と黄色の消火器収納庫も、冷てえスティール製の工作道具入れも、水密戸から吹き込んだのか、海鳥の羽せえ、薄闇の中に息を潜めちょる。
(水密戸が開いちょるぎゃー。誰かが閉め忘れたのかのう)
 水密戸とは浸水を阻止するための鉄の分厚いドアじゃあ。
 由香里は閉めっぺかと思ったが、副艦長を襲った犯人がおるとすたら、ドアの間隙が犯人の逃走路かもすれねえ。そのままにすた。
 由香理は狭く薄暗(くれ)え廊下を戻り、艦長室のドアをノックすた。
 返事はねえ。聞こえねかったんかと思い、でっけえ声を出すた。 
「艦長。報告いたしますだ。副艦長の部屋は鍵がかかっておりますでえ。艦長は大丈夫でがんすかあ」
 応答はねく、心配がつのった。
 再度ノックをすたが、返事はねえ。
(こっちもおかしいべー。さっきは電話でー、ちゃんとくっ喋ったのによう)
 背中に冷てえものを感じただがあ。

    3 
   
 ――パンジー教団、大ホール。数分後
(もう。そげなささくれ立った指でいきなり触ったら、痛えじゃねえかー)
 紺野美理は寝台の上で体をくねらせ、不良息子の指っこから逃れようとすた。
 長男は美理の予想に反すて、テクニックは抜群で、触る前に、そっと唇を美理の耳に寄せて囁いた。
「ごめんな。布を少し捲るよ。体がもっと良く見えるようにな。でも、手荒なことはしないから安心しな。俺はこう見えても女と弟たちには優しいんだ」
 長男の指が布をちっと捲り、スポットの暑い光が半身を満遍なく包んだだー。
(やんだ。やめてけれ……)
 寝台からちっとべえ離れたところで、わらしたちの息を飲む声がする。
「へい。君らは、本当の女の扱い方を知らないだろう。女とは、いきなり敏感な部分にタッチしたら、逆に怒ってしまうものなんだ」
 不良息子が、偉そうに弟たちに向かって演説をすた。
 だども、言葉とは裏腹に、長男の人差し指と親指が、乳っこの上を撫ぜた。
 それからゆっくり、人差し指で布の上から震えちょるお腹を押すた。かなり強え力だった。
(や……。やんだー。やめてけれ……)
 体の奥から生まれた熱っけえ戦慄が、体の中を走った。
「さすがに、嘘じゃないな。涎の出そうな色だぜ」
 不良が人差し指と中指で、腿を強く掴んだ。
(た……。助けてくんろ……)
 美理の背骨が細かく震えた。不良が布の下に手っこを入れ、脚に指を滑らせた。
(グックック……。やんだー)
 皮膚に、冷てえ水を掛けられたような衝撃が広がった。
「もう、汗ばんでるぜ。感度良いなあ」
(ウ……やんだってばあ。助けてくんろー)
 熱いスポットライトが、布の内側まで入(へえ)って来た。
「スッッッゲエエエエ」
 わらしたちの喉から、掠れるような溜め息が漏れた。
「もっと、近くに寄れ。女は見つめられれば、見つめられるほど燃えるものなんだ。もっと奥まで見つめてやれ」
「視姦てやつですね」
 くそガキの一人が、小生意気そうな声で答えた。
 不良息子がまた美理の胸っこを押すと、美理の背中に冷水みてえな感触が走った。
(何ダベエ)
 美理は喉を反らせ、唇を死にかけの金魚のように泳がせた。だども声にならず、ヒュウヒュウっつう隙間風のような声が漏れただけじゃった。
 長男は布を持ち上げ、顔を近ずけてほっぺたにキスをしようとすた。
 相手の息がほっぺたにかかった。
(やめれ……。約束違反じゃー)
 美理はとうとう我慢でけなくなった。
 全身に痙攣にも似た電流が走り、ついに限界を超えた。
 隕石のような物すげえ勢いでピュッと母乳が飛んだ。
 間欠泉が吹き出るよな音で、自分の耳にも届いたほどだった。
 ずれた布の陰から、ライトに照らされ、白っぺえ噴水が一気に高く天井まで立ち上るのが見えた。
 子供たちのキャーっつう悲鳴が上がった。不良がちっとべえ硬直すて退いた。
 噴き出すた母乳が長男の顔にかかったのじゃ。
 体のすぐ上にあった長男の顔で跳ね返された母乳が、皮膚に突き刺さるように降り注いできたんだへー。
「痛え……」
 飛び退いてドスンと尻もちをつく音がすて、裏返(げえ)った声と悲鳴が聞こえた。
「こいつ、乳を俺の目に入れやがった」
 怒った長男が、ガンと床を拳で叩いた。
 ものすげえ勢いで迸り出たらしく、まともに浴びた不良は、母乳奔流の勢いで、尻から床に倒れたようじゃった。
(違うべ。違うべ。わざとやったんじゃねえだ。わだすに見えるはずがねえじゃねえか)
 美理は抗議すっぺと思ったが、ウーウーとしか声が出ねえ。
「そうかい、そうかい。そういうつもりだったのかい。ならば、俺にも考えがあるぜ」
 酒と麻薬でかなりラリっちょいる不良が、いきなり布を剥いだ。
「こうなったら、弟たちの目の前でお前を抱いてやる。覚悟しな」
 美理は上半身を起こすて、相手の顔を見ようとすたが、顔は視野に入(へえ)らなかった。
 たんだ、ささくれ立った指がいきなり乳っこを掴んだのがわがった。
(やんだ。やめてけろ……)
 荒い息を吐いちょる不良がぐいと寝台を自分の腰に近づけた。
 寝台は良く見えるように、子供たちの顔の高さに調整されちょった。
 不良は近(ちけ)え所にあった台をそばに蹴り寄せ、それに乗ったらすかった。
 チャックの部分が、美理の腿に当たった。
(ヒツ……。ひゃっけえ。やめれー)
 美理はギュッと両手を握った。八坂教授の指はいつの間にか抜かれちょった。
 ジーンズ素材のシャツに覆われた腹っこが、美理の柔らけえ腹っこの上に乗っかかった。ごわごわと突き刺すような痛さだった。
 真っ赤に燃えちょるような手が、怒りを込めて美理の脚っこを掴んだ。
(キ……)
 また乳っこの先に冷てえ電流が流れた。
「ほ。凄え。これだけ触っただけで、おっぱいがぎゅんと張ったぜ」
(やめてけれー、お願(ねげ)えだー。そっただことはへー、契約違反じゃー)
 酒臭え息を吐いちょる顔が、美理のほっぺたに覆い被さった。
 金色に染めた髪は、半ばまで黒く、眉がねく、目じりと鼻の張り出し部分にはピアスが三つづつ刺さっちょった。
 発酵すた酒の臭いが美理の顔っこを包んだ。
 恐怖でパニック状態に陥った美理は、あらん限りの力で首を振っただー。
「ふん。なかなか気丈な奴だ。俺は、反抗されるほど燃えるんだ」
 不良息子の唇が美理のほっぺたに強引に押っつけられた。
(ウ……。クク……)
 そんでも美理は必死に首を振って抵抗すた。
 だども体はカッと熱を帯び、乳っこ全体に、今まで経験すたことのねえ感触が生まれた。
 焼けた針を何本も内側から刺されたような痛みを伴っちょった。
(何、何なんだっぺえ?)
 抗っちょるが、どこか覚め始めた美理は自分の乳っこの異常をはっきりと意識すた。
 自分の意思とは別な何かが生まれちょる。
「どうれ、まずは、おっぱいから味見をさせてもらうかな」
 へらへら笑いながらちっと体をずらした後、不良息子の唇は乳っこに触れた。
 美理は身を捩って逃れようとすた。その拍子に、片足のベルトが切れた。
 美理は思いっきり強く、不良の腹をふっこくった(蹴った)。
 じゃが、不良がひょいと体をよけて、美理の乳っこの上ででっけえ口を開けたっす。
(止めれ……………………)
 その刹那じゃった。
 背骨を砕くほどの高圧電流が子宮から乳っこに向かって流れた。
「グ……」
 乳っこに覆いかぶさったままの不良がくぐもった声を上げた。
(痛――――――え!!!!!!!!)
 得体の知れねえ力で母乳が両方の乳っこから迸り出た。ものすげえ勢いだった。
 数千本の針が噴き出すたかのような痛さだった。
 だども同時に、痛さを上回る何かが美理の体を突き抜けた。
 乳っこにキスすようとすた不良の口の中で、ピシュッつう音がすた。
(何、何、何、何なのだっぺー?)
 衝撃の稲妻に貫かれた美理は、必死で頭を巡らすて、不良息子の行方を追った。
 両手がベッドの脇に縛りつけられちょる。肩くらいまでっきゃ起こせね。
 美理はギシギシと革のベルトっこが軋むほどに体を揺らすて、上半身を起こすた。
 やっとこさ視界の端に相手の姿を捕えた。演台の端の所で母乳水流にぶたれちょった。
 乳白色の水流をまともに浴び、金髪の頭っこが、後ろにふっとばされるように蠢いとった。
 だども、必死に水圧に耐え、乳っこから迸る水流を避けようとしちょった。
 片方の乳っこの先は、円を描くように動いて乳色の噴水を吹き上げとった。
 母乳噴水は美理の体にも、教祖の子供たちの顔の上にも降り注いじょった。
 だども集中攻撃を受けちょるのは不良息子だった。
 不良息子は「キヒィ……」っつう叫びを挙げて逃げようとすとった。
 だども、乳っこは執拗に追いかけちょった。
 真っ赤になった眼球をめがけ、水鉄砲のように劇流が迸った。
 悲鳴をあげちょる相手は、無我夢中で両手を振り回すて、まなこを庇った。
 じゃが、母乳噴水は指の間から、執拗に正確に不良息子のまなこを攻撃すた。
 一際高くゴンつう鈍い音がすて、頭が演台の端にたたきつけられた。
 ぬれそぼった頭の後ろから血飛沫が上がった。
 そんでもって、血と乳塗れの不良の頭が美理の視界から消えた。
 消防車の放水のような母乳水流に頭を集中攻撃され、ついに不良は力がつき、投げ飛ばされ、後ろから演台の角に頭をぶっつけたのじゃ。
 ゴン、ゴンと、音は数回すた。
 やっとこさ荒れ狂う母乳水流が止まり、ちっとの間、沈黙がホールを支配すた。
 ポタン、ポタン、と天井から乳白色の水滴が落ちる音がすた。
 それから、ずるずるちゅう音がすて、不良の体が演台に沿って崩れ落ちる音がすた。
「キャ――」
 ホールに、もういっぺん、子供たちの黄色っぺえ悲鳴が響き渡った。
 心配(しんぺえ)で一杯(いっぺえ)になった美理は、無理に首を捻じ曲げて見た。
 床の上、不良が、口から五寸釘を覗かせて、失神しちょった。
 頭が落ちたのが、たまたま床にあった太く長え釘の上だったようでー、後頭部からブスッと口まで、釘の頭が突き抜けちょった。
 口の中には血反吐の混じった赤と白の泡が浮き上がっては消えておった。
 失神する前(めえ)から溺死状態じゃったようじゃが、刺さった長い釘は、延髄を貫いちょると思われた。
 髪はべっとりと濡れ、真ん中から二つに分かれてぴったんこ頭皮に張り付き、その間からまだ弱々しい血飛沫が上がっちょった。
 束になった髪の先からは、墨流しのように赤い筋の混じるさらさらの液体がぽたぽたと落ちとった。
 唇の端からは白え母乳が溢れとったが、それらには混じんね粘性の高え赤い液体――血――が、他の液体よりはゆっくりと流れ落ちとった。

 ――数分後。『はるな』
 紺野由香里は制服の襟を正すて、艦長室のドアのノブに手をかけ、力を込めた。
「艦長。何かあったでがんすか?」
 ノブを握る手っこに力っこを込め時、異様な感触を察知すて、思わず手を放すた。
 ぬるっとすた感触だった。粘液質の物に触れた掌で握ったか。
 自分の掌を注視すっとー、赤かった。
 血液だっぺやあ。
(こっちゃも、何かあったに違えねえだ)
 意を決した由香里は再度ノブを回すて、ドアを数ミリ押すた。
 部屋にこもる空気が鼻孔を刺激すた。演習中の医務室のような生臭え匂いじゃった。
(血の臭いだがや? 艦長が怪我すたに違えねえだ)
 もちっとドアを押すて、顔を入れっとー、白っぺえ蛍光灯の光が漏れ出すて、眼を射た。
 目を細めて部屋の中に視線を集中すて、ドアの隙間から中を覗いた。
 まんず目に飛び込んで来たのは、床の毛布の上で輝く直径五ミリくれえの深紅色の水滴だった。
 入り口から床一面に付いちょる。入り口の左脇には、倒れた執務用の椅子と血まみれの鉄製灰皿が落ちとる。
 紅色の水滴は偏平でバラバラのでっかさで、毛布の上に散らばっとった。
 非現実的な球形か、血っこで染められた紛え物のバロック真珠のようだっちゃ。
 部屋の中には書類が飛び散り、床には、ずたずたの制服をまとい、不自然に体を捩らせちょる体がある。赤ペンキをぶちまけたような血の海に沈んじょるで。
 書類も人間の形をすた物体も、大部分が赤え色に浸食されとる。
 側頭部の耳から五センチほど上の部分が微かに凹み、血が滲み出すとった。
 滲み出た血は、耳を浸食すて、耳穴の中に入(へえ)り、耳朶を伝わり首を一周しとっただがやー。
 溢れた血液は、一筋は濡れて束になった髪の先から、もう一方は首の中間で、毛布に吸い込まれとった。
 顔は奥のほうを向いてて、よく分からね。
(艦長も襲われただ。こりゃあ殺人事件だっぺえ。 それより生きちょるのかや? 死んどるのかやあ? どぎゃんして確かめれば……。何とかせねばいかんべえ)
 一瞬で幾つかの思いが頭の中を駆け巡った。心臓がぴくんと、やーな鼓動を起こすた。
 もうちっと中を見ようとすっと、鉄階段から誰かが昇ってくる足音がすた。
「てーへんだー。水野君、副艦長がてーへんだってかあ?」
 ミサイル長の来宮三佐の声だった。
 声の後から頭が見え、次に真っ赤に上気すた顔と左右に揺れる肩が視界に入(へえ)ってくる。
 ほんの数ミリだけ由香里の心臓の動機が収まった。
 来宮三佐は、身長は百六十くれえ。四十五歳、猪首で太り気味じゃあ。
「へえ。副艦長の部屋は鍵っこがかかってて開かねでがんす。だども、艦長が……」
 由香里は、言葉の代わりに、部屋の中を指差すた。
「どげんしたのきゃあ。艦長までおかしいのかやあ?」
 来宮三佐の後からは、砂川医官が荒い息をしながら階段を上がって来た。
 故郷を離れて長えし、由香里の言葉に影響されとるから、方言はあちこちのが混じっちょる。
 砂川医官は三十代半ばで目鼻立ちの整った顔で、髪は後ろで緩く結わえちょる。
 制服の上に白衣を羽織り、喋らねーば大病院の女院長を連想さする。
「嘘でえ。艦長はさっきまでぴんぴんして」
 階段の上ででっけえ息を継ぎ、ドアに体を滑り込ませとった来宮三佐の言葉が止まった。
「酷(しで)えー。酷(しで)え。艦長が襲撃されちょる」
「見せてみれえ。怪我は外見ではわからねえっきゃ。内出血が一番問題なのっさあ」
 砂川医官が二人を押すのけて部屋の中に入った。
「こりゃあ、ど酷(えら)−こっちゃわ。おみゃあさんたちは、現場を乱すから入らねえようにのう」
 砂川医官は、慣れた手付きで二人を入り口に留まらせ、艦長の脇に片膝をつき首に指を当てた。
「大丈夫。脈はしっかりしちょる。見た目ほど重篤な状態ではねえわ。それよりも心配なのは副艦長だあね。誰かと争って頭部を強打されたー可能性があるがーね」
 砂川医官が肩で息をつきながら、艦長室を出て副艦長室に向かう。
「だども鍵がかかっちょるんでがんす。副艦長も、同じ人間に襲われたんじゃろかあ? せば、鍵がかかっとるのは何故でがんす?」
 由香里はまだ犯人が01甲板のどっかの部屋におるかと思い、そろそろと視線を移すた。心臓の鼓動がまたちっとべえ高まる。
 廊下は静まってて誰もいねようだ。同じことを考えたよんでー、来宮三佐が隣の部屋のドアをあけたが、中には誰もいねえ。
「駄目だあ。副艦長の部屋は、かぎを持ってきてもらわねば、開かねえのう」
 砂川医官が副艦長室の前からまた艦長室へ戻り、艦内電話で食堂におる隊員を呼び出す。
「せばあ、水密戸が開いてたでがんす」
 由香里の言葉に促され、来宮三佐が廊下端の扉まで行く。
 その後ろでは、砂川医官が「副艦長室の予備のキーを持ってくるっきゃあ。大至急にー」と指示を出しちょる。切羽詰まった声だ。
「足跡が甲板にあるぞ。往復しとる足跡だ。入(へえ)ってまた逃げたに違えねえ」
 鉄階段に出た来宮三佐が、大声で叫んだ。
「犯人の足跡に違いねえから、消さねえでけろ」
 即座に砂川医官が応える。
「おう、そうけ。鉄階段のは暗くて踏んじまっただー」
 途中まで降りかけとった来宮三佐が、たたらを踏んでー、立ち止まる音っこがする。
(にしても、艦長の容態はどないだんべえ?)
 また心配になった由香里は艦長室を覗きこんだ。
 横たわる体はごま塩頭じゃから艦長に違えねえが、通常の面影はねえ。
 艦長は五十九歳になる。陽に焼け、鳥ガラのように細(ほせ)え筋張った首に、うっすらと赤い点々状の縞が見える。
 制服はでっかく前をはだけ、小せえスタンド・カラーのYシャツが覗いておったが。
 ボタンが引き千切られ、ポケットも引き毟られちょった。
 痩せた胸は下着が覗き、首の下の窪みっこから下にかけ、鋭利な刃物の傷があったっきゃ。
(北のスパイかやあ? 舞鶴のヘリ護衛艦は、北に対する盾じゃし)
 目まぐるしく回転する思考。五感は艦長の惨状から離れねかった。
 胸の傷口からも血が滲み出しちょった。Yシャツと制服の上着は血を含んどって、胸の脇から縞になって、背まで回っとった。
「鍵はまだこねえのけー?」
 後ろでは、砂川医官が廊下で歩き回り、怒っとる。
 艦長の脚は、右脚のふくらはぎの上から、猛スピードの何かが走り抜けたかのように、縦にズボンの布が裂けとっただあ。
(銃を所持(しょず)すとったんだっぺやあ!)
 初めて背中に悪寒が走り、胃の底から沸き上がる嘔吐感で口を押さえる。
 ほぼ同時に艦長の右手の指がちっと上り、唇の端が数ミクロン動いただ。
「ユ……」
 続いて赤黒い顔がこっちを向いた。無数の傷が走っちょる。右頬がお椀を引っくり返(けえ)したように腫れ上がり、目の裂け目を圧迫すとった。
 凍っちょった由香里の自律神経が目覚めた。
 砂川医官の忠告も無視すて、艦長に駆け寄った。
「大丈夫(でーじょーぶ)ですだ。砂川医官が命に別状はねえと」
 手を取ると、やっとこさ隊員たちの鉄階段を上ってくる足音がすた。
「鍵ですろー。どぎゃんしたんでありますかのう?」
 一人が開け放たれた艦長室を覗き込みつつ、砂川医官に鍵を渡すた。
『新仁義なき戦い・組長の首』の菅原文太が好きで、いつも文太語を使う隊員じゃ。
「ここは現場保存するから入らねえで。それより艦長を大至急、病院へ搬送してけれ」
 砂川医官が鋭い声で命令を下す。
 言い付かった隊員は慌てて敬礼すて踵を返すた。
 別の隊員が「こりゃ、酷いクサ」と、ため息交じりの声を吐き出すた。
「甲板の足跡にゃあ、とりあえずロープを張り巡らしといたでー」
 来宮三佐が雪を払いながら入(へえ)ってきた。
「すぐに艦長を舞鶴自衛隊病院へ搬送するでえ。担架を用意せえ。濡甲板の足跡は踏むな。誰か写真を撮っとけ」
 若え隊員たちが二手に分かれて艦長の体を担ぎ上げた。廊下には担架が待っとる。
 演習にも怪我はつき物なんで手際はええ。二人の隊員が運んで外の鉄階段を降りた。
 後ろからは別隊員が、「副艦長も搬送したほうが良かろうでありましょうのう」と砂川医官に聞いとる。
 副艦長室の中の砂川医官は、押し殺すた声で応えとる。
「いんや、こちらは脳挫傷ありーの、脳内出血がありーのじゃから、動かすと逆に重篤な状態になるべや」
「だば、医務室から酸素吸入器を持って参(めえ)りましょうかのう」 
 隊員がちっと焦りながら、次の行動に移ろうとしちょる。
「お願いするがなあ。その間にわーが人工呼吸をするっきゃあ。電気ショックの機械も持ってきてくんしゃい」
 その後は人工呼吸に移ったのか、砂川医官の声は聞き取れねくなった。
 隊員が艦内電話で、無線担当員を呼び出すとった。事件発生の旨を、舞鶴ヘリ護衛艦隊・司令部へ連絡するためじゃ。
 来宮三佐は、残った隊員たちに、持ち場に帰(けえ)れと司令を出す。土曜日で、艦の中には十名程っきゃ残ってねえ。
 好奇心の旺盛な隊員たちは、心残りの気持ちを、ありありと浮かばせてー、鉄階段を下りてゆくだ。
 艦長が心配(しんぺえ)だった由香里は、担架を搬送すた隊員たちに続いて外へ出た。
 甲板の中ほどでは、隊員の一人が足跡の写真を撮っとった。
 水密戸の外には、投光器からの光を受け、雪の上に、二筋の靴跡がついちょる。
 一往復じゃ。舷側の鉄梯子の上から階段まで続いちょる。
 階段部分は踏まれて見えねえ。水密戸まで登って来て帰(けえ)っとる。
 艦は桟橋に係留すてあるが、桟橋の方は良く見えねえ。
 艦長や他の幹部たちの部屋は、濡甲板の上の階(二階)にあり、窓がある。
タイタニック』で言やあ、上流階級の船室じゃあ。その上にはレーダー室などがある。
 濡甲板は縦にテニス・コート三つ分くれえじゃが、ヘリ護衛艦では、レーダーやミサイル格納庫でほとんど塞がっちょる。
 ヘリ一機が発着するのがやっとこさだ。今はJHー60Jへりが一機おる。
 甲板の上を一陣の旋風が駆け抜けた。しばれる。由香理は思わず襟を寄せた。
 周囲には暗(くれ)え冬の海が広がっとる。湾の向こうには夜釣りに繰り出すた釣舟の漁火が、蛍のように見える。
 ここ数年は地球温暖化の影響か、春雷ならぬ真冬の雷も多い。
 今日も風速十メートルの旋風が吹き荒れ、雷が暴れとった。
 今は雪は止んじょるが旋風はまだ完全には治まらね。時折、思い出すたように波頭を立てて行く。
 艦長は隊員に運ばれて舞鶴の病院へ行っただ。

   5

 ――同日、数十分後、パンジー教団。
「大丈夫? 起きられる?」
 誰かに肩を揺すられて、次女の美理は目を覚ますた。
 自分はベッドの中におって、パンテ以外は何も着とらんかった。
 おそるおそる胸に手を当てっとー、乳っこも元に戻っちょる。
 美理はほっと息をついて、ベッドの隣のおなごを見上げた。おなごは、研究員の咲子だと名乗った。
 三十歳くれえで、ここに到着すた時に、控え室まで案内すてくれた人だ。
 身長が百七十くれえあり、細身でインド人みてえな神秘的な瞳で、黒沢教祖の娘だと言った。
 彼女はアラビア風のベールで顔の下半分を隠すて、まなこの周囲のメイクも宝塚のように濃かった。
 研究員が微笑みながらベールと外すと、下から、つんと尖った鼻が現れた。
 咲子研究員は毛布をちっとべー剥ぐと、ベッドの脇に腰を下ろすた。
 アラビアの王様の宮殿で、ダンサーがベリー・ダンスをする時のように、紫のオーガンジーのドレスを着ちょった。
 胸が臍っこの上までおっぴらいたブラウスと、腰骨でようやくひっかかっちょる透け透けのズボン。それに、髪から背中を覆うベール。
 どのパーツも、着けてねえのとほぼ同じじゃった。
 ブラを付けてねえのも、紐のパンテだけなのも、ガーター付の黒の絹のストッキングを履いちょるのも丸見えだった。
 香水のオピウムの香りがすて、、部屋の中はラベンダー系統の色で統一されとった。
 カーテンと壁紙は無地のラベンダーの小花模様で、ベッドカバーも同様だった。
 ベッドの脇には、脱ぎ散らかすた服がてんでに散乱すていた。
 下着しか身に付けてねえ美理は、体を手で覆った。
「さっき、この部屋に移動したときに、暴れて服を着させなかったの。覚えてる?」
 美理は横に頭を振った。
「母乳噴射の後、私があなたの乳を調査しようとしたら、体が興奮し始めたの。いろんな形に変形して暴れ始めたの。そうなったら、頭もよけいに興奮して、失神状態に陥ったの。覚えてなくても仕方無いかもね」
 研究員は小っこくウインクをすた。
(そうけえ、今度は乳っこがいろんな形に変形すて、暴れたのけえ……。最初は噴射だけだったけど、一体(いってえ)この先どうなっちまうんだっぺ?)
 美理は不安で一杯(いっぺえ)になった。
 そんな美理をよそ目にみながら、咲子研究員は、さっさとブラウスを脱いで、ベッドに上り、腰を下ろすた。
 彼女はベッドの上で美理と向い合って座り互いの膝をクロスさせた。暖けえ膝だった。
「ふふ、私は、これだけは脱がない主義なの」
 咲子研究員が、ガーター付のストッキングに包まれた片足を見せた。
 美理の方はガーター無しで、黒のストッキングを履かされとった。ストッキングは両方とも、足首のところで丸まっとった。
「それではと言っては何だけど、早速、あなたの感度チェックに入りましょうか?」
 咲子研究員が、ベッドの上で美理の頤をちっとべえ上に向けて、軽く唇にキスをすた。
 しっとりと濡れて、包み込むような唇だった。
「では、まず、何と言っても乳房からね」
 咲子研究員の大きめの手が、美理の乳首っこを摘んだ。
(つ……。冷てえ……)
 美理は小っこく声を上げた。乳っこも微かに震えた。
「美理はおっぱいも乳首も小さいのね。これで、あんなに大噴水を上げて暴走するのが、信じられないわ」
 研究員の指が、揉み上げるように乳っこを包んだ。ちっとべえ暖けえ快感が、乳っこ全体に広がった。
 まだ乳っこがどげな暴走をすっか心配(しんぺえ)だった美理は、敢えて冷静になろうと努めた。
「それは、たぶん、座敷わらしが、魔法を……」
 小せえ声で言いかけたが、途中で止めた。誰も信じてくれそうもねえから。
 咲子研究員は美理の声が聞こえねかったのか、それとも、暴走する乳っこ以外は興味がねえのか、熱心に美理の乳っこに両手を這わせて、検査すてた。
 咲子研究員の方は、乳っこも乳雲もでっけえが乳首っこは小っこかった。
「こうすると、感じる?」
 研究員が美理の乳っこの先をちっと強く抓った。
「ちっとんべえ……」
 あんまし感じねがったが、感じると言った方がええだろうと判断すて、美理は微かに頷いた。
「そう。でも、このくらいの刺激じゃ、なんの変化もないわね」
 次に研究員は美理をベッドの上に横たえた。
「私はね、おっぱいを、少々強めに、三十分でも四十分でも揉んあげるのが好きなの」
 咲子研究員が美理の足を開き、その間に膝を入れた。
「薔薇の蕾のような乳首ね」
 研究員は上におっかぶさり乳っこから指を滑らせて、太ももの上に指を置いて強く押すた。
「あん。そげな……急に……」
 微かにひゃっこい空気が美理の腿の上まで上ってきた。
 研究員の冷てえ指先の感覚と、もやもやすた弱い電流のような刺激が腿の内側を走った。
「ふふふ。あなたは敏感なのね。今、脚が、ふるふると震えたわ。同時に、胸が、キュウンと立ったように思えたけど、意識した?」
 美理は首を振った。指の刺激が強すぎて、乳っこの方は何も感じねかったのだ。
「そう。じゃあ、まだ刺激が足りないってことかな。もっと感じさせてあげるわ。どうれ、薔薇の蕾には、何が隠されているかしら? きっと、魔法に違いないわね」
 研究員は揶揄するように言いながら、美理の乳首っこを強く抓った。
「ア……」
 目を瞑っても、乳っこの先の方から、ジンジンするような痺れが沸き上がった。
 研究員は、唇を近ずけると、軽く乳っこにキスすた。
「最高じゃあ……」
 痛えような痺れるような感じが、ジワーンと身全体を包んだ。
「はいはい。この、淫乱娘。私と同じで、乳をいじられるのが大好きなのね」
 研究員の歯が、ちっとべえ強く美理の乳っこを噛んだ。
「ウ……」
 美理は思わずのけ反り、「指を」と叫びそうになったが、油断はすなかった。
 相手は優しい顔をすとるが、本心は、美理の体を研究対象にすているだけなんじゃ。
 研究員は、すばらく美理の乳っこを噛んでは放す、を繰り返すていた。
「どうやら、心から打ち解けてはくれないようね」
 研究員が乳から唇を放すて、冷てえ声で言っただ。
 美理は目を開いた。研究員と楽しめねえのは残念だったが、失望させて家に帰(けえ)してもらうっちゅう作戦じゃった。
 とにかく、今日のことを姉さーに報告せねばなんねえ。
 美理は思い切って「帰(けえ)らせてくれねでがんすか」と言いかけたが、その時だった。
 研究員がペロンと自分の右の乳っこの皮を捲った。すっとそこからピンクの舌のように尖ったものが伸び始めた。
「凄いでしょ。どうしてか不明なのだけど、中学の頃から、ここの皮が剥けてこの舌が伸びるようになったの。レモンの舌って命名したのよ。中学の時に男友達に見せられた、アニメ『クリーム・レモン』の中にでてくる、悪魔の舌によく似ているから」
 レモンの舌は蛇のように長く伸び、先が二股に分れてちょった。
 研究員は、右手の人差し指で良く伸びる舌をひっぱった。レモンの舌はふるふると震え、ぬるぬるとぬめった色を発すた。
 研究員は自分の指でピンク色の舌の先を誘導すて、美理の乳っこの上に置いた。
 レモンの舌は器用に乳っこを嘗め始めた。
「す、すんげえ……」
 美理は低いうめき声を上げた。研究員は自分の足を広げ、美理の汗ばんだ脚に自分の腿を押っつけた。
 舌はさっきよりもちっとべえ長く伸びた。蛇のような動きだった。
 美理の乳っこの間をおっ広げ、進み、汗ばんでいるお腹の上を伝わり、腹っこの方へ下っていった。
 毛布の毛が一本、舌に巻き込まれたようで、微かに咳き込むような音がすた。
「ふふ、今こいつ、何か言ったわよ」
 研究員が体を放すて、美理の腿を蛍光灯の光の下に晒すた。
 舌が思わず胸っこの上まで後ずさったように見えた。
「こいつ、この頃、随分大胆になってきてるの。でも正体が分からないの」
 研究員がピンク色の舌の先を叩き、さらにちっとべえ力を入れて、震える舌の先を抓った。
「私は最初、こいつが体の中から頭を出した時は、びっくりしたわ。自分が昔、ロシアの国境を旅したとき、何かの研究所で注射をうたれてからこうなったから、きっと、あの時、遺伝子が変質するウイルスを注入されたのだと思うわ。あなたはどう?」
「わだすも、そうだす。ロシアの国境を旅すたときに、注射をうたれて」
 研究員は面白そうに、くすくす笑っておった。
 美理もまるで恐ろしさを感じねがった。やっぱ夢なのじゃろかー。
「こいつはね、普段は体の中に隠れているんだけど、悪人に追い詰められて窮地に陥ると表れて、牙を剥くのよ、きっと」
 研究員がファンタジー小説みてえなことを言った。
 普通なら笑っちまうんだけんど、今日一日で、あまりにも色んなことを経験した美理には、信じられるような気がすた。
「へえ、夢枕獏の『キマイラ』みてえ。便利でやんすのう」
 共感すた美理はくすくすと笑いをもらすた。
「信じてくれるのね。嬉しいわ」
 研究員が美理の唇に自分の唇を押っつけてきた。
 一方、舌は二人の体の間で小刻みに動いてさらに伸び、美理の脇腹を通って後ろに回り、臀部の膨らみから背中に伸びていった。
「背中を舌で嘗めてもらうのも、気持ち良いでしょう?」
 研究員が低く囁いた。肌の上を転げるような官能的な声だった。
 舌先が背中に達っすっと、一瞬くすぐってえようなジワンとした感じが走り、無意識に背中が激しく震えた。
 舌先が震えるたんびに、美理は全身が捩れた。
 蠕動をしながら、落ちそうになりながらも、舌は背中を上がり、汗ばんどる肩甲骨の角をくすぐった。
 それから首筋を這い、髪をくぐって耳の下から前に回って胸っこにおり、美理と研究員の乳っこが重なりあっとるところまできて、やっと止まった。
「こんなところに痣があるわ」
 いつの間にか体を離すてた研究員が、美理の乳っこの脇を指をさすた。
 美理が目を凝らすと、蝶形のピンクの痣が見えた。痣は呼吸と同調すて羽ばたいちょるように見えた。
「初めてみただがあ。さっきまでねかったもん」
「きっと、こんなことをしたから、あなたの体の中に注入された遺伝子ウイルスが、発情したのよ」
 研究員が美理のお尻を掴んでまさぐった。
 そんだら、チクっとすた痛みが乳っこの先に走った。咲子研究員が、乳っこを強くつねっておった。
「ウ、感じるべえ」
 美理の喉から掠れ声が迸り出て、強烈な電流にも似た感触が、背骨を走った。
(あの感覚だっちゃあ)
 乳っこが伸び始めるときの感覚だった。
 目を開けると、やっぱり乳っこが伸びちょった。その間も舌は美理の体の上を動き続けとった。
 舌は美理の乳っこの脇にある蝶の形をすた痣を嘗め、軽く乳っこの先に巻きついた。 
 美理の乳っこの先がキュンと尖って、ちっとべー母乳が迸り出た。
 その時研究員の目付きがするりと変わった。
「掴まえたわよ」
 研究員は冷てえ目になってそう言った。乳っこの先に爪を立てて、もう一方の手が、隠し持っとったのか、乳首っこの一部分に幅広のゴムをかけた。
 乳っこは痛烈な痛みを伴って、急速に収縮すたが、収縮すきれずに、頭の部分が、ゴムに絡め取られて残った。
 研究員がベッドの下から鋭利なメスを取り出すて、シュッと美理の乳っこの先を掠った。
 目にもとまらね速さで、乳っこの先が数ミリ切り取られた。痛さも感じねえほど鮮やかじゃった。
 切り取られた所から滲みでた血が、美理の乳っこの上を静かに流れ落ちた。
 研究員はつと立ち上がると、ベッドのそばのカーテンの後ろに待機すてた黒ずくめの男に命令すた。
「細胞を分析して。大切な研究材料だから」
 美理は一気に夢の中の世界から現実に引き戻された。
 驚いちょる美理の前で、研究員はレモンの舌を取り去った。それは乳っこ全体に装着されちょる電動の玩具で、空気圧で調節する物じゃった。
 その装置を取り除いただけで、乳っこの高さが半分くらいに落ちたへー。
 痛くねえようにゼリーとノリで接着されとった部分とモーター制御の駆動部分が、てろてろ光って陰猥じゃった。
(続く)
明日は、東北弁と、名古屋弁宮古弁の他に、文太語と、ルー語が出てくる予定。