鼓笛隊の襲来

『鼓笛隊の襲来』三崎亜記
 前に一度、『隣町戦争』で紹介したことのある人の短編集どす。できるだけダブらないで新人さんを紹介しようと思っているのですが、今は、応募作品にかかりきりで新しいのが読めないのでおす。今年は、大阪女性文学賞とラブストーリー大賞と、青春文学大賞に出そうと思っておるんで、けっこう忙しいんどすえ。
 これは、9編の短編集でんなあ。どれもこれも、ちょっとSFっぽいんで、SFを読んだことのない人には新鮮かもしれまへん。でも、SFを読んでいた人には、それぞれが、どこかで読んだような、それにしては、どれも、事件が起こらないんで、ちょっと食い足りないような気がしますがな。
 表題の『鼓笛隊の襲来』は、鼓笛隊がやってくるんだす。すると、大人のネジがまき戻って、子供になってしまうんですな。それだけどす。でも、まだ他のに比べると、事件が起こるんで、いいほうですなあ。他のは、事件がおこらんどすえ。
 印象に残ったのだけを取り上げますと、三番目は、『覆面社員』で、法律によって、覆面労働者が認められるようになったつう話だす。で、同僚の一人が覆面をしてくるようになって、気が付いたら、自分もそうだったつう話だす。
 5番目は、『特定型選択装置(ボタン)』で、背中にボタンのある女性が出現するんでおます。で、これは、法律によって当局の人間が尾行する必要があるんで、いつも尾行がついてるんどすえ。でも、押した人がいないんで、危険かどうかは分からないんのどす。そして、最後まで主人公も押さへんで、終わりですなあ。これが、一番、この作者らしい作品かなあ。なんとのう、しんみりした印象が残ります。
『校庭』は、校庭に一軒の家があるのが主人公には見えるんですけど、他の人には見えないっつうお話どすえ。で、その家の女の子が、「気が付かなければよかったのにね」という言葉を残して去ると、今度は、自分の家が校庭の真ん中に移動しているっつう話でおます。
 総合すると、嵌る人は嵌るけど、ダメな人はダメ。って、当たり前な感想でおました。