訣別の森


『訣別の森』末浦広海
今年の江戸川乱歩賞のもう一作です。江戸川乱歩賞は、何年かに一度は、ミステリーというよりも、冒険オタク小説を選ぶ癖があるようで、これも、そっちの傾向作です。
選者の言葉の中にもありましたが、なぞを追うというよりは、轟音を振りまいてドクターヘリが北海道の山野を飛行し、オフロードバイクが、水や小石を蹴散らして小川を遡上し、64式銃がうなり、脳漿がとびちる、そんなハードボイルド作品です。それにしても、10ページ近くにもわたるヘリのうんちくは、『トェレブYO』のまる写しだし、登場人物は多いし、太字の部分は、何の脈絡もなく視点は変わるし、90ページくらいまで謎はでてこないし、読むのに、かなり苦労しました。
内容、主人公の槇村は昔、自衛隊員で、今は、北海道でドクターヘリの操縦をしている。ある日、新聞社のヘリが墜落しているのを発見し、乗組員を助けるが、中に、昔の自衛隊の部下、武川(女性)がいた。
ところが、武川は、収容された病院から、抜け出してしまう。槇村は、ヘリのテールローターが銃撃されたような傷を発見する(ここまでで90ページくらい)。
槇村は、昔、武川の恋人が覚せい剤患者だったのを知り、殴りつけたことがある。その恋人は7階から落ちて死んだ。
この後突然、太字になり、視点がかわり、北海道に狼を放とうとしている男が登場する(若林)。
若林は、知床の自然が、繁殖しすぎたエゾシカに荒らされているのに危惧感を抱いて、ロシアから狼を買い付けて、放とうとしているのだ。いきなり放つのをハード・リリース、飼育してから放つのを、ソフト・リリースというが、若林のしているのは、後者で、今は飼育の最中である。
しかし、この計画にはお金がかかり、金を借りているうちに、ロシアン・マフィアの仲間にされてしまう。今では、コカインの密売までやっている。だが、ヘリの事故で警察が動き出したことから、マフィアと喧嘩になり、マフィアを殺してしまう。そのせいで、マフィアやヤクザに追われる。
ところで、視点は、槇村に戻って、彼には、佐智子(医者)という恋人がいる。隣の若林の別れた妻の娘は、槇村の飼っているシベリアンハスキーになついている。
槇村は、ある日、後輩の信田(パイロット)がはじめての客のフライトを受け持ち、動物を運搬し、その直後、会社を辞めたことを不審に思い、家族などに電話して調べるが、自分以外の人間が、自分の名をかたって行方を調べていると判明。どうもやばい筋の人間らしい。
ここでまた視点は変わって、武川は、信田のアパートに逃げ込み、一緒に行動していた。
実は二人には秘密があった。武川の恋人が死んだ夜、本当は槇村が殴った一撃が死因だったのだが、それを墜落自殺にしてくれたのは信田だったのだ。(あ、ここ、違うような気がする。別人がそれをやったような。でも読み直す時間がない。でもって、この本では、武川を好きだった信田に、武川はそれを話して秘密を共有しあうようになったような。たぶん、そうだったと思うけど、それだと、本当に突き落とした男の処遇が不完全だし、それに、二人が秘密を共有しあうようになったってのも一緒に行動するには弱いし。ということで、このままにします)
ところで、信田は、妻と娘がいたが、エゾシカが飛び出したことが原因で起こった交通事故で、二人を失った。それからエゾシカにうらみを抱いていて、若林に同行していた。(おまけに彼はすい臓がんで、あと数ヶ月の命)
で、ある日、若林が娘をさらってゆく。しかし、熱を出したので、武川が医者の佐智子(と薬)を強引に拉致して山の中へ行く。
それを知った槇村は、(ケータイでこっそり佐智子が会話を送ってくれたので知った)オフロードバイクで小川を遡上して負う。シベリアンハスキーも一緒に行く。
ここでまた視点が変わって、若林や、信田や武川は、ロシアンマフィアかヤクザと戦って死ぬ。その後、槇村が現場に到着するが、ロシアンマフィアに狙われ、撃たれそうになる。しかし、狼が助けてくれる。最後は、シベリアンハスキーが山に入り、狼の子供を育てる。
感想。登場人物が多く、ついてゆけなくなるが、スケールは大きい。そのうち大きく化けるかも。
それから、謎があるんだかないんだか、と、視点がころころ変わる点について。冒険小説だと思えばいいのかも。それに、謎は太字の部分ですぐに解かれるんだから、考えなくていい。楽っていえば、楽。