チーム・バチスタの栄光

チーム・バチスタの栄光海堂尊
先週から医学小説に手を出そうと決めたので、しばらくは医学小説を取り上げます。まず最初は、テレビドラマも決まったことだし、この作品にしました。
バチスタとは、拡張型心筋症で、拡張部分の切除を行う手術です(正式には左心室縮小形成術)。これは、病気の範囲を特定するのが難しくて、心臓移植とか、人工心臓手術になることが多いらしいです。でも、自分の心臓のほうが拒否反応なんかがなくていいらしく、おまけに、日本では、子供の心臓移植は禁じられているので、子供の手術が多いのだとか。
さて、内容ですが、伝説的で、天才的な外科医桐生が、桜宮市の東城病院にいます。アメリカで腕を認められ、日本に帰ってきて26例、このバチスタで失敗なしの記録を残しています。これは奇跡的らしいです。というのは、普通は術死率40%だからです。ですが、27例目から連続三件の術死が発生したのです。
しかし、桐生自身にはミスの原因がわからない。手術のスタッフの誰かが、桐生にもわからないミスをしているかも知れない。あるいは、殺人行為かもしれない。
ここで、田口(心療内科医)という万年講師が高階院長に調査を求められる。本当は、リスクマネジメント委員会を発足させてやらなきゃいけないんだけど、それをやって原因がわからなかったら大事だし、他の外科医からものすごい突き上げをくらう。(リスクマネジメントの委員が他の外科部長なので)。で、それの予備という形で、田口が全責任を背負う形になる。
田口は、手術経過を記したカルテを見たり、聞き取り調査をしたりして、まず、苦手な外科知識をブラッシュアップさせ、同時にスタッフの性格分析から入る。
まず、器械出しのナース、大友。バチスタチームには、星野という運動神経と勘の抜群に良い器械出しナースがいたのだが、彼女が結婚して退職し、大友に代わってから術死が始まったことから、大友は、自分のせいだと思って、聞き取り調査中に泣き出す。実際、彼女が手術中にパニックになって間違えることがあったので、一秒を争う手術に乱れが生じ、それが原因で失敗したんだと、彼女をなじるスタッフもいたらしい。でも、このチームの問題はそれだけではない。
第二助手の酒井は、第一助手の垣谷に対し、ほとんど仕事をしないので、ヘボだとなじる。一方垣谷は、自分は年だし、主な手術野は桐生と酒井にまかせ、ほとんど手出ししないのは認めるが、酒井の口の軽さと出世欲がチームを乱していると思っているらしい。桐生は、垣谷は、重大時の時に落ち着いている、つまり胆力が備わっていると、高く評価している。
麻酔係の医者と技師は、結束は固いし、問題はなさそう。
聞き取りの過程で、輸血の血液に毒を入れる可能性はないかどうか聞く。すると、手術は、すべてガラス張りの中で行われ、ビデオに収録されているし、毒を入れると血液の色が変わるし、と否定されてしまう。おまけに、ここは大学病院で、手術の傍ら、いろんな研究をしている人がいて、チームのスタッフの一人に、手術中の血液組成の濃度変化を研究している人がいる。その人は、30分ごとの血液を採取して保存しているので、それを調べれば、すぐに毒を入れたのはわかってしまう、のだとか。
つまり、簡単にわかるようなことはしないだろう。
現に、専門家の目が5人分ある中で、行われた犯行(殺人ならば)なのだから、そんな、低レベルな犯行ではない。
そんな中、ある国の独立運動をしている組織の少年が、運ばれてきて、手術が行われる。
これは、マスコミも大々的に取り上げる。そして、すごいプレッシャーの中手術は行われ、成功する。
これで、全員一安心していると、次の大人の手術では、またしても術死が起こってしまう。
ちなみに、これまでで、子供の手術の失敗はない。
この手術を見ていて、お手上げだと感じた田口は、リスクマネジメント委員会の招集を院長に進言する。(ここまでが上巻)
しかし、リスクマネジメント委員の腰の重さを知っている院長は、厚生省の技官を招く。昔の自分の後輩で、医者の資格があるらしい。
だが、こいつが曲者で、ものすごい厚顔無恥。相手の心情やプライドなんかお構いなしに、スタッフ全員に、「あなた、どうやって、患者を殺したんですか?」なんて、聞くような奴。
しかし、そこまで堂々と専門家と渡り合うような奴だから、種々とのビデオは、視聴覚室に泊り込んで、何回も見ているし、アメリカの桐生のいた病院まで行って、桐生の過去まで調べる。
で、厚顔無恥な聞き取り調査の結果、さらにいろんなことが判明する。
まず、桐生は、大友ナースがヘボなナースではないと思っていること。さらに、酒井は口先だけのヘボ外科医だが、垣谷は信頼していること。麻酔科の医者は全面的に信頼している。義弟の病理科担当の鳴海も信頼していること。
(ここで予断だけど、麻酔科の医者って、人手不足で一度に4件から5件もかけもちしているとか。これだけみても、日本の医療現場は危機的だよね)
さて、ここで、下巻の中間は、医療の問題論なので、ずーんと飛んで、最後には、桐生が重大な病気手術に支障をきたしていることも判明。それを鳴海がカバーしていたんだとか。それにしても、ガーンだよね。重大な病気の医者が心臓手術をしているんだよ。それだけでも衝撃なのに、それは死因じゃなくて、真犯人は他にいるっていうんだから。
まあ、でも、最後は、謎解きになっちまうから、言わない。ヒントは超専門的知識。
それにしても、昔、塩化カリウムを静脈注射して殺人をしていた医者がいたけど、手術中になら簡単に殺人できるよね。点滴の袋に塩化カリか塩化ナトリウムを入れればいいんだから。あ、でも、それじゃあ、AI(オートプシー・イメージング)、つまり死後のMRIに写らないから駄目か。
感想。すっごい。圧巻ですねえ。医学用語は、医者が書いただけあって、バンバンだし、医療にたずさわる人間の内面はよく描かれているし、感心しました。こんだけ多くの人間が出てきて、こんがらからないのは、キャラが立っているせいかな。
実は、私は、推理小説を一千冊も読んでいて、それでも、江戸川乱歩賞にも、横溝正史賞にも、松元清張賞にも、コノミス大賞にもひっかからないので、今後どっちの方向に進もうか、悩んでいたの。
そんな時、倉本聡があの年で医学に手を出したから感動して、医学小説に手を出したのだけど、医学の推理は今後は可能性はあると思うわ。
でも、この小説に限って言えば、医学用語があふれすぎていて、推理の根本がちょっとぐらついているような気がしたわね。
というのは、実は、犯人は手術の始まる前に犯行を犯していたの。でもさあ、それなら、心臓手術を開始した時点で、心臓は止まっていた訳だし。開腹した時点で、異常に気がついていたと思うのだけど。あ、それも、心臓を止めた後だったのかな?その辺、微妙。
ところで、解剖は、心情的にできないってのは説得力があったわね。一回、心臓を止めて手術して、又、再鼓動させたわけだから、動かなかったら、手術ミスに決まっているからね。
で、テレビ放映一回見た感想。2時間ものを13時間に伸ばすのは、間延びがして退屈だと思うわ。この本のネタはちゃっちゃと、4時間くらいに縮めて、後は、新しい問題と手術で、どきどきはらはらで繋ぐほうがいいと思うけど。この前、バチスタの名医のドラマがあったけど、あれみたいな。
来週は、『ナイチンゲールの沈黙』の予定。その後、『救命センターの部長ファイル』(浜辺祐一)とか、『全身麻酔』(霧村悠康)とかにゆく予定。
追伸。フォトショップ・エレメントの入っているパソコンが故障で修理中なので、ダイエットのアップは、しばらく中止します。