ナイチンゲールの沈黙

ナイチンゲールの沈黙海堂尊
内容。これは、小児科病棟の話です。まず、浜田小夜という歌のうまいナースがいます。彼女は、友達と、夜の繁華街を歩いていて、覆面ライブに招待されます。それは、伝説的な水落冴子という歌手のライブで、彼女の歌を聴いたとたんに、小夜は絶叫して倒れてしまいます。それくらい冴子の歌には、人の感情に火をつける何かが潜んでいるんだとか。
ところで、冴子はアル中で、肝硬変が進行していて、倒れてしまい、東城病院に急遽入院する。中では暴れて、特別に、お酒のミニボトルを差し入れさせたりする。
さて、小夜の勤務する小児科病棟には、牧村端人(14歳)が入院している。彼は、レティノプラストーマ(網膜芽腫)という小児性の癌の一種におかされていて、片方の眼球を摘出しなければ命に関わる状態にある。父親がいるのだが、手術の説明を聞きにこないので、手術のOKがもらえない。本人は、父親を性格破綻者だと断言していて、一番好きな本は、完全犯罪で父親を殺す本だ、とまで言い切る。
小夜は、父親を尋ねていって、手術の合意書をポケットに押し込む。サインをくださいと言って。
小児科病棟には、佐々木アツシ(5歳)がいる。彼もレティノプラストーマで、片方の眼球を摘出しなければならない状態にある。アツシは、まだ5歳だから、MRIなど、すべての検査を怖がる。そこで、小夜が手を握ってあげて、さらに歌を歌ってあげている最中に検査をしてしまう。だが、その過程で、脳の多くの場所が異常に興奮しているのが判明する。どうやら、小夜の歌には特別の魔力があって、脳の細胞に幻覚を見させるらしい、と技師は考える。
さらに、小児科病棟には、杉山由紀(16歳)がいる。彼女は、白血病で姉から骨髄をもらい骨髄移植したのだが、経過が思わしくなく、無菌室に入るかどうかの状態である。
この子供たちに限らず、長期入院している子供の患者は精神的にも追い詰められているので、憂さ晴らしと、気分転換に、田口の愁訴外来で、診療をすることにする。
アツシは、まだ怪獣ものが大好きな年齢なので、怪獣もので話が盛り上がる。だが、由紀は、自分の死期を悟っているのか、だんまり。
ところで、端人の父から呼び出しがあり、小夜は、手術OKの紙を受け取りに行くが、突然襲われ、石で殴ってしまう。
後日この父親が死んで発見されるが、解剖され、内蔵が部屋の四隅に置かれていた。ここで加納達也警視正(44歳)が登場。彼は左遷されて、桜宮市に飛ばされてきていたが、オートプシー・イメージング(死亡時画像診断)の名手。
捜査陣が目をつけたのは、日ごろから父を殺したがっていた子供の端人と、最後に会った、小夜。(ここまでが上巻)
小夜は、冴子との約束で、マネージャーの城崎から、歌の訓練を受け、自分の声の魔力をさらにアップさせる。
一方、田口の愁訴外来では、厚生省の技官、白鳥がやってきて、子供たちと、怪獣論争で盛り上がり、論争に勝ち、子供たちの嫌がるMRI検査をOKさせてしまう。
そんなところへ加納警視正がやってくるが、端人のアリバイは、ナースが証明する。だが、彼の机の中からは、血まみれの手袋が発見される。
小夜は、疑われるが、あれだけの解剖をするには、何時間もかかるし、その間、彼女のアリバイは証明されたんで、彼女も容疑者から外される。
で、この後どーんと飛んで、小夜が歌を歌っていると、殺した状況が聞いた人の頭にまざまざと現れてしまい、自白同然になってしまう。捜査陣の考えたのは、小夜が殺したが、それを聞いた端人が、かばうために、解剖をして、その手袋をわざと持っていた。解剖に関しては、小夜が教えた。
その後、端人は検査の結果、癌が両目に浸潤しているのが判明。由紀は死ぬが、その前に、死ぬよりはましだから、両目の摘出手術を受けろと言う。さらに、田口外来で元気になったアツシは片方の眼球の摘出手術を受ける。

感想。これはもうミステリーの域をこえています。感動のドラマです。
というか、この作者は、もう、ミステリーを捨てているんだと思う。まあ、それに、法医学の知識はあまりないようだし。そっちにして正解だったかも。
法医学の知識は、生きている人間の医学とは別な統計学なので、解剖しても死亡推定時刻はごまかせない。(作者はごまかせると思っているようで、それをごまかすために解剖して内臓を取り出したとしたようだが)
死後硬直は、まず、顎とか腕とかの間接の筋肉にやってくるので、間接が動かしずらくなるのが、二時間後。(食事した時間がわかっていれば、胃の中の消化状態で、さらに詳しく絞れるが)。それなのに、この作品では、内臓は取り出すが、間接の切開などはやっていない。だから、死亡推定時間はごまかせない。それに。現場は指紋やゲソでいっぱいだったはず。
まあ、でも、最後には、小夜の歌で、小夜が殺人を自白して、聞いている人の頭に、その場面を投影してしまったので、ミステリーの常套手段は関係ない。
それよりも、この作品では、ドラマがある。小児病棟で、死や両目摘出などという重い現実を目の当たりにして生きてゆかなければならない子供たちのドラマが、感動を呼ぶのだと思う。

追伸。この前『由美姐(ゴクデカ路線で、「横溝正史賞」に出した作品)』の話をしたら、一時的に株価の暴落をとめましたねえ。驚き、私もまだまだ強い影響力をもっているらしいですねえ。横溝正史賞は、江戸川乱歩賞の影に隠れて、今までの作品はほとんど話題にもならず、本屋でも並ばないところもあったのに、これが受賞したら、伝説ができますねえ。というか、通る前から伝説的な作品になってしまったのですから。それだけ、健さんや寅さん路線の作品は待ち望まれているのでしょうか。『由美姐』は、マニアにも、一般読者にも受けるように(中高生、任侠言葉大好きだから)作ってあるので、きっと出版されたら売れると思うのですが。とかいって、これだけごねて通ったら、ネットで「ごね得」とかいって、また話題沸騰してしまうかも。でもバッシングはいいんだよ。話題にならないよりは、百倍有名になれるからね。これからもどんどん出して、ごねるからね。