全身麻酔

全身麻酔』霧村悠康
内容。手術中に、麻酔が浅くて、医者たちの話が聞こえてしまうミスがあり、それを患者(露村冬樹)が小説にまとめる。内容は、自分とよく似た名前で、同じ部位に疾患がある患者と間違えられて手術された。自分は大腸の上行結腸の癌。間違えられた患者は、大腸の上行結腸の結核結核は肺だけでなく、全身にできるのだとか)。手術の途中で、間違いに気づき、自分の癌は切除。しかし、進行癌であることなどがわかってしまう。さらに、途中で執刀医である大学病院の教授の手が振るえ、大動脈を切開してしまい、あわやという場面もある。
露村は、その小説を、執刀医の教授に読ませる。実際にあったことなので、教授は脳出血で死んでしまう。当然である。自分のミスを公表されかねないのだから。
その後、准教授の跡部が教授になる。一方、私(露村)は瑞枝という准教授と関係をもっている。この後、語られるのだが、瑞枝と跡部は同一人物であり、実際は、手術でミスばかりしている教授を追い落とすために、跡部が、露村の体験小説をフォローして完成させたのである。(医学用語が、露村は全然わからないので)。
一方、私(露村)の後に、上行結腸の結核で手術を受けた患者は、同じように大出血を起こして死んでしまう。
その後、弁護士である露村には、その男(鶴村)の妻から裁判の依頼がはいる。だが、医療裁判なんて初めての露村は一向に調査がはかどらない。
それから数週間後、露村には、病理検査で、大腸の結核であると診断が出る。
で、この後は、入り組んでいて面倒くさいので、ちょっと飛んで、さらに半年後。癌が進行して、露村は死ぬ。ここまでは、一人称と三人称が入り乱れているが、この後は三人称小説になる。
実は、露村には別れた妻がいて、それが、同じ病院の手術室つきのナースで、露村の細胞ともう一人の患者(鶴村)の細胞を入れ替えて病理検査に出したのだ。なぜかというと、自分の夫を跡部に取られたので、嫉妬してやったのである。
露村の別れた妻は、嫉妬から、CGを使って、跡部が手術ミスをしたような画像を作成し、露村の主治医だった関目を体で篭絡して、その画像を見せる。関目は信用する。元妻は、跡部にはゆすりをかける。
また、入り組んでいて面倒なので、どんと飛びます。
だが、元妻は、子宮筋腫で入院し、脅していた跡部に、塩化カリウムを静脈注射されて殺される。
だが、この後、どんでん返しが。

感想。発想が面白い。医者だから、多分、実際の体験に基づいているので面白いのだと思う。次々と新展開が現れてあきさせない。一人称と三人称が入り乱れていて読みにくい部分はある。(入り乱れは反則)。だが、素人のミステリーレベルだから、しょうがない。だが、すべての読みにくさを差し引いても、面白い。お勧め。
ついでながら、この後の『脳内出血』もとりあげようと読んだが、つまらないので、とりあげない。手抜きだから。
全身麻酔』みたいな力作がかけるのに、なんだ、この手抜きは、久しぶりに怒った。専門誌からコピー&ペーストしたみたいな論文と、つまらないダイイング・メッセージ(筋に関係ない)とエロ。
実力がなくてつまらないなら怒らないが、実力があるのに手抜きだから、怒りを覚える。どうでもいいダイイング・メッセージなんて時代遅れのネタは使うな(展開に密接に関係あるなら別だけど)。
私たち江戸川乱歩賞を狙うような人種は、ネタは一流のミステリー作家から盗むんだ。医者になんか期待していないんだ。医者に期待するのは、医学用語と業界内部の人間ドラマなんじゃ。だから、『ブラック・ペアン』(海堂尊)のような、一年坊主が教授を殴って手術室に引っ張り出すようなドラマを求めているんじゃ。あるいは、意地と意地のぶつかりあいとか、嫉妬と嫉妬のぶつかりあいとか、プライドとプライドのぶつかいあいなんかも感動する。
ミステリーじゃなくたって、そっちだってヒット性はある。
昔、佐久病院の医者が芥川賞を受賞したことがあったが、こんだけ、実力があるなら、そっちだって夢じゃないと思う。毎日、生死のぎりぎりの現場にいるんだから、ちょっとデフォルメすれば、いいのだし。
それから、エロもだめ。ミステリーファンはエロは嫌いじゃ。エロだけで、一流が三流に落ちてしまう。
エロが好きな読者は最初から最後までエロの小説を買うの。ミステリーなんて買わないの。どうしてもセックスシーンが書きたかったら、『ナイチンゲールの沈黙』のような美しいシーンを描けっつうの。そうすれば、『白い巨塔』くらいレベルの高いものができるかも知れないし。あるいは、『無痛』のようにCGのセックスシーンとか。
次週は『無痛』(久坂部羊)、次は、テレビがめっちゃ面白いので、『流星の絆』(これはスリーピング・マーダーなので、次々と思い出してゆくだけなのだが。でも、今年の江戸川乱歩賞もスリーピング・マーダーだったし)次は『ブラック・ペアン』、次は『ジェネラル・ルージュの凱旋』の予定。
以上、女王蜂でした。ホッホッホ。ついにてっぺんまで到着したって気分じゃわい。ついでに、言うが、ドクターヘリを出せって言うんじゃい。