無痛

『無痛』久坂部羊
内容。神戸に患者の外見だけを見ただけで、病気を見抜く医者・為頼がいる。その彼が、額にMのしわのよる人間は凶暴な殺人を犯すと見抜く。たまたま街で、大量殺人にでくわす。そのとき、知り合いの菜見子を、殺人者から見えないところまでつれて行き、難を免れさせる。
その後、神戸で一家4人の斬殺死体が発見される。
6ケ月後、菜見子の勤めている、知的障害者施設のサトミ(14歳)が、自分が犯人だと言い出す。しかしゲソ(足跡)は27センチで、サトミは23センチ。この違いについて問いただすと、サトミは、自分の靴の上に兄の靴をはいてやったと言う。このことを聞いて困った菜見子は、為頼に相談する。為頼は妄想だと断言する。
その後、サトミが27センチの靴を捨てたと証言した川から、27センチの靴が発見される。しかし、警察が調べると、現場に残っていた靴は底が磨り減っていたのに、捨てられていた靴は新品。後に、これは、サトミの証言を聞いた六甲サナトリウム(菜見子の勤める施設)の看護士、広江が、話題を取ろうとして捨てたのだと判明(ここのところ、ちょっと不確か。はっきりと書いてないので)。
一方、神戸には白神病院(巨大病院)があり、ここの院長は、金持ちを相手にしたホテル並の病院経営をして儲けている。彼はサテライト病院構想をもっており、新しい病院の院長に為頼を名指しする。その申し出を為頼は断るのだが、白神病院にいった時、たまたまM字しわの男を目撃する。
その男はイバラと呼ばれ、知的障害者施設から引き抜かれて、手術の器具を揃える係をしていた。彼は無痛症で、昔、菜見子がかわいがっていた男である。
で、またまた話は飛んで、佐田という男がいる。彼は菜見子の離婚した夫で、今でも菜見子に未練を持っており、ストーカー行為をしている。彼は広江と親しく、広江から菜見子が為頼と頻繁に会っていることを聞き、新恋人出現だと邪推し、ドアノブに精液の入ったコンドームをつるすなどする。つまり、ストーカー行為がエスカレートしたのだ。
で、又又又話は飛んで、警察は、サトミの話を聞き、再捜査をする。と、現場に残されていた毛髪と、サトミの毛髪が一致する。(しかし、これは、犯人を操った人間が、サトミの毛髪のついた帽子を犯人にかぶせたのだと、後に判明)
で、又又又又話は飛んで、佐田のことを菜見子が毛嫌いしていると知ったイバラは、佐田を拉致して、生きているまま解剖してしまう。
そして、最後に、最初の一家四人の斬殺事件だが、とっても意外な犯人が逮捕される。
感想。漢字は多いし、改行は少ないし、新しい登場人物がが現れる度に話はぶつぶつ途切れるし、新しい人物が現れる度に、過去が数ページに渡って詳しく語られるし(特に佐田が登場したときは、菜見子の元夫だと判明するまでに4ページくらいかかった)、脇役も同じくらいにくどい説明があるしで、読むのにかなり疲れた。でも、18部も売れているのは、意外な犯人だからか。
それにしても情報過多。1000ページくらいあるだろうか。作者は、一人一人の経歴を書くのは、厚みが出ると思っているらしいが、多すぎても、そこで、読む気がそがれてしまう。もう少し削除して欲しい。でも、解剖のシーンなどは、圧巻。推理のネタも小出しにするところなどは、書きなれている。うざいと思ったら、飛ばし読みをしてもOK。でも、こんだけ言葉が溢れてくるということは、書けなくて、麻薬などに頼る作家が多い中で、うらやましいことなのかも。
ついでながら、病人の人格設定などは、医者だから、文句はつけられないが、普通の女性の人物設定にはちょっと問題あり。男性作家にはありがちなんだけど、善人役の女性には、感情移入するあまり、リアル感がなくなっている。例えば菜見子。佐田が送りつけたコンドームを一度捨てるのだが、中に釣り針が入っていたので、回収の人が指を傷つけるのでは、と心配して、取りに戻る。そこまで心優しい設定になっているんだが、そんな女はいないっつうの。それ以外は、とても面白い。
追伸。ところで、女王蜂というネーミングだけど、リスペクトされているんだか、恐れられているんだか、よくわからない。まあ、ドクターヘリが出てこないのは、そうとう先まで収録が済んでいるんだから、しょうがないが。ああ、それから、一つ業界の内輪話。唐突にたちしょんの話がでてきたが、あれは、私の横溝正史賞に出したやつの中に、寅さんの「粋な姐さんたちしょんべん」という一説があり、その話が漏れて、それを意識してすりよったか? いずれにしても、なんかイライラの一週間だった。でも、私って、イライラすると筆がはかどるんだよね。なので、江戸川乱歩賞向けに書いていた作品が完成しちまったの。で、松本清張賞に間に合うので出しちまおうかと思っているの。ありがとよーと言わせてもらうわ。