ブラックペアン1988

『ブラックペアン1988』海堂尊
著者の医者になりたての頃の思い出みたいな、青春小説です。
1、糸結び。
1988(昭和63)年、世良は医学部を卒業したが、国家試験の発表を待つ身。発表は四日後。東城医大。『チームバチスタ』の20年前。佐伯院長はまだ教授、垣田教授はまだ平。
 そこに帝華大学(官僚組織に太いパイプを持つと書かれているので、東大がモデル)から、跳ね返りの医者がやってくる。高階講師。胃の噴門部の結サツに自分の考案したスナイプスAZ1988という機械を使うと宣言する。それは、海外の医大ではすでに使用したことがあり、10数例中、一回も失敗したことがない。正確に言うと、リーク(糸結びが切れ、再度術面が開くこと)がない。
 一方、糸結びの技術を向上させることが外科医の第一歩だと考える東城大学の教授陣とぶつかる。
2、スナイプスAZ1988
 東城大学には渡海講師という天才外科医がいる。人づきあいは大嫌いで、術前カンファレンスにも出席したことがないが、手術の技は天才的。ブラックジャックみたいな奴。ところで、台風の眼の高階講師であるが、20年前はまだ患者にガン告知なんて考えられない時代だったが、堂々とガン告知をする。それも、気休めに「絶対に成功しますよ」なんて言わない。成功率は半々ですと突き放す。患者はうろたえるが、最後には了承する。その手術のあと、国試の発表があり、世良は合格する。
3、出血ー神を騙る悪魔。
 世良の鈎引きのミスで大出血し、胃の亜全摘が全摘せざるを得なくなる。渡海の神技で何とか手術は成功する。渡海は高階と同じ考えで、堂々と患者にガン告知をする医者。今回も告知して、胃の幽門部亜全摘手術をする。その最中に、世良に血管の結サツをしてみろと言う。世良はトライするが失敗し、大出血をおこし、渡海がフォローする。その時、「今、一人殺したかもな」と言われ、深く落ち込む。だが、高階は、「医者は5人殺して一人前」と言って、医者を辞めようとする世良を思いとどまらせる。
4、誤作動。
 スナイプスAZに慣れていない関川に、それを使って手術をやらせる。しかし操作が不慣れで、誤作動を起こす。高階は佐伯教授との意地の張り合いで(佐伯はスナイプスを認めていない。誤作動したら使用中止にするつもり)、現場に駆け付けようとしないが、世良が殴って現場に引きずり出す。しかし、この事件で、高階は、改めて、糸結びの重要さを知る。
5、ブラックペアン1988.
 佐伯が昔、ペアンを患者の体の中に置き忘れたまま閉腹したと思い込んだ渡海は、佐伯が学会でいない間に、それを取り出して、佐伯の失敗を公表しようとする。実は、そのペアンを取り出す取り出さないのいざこざが元で、昔、自分の父が左遷させられたことがあるからだ。しかし、開腹してみたら、癒着がひどくて、7時間かけても摘出できない。そこへ、公演をキャンセルした佐伯がドクターヘリなどを乗りついで駆けつけてきて、言う。実は、どうしても外せないから体の中にペアンを残したんだと。で、金属のペアンを外して、カーボンのブラックペアンをはめ込み、大出血を免れる。

感想。キャラが立ってます。ブラックジャックみたいな医者(天才的でもチームワークが嫌いで、一匹狼)。製薬会社との癒着。教授には絶対に逆らえない内部(どこの会社でも同じですが)。などなど、内部事情が次から次へと出てきて、超面白いです。『白い巨塔』に匹敵する面白さです。


追伸。矢島美容室の出ているガムのコマーシャルの名前がわかったの。SPASHでした。で、SPASHよ、「長沢ちゃん」を復活しろっつうの。でなきゃ、こうじゃーー。