まず石を投げよ

『まず石を投げよ』(久坂部羊
内容。帯に書かれていた内容――医者の好き嫌いで患者が殺されたら。外科医・三木達志は医療ミスを告白し、患者の遺族にみずから賠償金支払を申し出た。これに究極の誠意を感じたライター・菊川綾乃は取材に乗り出すが、「あれは殺人だった」との手紙が舞い込む。不倫、自殺、テレビでの医師を使った心理実験、墜落願望。現代人の闇をえがく医療ミステリー――。
そのままだったわ。まず、綾乃は、新聞で、みずから医療ミスを告白した医者・三木の話を読むの。それは、胃がんの手術のあと、DIC(播種性血管内凝固症候群。全身の血管の中で血が固まる病気)を発症し、死んだ女性の遺族に対し、自分がDICの発見を見のがしたと告白し、1400万の賠償金を払ったというもの。
これを知り合いの医者に聞くと、他の何かを隠すためか(たとえば院内感染とか)、訴えられて負けると、5000万くらいの弁償になるから、自分から払ったんじゃないか、といわれる。しかし、そのミスは、黙っていれば、誰にも発見されることのないミス。というか、いくらでもあるミス。こんなミスで賠償金を払っていたら、日本中の病院が倒産してしまうとか。
綾乃も裏になにかあるのではと疑い、調べを進める。と、三木の別れた妻から、「あれは殺人だ」と言われるの。元妻が言うには、三木は、医者の言うことを守らない患者(たとえば、隠れて酒を飲むとか、決められた薬を飲まないとか)は大嫌いで、そうい奴は死んだ方がいいとよく言っていたとか。だから、この患者も、嫌いで、わざと殺したというのだ。
だが、元妻は、愛情の裏返しで、心底三木を憎んでいる。嘘もつきまくりなので、一ガイには信用できない。
綾乃は、知り合いの医者に、DICを起こすような薬があるかと聞くと、あるという。でもって、三木のかわいがっている子がいて、その子は、一度目にした物は決して忘れない病気なのだけど、その薬の名前を告げると、それは三木の家にあったというの。三木は、実験室で、そのくすりを使って、マウスの実験を行い、論文を書いていたの。当然ながら、この患者も治験を行ったのか、と疑うわよね。(でも、その辺は、最後になっても、曖昧なままなんだけどね)
ところで、知り合いにやり手のプロデゥーサーがいて、医師が胃がんの発見ミスの証拠を突きつけられた時、徹底的に隠ぺいするかどうかを実験し、それをテレビで放送したいというの。彼女は、ものすごいやり手で(最後には、若い時、医者に劇薬を投与され、徹底的に医者不審になったことが語られるんだけど)、医師の人間性なんか無視して、その実験をし、隠し撮りをするの。それが、人間ドックでのアルバイトの医者の話ね。(人間ドックではほとんどがアルバイトの医者なので、がんの専門家はほとんどいないんだとか)。
だけど、気の弱い医者がいて、これ以外の要素もあって、自殺してしまうの。そんなごたごたの中で、番組は放送になるんだけど、隠し撮りのシーンはカットされたはずが、放送されてしまうのね。そのくらい、プロデューサーはこの隠し撮りに命をかけていたの。
感想。『無痛』が大ヒットしたせいか、肩の力が抜け、自信と確信に満ち、グロもなく、視点も主人公からそれることなく、とても読みやすかったわ。
この本自体が、大きな一石だわね。非常に大きな一石だわ。特に衝撃だったのは、人間ドックの医者がアルバイトだってこと。おまけに専門医じゃなくて、精神科医とか小児科医とか、全然畑違いの医者が多いってこと。癌の判断をするのに、専門医じゃないのよ。人間ドックとか、集団検診とかで、異状なしと言われたら、少々違和感があっても、安心して専門医に行かないから、余計手遅れになってしまう可能性が高いってこと。大衝撃だったわ。人間ドックや集団検診で異常なしって言われたら、余計疑ってかかって、専門医にいかなきゃね。
それにしても、再度言うけど、この人は、ひと癖もふた癖もある人間を描くときは秀逸だけど、善人の女を描くのは下手ね。
酔っぱらいの男がやってきて、部屋に入れてくれと言われて、近所を気にして入れるシーンがあるんだけど、ふつうの女は絶対に中には入れないの。間違いなく「ストーカー」ですと言って警察に通報するの。そうでなきゃ、見えるところまでおびき出して、マンションのベランダから植木鉢を落とすの。この人は、酔っ払いが病院に行って、その娘と会うっていう設定に持ってゆきたいために、心臓発作をおこさせて、病院にまでついていくとしたのだけど、植木鉢にあたりそうになって心臓発作だって、全然問題はないと思うの。逆に、あまりにいい人に描いたら、リアリティがなくなって、木偶の坊になってしまうと思うの。酔っぱらいが来たら、間違いなく植木鉢落としよ。普通は。
先週の続き。SPASHよ、「長沢ちゃん」を復活しろっつうの。でなきゃ、こうじゃーー。