プリンセス・トヨトミ。天空の蜂

プリンセス・トヨトミ』(万城目学
今回は、推理物ではないので、イラストはなしで。
内容。会計検査院の旭ゲーンズブール、鳥居、松平は、大阪へ出張に行く。会計検査の対象は、天下り先、法人、学校などなど、国からお金が出ている所は全て。まずは、大阪府庁へ。そこで領収書の不備をみつけるのが仕事。鳥居には特技がある。新しいインクのにおいを嗅ぐと下痢をするのだ。たとえば、4万と書かれた領収書に、新しく4を書き足し、44万とした場合などは、すぐに分かる。今回も一件みつかる。
 所で、大阪市立空掘中学校にいじめられっこの大輔がいる。彼はセーラー服で登校するのが夢で、実行するのだが、よけいに苛められる。それを茶子が助けてくれる。というか、復讐してくれる。
 話は飛んで、社団法人OJOというのが空掘商店街にある。ここへも年に数億円が投下されているのだが、実態は不明。一度訪ねるが、居留守を使われてしまう。
 一方、大輔は、父に、大阪城の地下に連れて行かれる。そこは巨大な空間なのだが、そこで、「真田家の男は王女をまもらなあかん」といわれる。意味はよくわからない。
 またまた話は飛んで、松平には、35年前、大阪城が真っ赤に染まり、何万人という男が集まったのを見た記憶がある。
 また話は飛ぶが、松平は、ついに社団法人OJOとコンタクトを取り、そこの長と会う。それは、大輔の父で、「大阪国総理大臣です」と名乗る。松平は、なぜ巨額の金が投下されているのかを聞く。大輔の父は言う。「大阪国とは、豊臣秀吉の時代に大阪商人が作った自治体。裏で存在する権力。江戸時代にも、開国の時代にも、江戸政府や、明治政府に援軍を出した。その見返りとして、年に数億の金を受け取る契約をした。それが今でも続いている」
 松平は、それを打ち切ろうとする。すると、大阪中の男が集まる。何万といる。松平とにらみ合いになる。それで、松平は、諦める。その間、茶子はいじめっこの父がいる組に殴りこみにゆく。
大輔の父の話。「茶子は豊臣の末裔。つまり王女。だから、大輔はこれからも茶子をまもらなあかん」

感想。発想がユニークで、面白い。ぐんぐん引き込まれる。

名作復活は、『天空の蜂』(東野圭吾
ビッグタイトルの新人賞はスケールが大きくないとだめときいたことがあるので、来年の江戸川乱歩賞原発占拠ものでゆこうかなあと思い、研究してみたの。

1、綿重工業、小牧工場、航空機事業本部。自衛隊と共同でコンピューター制御の大型ヘリの開発をする。湯原と山下はそこの研究員。「Bシステムプロジェクト」という。
試験の日、山下恵太ヘリに乗り込んでいると、犯人がリモコンでヘリを飛ばしてしまう。ヘリは、フライバイワイヤシステム。

2、ヘリは敦賀原発の近くの高速増殖炉「新陽」の上に行く。犯人から綿重研究所に脅迫文が届く。『現在稼働中の原発はすべて使用不可能にせよ。加圧水型は蒸気発生器を沸騰水型は、再循環ポンプを破壊せよ。建設中の原発は、中止。これらを全国ネットのテレビで中継せよ。午後2時までに』

3、9時2分。福井県知事の元に通報が入る。「新陽の上にヘリがおり、中に子供がいる」と。県警、自衛隊への要請。マスコミが押し寄せるが、「原子炉の壁は厚いので、ヘリが落ちても安全」と発表。福井県警と綿重研究所は、犯人が「ビッグ ビー」と名乗っていることから、この開発プロジェクトに関係していた人間、つまり内部犯ではないかと疑う。
 
4、原発の所長の中塚が記者会見。「中央制御装置は、原子炉補助建物の中にあり、天井の厚みは数十センチあるので、ここに落ちても、建物が壊れる危険はない」。ところで、また犯人からの要求がくる。「子どもの救出方法をテレビで発表せよ。救出者はヘリの中に入るな」

5.中塚の会見。「発電システムのどこかが壊れると原子炉は自動停止します」。刑事の室伏は、原発反対派の人間に一人一人あってまわり始める。

6、犯人から県警にファックスが入る。「原発を中止させて、その様子をテレビで放映しろ。スクラム停止のスイッチをオンしたあと、制御盤モニターを30秒放送せよ」。高速増殖炉は冷却材として、液体ナトリウムが使われている。その動きが、制御盤モニターで分かる。他の原発にも制御盤モニターがある。
 自衛隊のCH=60Jからワイヤーを放出して、ビッグビーにひっかけ、自衛隊員がそれを渡り、子供を救出完了。一方、県警の報道担当が、「柏木原原発一号機は停止しました」と報道。あちこちの原発が止まり、工場は操業停止をするところ多い。デパートなどは暑い。

7、県警の捜査の結果、二日前に不審な木箱が綿重研究所のヘリのそばに置かれていたことが判明。出入りは、警備員が厳重チェックをしていたので、不審者はすぐわかる。そこで、内部の協力者がいたと推理。ヘリの情報を盗めば操縦は可能。だが、情報を盗むにはIDと固有のパスワードが必要。それは開発担当者しか持っていない。そこで、過去の開発担当者を洗い出す。

8、刑事の室伏は、原発反対派から辿り、何人かを調査。まず、原発の掃除をしていて癌になった田辺佳之→川村貴男。彼から、ラジコンマニアのサイガワという名を聞き出す。さらに、それが、雑賀であると突き止める。
一方、所長の中塚は、原子炉を止めても、となりのディーゼル発電機が予備で発電することから、モニターだけを撮影させて、ブラフ(眼くらまし)をつかえることを発見。

9、開発担当者の湯原は、過去に、開発クルーだった三島に、サーモグラフィーの話をしたことを思いだす。同じ頃、犯人から県警にファックスが入る。「ヘリにはサーモグラフィーが搭載されている。原発からの排水温で原発が停止しているかどうかわかる」これを読み、中塚は、目くらましは使えないと判断。この時点で、元研究員の三島が犯人と判明。

10、室伏は元原発の清掃員の藤井に話を聞く。藤井は言う。「雑賀は元自衛隊員。ヘリの操縦には詳しい」
ここで話は飛んで、赤嶺淳子登場。彼女の自問自答。「三島が好きで協力した。受付の書き換え、箱を置くなど」これは警察にした話ではない。名古屋空港で警察に捕まる。

11、三島の自問自答。「雑賀に会った。IDを盗まれた」。一方、山下の推理。「研究クルーには佐竹がいた。彼が雑賀を名乗っているのではないか。前に、自衛隊の中で、チキン計画というのが発覚し、自衛隊を辞めたと聞いた」

12、室伏の推理。「犯人は自動操縦が切れた後、手動に切り替える。つまりヘリの見えるところにいるはず。それは立石岬だ。一方、三島の自白。「子どもが放射能といじめられた。線路に入って自殺した。復讐をしたかた」

13、赤嶺は名古屋空港で、「新陽」の中継画面をみて、そこに三島がいるのを発見。警察に白状する。「犯人は三島。彼を助けて」。一方、自衛隊のヘリの中。自動操縦が手動に切り替わったとき、同じ周波数でハッキングし、犯人を出し抜く。ヘリの中からラジコン捜査をする。

14、ラジコンのハッキングは成功。ビッグビーは近くの海に墜落。三島の告白。「原発の危うさを告発したかった」

追伸。先週の山村美紗の『振袖殺人』(放映タイトルは「お茶会殺人」)はおもしろかったわね。彼女は、毒薬の量が滅茶苦茶なので、業界の中では評価は今一なんだけど(包丁の片側に青酸カリを塗ったとか、花びらに青酸カリを塗ったとか)、今回はおもしろかったわ。殺人者と密室を作った人が違うの。普通は一緒が多いんだけど。見てない人のために紹介するわね。
 茶道の二条流の家で、お茶会があり、茶碗に青酸カリが入れられて、A亭主の妻が死ぬの。でも、毒はA亭主の茶碗に入れられていて、虫がいて、飲む直前に席を代わっているの。主人公は写真家で、その場に居合わせ、妻が向かいの席を指した写真を撮るの。そこにいたのは、A亭主の娘。ちなみにお茶をたてたのも娘。運んだのは弟子だけど、置かれていた時間があったから、誰でも毒を入れるのは可能。
 それから、この日は、菓子を決める日で、X菓子店の店主(B)の息子(C)が、一回持ってきて、断られているの。店主の息子Cは、その直後に階段から落ちて死んでいるんだけどね。それを恨んだ、店主Bの仕業かもしれない。
 さらに、CはA亭主にあった直後に死んでいるので、Cの妹のD子の仕業かもしれない。おまけに、A亭主の娘E子とは婚約者なんだけど、反対されていたので、E子の仕業かもしれない。
 そうこうしていると、店主Bが誘拐されるの。身代金運搬の電話がかかってきて、A亭主に2千万を出せと言われるの。彼はそれを飲んで、運搬するんだけど、途中で警察の尾行を振り切るの。そしてB店主は、橋から落ちて死亡。警察はA亭主を疑うの。
 彼は、妻が浮気しているのを知っていたから、わざと虫を起き、席を替わったのではないか。それから誘拐も彼の計画で、彼がB店主を突き落としたのではないか。
 しかし、その後、A亭主が毒殺されるの。懐には遺書。ここが密室殺人。部屋には内側から鍵がかかっているの。それを、娘のE子がふすまを破って入るの。で、これのなぞ解きを言ってしまうけど、掛け軸を立てかけておいて、ふすまを閉めるの。そうするとつっかい棒で内鍵のようにみえるの。で、はしょるけど、殺したのはD子なんだけど、父に恨みがあったE子は、密室を作ることで、D子を助けたの。最初に妻がE子を指したのは、後ろに鏡があって、D子が写っていたのね。ついでながら、誘拐はB店主の狂言だったの。
 殺人者と密室の作り手が別ってところが、新鮮だったわ。


来週の名作復活シリーズは未定。時間があれば「光と影の誘惑」(貫井徳郎)になるかも。

小説以外では、「小説キャラクターの創り方」若桜木虔雷鳥社)も予定。この作者は私の元属していた教室の先生。一人でも新人賞とれるかと思ってやめちゃったんだけど、取れそうにないので、戻ろうかと思っているところ。この教室は、毎年新人賞を出しているすごい実力のある通信講座。講座のタイトルは「筆客商売」。私は『亡国のイージス』なんかが好きなので、スケールが大きければ、主人公は複数になってもいいと思っていたのだけど、どうも、これを読むと、最近は名探偵ものが復活しているらしいわね。それと、一人主人公でないとだめとか、色々と参考になるので、来週じっくりね。

他にも、「全てのオタクは小説家になれる」なんかも出したばかりで、こっちも、パクッテ組み替えて新人賞を突破するなど、とても興味が惹かれる項などがあるので、そのうち紹介するわね。