片眼の猿、光と影の誘惑、小説キャラの創り方

『片目の猿』(道尾秀介

1、中野区にある谷口楽器の本社屋上。探偵事務所の三梨は、隣のビル・黒井楽器の盗聴をしている。三梨は、7年前に恋人の秋絵を首吊りで亡くした。今、盗聴しているのは、谷口楽器の刈田から、黒井楽器がデザインの盗用をしているかどうか調べてくれと頼まれたからだ。

2、電車の中で気になった女を自分の会社の社員に採用する。彼女は冬絵といい、昔は、ライバルの四菱エージェンシーにいた。やりかたがあくどいので辞めた。三梨の住んでいるアパートには、野原、まきこ、トウミ&マイミがいる。

3、三梨が盗聴していると、隣の企画部長の村井に公衆電話から電話が入る。彼は答える。「タバタ君か。今警備員をどかすから来てくれ」。しかし、そのあと、争う音がする。丁度その日は、冬絵が潜入捜査に行く日だった。

4.翌日、村井が刺殺されているのが発見される。三梨は、「タバタが殺したようだ」と刈田に告げる。一方、自分では、四菱エージェンシーに電話して、やめた人でタバタって人はいないか捜査を始める。

5、話は飛んで、秋絵の両親に会う。そこで、「7年前に秋絵が自殺したとき、雪の山中なのに、ジャージで、財布しか持っていなかった。殺されたんじゃないか」と聞く。また話は飛ぶが、7前に事件を起こしたといったことを思い出し、冬絵を問い詰める。冬絵は話す。自分の前の名前は田端冬美。7年前にある女性を自殺に追い込んだ。山中で首吊りだった。

6、一方、テレビでは新しい情報が流れる。「犯人は若い女性だとのタレコミあり。タレこみの電話では名前も言ったが、捜査上の秘密」。そのあと、冬絵が誘拐され、四菱エージェンシーに殴りこむ。アパートの住民たちも駆けつける。すると、アパートの野原とまきこは、四菱の生みの親だったことが判明。そこのデータバンクをパソコンごと盗む。


7、かえって調べると、7年前の秋絵の首吊りは冬絵のせいではなかったことが判明。秋絵は実はおかま。冬絵の自殺においこんだのは、女性。秋絵は盗撮され、強請られて自殺。三梨は村井の犯人に言う。「XXさん。犯人はあなた。あなたは、私に盗聴を頼んだ。そして自分も一緒に盗聴していた。そして、愛人にタバタと名乗らせて電話をかけさせ、警備員をどかした。そのすきに自分で殺した。警備員をどかしたことを知っているのは私とあなただけ。動機は、会社の金を使い込んでいて、強請られたから」


「光と影の誘惑」(貫井徳郎)名作復活シリーズ。
第一話。「長く孤独な誘拐」

1、森脇耕一の息子が誘拐された。犯人はボイスチェンジャーで命令してきた。羽村君彦の息子、裕貴也を誘拐しろ。住所はXXだ。命令に従わないと、お前の子供を殺す。

2、さらに犯人は、子供を隠しておくアジトを用意しろという。不動産会社の社員である森脇は、空きになっている西永福のアパートの合鍵を作る。妻が裕貴也を誘拐する。

3、森脇は、「子どもは預かった。8千万用意しろ」と父親に電話する。父親は、あちこちで工面して、その金を用意する。だが、大河内刑事は、なんとなくしっくりしないのを感じる。羽村家は、8年前に一人息子が誘拐されて殺されている。今の息子は、もらい子だ。それに、妻の兄、沢入勝治が出入りしているのも目につく。

4、父は金を乗せて運搬を開始する。だが、途中で警察の尾行をまいて、タクシーで走りさる。

5、これは、犯人X→森脇が命令したこと。さらに犯人に言われ、森脇は告げる。「警察が尾行している。取引は中止だ」。 だが、その後、西永福のアパートの前で、誰かに殴られ、殺されそうになる。

6、戦っている最中に顔を見ると、それは自分の会社の支店長の沢入勝治だった。そこへ刑事がかけつける。刑事は言う。「これは、8年前の事件にヒントを得た、保険金殺人だ」

7、刑事の説明。「裕貴也には2億円の保険がかけられていた。沢入には多額の借金がある。そこで、保険金殺人をするのではないかと思い、沢入の会社の物件を端から当たった。すると西永福に空き物件があった。そこに子供が入ったという情報があった。そこで警備をしていた。残念ながら、森脇さん。あなたの子供は殺されてしまっていると思う」

この他にもあっと驚く短編が3っつ。
来週の名作復活シリーズは、『スピカ』(高嶋哲夫)にしようかな? 理由は、以下の分を読んでもらえばわかるけど。

『小説キャラクターの創り方』若桜木虔雷鳥社
 先週予告した、ハウツー本です。記憶に残ったことを箇条書きにするわね。
1、最近の新人賞は内容よりも主人公のキャラが魅力的であるかどうかに重点を置く。→キャラが魅力的でないとドラマ化、映画化ができない→メディアミックスができない。キャラの立っている作品の例として鮎川哲也賞の『ヴェサリウス』(麻見和史)が挙げられているけど、これはそのうち取り上げましょう。
2、キャラは男性と女性では好きなのが違う。女性受けするのは、ダメ男キャラ。男性受けするのは、萌キャラ。特定なことに偏屈なのも流行。例。『探偵ガリレオ』の主役。『チームバチスタの栄光』の白鳥。『富豪デカ』の主役。愛川昌の’変態、萌キャラ美少女探偵’売れている。
3、宝島社の『ラブストーリー大賞』は選者が全員女性(つまり、対象を女性に絞っているってこと。ここ重要)例、『カフーを待ちわびて』『守護天使』両方映画化。(後者はいずれ紹介しましょう)
4、一人称視点で書け。感情移入しやすいから。複数主人公はダメ。視点が飛ぶので感情移入しにくく、落とされる。(カラルイ感想。ここの所は、読んでおくべきだったわ。実は去年、さる大賞に出したのは、スケールが大きかったから複数主人公でもいいと思って、複数主人公で出してしまったの。絶対ダメね。この本を先に読んでいたら、去年の三か月の無駄な努力はしなくてもよかったのにね。そう思うと悔しいわ)
5、古典(横溝正史的)復帰の傾向も強い。例『殺人ピエロの孤島同窓会』(水田美意子)「このミステリーがすごい大賞」(これもそのうち取り上げましょう)
6、パロディ作品もやってみる価値あり。例『探偵の夏、あるいは悪魔の子守歌』(岩崎正吾)(これもそのうち)
7、キャラを立てるには遊びのセリフも多く入れるべき。たとえば、金田一耕介のやたらに髪をかいてしゃべりまくるなど。
8、選者は読者の百倍の作品を読むので、極端なキャラでないと印象に残らない。特に「このミステリーがすごい大賞」は全員が評論家なので、この傾向が強い。
9、短編で受賞するには、「味わいの深い文章」でないとダメ。(カラルイ感想。短編で思い出したけど、今年、「北区のミステリー新人賞」の授賞式にいったの。内田康夫が選者でね。もうお年でしょ。’じんわりしてほろり’とさせる作品が受賞していたわね。この’じんわり、ほろり’は日本人は弱いのよね。話は変わるけど、「薔薇の町福山ミステリー大賞」にも出し始めてるの。で、島田荘司を読み始めているのね。彼が選者だから、傾向を研究するためにね。彼も’じんわり、ほろり’は好きみたい。『最後の一球』なんて、もろそうだったわ。ある悪徳サラ金のビルの屋上で火事が起こるの。それは丁度、検察の手入れが入った日だったんだけど。探偵は、花瓶が凸レンズの役割をして、重要書類を焼いたと推理するの。で、ここでがらっと変わって、ある少年の独白になるの。彼は、苦労してプロのピッチャーになるの。それもドラフトで最後に指名されるような最低レベルのね。彼とは逆に花形ピッチャーがいるんだけど、その彼との確執とかあこがれなんかが立て横に織りなされて、最後までいって、その彼が、野球賭博に手を出していかさまをしたと騒がれるのね。でも、それには裏があって、それが火事に関係しているんだけど。少年は、その彼に頼まれて、悪徳サラ金の屋上に置かれている重要書類を燃すために、最後の一球に命をかけるの。なぞ解きは簡単だけど、読んでほしいわ。感動の涙よ。
10、自分の専門分野をキャラ作りに生かす。これは気が楽だし、選者も自信のある蘊蓄には弱いから、有利。この例としては、高嶋哲夫の『イントルーダー』(サントリーミステリー大賞)があるけど、『スピカ』も蘊蓄だらけだから、来週紹介するわね。この例では、グルメの蘊蓄で受賞している人は多い。
11、時代の真空地帯を狙え。江戸川乱歩賞の『T・R・Y・』は辛亥革命の話。作者はこの時代のオタクではないのだけど、今までにどの時代がこの賞を受賞していないのかを調べて、この時代に設定を決め、それから調べて書いたのだとか。他にも、書く前に注意することが盛りだくさんに詰め込まれています。
 作品を書くのには、数か月を要するんだけど、主人公の問題とか、読まずに書くと、無駄な努力になることがあるのね。そう言う意味から、ぜひ、この本を読んでから書き始めてほしいわ。それにしても、去年の私の6ヶ月間(構想も含めて)の努力は無駄だったわね。この本を読んでから書き始めるべきだったわ。6ケ月も苦労したのに、たった一言’複数主人公はダメ’で落ちたんだから。悔しいわ。


追伸。来週の「スピカ」をとりあげるのは、変わりありませんから。これはあくまでも、蘊蓄が有利の例としてとりあげるので。
その感想なんだけど。「スピカ」では珍しく、悪者はロシアの人間なんだけど、数からゆくと北朝鮮工作員が圧倒的に多いよね。(「ミッドナイト・イーグル」みたいに)。そういう意味からゆくと、キム君が悪者である限りは、日本の小説業界と映画業界は売れ続けるんだけど。でも、今回の核実験は雰囲気悪いよね。ここで一回、拉致被害者を返還するなどしないと、不評はぬぐえないと思うんだけど。まあ、何年かに一人づつ解放すれば、日本でのキム君の評判はずっとよくなると思うんだけど。