雪冤、探偵の夏、あるいは悪魔の子守歌
『雪冤』（大門剛明）
横溝正史賞受賞作です。新人さんは読みにくい。情報をどっさり入れるので、改行が少なくて、とても読みにくい。
キャラが立っていないのに、同じような人物を二人も入れるなっつうの。たとえば、ホームレスのやっさん。一人に整理しろっつうの。でも、内容が濃いから許せる。
優秀賞の「僕と『彼女』の首なし死体」は、何だ。ライトノベルではないか。ライトノベルでも優れたのは一杯あるのに、（例えば、「ネガティブ・ハッピー・チェーンソウ・エッジ」とか）内容もないじゃないか。なので、読んだけど取り上げない。最初の首を持って歩く所はちょっとおもしろい。でも、その後がいけない。
本筋に関係ない、高速でトレーラーを転がすようなシーンが延々と続き、それでおしまい。あまりじゃないか。冷蔵庫に入っている首なし死体を泥棒が見たのなら、そいつが脅迫をしてこいっていうの。そんで、もって、そいつも殺されろっつうの。それから、その首を持って、別の駅前に置くようなシーンを描けっつうの。
あ、ここまで書いて、気がついた。これがこの人のマックスなんじゃないかって。つまり、これ以上は無理。ならば、私が書けばいいんじゃ。
１、八木沼（父）がチラシ配りをしている。彼は、自分の息子の無実を信じ、もう二年もチラシ配りを続けている。
息子の慎一は、１５年前、長尾靖之と恵美が殺された時の犯人にされた。彼がいうのには、「事件の直後に犯人に呼ばれた。そして犯人に殴られて気絶した。逃げる時、恵美の妹の菜摘に目撃された」とのこと。
２，３。慎一は、最高裁で死刑判決がでて、４年になる。再審請求は出していない。石和弁護士が、慎一の手記（以上のことをまとめたもの）を持ってくる。それを週刊誌に乗せる。
一方、菜摘は真犯人（メロスと名乗る）より電話をもらう。彼は言う。「私は帰ってきた。現場から台本の残りを持ち去った。それは、『ディオニッソス死すべし』だ」
４，５．一方、八木沼もメロスから電話をもらう。彼は言う「被害者の血のついた包丁と服を持っている。自首する前に、あってください」。１５年は殺人の時効であるから、八木沼は信じる。
メロスは言う「５千万をエンゼル２１マンションの屋上へ持ってきてください」。八木沼は言われたとおりにする。５千万はマンションから下ろすが、メロスは、それを返すという。そして言う。「これは私の謝罪の気持ちです」
一方、八木沼がちらし配りをしていると、親切に協力してくれる男がいる。彼は持田良平と名乗り、近くの新聞配達店にいるという。
しかし石和弁護士が調べると、それは嘘。その新聞店で働いていたのは、河西治彦だった。この男は、昔、八木沼が弁護士をしていたころ、担当した事件の被害者。河西鉄工所で父と娘が殺された。八木沼は被告の弁護をした。治彦は、その時から、八木沼弁護士に恨みを抱いたのではないか、と石和は推理。
また、菜摘にもメロスから電話が入る。彼は言う「私はメロス。この前の５千万の件などは、真犯人デオニッソスに命令されてやった。彼をつかまえて」
６，７。石和弁護士は、河西が父の復讐で、慎一に罪をかぶせたのじゃないか、と強硬に主張。
その後、八木沼にデオニッソスから電話がある。彼は言う。「メロスは死にました」。慌てて新聞を調べてみると、ホームレス（秋山梅蔵）が鉄道で事故死していた。秋山は、１５年前、青空合唱団で、慎一と一緒に歌っていて、慎一とは面識がある。
そこで、八木沼は推理する。秋山がメロスではないか。デオニッソスにお金をもらって、いろいろと電話をかけてきた。だが、あまりにも深いりしすぎたので、デオニッソスに殺されたのではないか。
その後、デオニッソスから電話があり、会いたいという。会うと、現れたのはＸＸ弁護士。さて、彼の言う真相とは？ 続きは読んでください。
名作復活シリーズは『探偵の夏、あるいは悪魔の子守歌』（岩崎正吾）
これは、横溝正史の小説のパロディです。『小説キャラクターの創り方』（若桜木虔）の中で、パロディで「鮎川哲也賞を取った」と解説されていたので、取り上げてみました。
刑事が渥美だったり、石坂だったり、首つりをする医師の病院が病院坂にあったりとか、思わずにやりとしてしまう。全体としては見立て殺人です。
そうです。老婆が昔の歌を歌い、それに合わせて殺人がおこるっつう奴です。お約束通り、最初は途中までしか思い出せないのですが、途中から最後まで歌い始めるっつうあれです。
１、キンダイチは、八鹿村に呼ばれる。そこで、オリンと名のる老婆に出会う。一方、崖崩れがあり、頭蓋骨が二つ出る。ひとつは３０歳くらい。おりんのではないか、とのうわさが広まる。
和尚が佐兵衛と会談中、とっくりの酒を飲んで死亡。とっくりには三つ指指紋が残されている。これはダイイングメッセージと思われる。
ところで、この村には子守歌がある。それの三番が次。「お寺のお所化は呑むのが好きよ。……酒飲みすぎておっ死んだ」これとそっくり。とっくりの中には、和尚殺しと呼ばれる毒物が混入していた。
２，３．次には病院坂の本田医師が首つり自殺。これも同じ子守歌の４番にある。「一本松の医者さま書見が好きよ。……。首をくくっておっ死んだ」
そのあと、春吉じいさんが、自転車で沼に飛び込んで死亡。これは５番にある。「錠前屋の親父は夜釣りが好きよ。……。河童に引かれておっ死んだ」
４，５．さらにその後、栗本一義が溺死したあと丘に引き上げられて、ガタと呼ばれる車の下敷きになっていた。これも、同じ子守うたにそっくり。「錠前屋の親父は夜釣りが好きよ。……。河童に引かれておっ死んだ」。実は、一時期、かっぱでなくて、ガタと歌われていた時期があった。
ガタと歌われていた時期は、昭和２５年以降。その頃転入してきたのは、小浜兵吉。そこでキンダイチは、小浜が犯人だと推理。しかし、小浜は言う。「和尚殺しを買ったのは事実。でも、盗まれた」。それに、小浜には春吉と栗本が殺された時にアリバイがある。
６，７．キンダイチは色々と村のことを調べて、次の事実を掴む。和尚は梅のお大尽（佐兵衛）をゆすっていた。梅のお大尽は、３０年前おりんを殺したと思い込んでいた。
和尚は、今度のがけ崩れでおりんの頭部が出たが、自分がそれを隠したと言って、梅のお大尽に恩を売った。梅のお大尽はダム建設反対派の筆頭である。それで、ダム反対派をおさえこんだ。
さらに、全部の事件のときにアリバイのない人を村人の中から洗い出す。それに動機を考え併せ、次のように推理する。
「犯人は、梅のお大尽のゆすりの復讐をするつもりで和尚を殺したのじゃないか。つまり、犯人は梅の家の使用人。すると、アリバイのないのは磯川だけ。和尚以降の殺人は、子守歌に見立てた。つまり、本田医師は、ダイイングメッセージに気がついたから殺した。春吉は事故だが、栗本は、川の上流で殺して、下流に紐を張っておき、引き揚げた」
その後、おりんに変装して心臓の悪い佐兵衛の前に現れて、彼をショック死させる。
これの動機は、「奥さんの理香さんを守るため」。
追伸。今週面白かったドラマは、「東京駅お忘れ物係り」かしら。２時間サスペンスだったんだけど。
ある社長夫人に、夫が浮気をしていると告げ口をする男がいる。妻は昔のことがあるから、それを信じて、夫を列車の車内で刺すの。
そのあとは、時刻表ミステリーでどうってことないんだけど。妻に浮気の件を囁いた男は、社長の秘書を使って、会社のっとりをたくらんでいて、社長の秘書は、自分は社長の子を妊娠していると言って、お婆さんに入籍を迫るの。
で、まあ、最後には主人公の素人探偵が謎を解くんだけど、何が面白かったかというと、わざと浮気をしているとでっちあげるところ。
普通は浮気は隠すじゃない。でも、逆にたきつけて、それで殺しをさせるってところが新鮮だったわね。
それから、ドラマについて、少し。『赤鼻の先生』は、脚本家が天使だわね。美人の女のこを死なせないでどうしますか。昔からヒットするのは、美人を殺す作品と決まっているの。
アガサの『メソポタミア殺人事件』にしても、『４日間の秘蹟』にしても、『セカチュウ』にしても、陣内孝則のアイスホッケーの映画にしても（名前が思い出せない）、はかなげな美人を好きになってそいつが死ぬからヒットしたの。
脚本家は鬼にならなきゃだめなの。それから、子供病棟はもっと奥が深いの。『ナイチンゲールの沈黙』とか読んで勉強してほしいわ。それから、まだまだいろんな要素が押し込めるじゃないの。
たとえば、殺人事件が起きたり、『僕らの７日間戦争』みたいに、病院の中で立てこもり事件がおきたり、それから、今週水曜日の２時間ミステリであったんだけど、（かけこみ寺探偵とかいうタイトルだったかしら）、女の子がネットのチャットで狂言誘拐されてみたり、色んなことができるのに。
大体、ドラマはバッシングされてなんぼなのよ。『任侠ヘルパー』なんて、完全にその路線だと思うけど。
そこへ行くと、『救急救命病棟２４時』は誤診あり、嘘あり、妻が実験台にされたり、あり、で面白かったわ。完全に『ＥＲ』よね。
それから、直樹賞が決まりましたですねえ。北村薫は私も読んだけど、無駄がなくて、素晴らしい文章よね。でも、あまりにもすごくて、劣等感でじぶんが壊れてしまうから、最近は読んでいないの。無駄がないというのは、一面では大切だけど、これがないとなんか、つまらないの。例えば、西尾維新なんか、最初の４枚くらいで、スカートの中、パンティの様子を延々と描写しているの。これを削ったら、無味乾燥よね。直樹賞も、西尾維新とか、道夫秀介とか、舞城王太郎とかが受賞するようになったら、国民的な賞といえるけど、今年は、爺さんの爺さんによる爺さんのための賞だったわね。
来週は、『ブレイクスルー・トライアル』と『ＭＷ』の予定。
