由美姐9,10,11回目
由美姐の続きだす。明日は仕事、あさっては一歩会(勉強会&呑み会)なので、三回分どすえ。
(9回目)
八
道路を途中まで帰ってきたところで、いきなり企業舎弟さんたちに囲まれました。
闇を劈いて、ハジキの発射時の閃光が走りました。
脅しのようでした。無闇にハジキを使用いたしますると、数千万が飛ぶように法律改正がなされましてから、ドスでの攻撃が多くなりやした。
銃撃の音と同時に、藪の中を蛇状の物がうねりました。
長ドスでございましょうか。見たことのないお顔ですから、助っ人でも頼んだのでしょうか。
こやつ、体も細く、しなやかに横にうねっておるのでございやす。
双眸には最上級の凶暴性を秘めた光が宿っていまする。
「おのれ……覚悟しな……」
威嚇言葉にはもう慣れておりまする。
孟宗竹の間でそろそろと後ろに移動しますると、根っこに足をとられてつまづきそうになりました。
咄嗟に刀の切っ先が空中を切りまする。
頬の皮をかすりやしたが、動揺を隠し、緊張でいうことを聞かない足で土の上をさぐり、周囲に目を配りながら、隠れられる木を探します。
数名の敵のシルエットに涙が零れそうな緊張で、叫んで走り出しそうでおます。
身を守るドスがなかったら、そうしていたかも知れないでやす。
舎弟のお一人が蛇のようにすり足で移動しながら、ほとんど雲に覆われてきた空を見つめるでやす。
振り返ると、恐ろしい猛獣がよだれを垂らして待ち構えているのではないか、と思われまする。
それでも周囲に耳をそばだて、ゆっくりと息を吸い込みます。あえぐような息使いが自分の耳に伝わっただけでした。
敵の一人が、大きな杉の木の脇に立ち、自分の腕を守るように、じわじわと移動していまする。
男の周囲には杉の林が陰鬱に広がっていまする。
上空には風がうなっておりまする。
一部では黒雲は低くたれこめていましたが、別の場所では、上空を渡る強風のせいで、残り少ない髪の毛のような一刷毛の雲が見えまする。
ウ――――――ウ――ヲ――ン。
低いですが迫力に満ちた咆哮を放ちつつ、のっぽの助っ人の腕がヒュンと伸びました。そう感じました。
地鳴りを起こしそうな雄叫びとともに、長ドスが空中を舞って、わたくしの首をめがけて空中遊泳してきました。
相手の双眸は、闇に欄々と輝く巨大な火の玉でございやす。
背中に氷水以上の恐怖が走り、瞬時に大木の陰をめがけて跳躍しまする。何とか木の後ろに回りこみました。
シュッシュッシュ。
両方の腕が木を回りこみ、わたくしをめがけて襲い掛かりまする。
危険を感じたわたくしはドスを抜きました。
ですが、刃物を見ると、燃える双眸はよけい赤くなり申した。
「フフフフフ。そんなんで勝てるかな?」
男は嘯きながら、わたくしの頭を狙い、両腕と長ドスを振りまわします。
死にもの狂いのわたくしもドスで応戦しまする。
ギシュギシュ。
長ドスが幾筋かわたくしの腕に浅い創をえぐりました。
「いくぜ。覚悟しな」
繰り出された刀の切っ先を払いのけようとしますると、突然わたしの首の中頃に、強力な何かが打ちかかってまいりました。
峰打ちでしょうか。わたくしを失神させて、確保するつもりなのかも。
肩の付け根の骨が外れそうになりました。折れる寸前の不気味な音が頭蓋骨の中に響きまする。
――助けて!
叫びたかったですが声が出ないでおます。
一瞬、卵の殻のように粉砕される頭蓋骨を連想しました。
その時……。
大木の枝からいきなり何かが飛び降りてきて、男の頭にへばりつきました。トシでした。
枝を渡ってきたのでしょうか?
間に合いました。
助っ人さんは、倒れた拍子に自分の長ドスが顔に突き刺さったようで、うなり声を上げて逃げてゆきました。
企業舎弟の方々は、覚えてろと棄て台詞を吐いて逃げてゆきました。
ともあれ。
そんな訳で、あれ以来、ヤクザさんはこの土地を諦めたようでございます。
(10回目)
9
作者「じゃーん。ここで作者登場だよーん。がちょーん」
読者「どうしたんだよ?いきなり。それに、『がちょーん』は谷啓のネタだし」
作者「『がちょーん』はともかく、三年前、ブログで作者と読者を出して大ヒットしたんで、またやってみようと思うとるんじゃい。コマネチ」
読者「はいはい。あんさんの言わはるのは、限定読者しか知らない『ごくデカ』ね」
作者「うるさい。作者と読者の乱入は、すごい反響だったんだぜ。それに、任侠言葉もブームになって、一回目をアップしたすぐ後に任侠もののドラマが二つも始まったし、ビデオは借りまくられたし。ダッフンダ」
読者「で、今度は、どうせ、ダメで元々だから、二匹目の泥鰌を狙ったと」
作者「さいでんがな。ところで、ブログで人気が沸騰したときは、読者が先回りしてがんがん謎解きをしていたから、面白かったんで、あんさん、今回も、乱入して、筋を切りまくってくれはらへんかえ? チッチキチー」
読者「何や、急に? 気色悪。君がリードしなきゃ話は進まないのに、どうしたの、急にシナ作ったりして。あ、わかった。ネタがないんや」
作者「馬鹿。こんなところで、それを言うな。ゲッツ」
読者「やっぱしや。それに、ゲッツは天然記念物級のネタだし」
作者「じゃあ、グーグ、グー」(注。これは去年の8月に書いた作品なので、情報が古くて、メンゴ)
読者「だから、パクリばっかりだし」
作者「わかった。君がそこまで言うんなら、ここで重大な予告をする。もみじまんじゅうじゃー」
読者「だから、さっさと言えっつうの。大げさに構えるときはネタは小さいと相場は決まっておるんやから。キャッチ・アンド・リリース」
作者「そうきたか。じゃあ、言うぞ。今後は、任侠言葉に飽きたから、方言小説じゃー。
とりあえずは京都言葉でゆくぞー。ブログに『シリアル・ナンバー3』つう方言小説をアップしたときなんぞ、日本全国が方言に染まったんじゃぞ。
ああ、それから、地の文の自分の呼び方も、わたくしに飽きたからアチキじゃー。ダメ元なんて、そんなの関係ねえー」退場。
読者「やっぱな。もうネタ切れしてやんの。で、僕はどうやって退場すりゃ、いいの? て、ゲッツ。ターン&リバースでいいか――」
(11回目)
第二章
一
十二月十五日。
おばんでのす。
あんなあ、山猫組のおぼっちゃまを使うて一芝居打ってから数日後の夜のことでおます。
懐かしいお人はんから電話がきはりましたんえ。
何でも、捜査に協力して欲しいんですやとか。
電話の主は、アチキの姉貴の由美(二十三歳)でおまして、ついでにアチキの前の姐。つまり初代葉桜組の姐でおます。
三ヶ月ぶりの電話どした。
電話を受けたアチキは、即、ほんまに即、断りましたんえ。
「あだよ。何で、アチキがマトリの捜査に協力しなきゃいけねえんだよ」
マトリとは、麻薬取締り官、別名麻薬Gメンのことどすえ。
キャリア組以下の刑事と同じく地方公務員でありんすが、秘密を要する仕事柄、ほとんど世間にその活躍ぶりを知られることはございませんのどすえ。
それに、危険でつらい仕事でおすさかい、いつも人材不足なのでございまする。
ほんまでっせ。で、本来なら、二人以上の行動が義務つけられおりますが、単独行動しなければならないことがあるのでおます。
姉貴の気性が激しゅうて、危険な場所に、率先して潜入してしまうからどすえ。
ゆえに相棒はんのなり手がなくて、往生してるんでおます。
そんで、どないしても相棒が必要になりおした時は、勝手に、アチキにバイトを頼んでくるのでございまする。
勿論、正規の相棒ではございませんよってに、お金は払って貰えませぬ。
お礼は、姉貴が経費で落としはったブランドのバッグだったり、いかがわしい粉――潜入先でちょろまかしたコカインなど――だったりするのでございます。
「そんな冷たいことを言うないな。二人しかいねえ姉妹だろうが。ちーと変装の名人に協力を頼みてえことが生じたんじゃい」
姉貴は、思うてもおらへんことを、よく滑る口で、よどみなくおしゃべりにならはりました。
大体、姉貴のほうがほんまは、変装の達人でもおます。
銀座のチーママだろうと、六本木のキャリアウーマンだろうと、実に見事に変装してみせまする。
尤も、麻薬や覚せい剤を密輸しようなんぞと企てるのは、極道が名前を変えた企業でございますよってに、銀座のママと六本木のキャリアウーマンなんて、それほど詳しく知っているのではございません。
よって、それっぽい服を着て、それっぽい言葉を並べたてれば、一瞬で役にはまり、相手は大概はだまされてしまうのでありんすが。
「どうせ、企業舎弟のいる事務所かなんかに潜入するような仕事に決まっておるんや。誰がまんまと騙されて、そないな危険な仕事をするかいな」
アチキがケータイを切ろうとしますと、何かを含んでいそうな声が指とケータイの間から素早く漏れてまいりましたえ。
「まあ、まあ、まあ。そないに目くじら立てるないな。とりあえず、十分くらいしたら、面白い電話がはいるから、楽しみに待っておれや。わての申し出は、それからごゆるりと考えてみるがいいがやき」
電話はそこでぷつんと切れましたでんなあ。普段使わない方言を使う時は、要注意なんでおます。
アチキは、いやーなもんを感じて、周囲を見回しました。
今は、週末ですさかい、早めにバイトを終えて家に帰っておりますえ。
皆川家は山手町の外人墓地の近くにありまする。高台で、トシの店からは近くでおます。
南には港の見える丘公園、大沸次郎記念館、西にはブリキのおもちゃ博物館、ヨコハマ猫の美術館(お店)などがありおすえ。
そばにはフレンチ・レストラン・山手十番館、ベーリック・ホールなどもありまする。
山手十番館の庭には、市内で唯一の木造西洋館、山手資料館があり、館内には蓄音機や、西洋瓦など、外人居留地がありおした当時の様子を伝えるものがあるのどすえ。
ベーリック・ホールは、昭和五年完成の現存する山手外人住宅の中では、最大規模の建物でおます。
イギリス人貿易商ベーリックの私邸として建てられたものですが、昭和三十一年から平成十二年までは、セント・ジョセフ・インターナショナル・カレッジの寄宿舎として使われておりました。
中は、中世的な雰囲気が残る多彩な装飾がほどこされたスパニッシュ・スタイルで、両方とも、よく散歩しますえ。
うちは、概観はお洒落なコロニアル形式でおますが、内部は、改装に改装を重ねた結果、東洋と西洋の混じった不思議な雰囲気になっているんですえ。
紫檀のチューダー王朝風の食器棚や螺鈿の事務机が陣取っております。
ここは祖父母の家どした。
父親は、アチキが小学校の時に極道を止め、その後は不動産業なるもん――山猫建設と同じレベルのもんどす――を営んでおりましたが、ヤクザとの関係が切れぬよってに、自分だけはマンションに住んでおりましたのどす。
うちらと母親は、ここで一緒に住んでおったのどすが、数年前に、両親とも、海外に移住してしまいました。
よって、今では姉貴と二人で住んでおるんでおますが、姉貴は仕事柄、日本各地を転々としてますゆえ、アチキが使っておるだけですのえ。
えー、日本各地をという部分を少し説明しなきゃ、いけませんかいなあ。
姉貴は、性格が激しいよってに、しょっちゅう、勤め先のマトリの上司はんと喧嘩しはって、殴ってしもうたりして、クビになるんどす。
よって、半年から一年単位くらいで、あちこちの県を渡り歩くと、こないなことになっておりますのえ。
ところで、昨晩は、ちーと飲みすぎてしもうたのんどす。
頭蓋骨の内側で神経性の痛みが反響しているような不快感を抱えたまま、ホールの出窓からカーテンを微かに開けて外を見渡しおした。
深夜にもかかわらず、東側の元町や中華街にはネオンが明るく輝き、横浜港の周辺も明るくライトアップされておりまする。
待ちくたびれて、キッチンへ行き適当に冷蔵庫から飲み物を出した頃、ようやっと電話が入りましたえ。
(続く)
追伸。昨日の「法医学教室の事件簿」について、少々。(名取裕子が主演している奴)
内容。大学の女理事長が殺されるの。それで、そいつが浮気していた男と、△(三画)関係だった女が疑われるの。それから女理事長の夫と付き合っていた女も疑われるの。
しかし、二人ともアリバイがあるの。でもって、名取は、その片方が怪しいと判断するの。でも、どういう訳か、新聞には、その女(名前を忘れた。「あなたも狼になりますか」という歌を歌っていた人)が犯人に断定されたような記事が出るの。こいつをAとするわね。
で、Aは、アリバイもあるのに、断定されて、仕事を首になるの。で、怒って、名取に復讐をしてやるといってくるの。
で、ネットで色々中傷されて、世間では、こいつが犯人て感じになるの。で、ここにルポライターが登場するの。そいつは、(Bとするわね)Aの過去を調べているの。で、Aの娘が、昔、虐められていて、ある日、その相手が川で不審死をしたのを、Aの娘の仕業だと断定し、Aをゆすっているの。
で、ここに色々と複雑な要素がからんできて、話はややこしくなるんだけど、今度はBが殺されるの。
名取は、初心に帰って、傷を逆回しをして犯行を推理しようとするの。それは、ある倉庫の中なんだけど、遺体が燃やされそうになっていたのね。でも、その前、殺されるときに、色んな傷がついているの。それをたんねんに探していって、殺害は、倉庫の二階でおこなわれたことを突き止めるの。では、なぜ、それを隠して、一階でもやそうとしたか?
それは、二階になにか自分の遺留品を落として、それが回収できない状態になっているんじゃないか、と考えるの。
それで、丹念にさがすと、Aのイヤリング落ちているんだけどね。でもって、最後には、Aが子供を庇って、自分だと言い張ったことも分かるんだけどね。
で、感想。非常によくできているんだけど、情報が多すぎて、息が詰まったわね。どうしてだろうと考えたときに、遊びがないからだと思ったの。
ええと、よくあるじゃない。トラベルミステリーなどでは、旅行地の景色が多く入るし、それから、「家政婦は見た」などでは、家政婦が覗きまわったり、こっそり高級な食材を食べてしまったりする遊びのシーンが多く入るから、飽きないのよね。
それから、「室生??」では、左トンペイがひょうきんな脇役で笑いを取ってくれたから、情報はそんなにおおくなくても飽きなかったのよね。
このシリーズでも、そういう遊びのシーンが入ると、もっと情報が整理できて、飽きないと思うわ。例えば、名取がご近所の役員になるとか、カルチャーで無理難題をおしつけられるとかね。
そういえば、左トンペーみたいなひょうきんな名わき役がいなくなったわね。懐かしいわ。