殺戮中、2回目。


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粗筋。佐渡で、『殺戮中』というゲームが開催されている。これは5日間戦って、隠されている1億円を奪えば、自分のものになるというもの。参加者の衿と新興宗教のラーの参加者が3人戦った。一方、セレブたちは、この戦いをモニターで観戦して、誰が勝つかに賭ける。

  6

――セレブ室。数十分後。
モニターでは、『衿付きのカメラマン』がさっき闘争があった場所から中継をしていた。
このゲームでは、原則として、カメラの前で殺戮をするのであるが、別に、カメラのないところで、殺し合いをしてもいい。
 今回は、ゲームの始まるちょっと前に、衿が、胴元を縛り上げ、一億を奪ったとの情報が流れた。それで、宗教団体・ラーから参加していた三名が、衿と友達の安代を襲ったのだ。
 しかし、衿は、弱そうに見えて、最終的に追い込まれると、人格が変わって、相手を殺す。
 今回も、殺戮のあった七浦海岸に二人の人間の体が転がっていた。一人は海に落ちたようだ。
モニターの中からカメラマンが中継をする。
「ここは七浦海岸。暗い波がうねっています。一人は完全に死んでいるようです。耳を食いちぎられています。首も食いつかれ、胸にナイフが刺さっています。あ、もう一人は、息があるようです。こういう場合、どうしたらいいのでしょうか? 救急車を呼べば、助かるかもしれませんが、そうすれば、『殺戮中』ゲームのことが警察にばれてしまいます。あ、何か言っています」
 カメラマンが、耳を死にそうな男の口に近ずける。
「え、自分を殺したのは、衿? はっきりと衿と言いました。あ、そして、死にそうです」
 横たわった男は、ぐったりとなった。
「ああ、これで、救急車をよぶべきかどうか、迷わなくて、すみました」
 
死体の様子は、腕が変な方に曲がっている。
バイクが二台、横倒しになっていた。
近くの倉庫の中には、天井近くに梁が掛かっていて、そこにロープが結び付けられていた。それも二本。撮影カメラもあった。小型のだ。
カメラマンのカメラが外にパンした。
 小屋は暗い小道の先にあった。小道は、林に囲まれ、林の途切れたこちらには、道祖神や地蔵がある。地蔵には、赤いよだれかけと菅笠がかけられ、足元には団子がいくつか、はげかけた器に入れておいてあった。
遠くから、御神所太鼓の音が聞こえる。
「安代はどうしたのでしょう。あ、ここにメモがあります。読みます。私、脱落する。おお、早くも脱落者がでました。これで、死んだ三人を含め、参加者は四人減ったわけです。では、スタジオにお返しします」

セレブ室。
「胴元さん。用意した一億は衿に強奪されたとか」
 脚本家が胴元に話しかけると、胴元が重苦しい声で答えた。
「ああ。顔は隠していてわからなかったが、声が吉川衿だった。でも、男みたいに力が強かった。私が一億を、ホテルから持ち出して、車に積んだ直後だった。油断していた。暗号を書いて、どこかに隠す前だった。パーティの始まる三十分くらい前だったから、かなり遠い所に隠せるだろう」

   7

 ――数分後。マンションの一室。
 さやかはパーティが開かれているフロアーの下にあるマンションの一室を訪ねていた。
 実は、ここは、兄雄太の部屋である。ゲームにセレブAとして参加している兄は、ここに住んでいるのである。
「ワインでもシャンパンでも、好きな物を出して、飲んでくれよ。グラスの置き場所は知ってるだろ。一年以上も通いなれた部屋だから」
 チャップリンの映画みたいな、黒と白のレトロ・モダンに統一された雄太の部屋。
ソファーの上に横になって、頭にアイスノンを乗せた雄太が、かったるそうに、呟いた。
二週間ほどまえに罹った腎盂炎がまだ完全に直りきっていないのだとか。昨日、電話で、尋ねる旨を告げた時に、その件は、おぼろげながら、聞いていた。
でも、今日を逃したら、また、遭える機会が遠のいてしまうと判断したのだろう。まだ熱っぽいとは言ってくれなかった。
ただ、もう九十九パーセント直ったから、無理しなければOK、と言っただけだった。いや、はっきり言うと、激しく抱き合いさえしなければな、と皮肉っぽくいったのだが。
激しく抱き合うことが、何をさすのか?
さやかはちょっと考えてみたが、いくら考えてもわからない。
正直に言うと、今まで、物理的に激しく抱き合った思い出はない。喧嘩は激しいが、セックスは、やさしく子犬が舐めあう程度ばかりだった。喧嘩の最中は、ののしりって、なめあって、涙をすすり合うんだけど。
ならば、問題はないじゃん。
それに、さやかとしても、交通事故の後遺症で、まだ体の調子が良くなくて、皮膚の内側に熱を抱え、めまいもする状態だったから、今は慰めあいつつ繋がるほうがありがたかった。
「情けないね。あんな卑怯な手を使って、君を引き戻すなんてさ」
さやかが、二人分のシャンパンを注いで、ソファーに戻ると、雄太は上を向いて、タオルを巻いたアイスノンを眼の上にずらしたまま、呟いた。
あんな卑怯な手とは、映画プロデューサーの友達を使って、の意味だ。
雄太の友達と名乗る男からも、プロダクションは力があるから、雄太のご機嫌を損ねないほうがよいよ、とご忠告の電話があったのだ。
「そうね」
――この世の中に、卑怯でないことなんてあるのかしら?
さやかは自問する。さやかはアイドルを目指している。兄は、金があるから、映画製作に乗り出している。最初は、その映画の主役にさやかを指名してくれたのだが、ちょっとしたことで、さやかと意見が合わなくて、今は、製作休止になっている。
さやかが中性的な女子高生を希望したのに、兄は、なよっとした女子高生を想定していたのだ。さやかとしては、妹という強みがあるから、折れないつもりだったが、兄の友達のプロデゥーサーは、兄の意見に従わなければ、外されることもありうると、暗に教えてくれたのである。
気の強いさやかとしては、一億を手に入れて、自分で映画製作をするつもりだった。いや、できるのなら、胴元たちが賭けた十億を奪うつもりだ。
そのために、兄に協力を仰ごうと、ここへ来たのだった。
雄太はアイク・アンド・ティナ・ターナーが好きだから、パイナップル・ヘアーの鬘と、鎖や鋲のついたレザー・ジャケットにダメージ・ジーンズだ。
冷えたシャンパンのグラスは、冷えた指先を温めてはくれない。
でも、その冷たさは、変に居心地が良くて、耳の傍にグラスを押し付けて、プチプチと軽くではあるが、間断なく泡のはじける音を聞いてみる。フランスの田舎で瓶に封じ込められた泡だ。
「それに、せっかく、無理して引き戻したのに、満足できるセックスをできるかどうかも分からない」
さやかの沈黙に耐え切れなくなったのか、ソファーに横たわっている雄太が、肘から先と、足の下半分だけ居心地が悪そうにかすかに移動し、身じろぎをする。
「そうね」
自分のしたことに引け目を感じて、相手が譲歩してくるのを切望している彼は、少しでも心を開いて受け入れてくれる相手をほしがっている。
それを、さやかはよく知っていながら、わざとそっけない返事をする。

「だけど、君が怒っていないのならば、そう、怒っていないのならばの話なんだが、できれば、一晩、泊まっていってほしい。横で手をつなぎあって眠るだけでもいい。ゲームの先は長いし」
直角に置かれたソファーに座る私の膝の上に、遠慮がちに雄太の手が下りてくる。
さやかは黙ったまま窓の外を見ている。
カーテンのない窓の外には、南イタリア風の、暖色系のレンガの壁と、オリーブ色の細い枠、鉄のオブジェを配した出窓などが見える。

意識がゲームに戻る。
殺しあいの後は、絶対に逃げてやる。でも、異常な心理状態だから、何かやっていなくては間が持たない。今は、セックスで忘れていられるが。
それにしても、脚本家さんは、何かを考えてくれるだろうか。三百万で、さやかが生き残るように脚本を書くと言っていたが。でも、当分は澪の部隊に所属していれば、安全だろう。
   
雄太の指先が、ゆっくりと乳雲の外側をめぐり、乳首の周囲に這ってきたので、意識がまたそれた。
指はついと、乳雲の周囲を取り巻く、薄いでこぼこに気がついて、注意深くさぐる。
「刺青か?」
「タトゥと言うのよ。今は」
「いつ、入れたんだ?」
「先週。バイト先によく来るお客さんに教えられたの。近くでやってくれる人がいるからって。安室奈美江がやっていて、いつかはやりたいと思っていたの。それだけ。別に深い意味はないから」
 さやかは年齢を偽ってキャバクラでバイトをしている。
薄い肉の表面をえぐった形跡が、間欠泉の噴き出す前の水の表面と同様にちろちろと揺れている。
「刺青、入れるとき、痛いんだろうなあ?」
彼の指は、幼稚園に入ったばかりの子供が、初めて隣街の都会めいた顔つきと髪型の少女にみつめられて、どぎまぎした時の如く、恐る恐る、いつくしむように薄いでこぼこをなぞる。
「電動の針が蜂の針みたいに刺すんだろう?」
乳房の上で軽く震えている彼の指先が、なぜか、乳房の一番深い部分までを疼かせる。
乳房の表面が揺れている。切れかけの蛍光灯じみて、頼りなく、せわしなく、ふるふると震えている。
彼は疲れたのか、そこで、大きく息を吐くと、どさりとソファーに座りこんで、さやかのお尻の上に頭を乗せた。
息苦しいほどの束縛からついと解放されたさやかは、再度、窓の外に視線を泳がせた。
今日もさやかはずるずると疲れる、自分の分裂と葛藤に疲れる、だから、というわけではないが、兄を壊したくなる、自分が壊れるのと同時に、彼も引きずり込んで落ちてゆきたくなる。
それにしても、何か、ゲームに勝つ方法、考えなくちゃ。

さやかは、振り向いて、雄太に向かい合うように、オットマンの上に足を開いて座り、彼の顔を両手で挟みこんで、上に向かせた。
どうすればいいのか分からない、と呟いている彼の眼が、さやかを見つめ返した。
「私の中の血がね、雄太を欲しいと、言っているから」
さやかは、彼の額と、眉尻と、こめかみ、頬の上、鼻の脇、唇の端に、軽いキスをしていった。
彼はただ、眼を瞑って、セーターを捲り、さやかの胸の上に指をのせていた。
雄太はわざわざ後ろにまわり、さやかの肩から胸を、両手で、しっとりと包みこんだ。
「お前からやってくれよ。主導権は渡すからさ。俺からじゃ、ダメだ」
 わずかに震えながら、でこぼこのアラビア文字をたどる右手を、さやかは、ゆっくりと包み込んで、掌に収めた。
大きな手は骨ばった甲も、ペンだこのできた指も、深くシワの刻まれた掌も発熱していた。
彼が体を震わせた。かすかな泣き声がする。
さやかは、自分のセーターと下着を一緒に首から上にひっくり返して脱いだ。
そして、ブラジャーのホックもはずす。
ぎこちない動きの彼の右手が、さやかの乳房の上の、アラビア文字のでこぼこをなぞり、やがて、乳房を包みこみ、反対の手が、ブラジャーの肩紐を、肩からはずした。
彼の頭が、重くて支えきれないという風に、さやかの肩の上に落ちてきて停まった。
しばらくそうしていた後、また大きく息を吸い、熱で乾き始めた唇が、肩からうなじにあがりかけ、それから、髪の毛をどけるのが面倒くさかったのか、方向を変えて、腕に沿っておりてくる。
「やっぱり、今日はやめておけばよかったかな。さんざん迷ったんだ。だがなあ、一回、断ると、永久に君が手に入らないような気がしてさ。うん、ちっと、無理してしまったな」
彼が、体を離して、向こうにあるソファーに倒れこんだ。手はさやかの腕をもったまま、離そうとしない。誘いの意味であることは知れている。
でも、元気がないのか、さやかの体を、倒れこませられるほど強い引きではない。
腫れ物じみ、借り物じみた腕に捕まれたまま、さやかは、反対の腕をオットマンの上につきたてて、立ち上がり、彼の上におおいかぶさった。
兄は、驚いたような、でも、期待通りだったのに満足したような、あるいは、あんまりスムーズにこちらが従ったので、逆に怒った顔をして、さやかの唇を受け止めた。
熱っぽくてだれがちになるさやかの唇が、彼の迷っている意思とはうらはらに、強く彼の唇を求めてゆく。
半年前、喧嘩して会わなくなって以来、初めて、いや、それ以前にもなかったほど強く、さやかは兄の唇を吸った。
期待と諦めの交互に見え隠れするため息が漏れる。
自分でもままにならないでうっとうしい想い、ずっと求めていたのにいざとなって役にたたない体、不意に自分を裏切る脱力感、心の底で望んでいたせいの震え、そういったもの全てを、彼は、自分で背負い込んで、なんとか上手く処理をしようとしている。
いつもそうだ。
前は、さやかは意地悪く、そういうものをわざと受け止めないようにしていた。
でも、今は違う。受け入れて、二人で助け合いながら、セックスしようと思う。でも、でも、こんなのはセックスではないと知っている。慰めあいでしかない。
でも、それでもいい。
「君に主導権をわたすよ」
兄が同じ言葉を吐いた。頼りない感じで、やっと自分の体を律している彼。
どうにでもしてくれと言いたげに両手をだらりと落とした。さやかは両手に力を入れて、自分の体を剥がし、自分の服を脱ぎ、彼の衣服をゆっくりと脱がす。
「まるで、ビデオみたいだ。どうせなら、メイド服を着てもらいたいな」
少しだけオタクの気のある彼が、だるそうに顎を上げて、クローゼットを指した。
イタズラっ気を出したさやかは、くるりと後ろを向き、クローゼットに近づき扉を開いた。
中にずらりとメイド服がある。少々驚きながらも、前から会話に時々登場していたので、それほど違和感も覚えず、中から、ギャザーの一杯ついたエプロンを取り出し、戻りながら着用し、二人の下着も脱がせた。
彼の眼がきわめて嬉しそうに細められる。
「こんなことなら、もっと早くからお願いしておけばよかった」
乾燥しはじめた唇を舐めながら、彼がだるそうな息をつく。胸に細かい汗が浮き出して、それが胸の中心線で大きな一滴の汗になり、わずかに横を向いた拍子に、下に流れ落ちる。
さやかは、兄の背中にある昔の注射器の跡に指を這わせ、そこが大きく息をつくのを感じながら、なぜか傷が喜んでいるように思われて、二つの体を繋いだ。
うん、とも、ああ、とも判別のつかない、上ずりぎみの声が、太い喉から漏れる。
両目はきつく閉じられている。
心配は無用だった。二人はちゃんとつながりあうことができた。
だらりと下がっていた右手が、しだいに上に上がってきて、さやかの背中のわずかに発熱している傷跡をなぞり、大きく息を吸い込んで吐いた。
そして、傷からわき腹に流れ、腰、お尻、太もも、膝へと、指は順番になぞってゆく。
このまま、二人が死んでも、自分は嬉しいかな?
さやかも眼を閉じたまま、静かに揺れ、低く呟いてみる。
部屋の中は、エアコンの作動音だけが響いており、さやかの声は、その口に吸い込まれるように消える。
「俺も、死んでも嬉しいかな?」
彼が、左手でさやかの唇を招き、さやかは、そこへ求められるものを移動させてゆきながら、深く舌を差し込む。舌と唇で、彼の口の中の味も唾液も、倦怠感も吸い尽くそうとする。
さやかは上半身を離して、動くわよ、腎臓は用心してね、と冗談めかして言い、眼を閉じた。
彼が唇をかんで、あごを上げ、きつく唇をかむ気配がする。
二人の呼吸が乱れた。それから、脈拍も上昇して、小さい叫びにも似た呻きと、痙攣にも近い手足の動きと、筋肉の緊張で、二人は、充分に満足の域に達していた。
そして暫くの間、筋肉は動きを止め、じょじょに、ゆるやかに弛緩していった。
すべてが収束したあと、さやかは、大きく息をつきながら、同じく荒い息をしている、彼の胸の上に倒れていっていた。

「ところで、お願いがあるんだけど」
 終わったあと、さやかは低く切りだした。
「なに?」
「ほかでもないんだけど、例のゲーム。私が勝つように画策してほしいんだけど」
「君が勝つように?」
「そう。当分は、澪也の部隊に所属したから、安全だと思うんだけど。でも、最終的に澪也が一億を手に入れたら、彼から奪うよう作戦を考えてほしい。支援部隊も用意して欲しい」
「そうか。僕も、君には勝って欲しいから、協力は惜しまないつもりだが。それより、澪也は簡単に君を信頼したのかい?」
「ええ。ホルマリンのプールに突き落としてやって、救いだしたと思わせてやったら、簡単に信じたわ」
「まあ。君のことだから、ぬかりはないと思うけど」
「ふふふ。褒め言葉だと受け取っておくわ」
「で、具体的に、何をして欲しいんだ?」
「そうね。まずは、私に賭けてね」
「当然だよ。そして君が生き残るために、なんでもするよ」
「そうね。それから、胴元の元に集まった十億を借り出して欲しいの」
「何か、いい儲けぐちでもあるのかね」
「そうね。絶対に二億や三億は儲かる話があるの」
「ほう」
兄の眼の色がかすかに変わった。
「まだ、具体的に教えられないけど、そのうちケータイするから、胴元に話だけは通しておいて欲しいの。一時借りるって」
「OK」

   8

――数分後。セレブたちのいるマンション近くのフードコート。
今、フードコートではラー主催のパーティが開催されている。フードコートは千平方メートルもある。
 ラーメンやお好み焼きなど、いくつかの店が壁に沿って並んでいるが、眺望も売りなので、店と店の間は窓のスペースがあり、外が眺められる。
 パーティは午後の七時から始まった。ダンスパーティだった。さっきまではラテンなどの激しい曲が流れていたが、今はチークタイムでスローな曲になっている。
 フロア―のほとんどはダンスのスペースになっており、王や王妃や執事などに仮装したお客がダンスをしている。
 テーブルやイスは周囲に片付けられ、蔵前明人(あきと)はその一つに座っている。
 明人はラーの中の責任者である。
 今回、ラーからは七人参加している。すでに三人殺されたから、残っているのは四人である。
 さっきまでは、ゲームが始まってすぐということもあり、麻薬をやりすぎてしまったこともあり、勝手に三人が衿と戦闘を開始してしまったが、三人殺された時点で、少し冷静になり、今後はチームで行動するという命令に服すると誓った。
 明人の前には衿がいる。椅子に縛りつけられて、ねむり薬を打たれて、眠っている。眼球が片方ない。その眼球は、衿の横の机の上に、血まみれで放りだされている。
 さっき、三人目が殺された後、ラーの残りのメンバーが駆けつけて、衿を確保したのだ。そして、一億円の隠し場所を吐かせようと、眼球に指を突っ込んで、拷問したのだ。しかし、衿は吐かなかった。というより、知らなかった。
「どうやら、多重人格のうちの一人が金を隠しており、そいつは、衿を支配する人格で、そいつのことは衿は何も分からないという噂は本当のようすねえ」
『ラーD』が吐きだすように言った。ラーの人間は、明人以外は、A、Bと登録しているだけである。
「そのようだなあ。あれだけ拷問しても吐かないってことは、そう考えるしかないなあ」
 明人もうなづいた。
「そうなると、別人格が現れるまで待つしかないってことっすか」
「ああ。だが、待てよ。俺に考えがないこともない」
 明人はゆっくりと立ち上がった。

続く。