殺戮中9回目


アルファポリスのドリームブック大賞に応募中。7月になったら、投票お願いします。バナーから投票できるので。本当に感動した人は、次のアドレスから市民登録の画面に飛んで、市民登録してから投票してもらうと、一気に500ポイントが加算されるので、ぜひ、よろしくお願いします。投票者には10万円が当たるので。
http://www.alphapolis.co.jp/citi_cont_prize_expl_vo.php
粗筋。
第一章。佐渡で『殺戮中』というゲームが開催されている。これは5日間戦って、一億を発見すれば、それが手に入るというもの。現在、衿がラーの三人を殺して、どこかへ隠した。だが、別な人格が隠したので、衿は拷問されても、吐けない。明人は、いいアイデアがあるという。一方、さやかは巨大コンツェルンの御曹司の澪也を手に入れる。セレブの兄に頼んで、誰が生き残るかに賭けられた賭け金の10億を借り出させる。
第二章、三章。
連続殺人犯の時雄は、昔、小型機を墜落させたのがトラウマになっていて、被害者の眼球をえぐる、を繰り返している。衿は動物とインターフェースする機械を使って、捜査に当たっている。時雄は、整形手術を繰り返して、現在の顔は不明。だが、指紋から、明菜という女が犯人だと判明。で、明菜から呼び出しがくる。戦って、衿は撃たれて死ぬ。でも、死なない。


    8

――八階、食堂の外のカメラマン。
 カメラマンは脚本家にケータイをしていた。
「あのう、八階の食堂がテロリストに占拠されたようです。病院の入院患者と家族と看護師たちが三十人ほどいて、仮面舞踏会の衣装で、誕生会が行われていました」
「テロリスト?」
「はい。マラリア蚊を散布されたくなかったら、百億だせと、政府に要求したようです。その要求をニコニコ動画で流したようです。私は外に追い出されてしまって、今、ガラスのドアから様子をみているんですが。中の会話はドアの隙間からなんとなく聞こえるんです」
「どういうことだ? ずいぶんタイミングのいいテロリストだなあ」
「ええ、ディレクターさんの演出じゃあないんですか? さやかちゃんが、ディレクターさんに言われて、八階へ来たように言っていましたが」
「ちげーよ。俺は命令してないよ」
「ええ、じゃあ、誰の命令なんでしょう」
「さあ。つうか、まあいいや。本物のテロリストかもしれないし。面白いじゃん」
「うーん。タイミングがよすぎるので、セレブの誰かの命令かもしれないですね」
「そうか。面白くするためにか。ありうるなあ。俺たちに知らせたんじゃ、面白くなくなっちゃうもんな」
「ですよね」
「わかった。そういう可能性もあると考えて、このまま続行する。二人は、その場所にはりついて、映像を送ってくれ」
「ラジャ」

   9

――十数分後。八階の食堂。
時雄は人質の後ろに隠れて、小型パソコンのニコニコ動画に新しくアップされた映像を見ていた。前にテロリストがアップしたものらしい。
 映像は次のように始まっていた。
「さてと、マラリア蚊の実験をしてみたいと思う。これが本当のマラリア蚊であると信じてもらうために」
 喋っているのはジークフリートの声だった。
 モノ黒の画面には仮面を外した一人の女が写っていた。髪を後ろで束ねていた。
同じ部屋の中で、防護服みたいなのを着たジークフリートが「蚊を放て」と命じると、CCDカメラを持っている男が、別の手で、蚊の袋の封を剥いだ。
一斉に蚊が放たれた。女が、逃げ始める。
「これはマラリア蚊の宿主であるハマダラカである。遺伝子操作で温帯でも大繁殖させられるように改造した。マラリア新型インフルエンザよりも場合によっては深刻な脅威となる」
ジークフリートの言葉に合わせるかのように、女は、蚊を手で追い払いながら、部屋の中を逃げ回る。宇宙服みたいな重装備の男がカメラを持ってそれを追う。
「熱帯熱マラリアは、別名脳マラリアと呼ばれる。原虫感染した赤血球が、脳の血管を詰まらせ、マラリア脳症を起こさせる。急性の腎炎を起こし、かなりの確率で死に至る」 
 ジークフリートの解説の間中、女は逃げ回っていたが、しかし、ついに数か所刺されたようだった。薄暗くてよく分らないが、女が顔を覆い、手を外すと、顔と手が真っ赤になっていた。
女が、顔をぱんぱんと叩くと、叩いたところから、真っ赤になった。熱い熱いと連発している。ついには服を脱ぎ始めた。鼻を覆うと、どろりと血が滴り、じきにぐったりとなった。
「可愛そうに、こいつは、二十四時間以内で、あの世行きだ」
 ジークフリートが嬉しそうに言った。
「さあて、これから三時間待って、日本政府からコメントがなければ、この蚊を佐渡の空にはなつ。それと同時に人質も開放だ」
 それで映像は切れた。

   10
 
 ――同じく食堂。数分後。
時雄はポケットの中の小型パソコンで、めくら打ちをしながら、ブログを更新していた。
ケータイは写真機能がついているので回収された。ふとした瞬間にテロリストが仮面を脱いで、その瞬間に写メを撮られたら困ると思ったのだろう。
でも小型パソコンのことは何も言わなかったので、黙っていた。
「今、僕はテロに遭遇しているんだよ。ツイッター風に言うと、テロだなう、だにゃあ。気分上々だね。だって、テロだよ。まるでアラブじゃん。本当に金が目的なんだろうか。佐渡の田舎で、マラリア蚊を放つんだって。どれくらいの効果があるんだろうね。政府は本気にして百億だすかね。ありえねえ」
 そうは打ちながら、別のことを考えていた。
 ――殺しあいが起こればいいのに。
 それも目玉が飛び出すくらいの。そうすれば、♪セーラー服を、エルロン、♪になるもの。
目玉欲しいなあ。細い血管のついた目玉を掌で転がすの。ちょっと暖かくって。最高。
「それにしても、興奮したら、おしっこ漏れそう」
 その時、時雄の横にいた男の子が母親に向かって告げた。
「おしっこ」
 時雄は、このときとばかりに手をあげた。
「あのう、この子がおしっこにゆきたいようなんですが、いいですか」
 顔を向けた先にはジークフリートがいた。
「アルベリヒ。連れてゆけ」
 おしっこと聞いた瞬間、一瞬だけ眉根にしわを寄せたジークフリートは、小型パソコンでニコニコ動画などから情報収集をしていたようで、面倒くさそうに首を回すと、アルベリヒに命じた。
「こっちだ」
 アルベリヒが男の子の前に立って招いた。
ブービー・トラップがあるから、気をつけて、またげるか」
 男の子が母親に手を引かれて、人質の間から抜け出した。
「あ、僕も」
 時雄も立ち上がった。他にも十人くらいが手をあげた。
 最初にアルベリヒ、男の子の親子、時雄、他の十人、最後にもう一人のテロリストがブービー・トラップの外に列を作って、そろそろとトイレに向かった。最後のテロリストはピエロの面をかぶっている。
 トイレは食堂の外、階段のそばにあった。
 トイレに到着すると、時雄はいきなり男の子をアルベリヒの方へ突き飛ばした。
 悪いとは思ったが、逃げ出して外の人間にコンタクトを取るにはこれしかない。
「あ、何をする」
 相手が怯んだ隙に階段を駆け降りた。最初は登ろうかと思ったが、ブービー・トラップが三本と多かったので、一瞬で降りる決心をした。降りるほうはまだ一本だけで、飛び越えられそうだった。一段抜かしなら、投げ入れられた椅子も飛び越えられそうだった。
 時雄は、決心すると迷わずに階段を飛び降りた。
「追え」
 後ろにいたピエロの仮面の男が叫んだ。
「は、はい」
 アルベリヒがおびえた声を出し、一段抜かしで、遅れて追ってきた。

   11

――数分後。八階ロビー。ダクトの傍。
『時雄付きのカメラマン』が、脚本家にケータイをしていた。
「はい。さっき、時雄が走って出てきました。一回、下の階を回って、また戻ってきたようです。後ろからアルベリヒと呼ばれる少年が追って出てきました。今、確保しています。時雄ですか? 今、ブログを更新していると言っています。内容はわかりませんが、どうせくだらない内容でしょう。あ、今終わりました」
「ごめん。中の内容は僕のブログを読んで」
時雄が自分のブログのアドレスをカメラマンに教えた。
「で、どうしましょう」
『時雄付きのカメラマン』が脚本家に聞いた。
「何とか中にもぐりこめないか?」
「中に、ですか? でも、カメラは持ち込めないですよ」
時雄が隣から口を挟んだ。
「僕なら、めくら打ちで、中の様子を実況中継できるぜ。つうか、さやかちゃんも小型パソコンをポケットにかくして同じことをやっていたけど」
「だそうです」とカメラマン。
「じゃあ、そうしろ。時雄に中に戻ってもらって、ブログを更新してもらえ。カメラマンはそこに残って、扉のガラス越しの映像を送ればいい」と脚本家。
「ラジャ。僕はトイレ終わったから、戻る。僕、こういうの大好き」
「じゃあ、そうしろ」
「ああ、今、年寄りが一人トイレから帰ってきました。後ろからテロリストと一緒について、時雄を中に戻します。おい、アルベリヒ」
 と、カメラマンが少年に呼びかけた。
「後ろから時雄がナイフでつっついているからな。余計なことは言うな。どうせセレブの誰かに頼まれたのだろうが、最後まで我々を裏切るようなことはするなよな」
「セレブに頼まれたって、どういうことですか? 我々は、ラーの明人さんから命令されて、純粋にテロだと。日本に維新をもたらすんだと」
「ああ、そういうことか。明人も一枚からんでいるんだな。わかった。なんでもいいから、黙って、さやかの命令に従え」
「アイアイサー」
 弱々しい声が答えた。
 年を取った男の後ろから、時雄とアルベリヒは中に戻ろうとした。後ろには十人ほどの人質が続いていた。しかし、その時だった。
ズキュ。
中から、重い銃撃の音がして、一瞬遅れて、アルベリヒが斜めに倒れていった。
 同時に、仮面の脇から、弧の字を描いて、血と脳漿が飛び出して落ちていった。『時雄付きのカメラマン』の頭にくくりつけられた照明がちょうど彼の頭を捕えていたので、非常に鮮明に見えた。
「何故?」
 外にいる人間が同時に叫ぶと、中から低い声で答えがあった。
「アルベリヒには盗聴器がついていた。奴は我々の秘密をしゃべった。だから、粛清したまでだ」
 ジークフリートだった。
「嘘」「人でなし」
 何人かが同時に呟いた。少しおいて、ジークフリートが別のテロリストに命令する声が聞こえた。
「扉を閉じろ。外の人質は解放してやる。もう用はないから、さっさと去れ」

   12

――数分後。セレブ室。
脚本家が入ってきて、大声を上げた。
「皆さま。只今面白い情報が入ってまいりました。病院ビルの八階にテロリストが侵入しました」
「おおこれは、偶然だな」とセレブC.
「どうせ、誰かの仕業だと思うな」とセレブD.
「ここで、さやかと時雄が中にいます」
「どうせ、本部のやらせだろうが」とセレブE。
「いいえ、これに関しては、我々は関与してはおりません」
 と脚本家が大きく手を振った。
「おーい。殺しあいはあるだろうなあ」とセレブF。
「これまで、衿にラーの人間が三人殺されただけ。それも、現場にカメラマンが行ったのは殺された後。全然面白くねーぞ」
「そうだ。ルーレットばっかりだ。それに、ヘリでの戦いはやらせっぽかったし」
 これまで、時雄(衿)の頭の中の戦いは、当然ながら、セレブ室のモニターには中継されなかった。まあ、夢だから、現実的には無理だったし。
ディレクターたちは、ラーの教団員が撮影した衿(時雄)と安代のVTRを回収して、くりかえし流していた。セレブたちは退屈でたまらなかったのだ。
 なので、ようやく、何人かが、ここでの戦いで、さやかが勝つか時雄が勝つかのゲームに賭け始めた。
 そんな中、さやかの兄の雄太は時雄のブログを読んでいた。
 さやかも隣で、めくら打ちをしていると書いてあった。当然、自分へのメールだろうと考えた。しかし、今の所メールは入ってこない。
 ゲームの始まる前に、胴元から賭け金の十億円を借りておいて欲しいと言っていたから、それは借りたが、それをどうこうしろとの指示は入ってきていない。
――どういうことだ? 何を考えているんだ?

 雄太は、編集室へ向かった。
 そこには、一応の賭けを終えて、ハイボールを飲んで、だべっているディレクターと脚本家がいた。
「さやかから何か聞いていないか?」
 雄太の問いに二人は目を見合わせた。
「ええ、これって、さやかちゃんのやらせじゃないの? さっき、テロリストの一人が、自分はラーの人間で明人の命令だと言ったの。それで、さやかちゃんが、明人に頼んだのだとばっかり思っていたわ」
 ちょっとおかまっぽい脚本家が体をくねらせて、ディレクターに相槌を求めた。
 ディレクターは目だけで、うなずいた。
「俺は何も聞いていない」と雄太。
「それに、明人はラーの中でも生粋の戦闘部隊を率いてるって聞いている。もしさやかが何かを考えて頼んだとしても、はたして、さやかが牛耳れるんだろうか?」
 とディレクター。
「そうよね。明人が暴走する可能性も十分あるわね。あ、そうだ。じゃあ、取引しましょうか。さやかちゃんを残すためには、明人をかなりの額で丸めこめばいいじゃん。我々が責任を持って交渉するから。それで、我々には一億の二割。それで、どう?」
 脚本家が流し眼を送った。
 雄太は、こんな時に、と思ったがぐっとこらえた。キャツらはそれが商売だ。
「わかった。その条件はのむ。さやかが生き残るためには何でもする」
「でもねえ、澪也も今一、読めないのよねえ。彼も丸めこむ必要があると思うの。そっちも二割でなんとかするけど」
「お前ら――」
 手を上げかけたが、その時メール受信の音楽が響いた。
慌ててケータイを開いた。
文面は以下だった。
『私がこの場で死ぬ方に賭けていいよ。今夜は月がきれいだよーん』
「どういうことだ? こんな時に月か。確かに、雲切れがして、月がのぞいているが」
 横からのぞきこんだディレクターが呟いた。
「だから、テロはさやかちゃんと明人のやらせで、撃たれる真似をするってことでしょ」
 と脚本家。
「やっぱ、さやかちゃんのやらせじゃん」とディレクター。
 雄太はとりあえずホッとした。
 セレブ室のモニターを見た。画面では何かがあったのか、もめていた。さやかもケータイを隠してあるのがみつかったようだった。
 テロリストの一人が銃を構えて、さやかに向かって撃った。
 派手に血が飛び散った。実は血糊だろうが。
「ああ、こういうことね。脚本家さんよ。セレブ室に行って。セレブさんたちはさやかちゃんが死んだと思うだろうから、賭け金を分配して」とディレクター。
 脚本家が出ていった。またディレクターが残念そうにつぶやいた。
「明人がさやかとつるんでいると判明した訳ね。てえと、我々の要求する、明人まるめこみの二割は必要ないってわけね」
「その通りだ」と雄太。
「でも、明人って、本当に読めないのよねえ。あと二割を保証するために、お金は渡しておいたほうがいいと思うけど」
 雄太は、強欲な、という言葉を飲み込んだ。
 モニターに目を戻すと、時雄が「さやかちゃーん」と叫びながら、ガラス扉にとりついて泣いていた。
――てことは、時雄には内緒の作戦てことか?
 一瞬そう思ったが、さっき、食堂の外のカメラマンの映像で、ラーの一人が、明人の命令だと白状してしまったのを思い出した。その場に時雄もいて、聞いたはずだ。
――て、ことは、時雄も承知のことか。中々の役者だ。

   13

――十数分後。警察の前線基地。
前線基地を設営しつつある本部の門田警部。数十分前。人質から警察に連絡があってから、すぐに態勢を整え、ここに来たのである。
向かいのビルにある塾を借りて、前線基地が設営されて始めていた。
本庁との直通電話などが設置され始めていた。
五十名ほどが佐渡の所轄と新潟県警佐渡支部から派遣されていた。
門田警部はテロ対策の訓練をされていた。
警部は、あわただしい中、テロ部隊に占拠されている、病院の八階に電話をかけた。病院の固定電話の番号は、病院の職員から聞いた。
「はい。こちらジークフリート
掠れた声が返事をした。
「おばんでのす」
門田は、相手の気持ちをやわらげるように、わざと大阪弁を使った。
「誰だ、お前は」
「は、前線基地の責任者、門田だす」
「ふざけているのか?」
「いや、いや、これがふつうで。どうか、お気になさらずに」
「面倒くさい奴だ。ところで、こちらの要求は見たか?」
「はあ。人質さんから電話がありましたので。それからニコニコ動画も見させてもらいやした」
「そうか。で、身代金について、政府とはかけ会ったのか?」
「はあ、それについて、御相談が」
「なんだ?」
「はあ。何しろ、警察という組織は、規則がうるさくて。それに政府も腰が重くて」
「だから、何なんだ?」
「ざっくばらんに言います。百億は、すぐには用意できかねます。何しろ、額が大きすぎて。政府もすぐに用意できかねると」
「そうか。じゃあ、ハマダラ蚊を放出するまでだ」
「待ってください。ここで御相談なんですが、二億くらいに負けてもらえないでしょうか。それくらいなら、新潟県警にあるんですが」
「ふむ。ふざけんな。それくらいの額なら、ラーだってあるぞ。おととい来いだ」
「ほう。ラーですかいな。お宅はラーの人間ですかな?」
「い、いや、違う。友達がラーにいるんだ。とにかく、百億を三時間以内だ。じゃあな」
 ガチャと電話が切れた。
「ふむ。ラーとな」
門田警部は受話器を置いて命令した。
「すぐにラーを調べろ」

   14

 ――数分後。八階ロビー。
『時雄付きのカメラマン』が階段のブービー・トラップを切り、解放された人質を下に移動させていった後。
『さやか付きのカメラマン』は後ろから肩を叩かれた。
 振り向くと、ピエロの仮面をかぶった男が立っていた。銃を構えていたから、中のテロリストの仲間だろうと推測された。
「これから派手なショウが始まる。君にはそれを撮影してセレブ室経由でテレビ局に送って欲しいから、ついてきてくれ」
『さやか付きのカメラマン』は、セレブ室という言葉から、『殺戮中』というゲームに関係した人間の指図だろうと察知した。さっき脚本家も言っていたが、セレブの誰かが、面白くするために、何か画策したのだろうと。それに、さっきのアルベリヒの言葉も加味すれば、ラーの明人も一枚かんでいるんだと。
 目の前のテロリストは仮面をかぶっているが、どことなく声が明人に似ている。
『さやか付きのカメラマン』は、テロリストについて、エレベーターで病院の一階まで下りた。そして、命ぜられるままに、外にでて、病院の全景が入る場所に陣取った。
 それを確認すると、テロリストが、手持ちのリモコンと思われる物のボタンに手を賭けた。
「我々が真剣だと思われないと困るので、ここでちょっとしたショーを行う。では」
 彼はリモコンのボタンを一息に押した。
 病院は周囲の照明のなかに、威圧的にそびえたっていた。
 玄関の内側には案内などがあるが、南側は配電室もある。
 リモコンを押すのから一瞬遅れて、赤とオレンジの入り混じった火花が飛んだ。耳を聾する轟音が響いた。
 テロリストがリモコン爆弾を仕掛けてあったようだ。
 上空の空気までをも押し上げるかのような感覚があり、周囲の建物のガラスが揺れた。
 病院の建物は、八階付近までのガラスがミシリといやーな音を立てて、三階部分までのガラスが粉々に割れて落ちた。 
 南側にあったカフェも三階部分までのガラスが落ちた。
 空気を震わせて、外壁部分が壊れコンクリートの塊が飛びちり、大量の赤から黒までの色の混在した煙が立ち昇った。
 コンクリートの粉が交った白い噴煙も見えた。
 上層階のガラスまで吹き飛ばすような爆風が立ち登り、撮影に来ていたヘリの胴体が揺れた。
 建物の外は雪交じりの雨が降ったりやんだりを繰り返していた。
 警備員の鋭い悲鳴が響いていた。
 一階の大きく開いた穴からには、外灯や警備室からの灯りが反射して、逃げ惑う人影が見える。
 警備員や電気技師の足音が入り混じり、『さやか付きのカメラマン』の耳にまで届いた。
 数分おいて、また一階で、炸薬が大地と大気を振動させて余りあるエネルギーを持って爆発した。
 一階の大きい観葉植物の鉢が吹っ飛び、近くに駐車してあった車が横転し、パンフレットや書類などの大量の紙が吹雪のように舞った。
 さらにカフェの外壁が崩れ落ち、巨大爆発のような噴煙の塊が吹き上がった。
 横の道路の上では、徐行していた車や最初の爆発で徐行していた車が追突を起こし、クラクションの渦が沸き起こった。
 赤黒い煙の中には、人間の千切れた手足が見え隠れした。第一の爆発現場に駆けつけた警備員の体の部分だと思われた。
 一階の照明の中では、雪に湿った大小様々なコンクリートの塊が半径五百メートル程度に亘って散乱した。
 暫くして、非常用電源が作動し、生きている部分だけのスプリンクラーが水を撒いた。だがごく一部で、水もすぐに尽きた。
 非常ベルのかしましい音が、辺り一帯にも響いた。
 周囲のビルの警備員も一階に急行した。
 爆発の後、一分くらい、全館の照明は点かない。
 一分後には非常灯などの最低必要部分の予備電源が入った。
 周囲には数は少ないが、幾つかのビルが立ち並んでいる。
 道路の向こうには小規模ホテルや一般企業の入っているビルなんぞがある。
 ホテルの窓も明るいが、それ以外のビルでも予備校などの入っている階も多く、遅くまで電気が点いている。中にいる人間たちが驚いて窓に集まりつつあった。
 
 一階へ下る階段。
一階に下りている途中の時雄は、爆発音に首をすくめながらも、ニコニコ動画で地上の爆破の様子を見ていた。
広場には、最初の、脅迫文をアップしたニコニコ動画を見た野次馬が集まり初めていた。爆発の時点では、自分のケータイで写メを撮って、ブログなどにアップし始めているのだった。
 マスコミも一社来ていたようだ。テレビ局のようだった。クリスマスの様子を撮影するので、近くまで来ていたのだろうか。
 ワンセグでテレビにしてみたら、早速、中継を始めていた。まだ、それほど浮き足立っている様子ではなかった。
 彼らは上層階でテロが起きたことが、信じられないようだった。
 レポーターが叫んでいる。
「あれだけの大爆発にもかかわらず、数名の重傷者で済んだのは、不幸中の幸いに思えます。病院の南側にあるカフェでも爆発は起きたらしいです。カフェの窓際の客が数名、血を流して倒れています。病院の南側は盛大に窓は割れましたが、広場に人はなかったので、客の負傷者は〇のようです。二度目の爆発では、一度目の爆発で駆けつけた警備員の何人かが負傷しています」
 時雄は口笛を吹きながら肩をすくめていた。
「目玉が手に入るよ。目玉が手に入るよ。エルロンエルロンだよ――ん」
(続く)

第一回目