事件の痕跡

「事件の痕跡」(短編集)
1. 私はこうしてデビューした。(蒼井上鷹
相尾と皆美が『相尾翔』の熱狂的ファンの狛江について、話しあっている。
実は、狛江は、ストーカーまがいの困ったちゃんなのだ。相尾翔と合作をする(自分がネタを考えて、相尾が書く)と決めつけている。毎日、何十通ものメールを送りつけてくる。
相尾は、ネットで小説を発表していて、それで熱狂的なファンになって、一緒に新人賞を取ろうと持ちかけて来てのである。
そして、相尾が無視していると、どうして無視するんですか、と怒鳴ったり、それを謝ったりするメールをどっさりと送りつけてくる。
ところで、ある日、ある新人賞の締め切り間際、狛江が、相尾のマンションに押し掛けてくる。それは、相尾がよく出前を取るピザ店で、狛江がバイトをしていて住所を知っていたからだ。それで、狛江は、いきなり相尾の部屋に乗り込んでくる。そして、勝手に冷蔵庫を開けて、皆美の死体を発見する。
実は、相尾翔は、相尾と皆美の合作のペンネームで、ネタで揉めて、殺してしまったのだ。そんな時、出版社から、前に出したのに対して、新人賞が取れたとの電話が入る。それに出たのが狛江。彼女は、勝手に自分が共作したと思いこんでいるので、ありがとうと言ってしまう。

2. 女交渉人ヒカル(五十嵐貴久
あるビルで、立てこもりが起こったと知らせがあり、僕と交渉人のヒカルが行く。そこは、内科で、患者は癌だと思い込んでいたが、実は胃潰瘍で、そう言ったら、逆切れして、医者を人質に立てこもったのだ。
僕とヒカルが現場に行くと、一人の警部が説得をしていた。ヒカルが食い過ぎでお腹が痛くなって、近くのトイレに入ると、女性が、トイレに隠れていた。下痢になって、トイレに入ったら、事件が起きて、出ていけなくなったのだとか。でも、下痢の割には、トイレは嫌な匂いがしない。それで、ヒカルはぼくに、そいつが犯人だから、逮捕白と言う。僕は何がなんだが分からなかったが、とりあえず、上司だから従う。
その後、ヒカルは、ずんずんと犯人に肉薄し、そいつが、実は金で雇われたのだと白状させ、取り押さえる。後から聞くと、トイレの女性が、下痢だと言う割には臭くなかったのと、ブランドの高い服を着ていたことから、彼女が裏で糸を引いていた犯人で、金で、立てこもり犯を雇ったと話してくれた。それは正解で、彼女が白状したところによると、この内科で堕胎をした証拠が残っている。で、今、玉の輿にのるチャンスが巡ってきたが、その過去がばれると困るので、この狂言を組んで、カルテを盗み、ちぎって、トイレに流した、と言った。
まあ、予想できた結果ではあったが、キャラが際立っていて、面白かったわ。

3. 5つのプレゼント。乾くるみ
叔父が私に話してくれた話。15年前、叔父の友達の松本ユウキが爆破で死んだ。自分の部屋だった。同じ日、彼の女友達のA子も、自宅で爆破で死んだ。松本ユウキからのプレゼントの箱を受け取って、一時間後だったので、松本ユウーキが殺したのだと思われた。
この事件は、松本ユーキが、ストーカー行為をしていて、自分に気がないのに落胆して起こした事件だと思われた。だが、叔父は違うと思う、と言う。
叔父が、親友の松本とその学友について、調べた詳しい話を聞く。
まず、5人は同じ、燃料系のゼミだった。それで、5人とも、爆発物には詳しい。
ある日、Bが美人のA子に告白した。だが、A子は、自分の誕生日に、一番高額なプレゼントをした人と付き合うと言った。で、誕生日、B、C、Dは、プレゼントを渡した。Bは数十万のダイヤ。Cは高校球児だったので、その思い出の玉、Dはデズニーランドの宿泊付き入場券。だが、松本だけは、郵送にしたと言った。
で、その夜、A子のマンションの管理人に話を聞くと、松本からのプレゼントが届いたと言った。だが、A子は、意外な顔をしたとも話してくれた。
この意外な顔が、非常に重要なヒントになったんだ、と叔父。で、叔父の推理。
松本からのプレゼントには、松本の筆跡で住所が書いてあった。だが、こんなのは、筆跡をまねれば、誰でもできる。
そして、叔父は、Dが送ったのだと推理した。そして、その推理に至る経緯を話してくれた。
まず、A子は、松本と付き合っていたのではないか。で、他の三人からのプレゼントを見て、さらにそれ以上の物が、松本から来たので、松本と付き合うことにした、と打ち明けるつもりだった。それには、三人のプレゼントをもらって、開けてから、松本に相談する必要がある。だから、その日に届くのは、変。だとすると、別人が送ったということになる。で、次のように推理した。別人が、松本とA子の付き合っていることを感ずいた。で、嫉妬で松本とA子ををなき者にしようとした。それで、松本の名で、爆発物を送った。松本には、A子に送ったことを黙っていてもらわねばならないで、彼にも送った。で、犯人は? BとCは、形は違うが箱。だが、Dだけは手紙。自分は箱でないことを主張しないと、間違われると困る。なので、手紙形式で送った。だから、犯人はD
ちょっと強引だけど、面白かったわ。

4. 玉川上死(歌野晶吾)
前に紹介したので略。

5. ツルのひと声(逢坂剛
これは、壺商法詐欺の発展形だわね。壺商法詐欺は、ある名人の作の壺を探している、手に入れば百万で買うと言って、骨董店主を信用さす。それから数時間後、仲間が、その壺を持ちこむ。それで、四十万位で、骨董店主に買わす。これは偽物だから、二人は40万の儲けになる。
これを、ちょっと複雑にしたもの。まず、Aがお大師の木彫りの像を探していると言って、5万を置いていく。これは本物の札。そのすぐ後に、警察が来て、偽札詐欺が横行しているので、それを貸してほしいと言う。こっちが詐欺かと思うが、これは違う。本物。
そうこうしていると、お大師の像を売りに来る。それと前後して、別の男が、お大師の像を探しにくる。そして、その骨董店主のツルと張り合って、40万で、買っていく。で、数時間後、その買った男から電話。実は、だまされたと。彼は、別の骨董店のの店主で、ツルと同じようにお大師の像を頼まれた。5万を置いて行かれた。なので、探していると、ツルの店にお大師が出たという電話をもらう。例の男から。それで、ツルの店に来て、買ったのだ。だが、例の男に電話してみると、使われていません、だった。それで、詐欺に気がついた。
でも、この人、相当な老人だわね。「しもたや」とか、何の意味かわからない古語がでてきて、ちょっと、ね。

6. コパカバーナの棹師(垣根諒助)
つまらないので、略。

7. ラスカル3(加藤実秋)
これもつまらないので、略。

8. 通夜盗(佐野洋
これも今一だったわね。通夜の夜に、主人公が盗みに入るの。愛人が、自分とのベッドシーンを撮影していて、浮気をすると、それをバラスと言われたの。で、困って、カメラを盗みに入るの。同じ会社だったので、住所は分かっているし、前の日に、相手の名前で、留守を頼むと電話を入れておいたので、管理人に鍵は借りれたの。でも、中で物色していると、「警察から来ました」といって、偽刑事らしき男二人が入ってくるの。「向かいのマンションから不審な灯りが見えたので」と言うの。で、強引につかまって、管理人に突き出されるんだけど、偽刑事と分かって、釈放されるの。で、次の日、その相手の女性が、エルメスを盗まれたというの。で、振り返ってみると、自分の前で、二人の偽刑事は、何も盗まなかったの。となると、管理人しかない、という結論になるの。それだけ。

9. ほころび(夏樹静子)
私は、姉とメール交換をしているの。で、夫の靴下の親指がほころびかけているのを、報告するの。さて、夫の会社の同僚の女性が殺されるという事件が起こるの。
その日、夫は、上司とゴルフだと言って出たの。で、帰ってきたら、殺人事件のニュースが流れていて、急きょ、家にいたことにしてくれと言ったの。
で、事件現場、親指の指紋が残っていたので、夫が疑われたの。聞き込みから、その女性と夫が付き合っていたことがばれたの。で、夫は、隠していたんだけど、結局そこへ行ったことを白状したの。行ったら殺されていたんだけどね。で、犯人は流しだったんだけど。
でも、私は、それが許せなくて、離婚を決心するの。まあ、良くある話だけどね。

10.二度とふたたび(新津きよみ)
地味だけど、面白かったわね。
私は、スーパーで万引きをするの。その直後、後輩に声をかけられるの。その後輩は、私の万引きを見ていたのかもしれないし、みていなかったのかも知れない。
でも、すごく強引なの。隣にヤクザ風の男がいるので、引っ越したいので、その費用を出してくれとか。ある時は、「刺された」と言って電話してくるの。でも、それは、くまんばちに刺されただけなの。
で、私は怒って、彼女を、新しいマンションに決めた場所、と言って、ある森にあんなにするの。そこは、くまんばちがわんさかいて、彼女は刺されるの。あれよね。アナフィラキーと言ったかしら。で、私は、彼女が十分刺されたのを見てから、救急車を呼ぶの。面白かったわ。

他にも面白いのが幾つか。