修羅の終わり。闇を切り裂く誘拐者

「修羅の終わり」(貫井徳郎
「慟哭」と同じ叙述トリックなんだって。でも、「慟哭」と違って、良くわからなかった。あっちは、二つの話の流れがあって、最後に一つになる。あっと驚いたわ。でも、これは、三つの流れがあって、複雑で良くわからない。一応筋。
(現代)僕は記憶喪失になって、新宿の路上でめざめる。最初に拾ってくれたのは千恵子。その隣のおかまのルミさんの紹介で、占い師に話を聞くと、姉が殺されて、その時の戦いのショックで記憶喪失になったらしい。その後、前世で恋人だったという小織にも世話になるが、小織は病気。額にほくろのある男性には、皆同じことを言って、ベッドイン。この時に彼女に言われた名前は斎藤拓也。(この名前は小織のでっち上げなので、関係ない)
さて、1970年代。二人の刑事の話も語られる。連続交番爆破事件で国家体制に挑戦している〈夜叉の爪〉は日青同の秘密の組織ではないかという疑惑がある。公安部の久我は先輩啓示の指示に従い、高校生の斎藤を日青同に送りこみ、スパイに仕立て上げようともくろむ。
斎藤青年は、何とかスパイとして送りこむが、次に、姉もスパイにしろと言われる。いやいやながらそうするが、最後の方で、姉は、重要な情報を流して、すぐ後で自殺。
であるならば、僕は、斎藤でなければならないが、途中で、ケーサツから落し物が届き、それで僕の名は、真木であると判明する。
でも、僕が最後に復讐するのは久我。ここのところがよくわからない。
さて、第三の流れ。池袋の警察署に勤務する悪徳刑事の鷲尾は、秘密売春組織を捜査している。で、娼婦の芳江を逮捕し、自白を強要するために、心理的な拷問にかける。しあkし、上司(持田)からの命令で、留置所で女をレイプしたとの虚偽の報道をされ、警察を追われる。他方、女は、釈放され、その直後に自殺。レイプ事件を捏造したのは持田。鷲尾は、持田の娘を強姦して、復讐する。
さらに、その上司からの命令だと聞き、警察に恨みを持つ組織に入り、復讐をエスカレートさせる。これが〈夜叉の爪〉か? でも、斎藤の姉が、ある人物を掴んで、教えて自殺してるし。こっちは、全然本筋とは関係ないのか?
総合すると、良くわからない。

私が前に師事していた若桜木先生のところで、新人賞の一次とか二次を通過した実力者の作品をネット販売し始めたの。それを紹介するわね。どのくらいのレベルなら一次を通過するか、とか、参考になるから。ぜひダウンロードして読んでほしいわね。
購入は、http://www.e-bookland.net/square/catalog.asp

「闇を切り裂く誘拐者」(矢吹哲也)
角川の応募で二次(14名)まで残った作品。さすがに競馬界の裏をよく調べてあって、舌を巻いたわ。これくらい調べてないと、二次は残らないのね。参考になったわ。特にノミ屋業界のことが詳しいわ。まるで、作者がそこに属していたかのよう。
筋。葛城刑事は警視庁の捜査二課。ここは経済関係の捜査にあたる。彼はノミ屋の摘発に顕著な業績を残した。今では下火になってしまったが、バブルのころは一兆円産業だと言われ、中央競馬会が必死でつぶそうとしていたのだとか。
さて、中央競馬会の理事の娘の坂崎恵里奈が誘拐される。家のすぐそば、お稽古に行く途中。近くのコンビニの店員が実行犯、車はアコードと、防犯カメラの映像でわかる。
大規模な捜査陣、SITまで集められる。そんな中、韓国から電話。老人の声で、次の日曜の菊花賞の「ドリームインパルスの枠順はどないなんやなあ」を三回繰り返す。
八百長で、ドリームインパルスを勝たせろ、ということか?
葛城は、数年前、中央競馬会の黒沼を収賄容疑で逮捕したことがあるが、それの仕返しか?
さて、朴という大規模なノミ屋がいた。逮捕された。一億円をだまし取られた後、殺人容疑で逮捕。アリバイなし。犯人は逃げた。犯人の名前を言ったが、そいつにはアリバイあり。詳しくいうと、蛭田に騙されて一億持ち逃げされた。いかって、同僚の稲盛を殺したといった。だが、蛭田は、中央競馬会のノミ屋撲滅のための囮人間だった。アリバイのあったのは、蛭田。
彼は、昔言ったことがある。「中央競馬会は、ノミ屋をつぶすために、大規模な八百長を仕掛けた」 それの復讐か?
蛭田は今、競馬会の室長になっている。葛城は事情聴取と称して、勝手に部屋の写真を撮る。その件で、黒沼からクレームが入る。
さて、葛城の信頼するおやっさんと呼ぶ男に義理の娘がいる。彩華という。彼女は競馬記者で、ドリームインパルスは勝てないと言い出した。
さて、静岡市の公衆電話から電話あり。坂崎恵里奈を返すので3億円用意しろ。
グレーのアコードの所有者が割れる。国見。彼は韓国へ旅行中。67歳。
途中の蛯名での防犯カメラの映像が送られてくる。子供は恵里奈ではなかった。制服はあらかじめ用意されたものだった。
さて、朴の意見。菊花賞。競馬会が枠順(3連単)で八百長を組む。それをノミ屋に教える。そしてノミ行為をしている最中に捜査に入って、ノミ屋を一網打尽にする魂胆だ。
さて、神代彩華は朴に言う。「私の旧姓は稲盛。あなたに殺された樋口こと稲盛は私の父です。さらに、養父が神代栄治(おやっさん)。彼は、黒沼に命令されて、蛭田の偽のアリバイを証言した」
朴は言う。「私は殺しはやってません」
葛城の推理。今回の事件は、おやっさんが書いた筋書。
おやっさんの考えでは、朴は、冤罪で牢獄につながれた。その代償として、慰謝料を受け取る権利がある。しかも競馬会に打撃を与え、ノミ屋つぶしの方法そのもので、配当をせしめてやる。誘拐事件とは無関係。あれは、彩華の姉のダミー。菊花賞が終われば、解放される。
この配当は、近い将来、切り捨てられる栃木競馬の関係者の救済にもあてられる。
さて、彩華は、ギガエナジー、クリークセレナーデ、ドリームインパルスの枠順で勝つと発表する。それが、中央競馬会の考えた八百長だと読んだから。
さて、結果は?
感想。面白かったわね。マイナーだと思われていたノミ屋行為が、こんなにもすごい稼ぎをしていたなんて、驚きだったわ。それにしても、よく調べたわね。