玩具店の英雄、江戸前しののめ飯

玩具店の英雄」(石持浅海
天才の作品をもう一つ。
1. 傘の花
八潮議員暗殺事件。ある車いすの画家の個展会場から出てきた。傘に刀を仕込んだ男が襲ってきて殺された。八潮議員は鷹派で、物議を醸していた。日本の海岸線に、中国の侵略を防ぐために地雷を埋めろと。
この事件を聞いた座間美君は、言う。その車いすの画家も殺人犯に加担しているかも。
その日は雨が降った。そして、画廊から出てきた時は雨がやんでいた。だから、犯人は、たたんだ傘の中に刀を隠せた。でも、雨がやんでいなかったら。不可能である。
となると、雨がやむころを見計らって、画家が画廊から出した、と推理できる。つまり画家も犯人に加担した。というのは、画家は脚が不自由。地雷を積極的に押す議員に反対だった。

2、最強の楯。
警察官が、テロ組織に狙われているビルの前で警備していた。ビルの中の会社へは、数回脅迫状がきていた。そこへ、赤ちゃんをベビーカーにのせた主婦が通りかかった。そこへテロ犯人がビルの陰から飛び出してきた。そして、ベビーカーを倒して、するりと抜けた赤ちゃんを抱きかかえて、楯にしようとした。しかし、母親がそっと抱きかかえた。それで、警察官はテロ犯人を逮捕することができた。
これを聞いた座間美君の推理。まず、ベビーカーからするりと赤ちゃんが抜けたことが不思議。普通はベルトをしていあるから、抜けないはずだ。それから、母親がそっと赤ちゃんを抱いたのも変。ふつうは、慌てふためいて抱きかかえるはずだ。それから、復讐の脅迫状が届いていたことも考え合わせて、次のように推理できる。
つまり、母親は本当の母親ではない。彼女はテロの一味だ。それで、ベルトをせずに、自分が赤ちゃんを楯にして、中に押し入ろうとした。それから、そっと抱きかかえたのは、赤ちゃんのおむつの中に爆弾でもしこんであったのではないか。慌てふためいて強く強請ると爆発するような爆弾を。それから、脅迫の手紙が複数着ていたことから、テロ組織は、分裂していたと考えられる。つまり、一つのテロ組織の男が赤ちゃんを楯にビルに押し入ろうとした。だが、母親役の女も別のテロの一味で、自分が赤ちゃんを楯に押し入ろうとしたと考えられる。しかし、警察官に阻止された。なので、二人とも不発に終わった。

2. 襲撃の準備。
ある高校で、A少年が野球のレギュラーからはずれた。彼は繁華街の傍の交番で、警察OBとよく話あっていた。そしてある日、レギュラーになった仲間と鉢合わせして、残酷なことを言われた。それで、彼を殴って、殺して、ユニフォームの入ったバッグを奪って、逃げた。学校では、A少年が、他の生徒にも復讐をするのではと考えて、警察に警備を頼んだ。警察では、刑事と警察官のどちらかを警備に当たらせるかで議論になったが、OBたちが刑事を押したので、反発して警察官を配置した。しかし、警察官は、新米で、私服の生徒だけを注目していた。だが、A少年は殺した少年のユニフォームを着て潜入して、別の野球部の生徒を殺した。警察OBはその高校の、レギュラーを外した生徒の心のケア―をもっとするように、いつも言っていた。
これを聞いた座間美君の推理。
A少年に、レギュラーになった生徒のユニフォームを奪うように仕向けたのは、警察OBではないか。彼は、いつもA少年の話している時に、学校の心のケア―に不満を抱いていた。それで、今回の入れ知恵をした。それで、A少年はユニフォームを着て潜入できた。で、警察OBの狙い――学校の心のケアー――が行われるようになった。

3. 玩具店の英雄。
ある玩具店で、刑事が、突然襲ってきた男(乱心気味)を取り押さえようとする。すると、知り合いの男性に横に突き飛ばされる。その男Aは刃物男を柱にぶつけて殺してしまう。
Aの内ポケットには刃物の傷。その中に子供のアニメのフィギュアがあった。それで、刃物に切られなかった。
これを聞いた座間美君の推理。
Aは刑事の知り合いだった。だが、なぜ、刑事が刃物男を取り押さえるのを横で待たなかったのか。傍には子供もいて、危なかったのに。それは、Aが万引きをしたからではないか? かれは、ポケットが不自然に膨らんでいて、刑事にとがめられるのを困ったと思った。ちょうどそんな時、刃物男が刑事を襲った。それで、刃物男が逃げられるように、刑事にぶちあたった。だが、はずみで刃物男が転び、ついでに柱に頭をぶつけて殺してしまった。でも、世間的には、英雄とみなされた。

4. 住宅街の迷路。
住宅街に新興宗教の教組の家が立った。新築祝いの夜。向かいの反発する宗教の道場から男が現れ、中に入って、爆弾を投げ込もうとした。しかし、一人の教団員が棒を投げた。それが爆弾男の顔に当たった。男がひるんだ。すると教組が「消火器」と叫んだ。教団員が入ってすぐに消火器を持ってきた。それで、爆弾は発火せずにすんだ。爆弾男も逮捕された。新興宗教の家は、周囲の反対派からも認められるようになった。
これを聞いた。座間美君の推理。
教組が「消火器」と叫んだのが変。普通、爆弾なら、消火器では間に合わない。それに、新築の家なのに、慣れない教団員が入ってすぐに消火器を持ってきたのが変。前からその場所を教えて、打ち合わせがしてあったようだ。すべてを総合して考えるに、爆弾男は、仕込みではないか? だから、教組も慌てなかった。教団員もすぐに消火器を持ってこれた。これにより、新興宗教の教組の家は、周囲に反対されずに、溶け込めるようになった。

他にも驚きの推理が。

江戸前しののめ飯」(嵯峨野晶)
江戸前七つ星」の続き。
今回もグルメ満載。それだけじゃなく、しょうゆを抜き取って薄める売る話や、仇討の話など、はらはらドキドキ満載。で、終わりは満腹。面白かったわね。例によって漢字があまりなくて。
ではグルメを紹介。
文化7年(1810)12月。伊豆から銚子の沖合にかけて、マグロが大量にとれた。それまでは、五島列島などから5・6日かけて船で運ばれてきたので、死尾といって、真っ黒になって食べられたものじゃなかった。
なのに、沖で取れてすぐに食べられる。品川徒歩新宿の一膳飯屋「金太郎」では、鮪の釜や兜を七輪であぶって、出していた。大いに喜ばれた。
白魚やタイなどは水揚げがわずか。正月用の塩鮭、塩鱈は根が下がった。この辺も当時の様子が分かって、面白い。
鮪の塩漬けなどは、庶民にいきわたった。
さて、由比の実家の祖父が脳卒中で倒れたと聞き、駆け付けた。だが、単なるぎっくり腰で、わがまま放題。そこへ近所の妊婦が担ぎ込まれて、てんやわんや。
で、またグルメ。酒粕鍋。出汁に酒粕。豆腐、大根、ニンジン、こんにゃく、しめじ、小松菜、油揚、牡蠣、ネギ、セリなどを入れる。おいしそう。
筍の早だし(初物好きだったのね)
一の膳、筍の木の芽和え。蕗と筍の煮物。タンポポ胡麻和え。山菜の胡麻酢がけ。
二の膳。魚もどき。高野豆腐を練り、大豆をすりつぶしたものと合わせて、湯で戻し、大和イモを加え、練って、鯵のように成形。片面には海苔、反対には湯葉で包んで焼くと、魚を焼いたように外面がバリ。それを、里芋、レンコン、ニンジン、昆布、ゴボウに紅白の蒟蒻を入れて煮る。
三の膳。昆布で炊き上げたご飯に。菜の花を散らす。
あと、刺身も結構あったのね。金目鯛、桜鯛、メバルサヨリとトビウオの刺身。
ポン酢もあったのね。これらをポン酢で食べるとおいしい。
トビウオの一夜干し。ホタルイカ、鰆の西京焼き。
桜鯛の眞子を湯がいて、出汁にしょうゆ、砂糖、しょうが汁を入れ、眞子としいたけを煮る。
ああ。よだれが出そうだわ。