事件でござるぞ太郎冠者、ごきげんよう

「事件でござるぞ太郎冠者」(井上尚登
横溝正史賞の人。すごくよく調べたわね。感心。これは、狂言の家で起こったことや、近くの所轄の刑事から持ち込まれて事件を、狂言にヒントを得て解決していくもの。人物もよく描き分けられていて面白かったわ。
1. 2人袴
自分の家に能楽堂がある峰村家。そこで一般人にも狂言を教えている。そこへ松永夏十という女性が稽古にくる。それから、刑事も一人稽古に通っている。夏十は、家を追い出されたから居候させてくれという。さらに、連絡がないまま欠席していた臼井和子が急死したとの知らせがくる。彼女は心臓が悪かった。彼女は、「2人袴」を見た後、様子が変だった。二人袴とは、室町からある狂言で、一つの袴を二人で変わりばんこに着ていたが、ついに、二つに裂けるという内容のものである。つまり、一つの袴が二役をする、変じて、一人二役の意味で用いられることがある。
だが、刑事が和子の家(売りに出されていた)に行ってみると、半年前に結婚したばかりだというのに、夫の写真が全くない。不審に思った警察は、夫の満の戸籍を調べることにする。すると、和子とはもう離婚していて、狂言の弟子の恵みと結婚していることになっている。
で、和子の家を調べてみると、5千万の借金があった。つまり、満は、金目当てで結婚したが、借金のほうが多かったので、即、離婚して、次に金のあると思われる恵みと結婚したのだ。和子は、心臓発作の薬をすり替えて殺した。恵みもすぐに殺すつもりだった。
夏十がおかしいと思ったのは、狂言の観劇の日、和子の隣と、恵みの隣が空いていたからだ。二人からは、その日、夫と婚約者を連れてくるといわれていたのに。でも、満は、一人二役がばれると困るので、欠席したのだ。

2. 花子
仲良しの阿弥川家の康子からお願いされる。夫の玄葉が殺人事件の容疑者にされてしまったというのだ。能の舞い手玄葉は被害者の久作に借金が一千万ある。久作はパトロンなのである。殺害場所は都内のマンション。そのとき、玄葉にアリバイはない。
玄葉の証言。その時間、レイトショウを見ていた。だが、眠っていたので、内容はわからない。
さて、夏十は、一人で、近所の聞き取りをする。映画館の近くのマンションによく出入りするのを目撃されていた。さらに調べる。すると、玄葉には愛人がいて、どうも、そのときは、愛人と一緒にいたようだ。だから、アリバイがあいまいだったのだ。
さて、警察は、その愛人を第一容疑者と考えていた。でも、彼女には死亡推定時刻にアリバイがあったのだ。さて、死亡推定時刻だが、午後の9時から零時(久作が9時にケータイをしている)。
彼女は、八時半にマンションをでて、近くのバーにいき、そこで知り合った男とずっと朝まで一緒にいた。
で、玄葉のケータイを警察が調べた。すると、一度間違い電話をしている。それは、9時。「リストランテ・アキオ」というイタリアン・レストランのオーナーの青木哲司にだった。
さて、夏十は刑事をつれて、埼玉の養護施設(ここへはよく青木がボランティアで料理を届ける)へいく。そこで、昔の写真をみせてもらう。すると、青木と和代(玄葉の愛人のホステス)が仲良く映っていた。
そこで、夏十の推理。玄葉の愛人のホステスは、久作とも関係を持っていて、金の話がこじれて殺してしまった。そこで、玄葉の忘れていったケータイで、青木を呼び出した。そして、後始末を頼んで、部屋を出て、アリバイを作った(それが9時ちょっと前)。
さて、和代のマンションにきた青木は、久作のケータイから自分のケータイに電話をして、久作が、9時まで生きていたというアリバイを作った。そして、玄葉が愛人のところへ来たことで、疑われるように仕組んだ。
ここでは、狂言の花子はあまり関係してないわね。
3.「附子(ぶす)」トリカブトのことなんだって。
かの有名な狂言である。砂糖であるのを隠して、主人が、毒薬だから飲むなと言ってでかける。家来は、ちょっとなめておいしいので、全部食べてしまう。で、言い訳を考える。大事な掛け軸を破ってしまったので、自殺するために、毒薬を飲んだと。
さて、筋。警察から協力を求められる。死んだのは、大学教授の多々良、服毒自殺。遺書めいたメモはあり。動機までは書いてない。「らぬき」を毛嫌いしていたのに、メモは「ら」抜き。刑事は変だと思う。
彼は妻の目の前で服毒した。そのとき一緒にいたのが、編集者の葛西。
事件のあった家にいく。ぬいぐるみがあって、中にビデオが仕込んであった。見ると、毒を飲む様子が録画してある。でも、実際に毒が回ると、非常に驚く。どういうことだ?
夏十の推理。本当は毒ではないはずだったのに、毒と入れ替えれていた。ちょうど、狂言の「ブス」のように。
さて、浮気相手はだれか? とさぐると、脚本家の山形だった。彼は、被害者がノイローゼだと証言した人。で、彼が脚本を書いたのではないか?こういって。
「奥さんは葛西と浮気をしていますよ。きっと。で、二人の前で死ぬ演技をしてやったらどうですか? そうすれば、倒れている間に、本当のことを話しますよ」
それで、多々良はその脚本に乗った。だが、中には毒が入っていた。で、山形のパソコンには、脚本の大本が入っていた。

3. 武悪
弁護士がやってくる。パトロンの康子がくじに当たって、6億をあててしまった。でも、がんがみつかった。で、彼女は遺言状を書く。一年以内に身内が現れない場合は、6億を峰村家に寄付する。
康子には甥の上杉幸次郎という男がいる。海外をふらふらしていて、行方不明。かれが一年以内に帰ってこなければ、6億は峰村家の物。
しかし、幸次郎が帰ってきたという知らせを持って、弁護士が現れた。顔は幸次郎の昔の写真にそっくり。DNA鑑定の結果は、家族とのこと。
調べると、兄の幸一がいた。一年前に交通事故で無くなっている。犯人は捕まっていない。
そのころ、身近で三件の事件があった。一つは小学校の窓が割られた。二度目は塀にペンキが塗られた。三つ目は、卒業生の手形が壊された。それには、幸次郎の手形も入っていた。
幸次郎に会った。アウディで派手な女性を連れていた。で、その持ち主を探してくれと、刑事にいう。刑事がなんで、と聞くと、武悪なのだという。
でも、詳しい話はしてくれない。さらに、一緒に乗っていた女を最近見たというのだ。
でも、どこで見たかは話してくれない。
で、武悪の筋。主人公は、主に、仕事をさぼってばかりの武悪をきれ、と言われる。
でも、武悪のほうが剣術が上手。その上妻子もいるので、きれない、で、困る。
で、切ったことにして、上司にそう報告する。でも、武悪が旅に出ようとしていると、主人に見つかってしまう。それで、幽霊が出たことにする。さらに、冥途に主人も連れて来いと言われていると、いう。それには主人は参って、許してくれと逃げていく。
さて、事件のほうであるが、夏十は、兄の幸一の交通事故の関係者に、アウディの女性がいたというのだ。
それで、こう推理する。あの事故は実は狂言だった。浮浪者をつれてきて、幸一だと言って、顔をつぶして、交通事故で死なせた。保険金の一億をせしめた。
でも、今度は六億だ。で、芝居を打った。成形をして弟の顔に似せて、現れた。DNA鑑定は、兄弟だから、当然、近い。それで、親族だという結果がでた。しかし、もう一つ幸次郎を特定できるものがあった。それが小学校の卒業の時の手形だ。で、それを壊した。ついでに窓を割ったりした。
でも、妻の女性が、いつも一緒にいたので、偽装工作がばれた。さらに、幸次郎に入れ墨があると嘘を言って、入れさせて、偽物を立証した。
でも、次の月、本当の幸次郎が帰ってきた。今回の武悪は、刑事が、上司と部下の板挟みになる光景のこと。あまり関係ない。

4. 瓜盗人
警察から応援要請。ちかくの数億の絵が一瞬で消えた。社長室のそばの応接室に飾ってある。深夜(土)、防犯カメラがある。犯人は映っていない。外を調べると、5階から屋上へ紐。さらに隣のビルへ。でも、浮浪者の話では、誰も降りてこなかった。
レプリカを書いた人のところへ。ちゃんとレプリカだとわかるように、マークを入れておきましたよ。見ると、レプリカ。
謎解き。昼のうちに忍びこんで、防犯カメラを止めて近くのビルに絵を移動する。防犯カメラの電線を細工して、映しておく。そして、また戻す。戻す時に一瞬、停電があった。
そんな器用なことがdきるのは、工学部出身の社長だけ。実は、本ものは、金に困って売っていた。
ほかにも驚きのトリックが。

ごきげんよう」(沖田正午)
時代劇に転向したので、時代劇も読んでみました。これは筋も単純だし、漢字もすくないし、とても読みやすくて面白かったわね。
筋。花嫁修業中の鶴姫がさらわれるの。ことが露見し、首を切られたくない家臣らは大あわてなのね。が、実は、鶴姫は、福生藩の月姫と間違えられて、かどわかしに会ったの。で、どこかの祭りで、その時の駕籠かきが福生藩に頼まれたと言っていたのを、「ふくおのはんきち」と鶴姫の家臣は聞き間違えるの。で、やくざが下手人だと勘違いして、大騒ぎ。
実の鶴姫は、この前の事件で、自分とそっくりの町娘の家にいき、親分さんと話し込んでいるの。で、最後は、福生藩に乗り込むの。すると、月姫は、もう30過ぎの大年増なのね。面白かったわ。