狐の嫁入り・御宿かわせみ6

狐の嫁入り御宿かわせみ6」(平岩弓枝
1・師走の月
日本橋、馬喰町4丁目。茶問屋、東竜軒。畳替えとふすまの張り替えをしていた。
主人の市衛門が50両の金を置いておいて、なくなったといった。女中たちに聞いていた
が、やがて、勘違いで、あったといった。
「かわせみ」ではそのことが噂。東竜軒では、なくなったことを表ざたにしたくなかった
のでは?との結論になった。
主人は盗んだ人に心あたりがあるのではないか。出入り職人の鉄の娘、おたつが浅草に
茶屋を出していた。そこへ行って、聞いた話。
犯人は娘だとか。おたつは、元東竜軒の女中。主人の手がついて、ここへお店を出して
もらった。今でも、時々主人が忍んでくる。
東竜軒の娘には、悪い男がついている。
柳原通りで、畝源三郎は、逃げてきた男を捕まえた。追ってきたのは東竜軒の主人、市衛
門。逃げている男は娘についている悪党。番屋へ連れて行くと、娘(おひで)が転げ込ん
でくる。男をかばう。男の名は新三。
市衛門が刺される。夜、新三が疑われる。新三に意見をした帰り。
鉄五郎が首をくくって死んだ。肘を痛めていた。
実は、鉄五郎は、娘が妾にされたことを恨んでいた。それで刺した。

2・迎春忍ぶ川
1月3日。上野の護国院の大黒祭り。
いい女。大丸髷。梅の小紋に緞子の帯。香苗の所、例の女が来ていた。上野加納屋。
鼈甲の櫛、笄などの店の内儀。お比奈。
その加納屋で殺し。殺されたのは、主人の清右衛門。寛橋の下に浮かんでいた。夕べ
谷中で飲んだ。
お比奈の実家。育ちの悪い母親。谷中のある寺の坊主の妾。お比奈は私生児。
下谷の伊乃吉が(岡っ引き)が殺された。不忍の池の弁天堂へ渡る浮橋の傍らで発見。
伊乃吉は夜中に出かけていった。伊乃吉の娘は労咳で費用がかかる。
鼈甲の加納屋、初七日にもならないのに、手代の清次郎がお内儀と一緒になるとの噂。
鳥追いが男と話していたのを見た者がいる。男は伊乃吉らしい。
東吾の推理。
清次郎がご主人を川へ突き落とした。それを見た伊乃吉がゆすっていた。それで、
鳥追いに化けた清次郎に川へ突き落とされたんじゃないか。
畝の推理。
あの夜、清次郎は店にいた。伊乃吉に頼んで、ご主人を突き落としてもらった。
で、伊乃吉はゆすっていた。耐えかねて、清次郎が突き落とした。
藪入りがあった。お比奈が鳥追いの着物を燃やした。下手人はお比奈。

3・梅一輪
東吾、スリらりし女を捕まえる。女、着物を脱ぎ棄てて、横で見ていた男から半纏
を奪って着た。擦った財布は持っていなかった。
番屋で半纏は男に返す。
釈放になった後、佐賀町を抜け、下の橋、中の橋、上の橋とまっすぐに抜けて、霊
雲寺の堀外を通り、小名木川にかかっている万年橋のふもとで小舟に乗った。
その先を、半纏の男が歩いていた。同じ船に乗った。
それで、東吾は、半纏を奪った時に、財布を渡したのだと気がつく。女には、滝夜叉姫
の入れ墨があった。
最近流行しているのは、夜、擦っておいて、殺してしまう方法。
昔の名人の話になる。将門の彦座ってスリの名人がいた。一両だけ抜いて、残りは返す。
彼は殺された。が、娘がいる。
そのスリの娘は彦座の娘だ。なぜなら、芝居で、将門の娘は滝夜叉姫だから。
狸穴でおまさという女が卵を届けてくれる。江戸では殺戮スリが横行している。
滝夜叉のスリも横行している。
おまさが「かわせみ」に泊まりにきた。昼は浅草へ出て、人を探しているみたい。
おまさの部屋に紙片が落ちている。
「お父っつあんを殺した下手人を知りたければ、明日、明神様へ」
おまさに聞く。すると、「丑松が父を殺した。私を妾に、と言ったのを父が突っぱねた
から」という。
「丑松とは、永代橋で、おもん(すり)の相棒になった男です」
おまさは似ているが、おもんではない。
明神様で、3人の男が話しかけてくる。一人が切りかかる。東吾が切る。残りの二人は
畝が捕縛した。
おまさも一両スリをしていたのだから、お縄にしないと。でも、るいと一緒だったので
逃げられた。

4・千鳥が啼いた。
東吾と兄、夜中、道を歩いていて、賊に襲われる。叫ぶと助っ人が現れる。伊太郎(
剣術の弟子)。竜慶橋のたもと。
賊は、小日向の常泉院で、まとまった金を盗んだ帰りだった。勤王党の軍資金集めと
称している一味。
伊太郎に会いに行く。伊太郎の証言。
「実は、自分は侍の子。小日向へ行って、父の家を見ていた。実の父は、御書院組の
吉田織部。母が女中でお手付きになった。屋敷を出るときは、刀の鍔をくれた」
蔵前の鶴伊勢屋(料亭)が、例の一味にやられた。800両ぬすまれて、主人とせがれと
女房が殺された。主人夫婦や息子の部屋がよくわかったもんだ。店に手引きをした者が
いたのでは?
手代たちの話。「主人から手向かうなと言われていた。」
喜八(主人と女中の子)がたまたま止まっていた。手代の佐助が疑われた。ちょっと前、
花魁に夢中になって、金を使い込んで、叱られた。手代たちに尾行をつけた。
そしたら、喜八が賊と会っていた。坂本やへも出入りしている。300両が置いてある。
手引きして、坂本やへ押し入った時に捕縛。
ところで、伊太郎は、人が切られるのを見て、侍になるのをあきらめた。百姓に戻った。

5・狐の嫁入り
本所、深川に、狐の嫁入りの噂が頻発している。
最初。500羅漢寺(亀戸村、中川近く)。
二度目、横川にかかった報恩寺橋。
三度目、南本所の石原町、俗に狸堀と呼ばれるところ。
四度目、堅川と横川が交差する南本所の北辻橋。清水橋を渡って、南に御材木蔵、日除け
の空き地、を通り、入江町の岡場所へ行く途中。
ところで、深川の材木問屋、木曽万がどうもいけないらしい。21の息子が跡をついだ
ばかり。売掛金が入ってこない。
木曽万の娘が嫁入り。先が本所の緑町、からっ風の検校の所。木曽万の娘はおよね。婿
になるのは、検校の息子、鶴松。木曽万は検校から金を借りて、返せない。
東吾を、狐の嫁入りを、木曽万のしわざと考えている。
実際に嫁入りの日。小名木側にかかる新高橋から、緑町まで隊列を組んで歩く。
祝言をして、花嫁は寝所に入った。そこで消えた。狐火が見えた。
寝所では、花婿が泡を吹いて伸びている。木曽万の連中が空駕籠を担いでいた。確かめ
た。中は空。
花婿は、狐が、と言っている。鶴松はそれからおかしくなった。
検校は、金貸し、悪辣な金利、などの罪で家財没収になった。
「かわせみ」に泊まっていた栗駒や伝右衛門は江戸で養女にもらった娘を連れ、木曽へ。
およねは、寝所へ入ったところで、狐の顔をした役者にすり替わった。役者は、花嫁道具
の長持ちに入って、寝所の中へ入った。

6・子はかすがい
東吾の兄の通の信の妻におめでたの気配。おとせの息子の庄吉がきて、泣いていった。
「おっかさんが役人に連れていかれた。助けて」
おとせと正吉、人殺しの現場に居合わせたからと、岡っ引き。
治兵衛の家。治兵衛の女房が殺された。赤ん坊の姿はない。そこへ、代官所の役人が。
東吾は、正吉を連れ出した。八幡社の境内へ。そこではぐれる。
大川ぶちの石置き場へ。40くらいの女がきられている。本所の産婆、おとき。
その後、浅草橋の仏壇問屋、越後屋の主人、彦左衛門とその母お源が殺された。
赤ちゃんのお宮参りに深川の八幡へ行った。それは、正吉が行方不明になった日。
彦左衛門と産婆のおときの刀傷は同じ。さらに狸穴の被害者の傷も同じ。同じ侍の物。
医者の草庵の話。越後屋の赤ん坊にはアザがあった。5年も子供が授からなかった。
両親、親戚にも痣のある人はいない。
越後屋のお内儀の実家は、貧乏旗本。出産のかなり前から実家に帰っていた。
あの赤ん坊は、狸穴の家から盗んだものではないか。同じ侍の傷だし。
正吉とおとせは、その狸穴の家(治兵衛)で出産を見た、生まれて子も見た。
東吾は思い出した。狸穴で剣術を習っていた中に、磯貝求女がいた。太刀筋が同じ。
越後屋親子を殺したのは、お内儀の連れ帰った赤子に疑いを持ったから?
磯貝の家に行く。越後屋のお内儀(さゆり)がいる。「実は姉です」
東吾に磯貝が切りかかってくる。逆に切る。正吉を発見。