狐闇

「狐闇」(北森鴻
面白かったわね。古物商の業界の話。江戸川乱歩賞の高橋何とかの「写楽考」に似ているわね。
業界内の話だから、よく調べてあるわね。高橋のは古美術の業界の話だけど、有名人とか
有名雑誌を使って、ある旧家の蔵からお宝が出たと、プロパガンダを打つのね。高橋のは
明治の有名な画家が、ある作品を写楽の作品と認めたと、ある雑誌に発表するのね。まあ、
今の話なので、昔の雑誌から発見したことにするんだけど。それで、業界内に、噂話として広まらせて、高く偽物を売るの。
この狐闇は、まず、文芸春秋の対談で、天皇の墓を暴いて、発掘品を盗んだ、税所(さいしょ)篤という明治の県令(県知事)がいたという話を乗せるの。これが、戦後すぐの話なんだけど、
芥川龍之介なんかも参加している対談なの。
これで、この時代、税所コレクションと称する一連の宝物が、高値で売られたらしいの。一部は、アメリカのボストン博物館まで流れたらしいの。
で、この神話は、現代まで語り継がれていて、いまだに信用している人がいるのね。
で、主人公は古物商。ある「市」で、青銅の鏡意を二枚90万で買うの。90万くらいだから、明治のころの写しだと判断したのね。
でも、帰ってみると、三角魔境が入っているの。一枚。それで、映してみると、八咫ガラスが浮かび上がるの。これは国宝級なの。
で、金庫の奥にしまっておくんだけど、梱包の時間違って入れたって人から電話があって、
200万で返してくれと言われるの。弓削というんだけど、弓削Aが勝手に持ち出した物だというの。それで、200万で返すの。まあ、その前に、業界の友達の紹介で、魔境に
詳しい学芸員と合わせてもらって、それが、明治に写されたものだと、話を聞くんだけどね。
当然、主人公としては、ぼろ儲けになったんだから、友達にべらべらしゃべるわよね。弓削のお宝のことは。
そうこうしていると、槐多の絵を安く手に入れることができるの。友達に古美術商の紹介で。これも数千万で売れるくらい有名な人なの。だけど、金庫から盗まれるの。当然、
盗難届を警察にだすわよね。ところが、数日後、その絵の精巧な偽物が、ある画商の
所へ持ち込まれるの。で、主人公は、バーで飲んで、帰ろうとすると、気を失って、二日後、目が覚めたら、自分の車で事故っていたの。
おまけに、トランクからは、その絵の4枚の写真製版がみつかるの。これは、偽物つくりに使われるものなの。それで、画商に、偽物を持ち込んだ男が、主人公の店の者と名乗ったの。それで、主人公が偽物つくりの主犯と思われて、古美術商の監察を取り上げられる
の。そうこうしていると、友達の業者が二人ほど殺されるの(これは、裏を知っていて、
弓削家をゆすっていたと後でわかるんだけどね)。
それで、主人公は、紹介してもらった学芸員一緒に、奈良の魔境つくりの工房に行ったり
して、調べをすすめるの。すると、弓削という家が怪しいとわかるの。
学芸員の推理。
戦後、税所という県令(県知事)が、天皇陵を盗掘して、お宝を自分のものにして、
それが流出したと言って、高く撃った古美術商がいたが、それは、でっち上げだったの
ではないか。税所県令は、勝手に発掘したが、魔境などはなかった。それで、偽物を
作ったのではないか。
それをやったのが、税所の部下の弓削家。今回、それを弓削Aが持ち出して、主人公の
物とすり替えたのは、また、その噂をひろめて、他の偽物を高く売ろうとしたのでは、
ないか。
この後、もっと話は広がって、明治に盗掘の指令を出したのは、西郷隆盛だったのではないか、など、話は、とんでもない方まで広がる。
まあ、面白かったわ。