仏果を得ず

「仏果を得ず」(三浦しをん
橋本市長が大阪市から文楽えの補助金を打ち切ったから、復讐のために、取り上げます。文楽が、日本の文化をになう上で、いかに重要かをわかってもらうために。
1・幕開き三番叟
文楽は歌舞伎と違って、お家で受け継いでいくものではない。誰がどんな芸をやっても
いい。そのおかげで、江戸時代は大流行だったようで。長唄や儀大夫は、たくさんの家元
が教えていたらしい。現代では、国が資金を出して、技芸員の学校を作って、育てている。
技芸員になれるのは、90人で、この中は子弟制度が残って、芸を磨いている。
90人は、東京と大阪をメインに、全国の文楽劇場を旅して、文楽を上演している。
ところで、主人公の健太夫は、その中の儀大夫語りになって、10年目である。
儀大夫には、女房役の三味線がつく。今回、銀太夫師匠から、兎一郎(三味線)と組む
ようにと言われた。兎一郎は、天才だけど、いつも一人で行動していて、団体行動が
苦手、プリンが異常に好きな一匹オオカミである。
それでも銀太夫にたしなめられて、健と稽古を始める。そして、一番目の三番叟。
これはおめでたい時に上演される比較的優しい出し物である。
健は、ボランティアもやっていて、大阪のある中学校で、課外授業として教えている。
その中でも、ミラちゃんという子が特に熱心である。
これは、大事だと思う。お金に余裕があるからできることで、余裕がなくなって、バイトなんぞをしなければいけなくなったら、ボランティアをすることもできなくなる。
そしたら、すぐに、芸はすたれる。次の世代に受け継がれなくなるから。それを橋本は
やっている。だから、橋本は駄目だって、言うんじゃ。
気持ちを取り直して。
健は、まだ、次に月の演目、「女殺し油地獄」の主役の気持ちがつかめずに、46時中、
そのことを考えている。その上、あいかわらずに兎一郎はいつも、稽古に付き合って
くれるわけではない。すっぽかされることも追い。それで、よけい落ち込む。

2・女殺し油地獄
健は、次回、この河内屋内の段の最初の7分を語ることになった。主人公の放蕩息子
は、女に入れ込んでいる。わずかな金を手に入れるために、与平衛は、お吉を刺し殺そう
とする。お吉は、豊島屋の中を必死に逃げ惑う。油まみれになった両者の壮絶な戦いが
見ものの舞台。
健には、どうしようもない放蕩息子に、女たちが惹かれる心理がわからない。それを、
先輩の東吾兄貴に聞くと、主人公は、セックスがうまく、それがそぶりにでているからだ、
と言われる。よくいる、悪の魅力を醸し出している男。やくざに多いだろう、と言われて
ますますわからなくなる。
そんな折、兄弟子の幸太夫が盲腸で入院し、次の公演は、河内屋内の段を全部やれと言われる。これは大変なことで、稽古もしなきゃいけないし、兎一郎は、協力的でないし、
ますます落ち込んでしまう。そして、悩んでいるうちに、油地獄の主人公与平衛は、商人
と侍の両方の身分の入り混じった家に生まれ、その両方から逃れようと、あがいて殺しを
くり返していたんじゃないか、と気が付き、少し先が開ける。

3・日高川入相花王
太夫師匠が、2,3日行方不明になった。健は、妻の福子に、どこにいったか教えてくれと問い詰められる。
太夫は、アケミという女と浮気旅行に行っている。知っているが、言えない。妻は
うすうす感づいている。今まで何度もあるから。
それでも、妻は、連れ帰ってほしいという。
健は、仕方なく、兎一郎なら知っているだろうと思って、住所を頼りに訪ねていく。
すると、夫婦喧嘩の最中で、相手(妻)はミラの先生の藤根先生だった。
兎一朗は、山鳩荘というところへ案内する。そして、都都逸対決をして、ようやく、帰ってくれることになった。
その夜、健は、ミラの母親の万智と会い、恋におちる。「無間地獄へ、沈まば沈め」
の意味を悟る。

4・ひらがな盛衰記。
愛媛県内子座で夏公演が行われている。楽屋はエアコンがなくて、熱い。皆、出演時
以外は、近くの商家へ涼みにいってしまう。
演目はひらがな盛衰記の「松右衛門内の段」と「逆櫓の段」だ。
内容、木曽義仲が、源の義経に討たれたことによっておこる、義仲の遺臣と鎌倉方との
攻防を描いた時代物だ。
もちろん、史実そのままではなく、荒唐無稽な筋が展開される。二つのストーリーが絡まりあっていて、一つは、鎌倉方の武将、梶原源太景時が汚名を晴らして、功を成せるか
どうか。もう一つは、義仲の遺臣、樋口次郎義光が、主君の仇である義経の首を取れるか
どうかが眼目になる。前者の話には、傾城梅が枝との恋愛譚の趣があり、後者には、
「主君の身代わりに、自分の子が死ぬ」という文楽でおなじみのパターンが入っている。
健は、両方の主人公が、物をあんまり考えない男だから、困ると思っている。
言動や感情の動きが突拍子もなくて、語るのに四苦八苦する。
そうこうしているうちに、銀太夫の妹が亡くなり、お通夜へ。その最中、健の携帯を
貸していたことで、岡田万智と恋仲であることが、同僚たちに知られて、冷やかされる。
さらに万智がやってきて、二人は、簡単に結ばれる。

5・本朝ニ十四孝
今回の健の役は、「本朝二十四孝」の「関助住家の段」の前半部分だ。
お種は、夫の慈悲蔵かあ、わが子峰松にあうことをきつく諫められ、悲嘆にくれる。乳飲み子の峰松は、雪の降る夜に、門外に置き去りにされ、泣いている声が、家の中まで
聞こえてくる。峰松かわいさと、忠義を全うしようとする夫の言いつけの間で、懊悩する
お種は、ついにこらえきれずに、戸をあけて、わが子を抱き上げる。
健と、恋人万智とのことで悩んでいて、語りに身が入らない。ミラにいつ打ち明けるべきか、悩んでいるのだ。
太夫師匠が、料亭志野菊へつれていく。他の師匠も来ている。
そこで、かな手本忠臣蔵の「早野勘平腹切りの段」を語るように命じられる。

6・心中天の網島
かな手本について悩んでいると、名人、砂太夫師匠に語りを教えてもらえと、銀太夫師匠
に言われる。しかし、他の師匠に教えてもらうのは至難の業だ。それで、朝駆けで毎日
押しかける。すると、何日目かに教えてもらえる、許可が下りる。それには三味線の
兎一郎が必要。彼にケータイすると、5分で飛んできた。彼も、そろそろと思って、
近くのファミレスでスタンバイしていたのだ(これは、次の章だった)。
ところで、心中天の網島の内容は。これも、ダメ男の話。
妻子ある紙屋治平衛は、遊女小春と相愛の中になり、仕事もそっち抜けで入れあげる。
妻のおさんは、治平衛を心配し、「夫と別れてほしい」とひそかに小春に手紙を送る。
女同志の義理を感じて、身を引いた小春に、治平衛は、「俺を捨てるのか」とわめきたて、
おさんの前でも、「振られちゃったよ」とめそめそする。優柔不断で、生活能力もないし、
思いやりもない最低の男だ。治平衛は、おさんと離婚させられ、行場をなくして、小春と
心中するのだが、そこの健には理解できない。で、語りはまるで駄目。
しかし、ミラちゃんからのメールで、恋心を打ち明けられる。健は、三角関係で悩むが、
それで、治平衛の心が理解できると思う。優柔不断でダメ男は、ほかならぬ、自分じゃ
ないかと。

7・妹背山婦女庭訓
久我の助と雛鳥が行き会ったとたんに、恋におちる。二人の逢瀬を見ていた宮越玄蕃
によって、二人は、互いに敵対する家の者だということが知らされる。
健も、ミラちゃんと万智の間で悩んでいる。ずるずる悩みっぱなし。

8・かな手本忠臣蔵
健は語る。早野勘平の心情を。彼の懐には、縞の財布が入っている。猪と間違って、
撃ち殺してしまった男から、悪いこととは知りながら、奪った財布だ。
子の金があれば、亡き主君、塩や判官の仇討に加えてもらえる。自分とおかるの犯した罪
を償うチャンスだ。しかし、勘平が死人から奪った財布は、おかるの父の与平衛の物
だった。なかに入っていたのは、おかるが身売りして作った金だ。
さて、健は、東京公演のチケットをミラ親子に送る。しかし、一日早く、ミラがいなくなった。一人で東京にきたらしい。母親が半狂乱で探しにくる。またもや健は悩む。

全体の感想。文楽が好きな人でなくとも、感情移入できる小説だったわ。もっとも私は
文楽が好きだから、よけい、感情移入できたけど。
「操られ文楽鑑賞」も、初心者が文楽の概略を知るにはおすすめね。インタビューなんかもあって、肩がこらずに、面白かったわ。

今週面白かったミステリードラマは、「巽四朗」
面白かったわね。二つの事件の弁護を引き受けるの。で、それが、最後はリンクするの。だから、進行が速く、退屈しなかった。それと、アキ竹城が好きだから、それも良かったわ。
筋。巽は二つの弁護を引き受ける。一つは、殺人の容疑者にされた男。これは、デリヘル嬢のAが殺されて、その死亡推定時刻に、ホテルの防犯カメラに、一緒にでてきたのが写ってうたので、容疑者にされたの。でも、彼は、交通事故で、意識不明の重体。
もう一つは、デリヘル嬢の遺棄された同じ場所にあるコンビニで、万引き事件があって、その万引きをした子供を、殴って、けがをさせたから、コンビニ店員を訴えるというもの。
で、前者の事件。デリヘル嬢は首を絞められてからナイフで殺された。そして、側溝に遺棄された。でもナイフもバッグもないの。で、デリヘルへいくと、Aを送り迎えしていた運転手Cがわかるの。彼は、今は辞めてセールスマンをしているんだけど、Aが車にノートを忘れたので、届けたというの。すると、Aは写真だけを取って、それ以外はいらないから、くれるといったの。で、Cはそのノートを見ると、デリヘルを利用した人の本名が克明に描かれているの。それで、その中の一人を脅迫したの。それで、逮捕。それで、家宅捜索すると、Cの部屋にAのバッグが隠されていたの。Cは、それは、誰かが、自分に殺人の罪をなすりつけるために、置いておいたというの。で、殺人は否定。
さて、さて、万引き事件を調べると、店員は、小学生から、スプレーをかけらて、目がかすんでいたの。でも、小学生を取り押さえたのは、例の死体の遺棄してあった場所のすぐそば。それで、何かを思い出したら、教えてくれと言っておくの。すると、留守電があって、中年の男を見たというの。その電話の時に刺されて殺されるの。それは、くしくも、容疑者Bの意識を取り戻した次の夜。
で、警察が調べるんだけど、コンビニ店員は、刺された後に、首を絞められていたの。だから、同一犯と思わせるようにしたと判明。つうことは、別人がやったってことよね。
さて、行き詰まった巽は、Aの部屋の資料の中から、、古いアルバムをみつけるの。それには、小さいころ住んでいた、逗子のマンションが写っているの。それで、逗子を訪ねるんだけど、その前に、その写真を寺で燃やしていたのがBの母なんだけど、そんな余計なことをするからには、犯人に違いないって、ここでわかってしまうんだけどね。
ま、それは別にして、逗子のマンションにいくと、20年前、転落事故があったことが判明するの。で、そのとき、酔っぱらいの父を落としたのが、Bの母だったのでは、という噂が流れたことまで判明。
そして、巽は推理するの。その事件を、たまたまデリヘルで再会したAは目撃したのではないか。つまり、Bの母が突き落とすところを目撃していて、それをネタにゆすったのではないか。それで、もめて殺された。そして、その犯行現場をコンビニの店員に目撃されたと思ったので、意識が戻ったBはこっそり病院を抜け出して、殺しに行ったのではないか。
Bの意識が戻ったのが、殺しの翌日だと証言しているのは、Bの母だけだし、そんなのは、いくらでも偽証できるし。
そう考えれば、Bの母が、遺品の写真を燃やしたのは、Aとの関係を悟られないためではないか。
それで、Bと母にその話をするの。すると、母が白状するの。まあ、これは、遺言状を書いて、逗子に行ってからなんだけどね。
実は、コンビニ店員を殺したのは、母。彼女は、デリヘル嬢と息子が一緒にいたと聞いて、殺したのは息子だと悟った。20年前のことがあるからね。で、意識が戻ったときに、殺しの手口を聞いた。それで、意識が戻った日をごまかして、自分が、コンビニ店員を殺しに行った。でも、いきなりナイフで殺したので、首を絞めるのが、跡になってしまった。
でも、同一犯にごまかせると思った。
さらに、息子から、隠したバッグのあり場所を聞いて、それを、デリヘルの運転手の家の前に置いた。それは、運転手に捜査の手を向けるため。写真を焼いたのは、自分とAとの関係を悟られると困るから。
それを息子に電話でいうと、息子は、20年前の犯人は自分だという。
さらに、万引きをした少年が、自分が犯人だと言ったりして、面白かったわ。これは、事件とは関係なく、自分の母も父からDVを受けていて、それを暴いてもらうために、警察を家にいれる手段だったんだけどね。面白かったわ。