橋ものがたりと

「橋ものがたり」(藤沢周平
男の人は、チャンバラばかりで面白くないので、読まなかったんだけど、古本屋で、売れていると聞いたので買ったの。古本屋は、文楽の脚本がないかと思って、回っていたんだけどね。
で、感想。よかったわね。現代人に通じるような、情緒とか、重みというか、苦労というか、あつれき、心労などが描いてあって。思わず泣いたわね。
思うに、それは、登場人物の過去がしっかり作ってあるからなのよね。捨て子でも、今しっかり生きているとか。など。

1・約束。
幸助は、5年の年季が空け、一年半のお礼奉公をしている。飾り職人だ。5年前に、万年橋で、5年経ったら会おうと、約束した女がいる。お蝶という。
お蝶は、仲町の汐見屋という料理やに、女中奉公にいった。
幸助は、奉公先の主人の妾のお絹と数回、寝た。お蝶がそういう女になっていないか、心配。
一方、お蝶は、汐見やで、酌婦をやっていた。両親が病気で、金がかかったので、客に誘われると寝る、という生活をしていた。
それが気になって、お蝶は、約束の時間から数時間、遅れた。幸助は待っていた。
でも、お蝶は、正直に、今の境遇を話して、一緒になれないといった。
しかし、翌日、幸助は、それでもいいから、一緒になろうと言いにきた。
感想。いいねえ。ファンタジーだね。世の中、こんな男、いないよね。

2・小ぬか雨。
おすみは一人暮らし。そんな家に、ある夜、一人の男が転がり込んできた。逃げているらしい。3日たって、追手が町の角からいなくなったら、出ていくといった。しかし、5日間、追手が立っていたので、出て行かなかった。
5日目、いいなずけの勝蔵が来た。強引に抱こうとした。勝蔵には強引なところがある。
おすみは、あまり好きではない。しかし、親が死ぬ前に決めた相手なので、しょうがないと、あきらめている。
男は、女に騙されて、切ったといった。5日後、橋の所に追手はいなかった。別れようとすると、勝蔵が喧嘩をしかけてきた。二人は、戦って、男が殴り倒した。男は逃げた。
おすみは、これから一緒に暮らしていかなくてはならないのだし、何も変わらないだろうという諦めの気持ちで、勝蔵を助け起こした。
感想。いいねえ。女の肩に乗っかっている人生の重み。ずっしりとして、現代にも通じるわね。

3・思い違い。
両国橋の上で、減作は美しい女と会った。好きになった。何日か後、女は、男たちに絡まれていた。助けた。
源作は、親方の娘、おきくとの縁談を進められている。気が乗らなかった。
ある日、源作は、また橋の上で、あの女に会った。おゆうと名乗った。住所も言った。
しかし、何日か後に行ったら、嘘だった。一方、縁談について。おきくは、子供がいるんだといった。その人は、分かれた人で、それで祝言を急いでいるのだと。それで、縁談は断った。
ある日、岡場所、八郎兵衛へ、誘われていった。そこにおゆうがいた。
おゆうと寝た。おゆうは、両親が病気で、売られた。借金がまだ20両ある。源作は、ためた金が、12両ある。それを、おゆうのために使おうと思った。

4・赤い夕陽。
おもんは、夫が浮気しているという噂を聞いた。言いつけたのは、手代の七蔵である。
おもんにちょっかいを出そうと思っているらしい。嘘かもしれない。
ところで、おもんには秘密がある。父と寝たことだ。父といっても、拾われたので、実の父ではない。父の名は、斧次郎。16の時に分かれた。
ところで、ある日、斧次郎の知り合いのものだという男が来た。謙吉と言った。斧次郎のことを話した。今でも博打うち。病気だ。住所を教えた。永代橋はわたってくるなと言われている。
その家に行った。すると謙吉がいた。父は2年前に死んだといった。100両の借金がある。それを返してほしくて、お店へ使いをやった、と言った。おもんは縛られて、一部屋に押し込められた。
さて、その夜、7蔵におこされた。裏口から逃げようといった。逆らった。
争っていると、夫の声がした。100両もってきた。
そして、帰る途中、浮気なんかしていないといった。しみじみと幸せをかみしめるおもんだった。
感想。これもファンタジーだよね。

4・小さな橋で。
広治は、母から姉の迎えを命じられている。姉、おりょうが勤め先で、重吉という男とできているからだ。迎えにいかないと、連れ込み宿に行ってしまうからだ。
今日も、いったら、先の甘酒やで話がしたいから、めをつぶってくれと言われた。
10文はくれると言われた。断った。
次の日、朝、母が言った。重吉は、妻子持ち。遊ばれているんだからと。
その日、夕方、姉を迎えに行ったが、今日はきてないと言われた。重吉の家を聞いて、行ってみたが、仕事に出たままだと、言われた。
駆け落ちをしたんだ、と悟った。
家に帰った。父は、家出をして、いない家だ。そこに銀蔵というなよなよした男がいた。母は、新しい父だといった。
広治はよしきりの原に行った。そこに、父の民蔵がいた。借金したままなので、金を作っていたといった。10両をよこした。父は消えた。
その後、母が探しに来た。銀蔵とは別れるから、帰ってほしいといった。広治は断った。
その後、友達のおよしが母に頼まれてきた。そして、優しい言葉で、帰って、と言った。
そのとき、広治は、およしと、「できた」と思った。
感想。軽妙な閉めがいいわね。

5・氷雨ふる。
吉兵衛はもう歳。商売は妻と息子にまかせた。息子は、あこぎな商売をする。
ある日、橋の上で、女を拾った。じっと大川を見ていて、身投げしそうだったから。
その子を、いきつけの飲み屋、おくらの所に預けた。名はおひさと言った。わりと、上等な着物を着ている。
あるひ、おくらの店に行くと、目つきの悪い男3人が、おひさを探しに来た、と言った。おっぱらった。
海善寺裏の新鳥越町に住まわせた。息子が人を使って調べて、そのことを嗅ぎ付けた。
息子は、自分の縁談がまとまりそうなときに、妾は困る、と言った。
吉兵衛は無視した。ところが、ある日、おひさの所へいくと、若い男が来ていた。
着物の縫いの仕事をしているのだが、寸法を取りに来たのだといった。だが、すぐに、
好きあっているのだと、わかった。二人は明日、甲府へいくといった。
その夜、おくらの家に行くと、目つきの悪い男たちが来てた。おひさは、女郎屋から逃げ出した、と言った。吉兵衛は、殴られたが、居場所は言わなかった。男たちは帰っていった。吉兵衛は、自分の帰るところは、あの寒い家しかないのだと、思った。
感想。これも身に染みるわね。

6・殺すな。
吉蔵は、3年前、堀江町の玉木やという船宿の女将、お峰とかけおちをした。そして、八乃郷、八軒町、の裏店に所帯を構えた。客船の船頭をしている。
だが、一年くらいたったころから、お峰が、退屈だ、退屈だ、と言い始めた。
ある日、吉蔵の船に、元夫の利兵衛が乗った。殴られた。
お峰は、筆屋の善佐衛門に相談する。善佐衛門は、昔、妻がいたが、浮気の噂がたったので、切ったといった。そして、戻るとしても、元のようにはいかないだろうといった。吉蔵は、まだ惚れている。戻るなら、切るといった。
ある日、もと夫に命じられて、荒くれ者が連れ戻しにきた。善佐衛門は戦って、追い返したが、お峰は、帰るといった。
そして、出て行ったあと、吉蔵は、匕首をもって追った。しかし、善佐衛門に、好きだったら殺すな、と言われて、あきらめた。

7・まぼろしの橋。
おこうは友達のおはつに身の上話をした。5歳の時に、父に捨てられた。橋の上だった。深川、富川町の美濃屋の主人に拾われて、育てられた。
その家で、兄と呼ばれている男と結婚する。おはつには遊び人の兄がいる。
路で、声をかけられた。おこうを捨てた父をしっている。神保前の富川町を過ぎて、五間堀をまたいでいる伊予橋へきた。
「麻布の向こうの、笄橋であんたを捨てたといった」
そいつの名は、弥之助。住んでいるのは、回向院の北の小泉町。吉衛門店という裏店。
おこうは、弥之助が父ではないかと思う。弥之助の話。父の松蔵は、イカサマをやって、千葉へ逃げた。そこで死んだ。
それから、何回か、弥之助の所へ行って、台所をした。
ある日、弥之助の友達が来て、いきなり襲ってきた。「こういう約束だ」という。
おこうは抵抗する。「おとっつあんでしょ。助けて」というと、ついに助けてくれる。
帰って、奉行所にとどける。犯人は捕まった。おたつの兄が仕組んだ。おたつから話を聞いて、おこうを捨てた父と名乗った。最初から襲うつもりだった。弥之助は逃げ、捕まらない。おこうは、今でも、弥之助は父だと思っている。

8・吹く風は秋。
弥平。いかさま賭博をやった。親分にバレて、逃げた。江戸を5年も離れていて、帰ってきた。小名木川沿いの5本松。横網町の子分、徳治の家に泊まった。
その前の夜に、女郎を買った。おさよという名。慶吉という亭主がいたが、小間物屋を持って、借金がかさんで、逃げた。おさよには50両もの借金がある。
弥平は、おさよの言った住所に行ってみた。近所の話では、旦那はばくちばかりやっていて、女を引っ張りこんでいる。
子供は、近所のバーさんが面倒をみている。その夜、親分の賭場で、梅吉という男から、200両ほど巻き上げた。駄賃だと行って、30両もらった。しかし、帰る途中で、梅吉と仲間に襲われて、梅吉を殺してしまった。それで、江戸から逃げることにした。それで、
おさよのとこに行って、30両と、もっていた20両を足して、渡した。これで借金を返せ、と。

9・川霧
新蔵は、おさとと初めて口をきいた日のことを思いだしていた。6年前だった。
おさとは1年半前に姿をくらましていた。
6年前、永代橋の上で、何日も待っている女を見た。いきなり倒れた。
蒔絵師で、年季が空け、1年半のお礼奉公中だった。橋向こうの、霊岸島の自分の家へ運んだ。おさとを一日止まらせた。ひと月後、おさとがお礼にきた。おさとは言った。
事情があって、仲町の花菱という飲み屋の酌取をしている。行ってみた。
馬場通りから、畳横町を南に入って、奥まったところにあった。
入ると、隠微な雰囲気だった。おさとがいた。しこたま酔った。
「辰五郎の上さんだから、ちょっかいを出すな」と与太物に殴られた。
その後、一緒に暮らし始めた。しかしいなくなった。それで、調べた。
夫の辰五郎は、賭博をしていた。負けが込んで、親分の代わりに島送りになった。
5年で帰ってくるという話。だが、不明。
新蔵は考える。夫が帰ってきたのだ。5年前、あった時に見ていたのは流人船だったのだ。
数日後、おさとが帰ってきた。夫が船の上で死んだから、帰ってきた。

「天下一揆だやっちまえ」(秋津野純)青松書院
若桜木先生の門下の人。松本清朝賞二次通過。ベスト8まで行った作品。
やっぱり、ベスト8まで行っただけのことはあるわね。芝居のこと、郡上のこと、方言、どれをとっても、よく調べてあるわね。感心。
それに、文章に力があるわね。若さゆえの迫力だわよね。芝居言葉がずいしょにでてきて、うれしくなってしまうわよね。
筋。笙鶴という男が、旅芝居で、郡上に行くの。ああ、江戸時代のこと。松本清朝賞は、時代ものが強いのよね。ま、それは置いといて。
旅芸人一座で、旅をしているんだけど、手癖がわるくて、他の人の金に手をつけるの。でも、今回は、座頭と子役が仕組んだことだったんだけどね。
それで、逃げるの。この逃げるところも、迫力があるわね。それで、雪の中を逃げて、郡上の貧乏むらにたどり着くの。そこでは、立百姓と寝百姓に分かれて、争っているの。
そこはものすごい山の中で、米がとれないの。で、定額年貢だったのを、今度検見年貢に改めるというの。検見年貢というのは、その年の取れ高に応じて、年貢を決める方法。っでも、年貢を上げるよる方策にすぎないの。
でも、大名に逆らえないので、転んだ百姓が、寝百姓、そうでないのが、立百姓。
で、他のむらでは、一揆がおきて、ほとんど殺されたんだけど、生き残った者が乞食
になって、さすらっているの。
笙鶴は、その乞食だと思われたの。この村では、庄屋が寝百姓なの。
で、あるよる、立百姓の元締めの善次郎の家を足軽や役人が襲うという情報が入るの。
それで、笙鶴は、惣吉(笙鶴をすくってくれた男)の指示で、善次郎の家の裏口から入って、村人のために貯めていた金を、寺まで運んで、隠すの。この辺りでは、役人といえども、寺には入れないの。
しかし、それは、他の立百姓は知らないので、一揆がおこりそうになるの。
その後、善次郎を役人人の元へ運ぶようにとおたっしが来て、夜道、惣吉たちは、連行するお供をさせられるの。しかし、惣吉は頭がよくて、途中で、善次郎 を橋から飛び降りて、逃げ出させるの。 
この辺の文章も、達者。舌をまくくらいうまいわ。
そして、自分たちも逃げるの。
それからしばらくは、この事件はうやむや。
江戸で、直訴しようということになり、二人は、江戸へ行くの。しかし、役人の駕籠へ直訴した惣吉は、切り殺されてしまう。そこで、泣いていた笙鶴は、知り合いだった講釈師
に会うの。偶然ね。その講釈師は、その一件に興味を持っていたので、瓦版で講釈談を出版してくれるの。それで、郡上一揆として、知られるようになり、郡上がそんなに貧しいのならと、お上も乗り出してくるの。 
感想。すごい迫力だったわね。なぜこんな迫力のあるのが落とされたのか分からない。
たぶん、途中、寝百姓が白い握り飯を食うという部分があって、それが変と思われたのかもね。それにしても、去年、芥川賞か何かを捕ったんで、葉室麟を読んだんだけど、超つまらなかたったわね。ああいうのが好きな爺の選者が選ぶと、こういう若い作品は落とされるのかもね。残念だわ。こういう強い磁力を持った作品が、日本の時代物の歴史を変えていくのにね。