閻魔まいり。御宿かわせみ10

「閻魔まいり。御宿かわせみ10」平岩弓枝
1・蛍沢の怨霊
日暮里の宗林寺の近くの蛍沢に蛍狩りにいく。水の中に死体が浮いていた。近くの宿屋、杉井屋で聞く。八王子村から来た清次郎が帰っていない。お蔵前片町の鶴伊勢屋のくずもちを買いに行く。そこの主人の話。隣の巴屋のお内儀が気がふれて、蛍を異様に怖がる。日暮里で静養させている。さて、清次郎の息子が江戸へ出てきた。息子の話。昔、甲州へ行く途中で、倒れて、親切な人に助けられ、そこの養子になった。久しぶりに帰ってきた。それが八王子村だった。
さて、巴屋のお内儀の名前はおよね。昔、甲州から出てきた。
東吾は、清次郎とおよねが知り合いではないかと推理。およねに聞く。すると、およねは、あってはいたが、自分は殺してはいないと主張。そして、自分がもうよりは戻せないと言ったら、自分から胸を突いたと言った。しばらくして、およねの具合は一層悪くなり、自分から川に飛び込んで死んだ。清次郎の怨霊が呼んだのでは、と噂された。

2.金魚の怪。
巣鴨仲町の水野玄英という医者がいる。内儀が蘭鋳とか朱文金とか、水泡眼だとか、頂天眼とかの珍しい金魚を飼っている。女中がうっかり、金網をずらしたままにしたので、その高い金魚を猫が手にかけてしまった。そしたら、死んだ。お内儀が女中を怒ったが、女中に惚れていた息子が、そんなに怒るなら、俺が食べてやると言って、ぶつ切りにして食べてしまった。そしたら、苦しんで死んだ。東吾と畝が売っている店に行ってきくと、自分の家の猫は食べたけど、死ななかったという。それで、お内儀がまた怒って女中をしかりつけたら、今度は、女中が井戸に身を投げて死んでしまった。
そこで水野玄英の過去を調べる。すると、一ツ橋家に推挙されたと引き換えに、おなかの大きい女をお内儀にしている。それは、推挙してくれた工藤のお手付きの女だった。つまり、水野玄英の息子は、実の息子ではなかった。おまけに出来が悪いし、横暴。
で、金魚にあたったのを幸いに、毒をもって、殺した。と推理。

3・露月町、白菊蕎麦。
露月町の白菊蕎麦で、むすめのおてるに婿を取った。又七という。しかし、おてるはほかに好きな男ができて、家出。そして、その男には逃げられたが、又別の男を好きになってしまった。それで、又七には暇を出した。家を与えた。ところが、新しい男の岩次郎が死んだ。殺されて、川に浮かんでいた。お浜御殿の裏あたり。
岩次郎は、近所からは嫌われていた。一生懸命働いていた又七を追い出した形になったから。又七に同情する人が多かった。その夜は、祭りだった。岩次郎は帰ってこなかったが、どこかで飲んだくれているだろうと思って、朝まで探さなかった。その夜の又七のアリバイ。近所の荒物屋の主人と酒を飲んで、一升もあけて、一階で寝てしまった。荒物屋の主人は二階で寝た。一升もあけた人が、外へ出て、殺しができるはずがない。
翌日、白菊のおさい(母)が首をくくって死んだ。又七の家だった。今回も、又七は、荒物屋で飲んで寝てしまった。家の横は運河。船がもやってある。そこから白菊まではすぐ。
そこで、東吾は、又七の一人芝居ではないか、と推理。あの最初の夜、一升ビンの中は、薄めた酒で、本当に寝込んではいなかったのではないか。
そうこうしていると、又七が、寝ているおてるを襲って、殺しかけた。その夜、不審に思って押しかけて行った東吾が発見して、おてるを助けた。
又七は、おてるが好きだった。しかし、おてるは店を売って、最初に好きになった渡り中間と逃げるつもりだった。それを聞いた又七が逆上した。そして、前の殺しも白状した。

3.源三郎祝言
御蔵前片町の札差、江原やの主人が死んだ。娘がいるが、大きすぎて、まだ祝言できない。どうも源三郎が好きらしい。源三郎もまんざらではない。
江原屋は、旗本の石川の遣いできた侍と、それに受け答えをしていた侍が切りあいになり、その間に入って、斬られた。石川は、借金を踏み倒すことで評判が悪い。江原やの娘は千恵。
ところで、畝源三郎に縁談が持ち込まれる。そして、縁談はトントンと進み、祝言の夜になる。ところが、相手の娘が、駆け落ちをしてしまう。でも、それを世間に公表したのでは、世間体がまずいから、手伝いにきていた千恵を借り嫁にして、祝言を上げてしまう。で、憎からず思っていた二人は、本当の夫婦になってしまう。

4.橋尽くし。
箱崎町の小田原やにいい縁談が持ち上がった。むすめのおとよに一目惚れした男がいて、婿をもらう予定。おとよは目が不自由。相手は沼津の大地主の次男坊。清水の海運業の所で修行しているので、海産物問屋とは縁がある。
しかし、相手が、沽券状を見せろとか、貸してくれとか言い出した。それを勝手に悪用されては困るので、断った。相手の素性を調べようとしたら、邪魔が入った。おかしい。
東吾は小田原やを調べる。すると、当主の内儀は、のち添え。先妻は、離縁して、家を与えた。でも、沽券状は小田原やがもっている。その家を先妻にくれたわけでない。
そうこうしていると、娘が手代と連れ去られた。船で。あちこちの橋の下をくぐって、逃げている最中に、東吾たちが追い付いて、難なきを得た。
調べると、襲った相手は、縁談の相手。そいつは、先妻の弟だった。沽券状が目当て。それさえあれば、もらった家は、自分の家だと主張できる。それで、売るつもりだった。
ところで、手代が逃げる最中に沽券状をどこかに隠した。夕方だった。簪も貸してと言われた貸した、と娘が言う。そこで、逃げたルートを検索。すると、簪で、橋の裏側に止めてあった。

5.星の降る夜。
横山町の伊勢屋で、昼間、怪異が怒った。急に屋敷の中と庭が暗くなって、鍋や釜が飛んだ。そのとき、かわせみのお吉もいた。
その後、日本橋米沢町でも、同じ怪異が出現した。今度は深夜だった。銅版の下敷きになって、主人の加賀谷二兵衛が死んだ。番頭の和助の話。
「昨晩は人が、少なかった。主人とお内儀。自分と小僧の三吉、おきみ。蔵の二階にいた三吉以外は、主屋にいた。地震のような物音で目が覚めた。いろんなものが落ちてきた。庭に白い狐が浮かんでいた」
東吾が調べて分かったこと。加賀谷の当主には妾がいた。甚太郎という息子もいた。当主は後継ぎにする気だったが、当主が死んだあと、お内儀は、妾も息子も追い出す気でいる。
妾の話。お内儀のおようと番頭の和助はできている。今回の殺しは、二人の仕業だ。
それで東吾は芝居をした。修験者と名乗る男を呼び、当主の怨霊を呼び出した。それが言うには、和助とお内儀が自分を殺した。これを信じた、お内儀と和助は白状した。

6.閻魔参り。
浅草寺境内の閻魔堂。1月16日と7月16日が縁日。すごい人。お民が晴れ着を斬られた。お民は、日本橋堀留町一丁目の煙草問屋、湊屋仁左衛門の姪。娘のお駒と閻魔参りにきていた。
お民は、万事地味、お駒は美人で派手。お民の母は離縁され、湊屋の寮に住んでいる。お民は手代の弥助と縁組して、タバコ屋の支店を出す予定だったが、お駒が弥助に惚れてしまったので、破談になっていた。
そうこうすると、お駒が、浅草寺で刺されて死んだ。お民が一緒だったが、途中ではぐれた。お民は、転んで着物が汚れたと、寮で着替えて、お駒を探しに行った。
東吾が、その寮を調べると、風呂の焚口から、血の付いた着物の端がでてきた。それで、お民が刺した。と推理。返り血が飛んだので、着替えて、燃した。
追求すると、お駒のせいで、自分の縁談が破談になったのを恨んでやったと白状。