背の眼、ヴェサリウスの柩

『背の目』(道尾秀介
これは、この作者のデビュー作。視点が飛んでいるし、あんまり関係ない情報が多くて、かなり読みにくかった。

1道尾は白峠のあきよし荘へ行く。ここでは神隠しが続いている。4人の男の子が行方不明。天狗の仕業といわれている。最初の犠牲者、糠沢耕一君のいなくなった川のほとりでは、祖父の糠沢長次が花を供えている。「ここにきてはいけない」という声を聞く。一方、友達の真備の所へも心霊写真みたいなものが送られてきている。それは、背中に眼が写っているもの。

2、3、行方不明は次の4人。H18年8月5日、糠沢耕一(8歳)、H18年12月31日、山岸勇(9歳)、H19年8月1日森本一雄(7歳)、H19年10月20日田倉翔(8歳)。この中で耕一の首だけが川に流れてきた。川に行くと、「ゴビサラ」の声が聞こえる。一方、話は飛んで、呂坂寿々という老女が死んでいた。彼女は、「三年前8月15日白峠で男の子を殺した」との遺書を残す。これが道尾の手に入る。死んだのはかなり前。逆算すると、それは、H12年のことで、歌川の息子、秋芳君が死んだ日に当たる。
ところで、歌川の証言。「妻がいた。4年前に死亡。骨の腫瘍だった」そうは言うが、部屋に鏡台がある。道尾は真備に相談して、一緒に連れてきていた。その真備は透視ができ、歌川の写真を見て言う「歌川は人を殺しているね。写真で分かる。秋芳君が死んだあとだ。何かの信仰で、そのあとの4人の少年を殺したような気がする」

4,5、ここの地には心霊が見える亮一君がいる。彼は呂坂寿々の写真を見て、背中に眼が見えるという。真備は言う。「H13年8月15日。秋芳君の一周忌。天狗祭りなのに誰も宿に泊っていない。何かある」色々宿を探すと、彼が天狗信仰に染まっていたことが判明。さらに、この地方には天狗が乗り移るという神話もある。
一方、歌川の証言。「妻の命が助かると思って四肢を切った」。亮平は言う「歌川さんの背中に眼が見える」

6,7、真備は推理する「耕一君他を殺した犯人は何かに取りつかれている。亮平君の見た背の眼は、切り落とした首を背負って金毘羅宮へ行ったのが、そう見えたのではないか」。「さらに、耕一君他を殺したのは、歌川ではないか。部屋に鏡台があるし」
さらに真備は推理する。「ホワイトボードのインクが新しい。秋子は死んではいない。まだ生きている。耕一君他を殺したのは秋子と歌川。秋子が夫にとりついているんだよ。新しい子供を天狗に備えれば自分の子供は生き返るという信仰を信じているんだ」


名作復活シリーズは、『ヴェサリウスの柩』(麻見和史
感想。文章力があり、ぐいぐい読ませる。

1、東都大学、解剖学研究室で、解剖した死体の中からチューブが出てくる。それは献体された死体。詩の内容「園部よ私は戻ってきた。今ここに物語は幕を開ける。Kを咎めよ。Tを罰せよ。最後にお前は沈黙するだろう」
千紗都の推理。献体された死体が生存中にチェーブは埋め込まれた。園部と名指ししているので、園部に恨みがあったのだろう。園部は、教授で、プラスティネーションの第一人者。

2,3、その後マウスの標本のそばから新しい詩が発見される。「物語は始まった。生者が死者となり、死者が生者となる。黒い絨毯の上では死者が躍り、生者は片腕を失うだろう」。その通りに、死体の上にはドブネズミが集められた(黒いジュータン)。
千紗都は推理する。死体の名前は日下部栄。白桜会に入っていた。ここに入ると自動的に東都大に送られてくる。ということは、チューブを埋め込んだ犯人は日下部の手術をした人。調べると、彼女の近くには久世先生という外科医がいた。その外科医には息子が一人いた。さらに推理。久世は園部に恨みがあった。それで、息子が成長して東都大に入って園部に復讐できる頃になってメッセージを読めるように、日下部の体の中にチューブを残したのではないか?

4,5、その後、北が殺された。片腕が切られていた。他殺だ。メッセージの通りだ(Kを咎めよ。生者は片腕を失うだろう)。北は園部の恩師。久世が園部に恨みを持っていたとすれば、北にも恨みがあった。息子はそれを実行した?
千紗都の調査。久世と園部は同期だったが、園部は北に可愛がられていた。園部は久世の出世を妨げた。その後、千紗都は死体プールへつきおとされる。
同僚の梶井が調べる。久世には息子がいたと聞いたが、写真を入手した。それをみたら、同僚の小田島とほくろがそっくりだ。久世の息子は小田島だ。さらに千紗都が調べる。久世には女が7〜8人いた。子供まで何人もいた。子どもは小田島一人ではないだろう。

6,7、千紗都は小田島を呼び出して言う「あなたは久世の子ね。父のメッセージを見て北を殺したのね」。しかし小田島は否定する。「やってない。父は低温液浸保存法を研究していた。園部のプラスティネーションに負けた。それで恨みを抱いていた。さらに園部は25年前、祥子を殺して、その腕を実家に送りつけた。その罪を父になすりつけて、大学を追い払ったと聞いた。父は恨みを抱いていた。死んだあと、中二の時、美人がきて、復讐しろと言った。だが、僕はやってない」
この後、近石が殺される。(Tikaishi)とすれば、Tを罰せよになる。この後、全然マークしていなかった同僚が犯人だと判明。さらに、千紗都が心底から信じていた人が、久世のメッセンジャーだったことが判明。




来週からの予定。新刊は、『笑う警官』佐々木譲、『守護天使』上村祐、『竜神の雨』『絶望ノート』『雪冤』の予定。名作復活シリーズは『実況中死』(西澤保彦)『殺人ピエロの孤島同窓会』(水田美意子)『ハードボイルド・エッグ』(荻原浩)、『探偵の夏、あるいは悪魔の子守歌』(岩崎正吾)の予定。『守護天使』と『ハードボイルド・エッグ』は『小説キャラクターの創り方』の中で言われていた、”特徴あるキャラ”の例として、『探偵の夏、あるいは悪魔の子守歌』は同じ作品の中で、パロディのいい例として扱われていたから。他に、『ブレイクスルー・トライアル』とか『ルパンの消息』とか『悪童たちは千里を走る』なんかも予定。